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サラマンダー・パシュート編

悪魔を封印せし剣は世に舞い降りた

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「それで、むざむざとやられて帰ってきたのか?ミスター・ゴールディング」
部下のサメディから酒を勧められたのだが、男は飲む気が起きない。
それにホテルに設置されているレストランで飲む酒というのもあまり気が進まない。妙に気取っている所が気にくわないのだ。自身の格好は気取るに気取っているのだが、男はそんな自分の事は棚に上げてホテルに出される酒の批判を心の内で行っていく。
彼がホテル内で提供されるウィスキーを見ながら、何度目かの愚痴を零していた時だ。彼の目の前の席に隣に座るサメディが引き入れた殺人鬼の少女が座る。
その様子を見て、彼は思わず息を呑んでしまう。なぜならば、彼女がとても四人もの人間を殺したようには見えなかったからだ。
お世辞にも美人とは言えない顔で彼女は屈託のない笑みを浮かべながらきれいな刺繍の施された白色のテーブルクロスのかけられた机の上に置かれた酒を笑顔で飲んでいる。
ゴールディングは思った。彼女は根っからの殺人鬼なのだと。
人を殺す事を何とも思わない殺人鬼であるのだと。
だが、都合が良い。ゴールディングは今、グラスに入っていた琥珀色の液体を一気に飲み干してから、机の上に置いてあったボトルを取り、目の前の少女のグラスの中にウィスキーを注いでやる。
少女が自分の入れたウィスキーを一気に飲み干す姿を眺めてから、彼は初めて自分の店に金を借りにきた婦人をカモにする時のような笑顔を浮かべて、
「いい飲みっぷりですね」
と、彼女の長所を褒める。相手を乗せるのにはまず褒める。
それが、彼の人生哲学だった。そして、褒めて隙のできた相手を乗せて、上手く話に持っていく。それが彼のいつもの手であった。
どうやら、連続殺人犯の少女も例外ではなかったらしい。実際は少し謙遜ぶりつつも、表情から先程の褒めが効いている事が分かる。
そこから、彼はなし崩し的にウェンディ抹殺を彼女に持ちかけていく。
すると、少女は先程、褒められた事もあってかその返事を二つ返事で引き受けた。
「オーケー!じゃあ、あの女が外に出てきた所をズキューンってやればいいんだね!?」
「ええ、あなたとサメディの二人であの女を消してください。恐らく、あの女は今日、この後に近くの警察署に行くでしょう。そこを狙うんです」
「オーケーオーケー!!最高じゃん、あのクソ女を始末できるなんて最高じゃん!」
そばかすの醜い顔立ちの少女は全身をゾクゾクと震わせて椅子の上で踊り出す。
その姿が妙に恐ろしく感じたのは気のせいではあるまい。












結局、学院の周囲に存在する警察署には私一人で行く事になった。私一人だけならば、警察署に行ったとしても直ぐに帰る事が出来るし、全員で行くよりも時間が短縮され、その分、早くにあの少女も救われるだろう。
あの後に、ピーターとの会話を聞いて分かったのだが、彼女は自分より一つが二つ年上なだけらしい。
中学を卒業し、高等学校に進学したのはいいけれども、その後に親が何処か別の会社から借金をし、その借金を返すために街の金融会社から臨時の金を借りたのだそうだ。
その金でその時の取り立て人を追い払う事は出来たのだが、一週間後に百倍の額。五百王国ドルに膨れ上がった領収書を持った柄の悪い男たちが現れた時に彼女は問答無用で連れて行かされたらしい。
連れて行かれた先に待っていたのは言葉にするのも憚られる程の地獄。
彼女は少し前に、ようやくその地獄を抜け出し、夢中になって走っていくうちに足は擦れ、服もボロボロになっていたのだという。
そして、ずっと長い間、それこそ日にちを数える事も忘れて走り続けていたためか、逃げる前と逃げている間の記憶が何度もフラッシュバックしてしまうという状況になっているらしい。
そんな彼女を救いたい。だからこそ、私は今も学院前の街を抜け、その街の周囲に存在する警察署へと向かって行っているのだった。
学院前の街とその施設との間には森があるのだが、普段も賞金首を馬の背中に携えて向かっている場所だ。
問題はない。そんな事を思いながら、進んでいると、突然、銃声が聞こえて馬が悲鳴を上げて前脚を大きく上げる。
何があったのかと私が目の前を見つめると、目の前には脱走した殺人犯アナベル・オハラとそのアナベルを脱獄させた麻薬中毒ジャンキーの男の姿。
どうやら、このタイミングで私を狙いに現れたらしい。
私は馬を宥め、次に馬の尻を蹴飛ばし、安全な場所にまで避難させてから、目の前の男女に向かって銃を突き付ける。
「あなた達何の用かしら?悪いけれど、今はあんた達に付き合っている暇はないの。一刻も早く法の庇護を必要している人に法の庇護を与えるために、警察署に向かわなければ行けないんだからッ!」
私のその言葉を聞くと、あの二人の男女は大きな声で笑って、
「知っているよ。あたし達はーー」
「それを防ぐためにやって来たんだぜ、あんたにそいつをやられちゃあ、我々の組織の威厳に関わっちまうからなぁ~!!」
あのサメのような顔の男は前回と同様に自在に武器を作り出し、今度は槍ではなく剣を構えていた。
緑の塚に金色の十字型の鍔。そして、銀色に光り輝く剣先。
間違いない。何処をどう見てもロングソードだ。
サメの男はロングソードを振りかざし、私に向かって来る。
このまま男を切り殺せば良いのかと思案し、ホルスターから抜いた拳銃の銃口を男に向けたのだが、男に向かって引き金を引くよりも前に、私の足元に向かって銃弾が届く。
何事かと私が目の前を見つめると、そこには回転式の拳銃を構えたアナベルの姿。
彼女はニヤニヤと笑って、
「おっと、今のは警告。あんたがサメディを撃ち殺させないためのね。もし、あんたがサメディを撃ち殺したとしたら、あたしあんたを殺すからね」
今の私が構えている銃口で狙えるのはアナベルか、目の前で剣を振るうサメディなる男のどちらか。
私がサメディを撃ち殺せば、あの女は躊躇なく私の体に鉛玉を撃ち込むだろう。
あの女を先に殺した場合、目の前から迫る男を避けきれずに私はあの剣の餌食になり死んでしまうだろう。
究極の二択だ。狙撃手アナベルか、サメディ剣士か。
私の選択はどちらだ。分からない。ただ天に祈るしかない。
そのように思われた私にある一つの閃きが訪れた事に気が付く。
その第三の選択というのが魔法だった。私はサメディに向かって左手の掌を広げて、奴の魔法を吸収し、剣を奪う。
そして奪った剣をサメディに向かって放り投げた。
結果、サメディは投げられた剣を交わすために足を止めたものの、剣そのものを避ける事は難しかったらしく、彼の体の上を大きなロングソードが滑り、右足の脛から右肩までをざっくりと切り取っていた。
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