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神と神との決闘編
大桶谷の決闘ーその③
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どうやら味方であるはずの大樹寺とトニーが自身のことで揉めているらしい。これは絶好の機会ではないか。孝太郎は耳を拳銃で撃たれて蹲る大樹寺を見ながら確信を得た。今ならば大樹寺を倒すことが可能だろう。孝太郎は密かに大樹寺の背後へと忍び寄り、日本刀を突き立てようと目論んだ。
だが、大樹寺は自らに与えられた力で背後からの気配を察するのと同時に慌てて振り返り、刀を振り上げようとした孝太郎に向かって『破壊銃』の銃口を向けた。
驚いて固まった様子を見せる孝太郎に対し大樹寺は嘲笑うような顔を浮かべながら言った。
「私があなたの動きに勘付かないとでも思ってた?」
「……クソッタレ」
意地悪な問い掛けに対して孝太郎から発せられたのは一言は明らかな罵声であった。返す言葉が見つからなかった故に悔し紛れの一言と評した方がいいだろう。いずれにしろ、孝太郎が追い詰められており、どうしようもない状態になってしまったことは間違いない。大樹寺は固まっていた孝太郎の顎を蹴り飛ばし、髪を掴むと、その口の中へと『破壊銃』の銃口を突き付けたのであった。
「さようなら、孝太郎さん」
勝ちを確信した大樹寺に躊躇いはなかった。宿命のライバルに向かって躊躇なく引き金を引こうとした時のことだ。孝太郎は大樹寺の腹部に向かって蹴りを喰らわせたのであった。
予想外の攻撃を喰らい、悶絶する大樹寺に対して孝太郎は容赦なかった。大樹寺の手を手刀で打ち、彼女の手から『破壊銃』を落とさせたのであった。
「なっ、しっ、しまったッ!」
大樹寺は地面の上に落ちた『破壊銃』を拾い上げようとしたものの、その前に孝太郎が地面の上に落ちた『破壊銃』を蹴り飛ばし、その場から遠ざけてしまった。
回収を不可能だと悟った大樹寺は無言で武器保存から『魔道六銭』を取り出し、孝太郎に向かって真上から斬り上げていく。孝太郎は慌てて自身の愛刀を武器保存から取り出し、それを盾の代わりにして防ぐ。
そのまま両者は互いの刀身を重ねたまま睨み合いを行っていく。この状態に苛立ちを隠しきれなかったのは大樹寺であった。本来であるのならば神に選ばれた巫女である自分が刀に力を込めることで容赦なく孝太郎を葬り去れることができたはずであった。
しかし孝太郎の力は予想外であった。いや、神から与えられた力ならば自分の方が確実に持っていたはずだ。有利なはずの戦いであったにも関わらず、大樹寺は孝太郎の咄嗟の判断によって互角の勝負へと追い込まれてしまう羽目になったのだ。
ここは自分の誇りのためにも意地でも孝太郎を叩き斬らなくてはならない。そう考えながら刀を握る力を強めていった時のことだ。背後からいやな気配を感じたのだ。
慌てて振り返ると、そこには周りにいた部下たちを殴り飛ばし、絵里子の縄を解いてその場から逃そうとしているトニーの姿が見えた。
「な、何をやっているの!?」
大樹寺は孝太郎と斬り合っている状態であるにも関わらず、大きな声でトニーの不忠行為を責め立てたのである。
「何って? 私は私の流儀に反する行為を見咎めただけのことさ」
トニーは悪びれる様子も見せずに言ってのけた。
「少なくとも契約書にそんなことは書いてなかったかったし、契約の時にそんな話も聞かなかったけど? 一体どこからそんな流儀とやらが出てきたのかなぁ?」
大樹寺の怒気を含んだ問い掛けにトニーが言葉を返すことはなかった。今すぐにでも大樹寺はトニーを粛清したい気持ちであったが、そんなことをすれば孝太郎との決闘が疎かになってしまう。
