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フォー・カントリー・クロスレース編
夏休みの予定表
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「じゃあ、夏休みの間は家に帰るんだ。どんな街なの?」
私はソルドとカレンの二人に酒場にて用意された鮭のムニエルをナイフを使って切り刻みながら尋ねる。
無論、今日仕留めた強盗殺人犯の賞金で購入した食事だ。酒場で提供される安い食事だが、これがまた美味いのだ。
私が最初の一口を口にし、舌鼓を打っていると、カレンはもじもじと体を動かしながら、小さな声で、
「ローズ・ヴァレンタインっていう小さなシティーだよ。田舎の方だから、貴族は多い方だよ。やっぱり、ここみたいに保安委員の数が少ないから、あんまり威張っている事とか政府の耳に入りにくいというか」
「そうそう、あの悪徳男爵め、本当にムカつく奴だよ。威張り腐りやがって、本当にムカつく奴だ」
私は鮭のムニエルを味わいながら、頭の中でレースに参加した時に、彼らのような目の届かない悪を王国の力で断罪するというのはどうかと思案していく。
昔、ピーターが私にしてくれた彼が昔聞いた話と似ている。
主人公は老人で、副王の地位にありながらも、彼は身分を隠して各地を回り、各地で悪事を働く役人を懲らしめ、最後に正体を明かして平伏させるという話だ。
その際に連れているお供も個性的であり、幼少期、彼の口から副王様やそのお供の活躍が話される度に、私は胸を躍らせたものだ。
思えば、私の中にある悪人を裁き切るという感情はここから来ているのかもしれない。
そんな事を考えていると、自然に口元が綻びてしまったらしい。
ケネスが左肘で私の腰を突いて口元が緩んでいる事を指摘する。
私は慌てて口元を引き締める。そして、慌てて料理を口にしていく。
私が先程、昔の話を思い出して笑っていたのを勘違いしたのか、二人は先程から私と目を合わせようとはしない。
この状況を懸念して、私は先程、口元をだらしなくしてしまった理由と、そしてピーターから教えてもらったあの面白い話を二人にしていく。
その場に居た三人は私の話を聞いて、両目を輝かせて、
「嘘だろ?副王様がそんな事をやるのか?」
「とっても信じられない……王国や他の国じゃあ、貴族でさえもまともに屋敷の外には出ないのに副王様が皆のために諸国を回って、悪人を懲らしめるなんて……」
二人は目を丸くして、私の語った昔話を聞いていた。
だが、ケネスは首を捻って、
「うーん確かに面白かったのだが、何か信憑性が無いような気がしてならない。作り事では無いのか?その話」
「昔話らしいわよ。もしかしたら、ピーターの創作かもしれないわ」
その言葉を聞いて、周りがハァと小さな溜息を吐いて、全力で走りをした後の学院の生徒のようにヘナヘナと座っていた椅子の上にもたれていく。
「まぁ、そんな盗賊が居るわけないか、居たとしても偉そうに街を回るだけで、こんな酒場でオレらと一緒にご飯食べたりはしないだろうな」
「貴族」という呼称がソルドの口から発せられなかったのは私が一応は貴族の娘としてこの学院に通っている事になっているからだろう。
私はそれを聞いても何も思わなかったのだが、ケネスもそれに同調して、水の入ったジョッキを不満そうに口付けしている。
そう、彼は知っているのだ。私が現在の王国の王位継承者にして現王女、シンディの双子の姉だという事に。
恐らく、この事実は部長しか知らないに違いない。貴族の家に捜索許可が下りたのも実は私が王女にコネを使ったからだという事を部長以外の人間ではいくら居るのだろう。
恐らく、あの得体の知れない生徒会長、他には入学式で見たきりの校長も知っているのかもしれない。
だが、少なくとも私と夕食の席を囲んでいる三人は知らないに違いない。
私は三人に合わせて弱々しい微笑を浮かべる事しか出来なかった。
その日、三人は役人やら貴族やらの愚痴を言って盛り上がり、話を打ち切ってしまっていたのだが、私は一人、居心地の悪いまま帰宅する事になった。
私はピーターを呼び出し、馬を預けて制服から私服の部屋用ドレスへと着替えて、居心地の悪い気分を忘れるためか、ワインをピーターに要求し、下の台所でワイングラスに入れられたワインを啜っていく。
