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神と神との決闘編
折原絵里子が弟に執着する理由ーその②
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絵里子が目を覚ましたのはコンクリートが打ちっぱなしになっていた床の上であった。辺りを見渡すと床と同様にコンクリートに覆われた壁と天井が見えた。
突然景色が変わってしまったことに驚いた絵里子は慌てて起き上がろうとしたが、体は釣り上げられたばかりの魚のように上下をバタつくばかりだ。
何が起こったのか理解できず、絵里子が自身の身に起きたことを確認すると、自身の手首と足首の両方に丈夫な麻縄が締め付けられていることに気が付く。
どうやら気絶した自分に対してこの麻縄を使って縛り付けたのだろう。
誰がこんなことをしたのか分からないが、気の毒なものだ。絵里子は口元に笑みを浮かべる。
自分の父親は日本共和国最大の野党自由三つ葉葵党党首の秘書を務めている。
もし自分に何かあれば三つ葉葵の旗印が黙っていない。それに祖父も警察官だ。この両者による働きかけがあればすぐに自分を誘拐した連中など刑務所かもしくは流刑惑星にでも送られるに違いない。
もし自分や弟の身に何かあれば有期の懲役刑ではなく、無期の懲役刑を宣告されるだろう。
絵里子はそうたかを括っていたので、誘拐犯たちを軽く見ていた。
その時だ。それまで闇に包まれていた世界の中に突然自身の両目が眩むほどの眩い光が差し込んできたのである。
闇の中で暮らしていると突然の光に驚くと聞くが、それと同様であった。
絵里子が咄嗟に両目を閉じると、光の向こうからクックッとこちらを嘲笑う声が聞こえてきた。
「誰なの!?」
絵里子は咄嗟に光の向こうにいる相手へと問い掛けた。
光の向こうにいる相手はハゲネズミのような風貌をした男であった。
男は白色のクルタ服と呼ばれるサテン状の服に身を包んでおり、口元には気色の悪い笑みを携えていた。
嫌悪感をそそられるような気色の悪い薄笑いを浮かべた男の周囲には二、三人の部下と思われる男たちが付き従っていたことから男がそれ相応の地位に居るということは想像できた。
ハゲネズミのような気色の悪い笑みを浮かべた男はそのまま絵里子の元へと近付いてくると、地面の上にうつ伏せになっている絵里子の前へとかがみ込み、目線を合わせると気色の悪い声で言った。
「さてと、まずは詫びさせてもらおう。手荒な真似をして申し訳ないね。でも、怖がる必要はないんだよ。危害は加えない。キミは大切な人質なんだからね」
「人質?やっぱりそうだったのね?あたしを誘拐した目的はお金!?」
「お金なんて必要ないよ。我々にはそんなものは不要なんだ」
「我々?あなたたちは一体何なの?」
「我々かい?そうだ、これを機会にキミにも布教しておいておこうかな。我々は宇宙究明学会。少し前に話題になった教団だと言えば分かりやすいかな?」
宇宙究明学会。その悪名高い名前は絵里子の中で覚えていた。
古代エジプト神話において死と復活を司るオシリス神と神の御子イエス・キリストを信奉するカルト教団の名であり、その真意は宇宙の謎を解明することであると聞く。
インターネット上や巷でもその悪名は知られており、噂によれば教祖昌原道明は女癖が悪く、多くの女性信者がその被害に遭っているということや多額の布施を巻き上げられた挙句に信者たちが出家と称して家族の前から姿を消してしまうといった弊害がその悪評の根源ともいえた。
さらに噂の中では現日本共和国政府と伊勢皇国を打倒して自らの国家を打ち立てるという教祖の野望の元でロマノフや日本周辺の共産主義国家から武器を輸入しているという話までもある。
そんな教団がどうして自分や弟を狙うのか絵里子には分からなかった。
