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賞金稼ぎ部(ハンティング・クラブ)編

入学式での出来事

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王立魔法学院はウィンストンセイライム王国の王都、セイライムの東に位置する都市、アンダードームシティーに存在している。噂によれば、そのシティーの市長も王立魔法学院を卒業したと聞く。
尚、この国においての王立魔法学院の立ち位置は王国の有名大学と匹敵するレベルであり、この学院に入学し、三年の学業の過程を卒業する事はこの国に住む全魔法使い達の憧れであったとも言えるだろう。
全くの魔法の才能だけでのし上がった人間もいれば、努力でエリート魔法使いを追い越した人間もいると聞く。
そんな学校だ。基礎魔法の使えない私でも成り上がる機会はあるだろう。
私は丁寧に馬の手綱を引き、私のために王から用意された家から北に真っ直ぐの箇所にある学院を目指しながら、そんな事を考えていた。
私の馬は黒毛の体格の良くがたいの良い馬であり、この馬に乗るのは私の一日の最大の楽しみであったと言っても良いだろう。
実際に王宮に居た時に楽しかったのは射撃の練習の時間と馬に乗る時間だった。
今、私が乗っている馬に乗り、王宮の庭だけではなく、その周辺を駆け回る事は私にとっても大きな楽しみであったと言えた。
私は学院に続く道とその道の横に存在する様々な店を眺め、何処に何があるのかを把握していく。
どうやら、この街は本当に王立魔法学院のためだけに作られたと言っても過言では無いらしい。
生徒のための簡素な食堂や雑貨店は無論の事、遠方から訪れる生徒のための下宿や生徒の気分転換目的のために設置されたと思われる酒場があった。
それ以外の一般的な家もあったのだが、やはり、生徒のために設置された店や施設の方が圧倒的に多かった。
余談ではあるが、王立魔法学院の生徒総数は二千人とも言われており、毎年卒業する卒業生の数を差し引いても、その数が途切れる事なく、常に魔法を使える人間と使えない人間とに分けておくために、AからGまでの七クラスがあると聞く辺り、この学校の凄さ同時に非魔法使いへの対応が分かるような気がする。
私は学園の門の前に着くなり、そのあまりの大きさに思わず溜息を吐いてしまう。
大きくて立派な白金の校舎は悠々と私を見下ろす巨人のように思わされた。
門は固く閉ざされていたが、誰かが解除の魔法と思われる魔法を詠唱すると、門が開き、生徒のために門が開かれ、私や新入生と思われる生徒達が門をくぐっていく。
新入生は馬に乗っている人間以外にも、歩きや馬車で通っている人間もいるらしい。
私は草垣に覆われた石通りの上に当たると、馬を降りて、自らの手で馬を引きながら新しく入学する学校の中を歩いて行く。
馬を降りた私に、一人の緑色の髪の青年が慌てふためいた様子で近づいて来る。
この学校の男子の青色のダストコートに青色のテンガロンハットを被っている事から、彼がこの学校の生徒である事は間違い無いだろう。
彼は上目で私を見ながら、
「あ、あの、申し訳ありませんけれど、ここでは馬に乗らないで欲しいんです!馬に乗られると、他の生徒の方々に迷惑が掛かりますので……」
私は馬の手綱を引っ張っているという今の状況を思い返し、彼に馬を渡す。
「確かに、多くの人が通る場所に無粋だったわね。馬を繋ぐ場所はどこかしら?」
私は優しく言ったつもりであったが、緑色の髪の生徒は元々が気弱な性格だったのか、それとも、私が無意識のうちに怖い顔をしていたのか、そのどちらかの理由で両肩を恐縮させ、私に頭を下げて馬を引っ張っていく。
どうやら、校舎の左端にある馬の繋ぎ場に預けに行くらしい。
上級生なのにやけにヘコヘコとしているなと私が彼を見つめていると、彼の両肩には私と同じ〈非マジシャンガンマン〉である事を示す銃だけのバッジが胸に輝いていた。
私はそれを見て、自分の胸に光るバッジの事を思い返す。
そう、この学園ではわざわざ魔法の使える人間とそうでない人間とを学校内で区別するために、七クラスまである事から分かるように、徹底的なまでに魔法を使える人間と使えない人間とを判別し、蔑むのが最大の特徴と言えるだろう。実技試験の段階で基礎魔法を使用できなければ、例え親が優秀な魔法使いだろうが、金持ちであろうが、魔法の杖の無いバッジを渡され、それを胸に張る事を強制されるのであった。
彼も私と同じバッジを付けていた事から、上級生からは目の敵にされていたのであろう。
彼の学年が二年生だと推定して、解放されるまでは今年を入れて後、二年もある。
かくいう、私も今日から、その仲間に入るのだが……。
私は新入生歓迎会の開かれる学校の大広間へと向かうために、例の舗装された道を歩き、校舎の前に右に分離された道を他の生徒について行く形で歩いていく。
大広間は二階建ての全生徒収容施設であり、行事がある際はここに大勢の生徒を集めるらしい。
案の定、多くの生徒が立ったまま正面の劇場を見上げていた。
彼女も他の生徒同様に台を眺めていると、一人の髪の長い女性が現れ、彼女らに向かって丁寧に頭を下げる。
「ようこそ、皆様……私の名前はジェーン・ゴールドマンと申します。今学園ににおいて学校長を務めさせて貰っております。つきましては、皆様に今日、覚えておいて欲しい事がございます」