何となく味わいの悪い気難しい色が口の中に広がっていく。そのワインを飲んで出てきた感想はそれだけであった。
翌日からも私は時たま、一人でレースに出場する事と特権を使って出場するという後ろめたい気持ちを抱えたまま夏の日々を過ごす。
そして、勉強や体術、それに賞金首を狩る日々は一旦終わりを告げて、とうとう終業式を迎えて、二ヶ月の夏休みへと突入してしまう。
クラスの四人、途中からマーティとジャックも合流して、最後に近くの酒場で飲み合う。
そして、全員が馬に乗って田舎に帰るという話になったのだが、その際に信じられない話を聞いてしまう。
「そう言えば、長い休みの間にフォー・カントリー・クロスレースが開かれるんだよな?お前ら、あれどうする?見るか?」
ケネスが振り出した話を全員が首肯していく。
「うん、あのレースは毎年、楽しみにしてるんだ!あたし、故郷の街でも絶対に見るんだから!」
「お、そうだな!今回も参加者の人々にサンドイッチを配らないと!」
「サンドイッチかぁ~僕の故郷じゃあ、ハムの代わりに揚げた魚にソースを掛けたのものを入れたのが選手に人気だったなぁ~」
ジャックは顎に人差し指を掲げて、故郷のサンドイッチの事を思い出しているらしい。
マーティやケネスもそれにつられて、ご当地の名物やらどんなサンドイッチを渡すのかを必死に話し合う。
どうやら、私は地方のレースへの貢献度合いを舐めていたらしい。まさに床に散らばった塩を舐めたかのようなしょっぱい思いを味わう。
私は屋敷に帰ると、翌日にピーターに大陸の端の町、ボストラムに向かうように伝えられる。
ボスドラム。この学院の存在するアンダードームシティーよりもさらに東に向かった方角に存在する大陸の最東端に位置し、もう一つの大陸との境目、スパイスシーの海岸岸に存在する王国最大の港町であり、夏の最初にはここに各国の首脳が集まり、開催式を開く場所であるのだ。
数日間、私は馬車に揺られ、合間合間のホテルで過ごしてその町へと向かう事になっていた。
馬車に揺られる中で、私の懸念はどうすれば上手く状態がバレずに済むかだ。
そんな悶々とした状態の中、人差し指を掲げたピーターの案は天啓にも等しかった。
「では、何か被り物をすれば良いのでは?」
「それよ!ピーター!町に着いたら、直ぐに仮面を買いなさい!」
私は馬車の中で叫んだ。
私はソルドとカレンの二人に酒場にて用意された鮭のムニエルをナイフを使って切り刻みながら尋ねる。
無論、今日仕留めた強盗殺人犯の賞金で購入した食事だ。酒場で提供される安い食事だが、これがまた美味いのだ。
私が最初の一口を口にし、舌鼓を打っていると、カレンはもじもじと体を動かしながら、小さな声で、
「ローズ・ヴァレンタインっていう小さなシティーだよ。田舎の方だから、貴族は多い方だよ。やっぱり、ここみたいに保安委員の数が少ないから、あんまり威張っている事とか政府の耳に入りにくいというか」
「そうそう、あの悪徳男爵め、本当にムカつく奴だよ。威張り腐りやがって、本当にムカつく奴だ」
私は鮭のムニエルを味わいながら、頭の中でレースに参加した時に、彼らのような目の届かない悪を王国の力で断罪するというのはどうかと思案していく。
昔、ピーターが私にしてくれた彼が昔聞いた話と似ている。
主人公は老人で、副王の地位にありながらも、彼は身分を隠して各地を回り、各地で悪事を働く役人を懲らしめ、最後に正体を明かして平伏させるという話だ。
その際に連れているお供も個性的であり、幼少期、彼の口から副王様やそのお供の活躍が話される度に、私は胸を躍らせたものだ。
思えば、私の中にある悪人を裁き切るという感情はここから来ているのかもしれない。
そんな事を考えていると、自然に口元が綻びてしまったらしい。
ケネスが左肘で私の腰を突いて口元が緩んでいる事を指摘する。
私は慌てて口元を引き締める。そして、慌てて料理を口にしていく。
私が先程、昔の話を思い出して笑っていたのを勘違いしたのか、二人は先程から私と目を合わせようとはしない。
この状況を懸念して、私は先程、口元をだらしなくしてしまった理由と、そしてピーターから教えてもらったあの面白い話を二人にしていく。
その場に居た三人は私の話を聞いて、両目を輝かせて、
「嘘だろ?副王様がそんな事をやるのか?」
「とっても信じられない……王国や他の国じゃあ、貴族でさえもまともに屋敷の外には出ないのに副王様が皆のために諸国を回って、悪人を懲らしめるなんて……」