絵里子と孝太郎の両親が所属しているのは自由三つ葉葵党である。いうならば野党勢力であり、政治的な権威を持つはずがない。仮に政治家にいうことを効かせるためとして家族を狙うのならば政権与党を担う自由共和党党員たちの家族を狙う方がいいはずだ。
絵里子が理由がわからずに困惑していると、そのことを見透かしたかのように禿頭の男が答えた。
「なぜキミたちを狙ったのかって?答えは簡単だ。我ら教団の考え方は自由共和党の理念とは相反する存在だからだよ。キミだって考えが合わない人と話はできないだろ?それと同じだ。だから野党政権と連立を組みたかったんだ」
目線を合わせてきた男の話によれば野党連立とはいっても昌原が立ち上げる予定の究明党と呼ばれる政党にとっての目的は三つ葉葵にくっ付き、美味い汁を啜ることにあった。
つまり昌原は三つ葉葵の権威を利用して各地に候補者を乱立して国会に自らや或いは自らの息がかかった議員たちを送り込み、美味い汁を啜ることを最大の目標にしていたのである。
だが、自由三つ葉葵党はそんな昌原の浅はかな考えが通じるほど甘くはなかった。
連立の話を持ちかけた川岸という男に対して、徳川党首の秘書を務める孝太郎と絵里子の父親は昌原に上がっている疑惑を取り上げて昌原を手酷く批判した上で川岸を党本部から追い返したのである。
当然川岸からこの報告を聞いた昌原は激怒した。そして報復と脅迫を兼ねて二人を誘拐したのだそうだ。
「もしキミたちの父上からお詫びが来ればキミたちは許してあげよう。ただしキミたちの父上がもし我々の要求を突っぱねたり、逆らって警察を呼んだりすれば……」
男はそこで自らの手で首を掻き切る真似を行う。敢えて「死」や「殺す」という表現を用いなかったのは子どもである絵里子に配慮してのことか、はたまた宇宙究明学会の教義とやらがそうしたマイナスを含んだ表現を用いることを拒否しているのかは分からない。むしろ分かったところで何も変わらない。絵里子にとってはどうでもいいことなのだ。
父親の対応次第では自分が殺されてしまうことは変わらないのだから……。
絵里子は恐怖からか下唇をギュッと噛み締めた。それから自らを監禁しているハゲネズミのような男を睨み付けた。
両目を大きく見開き、瞳に憎悪の炎を宿しながら卑劣な誘拐犯を視線で非難していた。
だが、男は絵里子から真っ直ぐな憎悪を向けられてもなおニヤニヤと笑っていた。絵里子はこれ程までに強い憎悪を向けられても陰湿な笑みを浮かべていられる誘拐犯を見て思わず溜息を吐いた。
それは諦めの感情から生じた溜息であった。
絵里子は勝ちたかった。非難の目を向けられて無言の抗議をされ、相手の男が取り乱す様を見たかったのだ。
恐らく絵里子の目論見は普通の人間であるのならば成功していたに違いない。
だが、男は教祖昌原から与えられた信仰によってのみ生きているような男だ。
絵里子の挑発などに引っ掛かるはずがなかった。
仮に絵里子が自身の口から口汚い言葉や相手の人格を否定するような言葉、そして意味のない罵倒を繰り出したとしても結果は同じだろう。
いや、相手の男は怒らずとも男の護衛を務めている男たちは激昂するに違いない。両手に持っている長銃を絵里子へと突き付け、その引き金を躊躇いもなく自分の額に引くに違いない。
絵里子もそのことは察せられたので先ほどはわざと口には出さなかったのだ。
その愚を今更犯すわけにもいかない。絵里子はもう一度溜息を吐いてから不貞腐れたように床の上で寝転がっていく。
「好きにしなさい。もうどうでもなれって感じよ」
「そういう投げやりな態度はよくないなぁ」
男は落胆するように言った。だが、絵里子は構うことなく男に背中を向けていた。
「困るなぁ、ぼくはきみと仲良くなりたいのなぁ」
「……あたし、お父さんとお母さんから『知らない人と口をきいてはいけない』って言われてたのを思い出したの。だからあなたとはもう喋らない」
「そうか、じゃあぼくの名前を教えよう。新山兼重というんだ。どうだい?これでもう知らない人じゃないだろ?」
