王立魔法学院の落第生〜王宮を追放されし、王女の双子の姉、その弱い力で世界を変える〜

アンジェロ岩井

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フォー・カントリー・クロスレース編

今大会の優勝候補

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「まさか、保安委員でも賞金稼ぎでも、ウェンディ王女でもない人間に殺せるなんてね。思いもしなかったわ」
「その通りだ。妙ちくりんな犯罪者なんかに殺されるなんてなッ!」
クリストファーは帝国の最初のチェックポイントの町に存在しているベッドの上に座りながら、忌々しげに『犯罪者』と強調して叫ぶ。
エリアーナは彼が一般の犯罪者を見下している事を知っていた。自分達が犯す犯罪は綺麗なものであるのだが、他の犯罪者が犯す犯罪は汚いものであるというのが彼の認識であった。言うなれば、一種の理想主義者。
自らの理想に酔った典型的な青年。
それが、エリアーナがクリストファーに向けた評価であった。勿論、顔は良い。
加えて、自分の言う事をよく聞いてくれるし、彼女自身も彼を愛おしいとは思っているが、そこで止まる男。
エリアーナは額を右手で覆うと、ホテルの部屋に備え付けられた木製のベッドの中に座り込む。
そこで、前回の計画の思案を考えていく。一体、何が駄目だったのだろう。
彼がたまたま自分とは何の関連もない恐らく、本さえろくに触れた事もない粗暴な犯罪者に殺され、王子を奪い返されてしまった事だろうか。
それとも、その教養の無い犯罪者(と、エリアーナは思っている)の使用する魔法が幻覚系統の魔法と身体強化の魔法に加えて、基礎魔法から逸脱した召喚魔法を使用していた事だろうか。
自分のかつての仲間であった太った男の扱う魔法は自身の体脂肪率を頑丈な筋肉へと変える魔法であったのだが、ポピー・ブラックなる女はそれの上位互換とも呼べる魔法。
すなわち、身体強化に加えてこの世のものでは無い物を召喚する魔法を使用した事だろうか。
古書からの記憶を辿ると、恐らく、ポピー・ブラックの使用した魔法は身体強化に異なる世界からの召喚魔法を加えた魔法『悪魔の右手デーモン・ライト』で間違いないだろう。
彼女は爪を噛み、周囲を見渡すのだが、参謀のアランが居ない事を知る。
彼女が参謀の名前を呼ぶと、扉が開かれて眼鏡をかけた男が現れて、彼女の前でニヤリと笑う。
「エリィ、あなたに必要な駒を見つけたよ」
彼は口元の右端を吊り上げて笑う。そして、彼が男を見つけた経緯を自身の仕える女リーダーへと語っていく。












帝立魔法学院の賞金稼ぎ部一の賞金稼ぎにして、乗馬部のエースであるケイレブ・オーウェンは今大会の優勝候補とさえ言われていた。
彼の実力は筋金入りであり、これまでの道のりでも彼は強力な魔法と馬術で勝ち上がってきたのだが、今大会に突如、参加する事になった仮面の騎手に彼は負けつつあった。
順位が負けているわけではない。彼には十分に備わっていたと思えるものが足りていないものがない事を知り、敗北した事を知ったのだ。
王都に偶然立ち寄った際に、彼は偶然知ってしまう。
この試合に参加している男騎手が本来は女であり、その正体がウィンストン・セイライム王国のウェンディ王女であると。
ここまでならば、問題は無い。だが、問題はその後であった。
彼はウェンディの正体を知り、密かに物陰に身を潜めながら、彼女の動向を探っていたのだが、彼女が山を登った際に、炎に動じる事なく、凶悪なブラック姉弟を容赦なく殺害する場面を目撃してしまったのだ。
彼は木の陰に隠れて、自身の敗北を知った。燃え盛る炎の中で相手を撃ち殺すなんて自分には不可能としか思えない芸当だ。
ケイレブは保安委員の青年に肩を借りながら、山を降りていく彼女の姿を見つめて、自身の心の内に激しい嫉妬の炎と恋の炎という二つの炎が燃えている事に気が付く。
相反する二つの情熱の炎。だが、ケイレブの心にはそれらの二つの炎が両立しており、互いに心の内で均衡していた。
彼女を自らの手で撃ち殺したい。いや、できる事ならば、彼女を自らの“モノ”にしてやりたい。
実際、彼女はこんな過酷なレースに参加しているのだから、料理も出来るのだろうし、洗濯も上手いだろう。
周りを常に見下し、自分の妻となる人物など存在しないと思っていたケイレブだったのだが、彼女の姿を見てその思いを改める。
そんな折、彼が故郷の最初のチェックポイントである町の高級ホテルに泊まっていた時だ。
扉をノックする音が聞こえ、その後に扉が開いて、一人の眼鏡を掛けた男がケイレブの部屋の中へと足を踏み入れる。
「やぁ、キミがケイレブ・オーウェンくんか?史上最年少にして帝国一の賞金稼ぎにして、今の皇帝のお気に入りなんだってね?」
「皇帝『陛下』だ。敬称をつけろ、間抜け」
ケイレブはいきなり扉を開けた無礼な男に対し、拳銃を喰らわせてやろうかと腰に掛けていたホルスターから拳銃を引き抜こうとしたのだが、男はその腕を勢いよく掴む。
そして、銃を抜かせる事を拒否させると、彼に向かって満面の笑みで笑い掛けて、
「確かに、今のは私の配慮が足りなかったようだ。だがね、キミはあの女を好きにたくないのかな?」
その言葉を聞いて、ケイレブは銃を抜くのをやめて、眼鏡の男の視線をまじまじと見つめていく。
「本当にあの女を……ウェンディを好きにできるのか?」
「殺せるのか」や「モノにできるのか」とは問い掛けない。それは、明らかに彼の心の迷いであろう。
だからこそ、男もどちらかに限定した名詞を使用して尋ねたりはしなかった。
この時、ケイレブは知らなかったのだが、彼の心は大きな闇に囚われていたのだった。そう、一度嵌れば二度と上がらない底無し沼のような深い闇の中に。
ケイレブは大陸各地で指名手配されている女テロリストに謁見する。
「ケイレブ……ケイレブ・オーウェンだ。よろしく」
「よろしくね。私の殺し屋さん」
本来ならば、彼はエリアーナを狙わなければいけない立場にあるのだ。
だが、彼はウェンディを好きにするために、彼女に向かって右手を差し伸べる。
彼のガチガチに緊張した腕を彼女は優しく握り締めて、
「さてと、来て頂戴、あなたには話したい事があるわ」
そう言って、エリアーナはケイレブを近くに寄せて、彼に向かって計画を話していく。
「なるほど、あの町にいる二つの勢力を対決させて、それにウェンディを巻き込めば……」
「ええ、どさくさに紛れて、あなたは彼女を好きにできるはずよ」
エリアーナは妖艶な顔を浮かべて言った。
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