二人は目を丸くして、私の語った昔話を聞いていた。
だが、ケネスは首を捻って、
「うーん確かに面白かったのだが、何か信憑性が無いような気がしてならない。作り事では無いのか?その話」
「昔話らしいわよ。もしかしたら、ピーターの創作かもしれないわ」
その言葉を聞いて、周りがハァと小さな溜息を吐いて、全力で走りをした後の学院の生徒のようにヘナヘナと座っていた椅子の上にもたれていく。
「まぁ、そんな盗賊が居るわけないか、居たとしても偉そうに街を回るだけで、こんな酒場でオレらと一緒にご飯食べたりはしないだろうな」
「貴族」という呼称がソルドの口から発せられなかったのは私が一応は貴族の娘としてこの学院に通っている事になっているからだろう。
私はそれを聞いても何も思わなかったのだが、ケネスもそれに同調して、水の入ったジョッキを不満そうに口付けしている。
そう、彼は知っているのだ。私が現在の王国の王位継承者にして現王女、シンディの双子の姉だという事に。
恐らく、この事実は部長しか知らないに違いない。貴族の家に捜索許可が下りたのも実は私が王女にコネを使ったからだという事を部長以外の人間ではいくら居るのだろう。
恐らく、あの得体の知れない生徒会長、他には入学式で見たきりの校長も知っているのかもしれない。
だが、少なくとも私と夕食の席を囲んでいる三人は知らないに違いない。
私は三人に合わせて弱々しい微笑を浮かべる事しか出来なかった。
その日、三人は役人やら貴族やらの愚痴を言って盛り上がり、話を打ち切ってしまっていたのだが、私は一人、居心地の悪いまま帰宅する事になった。
私はピーターを呼び出し、馬を預けて制服から私服の部屋用ドレスへと着替えて、居心地の悪い気分を忘れるためか、ワインをピーターに要求し、下の台所でワイングラスに入れられたワインを啜っていく。
何となく味わいの悪い気難しい色が口の中に広がっていく。そのワインを飲んで出てきた感想はそれだけであった。
翌日からも私は時たま、一人でレースに出場する事と特権を使って出場するという後ろめたい気持ちを抱えたまま夏の日々を過ごす。
そして、勉強や体術、それに賞金首を狩る日々は一旦終わりを告げて、とうとう終業式を迎えて、二ヶ月の夏休みへと突入してしまう。
クラスの四人、途中からマーティとジャックも合流して、最後に近くの酒場で飲み合う。
そして、全員が馬に乗って田舎に帰るという話になったのだが、その際に信じられない話を聞いてしまう。
「そう言えば、長い休みの間にフォー・カントリー・クロスレースが開かれるんだよな?お前ら、あれどうする?見るか?」
ケネスが振り出した話を全員が首肯していく。
「うん、あのレースは毎年、楽しみにしてるんだ!あたし、故郷の街でも絶対に見るんだから!」
「お、そうだな!今回も参加者の人々にサンドイッチを配らないと!」
「サンドイッチかぁ~僕の故郷じゃあ、ハムの代わりに揚げた魚にソースを掛けたのものを入れたのが選手に人気だったなぁ~」
ジャックは顎に人差し指を掲げて、故郷のサンドイッチの事を思い出しているらしい。
マーティやケネスもそれにつられて、ご当地の名物やらどんなサンドイッチを渡すのかを必死に話し合う。
どうやら、私は地方のレースへの貢献度合いを舐めていたらしい。まさに床に散らばった塩を舐めたかのようなしょっぱい思いを味わう。
私は屋敷に帰ると、翌日にピーターに大陸の端の町、ボストラムに向かうように伝えられる。
ボスドラム。この学院の存在するアンダードームシティーよりもさらに東に向かった方角に存在する大陸の最東端に位置し、もう一つの大陸との境目、スパイスシーの海岸岸に存在する王国最大の港町であり、夏の最初にはここに各国の首脳が集まり、開催式を開く場所であるのだ。
数日間、私は馬車に揺られ、合間合間のホテルで過ごしてその町へと向かう事になっていた。
馬車に揺られる中で、私の懸念はどうすれば上手く状態がバレずに済むかだ。
そんな悶々とした状態の中、人差し指を掲げたピーターの案は天啓にも等しかった。
「では、何か被り物をすれば良いのでは?」
「それよ!ピーター!町に着いたら、直ぐに仮面を買いなさい!」
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