兼重は先ほどと同様の気色の悪い笑みを浮かべて言った。
だが、それでも絵里子は兼重に対して背中を向けたままである。兼重の取り巻きは真摯な態度を持って接していた兼重が無下にあしらわれる様を見て激昂したのか、背中を向けている絵里子に対して銃を突き付けようとしたが、肝心の兼重自身がそれを手で静止させたので彼らが駆け寄ることはなかった。
代わりに兼重が絵里子の左肩を掴んで強制的に顔を向けさせたのである。
絵里子は見知らぬ男に自身の体を触られたということで嫌悪感に満ちた顔で兼重を見つめていた。
「ちょっと、何をするのよ!」
「人が話をしようとしているのにそんな態度はないんじゃないかな?」
「話をしたいんだったら人と人が話すように仕向けさせなさいよ!」
「それはできない。昌原会長のご命令できみの縄を外すなと厳命されてるんだ」
「じゃあ、話なんてできないわ!」
「……ところがきみはしたくなるよ。これを見たらね」
兼重は得意げな顔を浮かべて指を鳴らす。同時に背後に控えていた男たちが部屋から立ち去り、どこかへと消えていく。
「何をするつもりなの?」
絵里子は両眉を寄せながら問い掛けた。
「まぁ、見ていなよ」
兼重は相変わらずニヤニヤと笑っている。なんと気色の悪い笑顔だろう。
この世にドブネズミの笑顔ほど気色の悪い笑みはないだろう。そう考えていた時のことだ。
光の向こう側から男たちに連れられた孝太郎の姿が見えた。
「孝ちゃん!」
絵里子が叫ぶ。絵里子の慌てる顔を見た兼重は陰湿な笑みを浮かべて言った。
「どうだい?きみがぼくの話を聞いてくれたら弟くんには手荒な真似はしないんだがな」
兼重の卑劣な策略に対して絵里子は歯を軋ませることしかできなかった。
あとがき
本日は投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。忙しかったのでなかなかログインできず書けなかったのが原因です。
大至急書き上げましたが、どうしてもこの時間帯になってしまいました。
突然景色が変わってしまったことに驚いた絵里子は慌てて起き上がろうとしたが、体は釣り上げられたばかりの魚のように上下をバタつくばかりだ。
何が起こったのか理解できず、絵里子が自身の身に起きたことを確認すると、自身の手首と足首の両方に丈夫な麻縄が締め付けられていることに気が付く。
どうやら気絶した自分に対してこの麻縄を使って縛り付けたのだろう。
誰がこんなことをしたのか分からないが、気の毒なものだ。絵里子は口元に笑みを浮かべる。
自分の父親は日本共和国最大の野党自由三つ葉葵党党首の秘書を務めている。
もし自分に何かあれば三つ葉葵の旗印が黙っていない。それに祖父も警察官だ。この両者による働きかけがあればすぐに自分を誘拐した連中など刑務所かもしくは流刑惑星にでも送られるに違いない。
もし自分や弟の身に何かあれば有期の懲役刑ではなく、無期の懲役刑を宣告されるだろう。
絵里子はそうたかを括っていたので、誘拐犯たちを軽く見ていた。
その時だ。それまで闇に包まれていた世界の中に突然自身の両目が眩むほどの眩い光が差し込んできたのである。
闇の中で暮らしていると突然の光に驚くと聞くが、それと同様であった。
絵里子が咄嗟に両目を閉じると、光の向こうからクックッとこちらを嘲笑う声が聞こえてきた。
「誰なの!?」
絵里子は咄嗟に光の向こうにいる相手へと問い掛けた。
光の向こうにいる相手はハゲネズミのような風貌をした男であった。
男は白色のクルタ服と呼ばれるサテン状の服に身を包んでおり、口元には気色の悪い笑みを携えていた。
嫌悪感をそそられるような気色の悪い薄笑いを浮かべた男の周囲には二、三人の部下と思われる男たちが付き従っていたことから男がそれ相応の地位に居るということは想像できた。