それ故に大樹寺はトニーを粛清することができなかった。拳を震わせることしか不可能な自分をこの時ほど恨めしく思ったことはない。神や天使を恨んだりしないのは曲がりなりも大樹寺が聖職者だったからだろう。
大樹寺がいいようのない憎悪に心を突き動かされていた時だ。背後で銃声の鳴り響く音が聞こえてきた。その音が気になったのは自分だけではなかったらしい。孝太郎は慌てて銃声がした方向を振り返っていた。大樹寺の刀を防ぎながらも背後を確認していたのだ。
敵の注意が逸れているのならば自分も少し見るくらいは平気だろう。大樹寺がゆっくりと背後を振り返ると、そこには銃を構えたまま睨み合っているトニーと斧太郎の姿が見えた。
大樹寺は思わず「あっ!」と叫んだ。斧太郎がトニーを牽制しているのだ。もっとも使用しているのは得意の斧ではない。まだ通常の義手だ。そして義手が握っているのは彼の持ち物だと思われる回転式の拳銃であった。いくら凄腕の殺し屋であっても至近距離から銃を近付けられるのは難しいのだろう。悔しげな表情でトニーは斧太郎を睨んでいた。
斧太郎はそれを見て引き金に手を当てた。すぐにでもトニーを射殺するつもりなのだろう。
「ま、待って!」
トニーを射殺しようとする斧太郎に物を申したのは孝太郎でもなければ絵里子でもなかった。なんと雇い主である大樹寺雫本人であった。
「な、なぜです!?」
突然の静止に対して驚きを隠せなかったのは斧太郎であった。目を丸くしながら大樹寺へと問い掛けた。
「……突然止めてしまった悪かったわ。けれど、トニーは私が粛清するからあなたは手を出さないで」
大樹寺は自分の口から自分の意思とは反するような言葉が出てきたことに驚きを隠せなかった。普通に考えればここは斧太郎に任せておくのが自然というものだ。
だが、言葉は自分の意思とは無関係に口から余計な言葉が出ていく。
「ともかく、あなたは手を出さないでちょうだい。私があの男を始末した後でトニーも始末するから」
「わ、分かりました。では、私は牽制の方にーー」
斧太郎がトニーに注意を向けた時だ。自身の目の前から強烈なブーメランが飛んできたことに気が付いた。斧太郎は慌ててブーメランを回避したものの、トニーの接近を防ぐことはできなかった。
トニーは斧太郎を確実に始末できるように右手の掌を大きく広げていた。トニーの魔法である触れたものをタナトスの元へと誘う魔法である。通常であるのならば斧太郎はこのまま死んでしまったに違いなかった。
しかし斧太郎は生きていた。義手を捨て、斧を構えることで斧太郎は自身の魔法を発動させ、それを使って生き延びたのだ。
斧太郎の魔法は斧を使って空間を裂くという魔法であった。斧太郎は自身の目の前にある空を切ることで空間の裂け目を発生させ、その中にトニーの死のパワーを送り込んだのであった。
呆気に取られるトニーに対し、斧太郎は第二の攻撃を喰らわせようと目論んだ。
だが、それは人質にしていたはずの絵里子によって防がれてしまった。
絵里子は自動拳銃を構えながら斧太郎に向かって叫んだ。
「動かないでッ! 動くとあんたのドタマをこれで撃ち抜いてやるからねッ!」
「……『ダーティーハリー』のつもりらしいが、やめときな、お嬢ちゃん。怪我をするぜ」
斧太郎は自らの斧を構えながら絵里子に対して説教じみた言葉を口に出したのである。
「生憎だけれど、『ごっこ』じゃないからッ! あたしは本当の刑事だものッ! これ以上トニーへの攻撃を行うというのならば撃ち殺すわよッ!」
「……警告はしたぜ」
斧太郎は悲しげな顔を浮かべてから、ゆっくりとした足取りで銃を構える絵里子の元へと向かっていく。そして向かう途中で何度も何度も空へと向かって斧を振り上げ、空間の裂け目を生じさせている。もちろんすぐに地上を漂う修正力によって空間は閉じてしまうが、そんなことは問題ではない。絵里子にとっては狙いにくくて仕方がなかったのだ。