彼女がもう一度丁寧に頭を下げると、集まった生徒達も一斉に頭を下げ返し、もう一度台の上の女校長を見上げる。
若い女校長は初見でウェンディが感じたような凛とした堂々とした態度を崩す事なく、話を始めていく。
「皆さんは本日、王立魔法学院に入学し、国王陛下のお役に立てるための立派な人物になるためのチケットを得ました。ですが、中には魔法学院に入学しているのにも限らず、基礎魔法が使えない人間も本学に居る事をお忘れなく。彼ら彼女らは基礎魔法こそ使えませんが、それでも素晴らしい魔法が使える或いは何らかの形で国王陛下のお役に立てると判断して、入学させたのです。〈マジシャンガンマン〉の称号を持つ皆様はその事をお忘れなきよう」
女校長はそう言って再度頭を下げ、台の上から降りたが、入学早々校長から自分達の優越感を真っ向から否定された〈マジックガンマン〉の面々は穏やかな気分では無かったらしい。
男女問わず〈マジシャンガンマン〉のバッジを胸に付けた面々は口々に校長への不満を口に出していた。
入学式が終了し、優等生が左の列に、劣等生が右の列とで二列に分かれて、教室へと続く道の途中で、堂々と基礎魔法を使って、銃のバッジしか無い持つ生徒に嫌がらせを行う卑劣漢もいた。
教師にバレないように嫌がらせを行う彼らの姿は男女問わず、どれも私には醜く映ったものであった。
特に私の胸が悪くなったのはカップルと思われる男子の前で女子に基礎魔法を使って嫌がらせをしていた事だった。
しかも、よりによって自分の後ろの列なのだ。
とうとう我慢がしきれなくなった私は右手を嫌がらせを行なっていたエリートの女子二人が女の子のスカートを他の生徒に見せようと、嫌がらせを行おうとした時だ。
二人が基礎魔法の一つ風の詠唱を行い、その彼女のスカートをめくろうとした時だ。
私は魔法で彼女らの風を吸収し、左の列に縦並びで歩んでいた二人の顔に思いっきりぶつけてやった。
「テメェ!今、何をしやがった!?」
嫌がらせをしていた女のうち、オレンジの髪の女生徒が私に向かって叫ぶ。
「黙りなさい。あなた達二人こそ、この子に何をしようとしたの?」
私は風を喰らって地面に倒れた女子二人を冷ややかな視線で眺めながら言う。
「理由?じゃあ、逆に聞くけどさぁ、あんたは蟻を潰すのに理由なんている?特に弱いのにイチャイチャとしてる奴なんて、見ていて吐き気がするからやっただけだよ!」
「……本当に下らない理由ね。あなた頭は大丈夫なの?正気とは思えないけれども」
「はっ、魔法の杖の持てない落ちこぼれが、どの口を聞いて言ってるんだッ!」
もう片方の赤い髪のそばかすだらけの女が腰のホルスターから拳銃を抜いて叫ぶ。
その途端に周囲の生徒達が悲鳴を上げていく。
当たり前だ。学校で銃を抜くのは禁止されているし、第一、今は教室へと向かう行進の途中なのだ。その最中に拳銃を抜けばどうなるのかは分かるだろう。
銃を抜けと叫び続ける赤いそばかすの女を無視し続けていると、列の中に一人の中年の顎の髭を大きく伸ばした哲学者風の男が割って入り、行進の止まった生徒達に何事かを問う。
先生が割って入るのと同時に、オレンジの髪の女と赤い髪の女が揃って私を弾劾していく。
「この女が私たちをいきなり、風魔法で吹き飛ばしたんですわ!何もしていない私たちをいきなりッ!」
その言葉を信じたのか、哲学者風の男は両眼でギロリと私を睨んだが、私は涼しい顔でそれを眺めていた。
だが、それが気に入らなかったのか、あの二人は次々にある事ない事を口々に叫んでいく。
それらの言葉を全て真剣に聞き入れた哲学者風の男は私をギロリと睨んで、
「今の話は本当か?」
と、問い掛けた。
「いいえ」
首を横に振る私。
「惚けるのもいい加減にしろ!こうやって〈マジシャンガンマン〉の生徒に傷を負わせた事を認めろ!卑しい〈非マジシャンガンマン〉めッ!」
先生の言葉には私への個人的な怒りの感情以外にも、〈非マジシャンガンマン〉なる道端の雑草にも劣る存在が高貴なマジシャンガンマンに傷を負わせた事に対する差別的な怒りがあったに違いない。
私が口を開けて、反論の言葉を紡ぎ出そうとした時だ。
一人の男子生徒が手を挙げて、先生の元に向かって行く。
男子生徒は道を歩けば直ぐにでも劇場の主役に抜擢されそうな程の青い髪の美男子であり、彼はその顔に合う格好の良い声で言う。
「私は見ていましたッ!ここにいる生徒二人が彼女のスカートを風でめくり、周囲の目で辱めを与えようと風魔法を作り上げていた場面をッ!」
男子生徒は被害者である側で震えているショートカッタの短い黒髪の地味な少女を指差し、次にオレンジの髪と赤い髪の女子生徒の二人を弾劾していく。
その言葉に二人の少女はたじろぎ、言い返せなくなったらしい。
男子生徒の勇気のある告発に便乗し、他の杖の無いバッジを付けた生徒達も次々と二人を攻めていく。
彼女達は言い逃れができなくなったのかと悟ったのか、顔を伏せてぶきっらぼうな謝罪の言葉を述べて、列に戻っていく。
私は事態が収拾するのを見届けると、黙って列に戻り、三人の生徒が何かを言いたげなのを聞く事なく、教室へと向かって行くのだった。
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