ハゲネズミのような気色の悪い笑みを浮かべた男はそのまま絵里子の元へと近付いてくると、地面の上にうつ伏せになっている絵里子の前へとかがみ込み、目線を合わせると気色の悪い声で言った。
「さてと、まずは詫びさせてもらおう。手荒な真似をして申し訳ないね。でも、怖がる必要はないんだよ。危害は加えない。キミは大切な人質なんだからね」
「人質?やっぱりそうだったのね?あたしを誘拐した目的はお金!?」
「お金なんて必要ないよ。我々にはそんなものは不要なんだ」
「我々?あなたたちは一体何なの?」
「我々かい?そうだ、これを機会にキミにも布教しておいておこうかな。我々は宇宙究明学会。少し前に話題になった教団だと言えば分かりやすいかな?」
宇宙究明学会。その悪名高い名前は絵里子の中で覚えていた。
古代エジプト神話において死と復活を司るオシリス神と神の御子イエス・キリストを信奉するカルト教団の名であり、その真意は宇宙の謎を解明することであると聞く。
インターネット上や巷でもその悪名は知られており、噂によれば教祖昌原道明は女癖が悪く、多くの女性信者がその被害に遭っているということや多額の布施を巻き上げられた挙句に信者たちが出家と称して家族の前から姿を消してしまうといった弊害がその悪評の根源ともいえた。
さらに噂の中では現日本共和国政府と伊勢皇国を打倒して自らの国家を打ち立てるという教祖の野望の元でロマノフや日本周辺の共産主義国家から武器を輸入しているという話までもある。
そんな教団がどうして自分や弟を狙うのか絵里子には分からなかった。
絵里子と孝太郎の両親が所属しているのは自由三つ葉葵党である。いうならば野党勢力であり、政治的な権威を持つはずがない。仮に政治家にいうことを効かせるためとして家族を狙うのならば政権与党を担う自由共和党党員たちの家族を狙う方がいいはずだ。
絵里子が理由がわからずに困惑していると、そのことを見透かしたかのように禿頭の男が答えた。
「なぜキミたちを狙ったのかって?答えは簡単だ。我ら教団の考え方は自由共和党の理念とは相反する存在だからだよ。キミだって考えが合わない人と話はできないだろ?それと同じだ。だから野党政権と連立を組みたかったんだ」
目線を合わせてきた男の話によれば野党連立とはいっても昌原が立ち上げる予定の究明党と呼ばれる政党にとっての目的は三つ葉葵にくっ付き、美味い汁を啜ることにあった。
つまり昌原は三つ葉葵の権威を利用して各地に候補者を乱立して国会に自らや或いは自らの息がかかった議員たちを送り込み、美味い汁を啜ることを最大の目標にしていたのである。
だが、自由三つ葉葵党はそんな昌原の浅はかな考えが通じるほど甘くはなかった。
連立の話を持ちかけた川岸という男に対して、徳川党首の秘書を務める孝太郎と絵里子の父親は昌原に上がっている疑惑を取り上げて昌原を手酷く批判した上で川岸を党本部から追い返したのである。
当然川岸からこの報告を聞いた昌原は激怒した。そして報復と脅迫を兼ねて二人を誘拐したのだそうだ。
「もしキミたちの父上からお詫びが来ればキミたちは許してあげよう。ただしキミたちの父上がもし我々の要求を突っぱねたり、逆らって警察を呼んだりすれば……」
男はそこで自らの手で首を掻き切る真似を行う。敢えて「死」や「殺す」という表現を用いなかったのは子どもである絵里子に配慮してのことか、はたまた宇宙究明学会の教義とやらがそうしたマイナスを含んだ表現を用いることを拒否しているのかは分からない。むしろ分かったところで何も変わらない。絵里子にとってはどうでもいいことなのだ。
父親の対応次第では自分が殺されてしまうことは変わらないのだから……。
絵里子は恐怖からか下唇をギュッと噛み締めた。それから自らを監禁しているハゲネズミのような男を睨み付けた。
両目を大きく見開き、瞳に憎悪の炎を宿しながら卑劣な誘拐犯を視線で非難していた。