絵里子の扱う魔法は再生だ。それに対比的であるかのように斧太郎の魔法は破壊に特化したものであった。
だが、今は面白がっている余裕などない。今ここで斧太郎を射殺しなければ自分の身が危ういのだ。
絵里子は自身の身に危険性を感じ、何度も引き金を引いた。だが、その弾丸は必ずといっていいほど空間の中へと吸い込まれてしまう。
絵里子が凍りついている間に斧太郎は絵里子の元へと辿り着き、その斧を絵里子に対して振り上げようとしていた。
「最後にアドバイスしておくが、これがプロと素人との差だ。刑事といえども人を殺した経験はほとんどないはずと見た。ましてやキミはあまり人に銃を向けたこともなさそうだ。そういう人間は必ずといっていいほど引き金を引くことを躊躇ってしまうものだ」
「そ、そんな……」
「まぁ、先に手を出したのはキミの方だ。悪いが、恨まんでくれたまえよ」
斧太郎の右腕に備え付けられている斧の刃が太陽の光に照らされて怪しく光っていた。この時の斧太郎の心境はといえば江戸時代に罪人を処刑していた世襲制の処刑人、山田浅右衛門の心境そのものといっていい。
というのも、情のある相手ならば同情はしつつも容赦なくその首を刎ね飛ばすという今の自身の心境とあまりにもシンクロしていたからだ。重ね合わせるなという方が無理というものだろう。
そうは思いつつも斧太郎の中にある味噌汁のカスほど僅かに残された良心が心の中で詫びを入れながら目の前で自身を目にして固まっている絵里子に対してその首を跳ね飛ばそうとした時のことだ。
不意に銃声が鳴り響いた。斧太郎が慌てて周りを見渡していると、地面の下に血が滴り落ちていることに気が付いた。
初めは鍾乳洞の鍾乳石から滴り落ちるような水のように小さな量だった。
だが、すぐにそれが夥しい量へと変わり、自身の目の前に赤い色の池を作っていたことに気が付いた。同時に胸に酷い痛みが生じていく。
斧太郎はこの時察した。自身が胸を撃たれたのだ、と。斧太郎が背後を振り返ると、そこには自身が落としたはずの回転式拳銃を握り、こちらに銃口を向けているトニーの姿が見えた。
だが、大樹寺は自らに与えられた力で背後からの気配を察するのと同時に慌てて振り返り、刀を振り上げようとした孝太郎に向かって『破壊銃』の銃口を向けた。
驚いて固まった様子を見せる孝太郎に対し大樹寺は嘲笑うような顔を浮かべながら言った。
「私があなたの動きに勘付かないとでも思ってた?」
「……クソッタレ」
意地悪な問い掛けに対して孝太郎から発せられたのは一言は明らかな罵声であった。返す言葉が見つからなかった故に悔し紛れの一言と評した方がいいだろう。いずれにしろ、孝太郎が追い詰められており、どうしようもない状態になってしまったことは間違いない。大樹寺は固まっていた孝太郎の顎を蹴り飛ばし、髪を掴むと、その口の中へと『破壊銃』の銃口を突き付けたのであった。
「さようなら、孝太郎さん」
勝ちを確信した大樹寺に躊躇いはなかった。宿命のライバルに向かって躊躇なく引き金を引こうとした時のことだ。孝太郎は大樹寺の腹部に向かって蹴りを喰らわせたのであった。
予想外の攻撃を喰らい、悶絶する大樹寺に対して孝太郎は容赦なかった。大樹寺の手を手刀で打ち、彼女の手から『破壊銃』を落とさせたのであった。
「なっ、しっ、しまったッ!」
大樹寺は地面の上に落ちた『破壊銃』を拾い上げようとしたものの、その前に孝太郎が地面の上に落ちた『破壊銃』を蹴り飛ばし、その場から遠ざけてしまった。
回収を不可能だと悟った大樹寺は無言で武器保存から『魔道六銭』を取り出し、孝太郎に向かって真上から斬り上げていく。孝太郎は慌てて自身の愛刀を武器保存から取り出し、それを盾の代わりにして防ぐ。
そのまま両者は互いの刀身を重ねたまま睨み合いを行っていく。この状態に苛立ちを隠しきれなかったのは大樹寺であった。本来であるのならば神に選ばれた巫女である自分が刀に力を込めることで容赦なく孝太郎を葬り去れることができたはずであった。
しかし孝太郎の力は予想外であった。いや、神から与えられた力ならば自分の方が確実に持っていたはずだ。有利なはずの戦いであったにも関わらず、大樹寺は孝太郎の咄嗟の判断によって互角の勝負へと追い込まれてしまう羽目になったのだ。
ここは自分の誇りのためにも意地でも孝太郎を叩き斬らなくてはならない。そう考えながら刀を握る力を強めていった時のことだ。背後からいやな気配を感じたのだ。
慌てて振り返ると、そこには周りにいた部下たちを殴り飛ばし、絵里子の縄を解いてその場から逃そうとしているトニーの姿が見えた。
「な、何をやっているの!?」
大樹寺は孝太郎と斬り合っている状態であるにも関わらず、大きな声でトニーの不忠行為を責め立てたのである。
「何って? 私は私の流儀に反する行為を見咎めただけのことさ」
トニーは悪びれる様子も見せずに言ってのけた。
「少なくとも契約書にそんなことは書いてなかったかったし、契約の時にそんな話も聞かなかったけど? 一体どこからそんな流儀とやらが出てきたのかなぁ?」
大樹寺の怒気を含んだ問い掛けにトニーが言葉を返すことはなかった。今すぐにでも大樹寺はトニーを粛清したい気持ちであったが、そんなことをすれば孝太郎との決闘が疎かになってしまう。
それ故に大樹寺はトニーを粛清することができなかった。拳を震わせることしか不可能な自分をこの時ほど恨めしく思ったことはない。神や天使を恨んだりしないのは曲がりなりも大樹寺が聖職者だったからだろう。
大樹寺がいいようのない憎悪に心を突き動かされていた時だ。背後で銃声の鳴り響く音が聞こえてきた。その音が気になったのは自分だけではなかったらしい。孝太郎は慌てて銃声がした方向を振り返っていた。大樹寺の刀を防ぎながらも背後を確認していたのだ。
敵の注意が逸れているのならば自分も少し見るくらいは平気だろう。大樹寺がゆっくりと背後を振り返ると、そこには銃を構えたまま睨み合っているトニーと斧太郎の姿が見えた。
大樹寺は思わず「あっ!」と叫んだ。斧太郎がトニーを牽制しているのだ。もっとも使用しているのは得意の斧ではない。まだ通常の義手だ。そして義手が握っているのは彼の持ち物だと思われる回転式の拳銃であった。いくら凄腕の殺し屋であっても至近距離から銃を近付けられるのは難しいのだろう。悔しげな表情でトニーは斧太郎を睨んでいた。
斧太郎はそれを見て引き金に手を当てた。すぐにでもトニーを射殺するつもりなのだろう。
「ま、待って!」
トニーを射殺しようとする斧太郎に物を申したのは孝太郎でもなければ絵里子でもなかった。なんと雇い主である大樹寺雫本人であった。
「な、なぜです!?」
突然の静止に対して驚きを隠せなかったのは斧太郎であった。目を丸くしながら大樹寺へと問い掛けた。
「……突然止めてしまった悪かったわ。けれど、トニーは私が粛清するからあなたは手を出さないで」
大樹寺は自分の口から自分の意思とは反するような言葉が出てきたことに驚きを隠せなかった。普通に考えればここは斧太郎に任せておくのが自然というものだ。
だが、言葉は自分の意思とは無関係に口から余計な言葉が出ていく。
「ともかく、あなたは手を出さないでちょうだい。私があの男を始末した後でトニーも始末するから」
「わ、分かりました。では、私は牽制の方にーー」
斧太郎がトニーに注意を向けた時だ。自身の目の前から強烈なブーメランが飛んできたことに気が付いた。斧太郎は慌ててブーメランを回避したものの、トニーの接近を防ぐことはできなかった。