だが、男は絵里子から真っ直ぐな憎悪を向けられてもなおニヤニヤと笑っていた。絵里子はこれ程までに強い憎悪を向けられても陰湿な笑みを浮かべていられる誘拐犯を見て思わず溜息を吐いた。
それは諦めの感情から生じた溜息であった。
絵里子は勝ちたかった。非難の目を向けられて無言の抗議をされ、相手の男が取り乱す様を見たかったのだ。
恐らく絵里子の目論見は普通の人間であるのならば成功していたに違いない。
だが、男は教祖昌原から与えられた信仰によってのみ生きているような男だ。
絵里子の挑発などに引っ掛かるはずがなかった。
仮に絵里子が自身の口から口汚い言葉や相手の人格を否定するような言葉、そして意味のない罵倒を繰り出したとしても結果は同じだろう。
いや、相手の男は怒らずとも男の護衛を務めている男たちは激昂するに違いない。両手に持っている長銃を絵里子へと突き付け、その引き金を躊躇いもなく自分の額に引くに違いない。
絵里子もそのことは察せられたので先ほどはわざと口には出さなかったのだ。
その愚を今更犯すわけにもいかない。絵里子はもう一度溜息を吐いてから不貞腐れたように床の上で寝転がっていく。
「好きにしなさい。もうどうでもなれって感じよ」
「そういう投げやりな態度はよくないなぁ」
男は落胆するように言った。だが、絵里子は構うことなく男に背中を向けていた。
「困るなぁ、ぼくはきみと仲良くなりたいのなぁ」
「……あたし、お父さんとお母さんから『知らない人と口をきいてはいけない』って言われてたのを思い出したの。だからあなたとはもう喋らない」
「そうか、じゃあぼくの名前を教えよう。新山兼重というんだ。どうだい?これでもう知らない人じゃないだろ?」
兼重は先ほどと同様の気色の悪い笑みを浮かべて言った。
だが、それでも絵里子は兼重に対して背中を向けたままである。兼重の取り巻きは真摯な態度を持って接していた兼重が無下にあしらわれる様を見て激昂したのか、背中を向けている絵里子に対して銃を突き付けようとしたが、肝心の兼重自身がそれを手で静止させたので彼らが駆け寄ることはなかった。
代わりに兼重が絵里子の左肩を掴んで強制的に顔を向けさせたのである。
絵里子は見知らぬ男に自身の体を触られたということで嫌悪感に満ちた顔で兼重を見つめていた。
「ちょっと、何をするのよ!」
「人が話をしようとしているのにそんな態度はないんじゃないかな?」
「話をしたいんだったら人と人が話すように仕向けさせなさいよ!」
「それはできない。昌原会長のご命令できみの縄を外すなと厳命されてるんだ」
「じゃあ、話なんてできないわ!」
「……ところがきみはしたくなるよ。これを見たらね」
兼重は得意げな顔を浮かべて指を鳴らす。同時に背後に控えていた男たちが部屋から立ち去り、どこかへと消えていく。
「何をするつもりなの?」
絵里子は両眉を寄せながら問い掛けた。
「まぁ、見ていなよ」
兼重は相変わらずニヤニヤと笑っている。なんと気色の悪い笑顔だろう。
この世にドブネズミの笑顔ほど気色の悪い笑みはないだろう。そう考えていた時のことだ。
光の向こう側から男たちに連れられた孝太郎の姿が見えた。
「孝ちゃん!」
絵里子が叫ぶ。絵里子の慌てる顔を見た兼重は陰湿な笑みを浮かべて言った。
「どうだい?きみがぼくの話を聞いてくれたら弟くんには手荒な真似はしないんだがな」
兼重の卑劣な策略に対して絵里子は歯を軋ませることしかできなかった。
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本日は投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。忙しかったのでなかなかログインできず書けなかったのが原因です。
大至急書き上げましたが、どうしてもこの時間帯になってしまいました。
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