トニーは斧太郎を確実に始末できるように右手の掌を大きく広げていた。トニーの魔法である触れたものをタナトスの元へと誘う魔法である。通常であるのならば斧太郎はこのまま死んでしまったに違いなかった。
しかし斧太郎は生きていた。義手を捨て、斧を構えることで斧太郎は自身の魔法を発動させ、それを使って生き延びたのだ。
斧太郎の魔法は斧を使って空間を裂くという魔法であった。斧太郎は自身の目の前にある空を切ることで空間の裂け目を発生させ、その中にトニーの死のパワーを送り込んだのであった。
呆気に取られるトニーに対し、斧太郎は第二の攻撃を喰らわせようと目論んだ。
だが、それは人質にしていたはずの絵里子によって防がれてしまった。
絵里子は自動拳銃を構えながら斧太郎に向かって叫んだ。
「動かないでッ! 動くとあんたのドタマをこれで撃ち抜いてやるからねッ!」
「……『ダーティーハリー』のつもりらしいが、やめときな、お嬢ちゃん。怪我をするぜ」
斧太郎は自らの斧を構えながら絵里子に対して説教じみた言葉を口に出したのである。
「生憎だけれど、『ごっこ』じゃないからッ! あたしは本当の刑事だものッ! これ以上トニーへの攻撃を行うというのならば撃ち殺すわよッ!」
「……警告はしたぜ」
斧太郎は悲しげな顔を浮かべてから、ゆっくりとした足取りで銃を構える絵里子の元へと向かっていく。そして向かう途中で何度も何度も空へと向かって斧を振り上げ、空間の裂け目を生じさせている。もちろんすぐに地上を漂う修正力によって空間は閉じてしまうが、そんなことは問題ではない。絵里子にとっては狙いにくくて仕方がなかったのだ。
絵里子の扱う魔法は再生だ。それに対比的であるかのように斧太郎の魔法は破壊に特化したものであった。
だが、今は面白がっている余裕などない。今ここで斧太郎を射殺しなければ自分の身が危ういのだ。
絵里子は自身の身に危険性を感じ、何度も引き金を引いた。だが、その弾丸は必ずといっていいほど空間の中へと吸い込まれてしまう。
絵里子が凍りついている間に斧太郎は絵里子の元へと辿り着き、その斧を絵里子に対して振り上げようとしていた。
「最後にアドバイスしておくが、これがプロと素人との差だ。刑事といえども人を殺した経験はほとんどないはずと見た。ましてやキミはあまり人に銃を向けたこともなさそうだ。そういう人間は必ずといっていいほど引き金を引くことを躊躇ってしまうものだ」
「そ、そんな……」
「まぁ、先に手を出したのはキミの方だ。悪いが、恨まんでくれたまえよ」
斧太郎の右腕に備え付けられている斧の刃が太陽の光に照らされて怪しく光っていた。この時の斧太郎の心境はといえば江戸時代に罪人を処刑していた世襲制の処刑人、山田浅右衛門の心境そのものといっていい。
というのも、情のある相手ならば同情はしつつも容赦なくその首を刎ね飛ばすという今の自身の心境とあまりにもシンクロしていたからだ。重ね合わせるなという方が無理というものだろう。
そうは思いつつも斧太郎の中にある味噌汁のカスほど僅かに残された良心が心の中で詫びを入れながら目の前で自身を目にして固まっている絵里子に対してその首を跳ね飛ばそうとした時のことだ。
不意に銃声が鳴り響いた。斧太郎が慌てて周りを見渡していると、地面の下に血が滴り落ちていることに気が付いた。
初めは鍾乳洞の鍾乳石から滴り落ちるような水のように小さな量だった。
だが、すぐにそれが夥しい量へと変わり、自身の目の前に赤い色の池を作っていたことに気が付いた。同時に胸に酷い痛みが生じていく。
斧太郎はこの時察した。自身が胸を撃たれたのだ、と。斧太郎が背後を振り返ると、そこには自身が落としたはずの回転式拳銃を握り、こちらに銃口を向けているトニーの姿が見えた。
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