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神からの挑戦編

神たちの落とし物

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孝太郎とマリヤは肩を並べながら戦いを続けていたが、それでも力はモグラの姿をした怪物の方が圧倒的に上であった。
モグラの姿をした怪物は自身が二人を力で押しているということを知ると、様子見から一転して二人に向かって大規模な攻勢をかけていた。
そのためか怪物の猛攻は休むことなく続いていた。モグラの怪物は長い剣のような爪が連続で孝太郎へと振り下ろされていく。

マリヤはとっくの昔に爪を喰らってしまい武器ごと弾き飛ばされて地面の上に倒れている。
孝太郎は刀で受け止めながら歯を噛み締めていた。
こうした不利な状況を打開するためにはどうすればいいのだろうか。

孝太郎は頭の中で解決法を見出したが、いくら考えたとしてもその方法は出てこなかった。
すると孝太郎の刀が爪で弾き飛ばされてしまった。咄嗟に片手で拾い上げようとしたのだが、その前にモグラの姿をした怪物が目の前に落ちていた刀を蹴り上げたので刀は地面の上を滑っていく。
孝太郎は悲痛の表情を浮かべた。武器を失ってしまえば目の前の怪物を倒すことは不可能だ。

そのためモグラの怪物の隙間をぬって刀を取りに行こうとしたが、腹部を怪物の肘で蹴り上げられてしまい孝太郎は地面の上へと倒れ込む。
ここでようやくマリヤは目を開けた。薄っすらとした光景が広がっていたが、そこにはモグラの姿をした怪物が孝太郎を一方的に詰っている場面が見えたのだ。

マリヤは慌ててその場で悶絶している孝太郎を助けに向かったが、モグラの怪物が億劫そうに空いていた方の掌を広げると大砲の砲弾のように大きくて破壊力の高そうな光弾を発射したのである。
マリヤはといえば無事に光弾を避けることに成功したのだが、それでもその衝撃で地面の上に倒れてしまったのであった。

「きゃあ!!」

光弾を喰らいかけたマリヤは反射的に悲鳴を上げた。普段ならば絶対に出さないような声だ。
気高き修道女としてあるまじき行為であったがそれでも出さずにはいられなかったのだ。
マリヤは剣を杖の代わりにして立ち上がろうとしたが、よろよろと歩いているモグラの怪物が立ち塞がっていた。

恐る恐る自身の前に空間と距離を無視して現れた怪物を目にしてマリヤは言葉を失ってしまっていた。
普通の人間であるのならば追い詰められれば何かしらの罵倒を相手に向かって放つはずである。ただし余程の聖人君子であれば通常の例には当てはまらない。
マリヤは例外であったのだ。それ故に自分を殺そうとしている相手を目にしても何も言わずにいられたのだ。

気高き聖職者であり、神に自らの身を捧げたと胸を張って言えるからこそ神の使いである怪物を前にして無言でいられたのである。
人によってはこういう覚悟のことを死の覚悟というのかもしれない。
マリヤはその覚悟に相応しいように両目を瞑り、両手を重ね合わせて神への祈りを捧げていく。

怪物はせめてもの慈悲か、それとも彼の主人である神が最後に祈るための時間を与えるという赦しをほどこしたのか、祈りを行うマリヤをその場で黙って見つめていた。
孝太郎はこれを好機と察し、自身の体力を温存するためということと相手に気取られないようにするという二つの目的で地面の上を体で這いながら怪物に蹴り飛ばされてしまった刀の回収に向かう。
なるべく音を立てないように刀を拾い上げると孝太郎は背後からゆっくりとモグラの姿をした怪物の元へと近寄っていく。孝太郎の目的はたった一つ怪物の体を背後から貫くためである。

真後ろから二本足の怪物を貫くということで孝太郎はアーサー王伝説の主役であるアーサー王にでもなったつもりだった。正確にはアーサー王伝説の中に二本足の怪物を貫くという物語はなかったし、孝太郎も頭の中にある冷静な箇所ではそのような突っ込みをしっかりと入れていた。
そのため極度の緊張状態であるにも関わらず、孝太郎は思わず忍び笑いを漏らしていた。

それでも背中が近付いてくるにつれ、笑顔を引っ込めて刀を構えていく。
あと少しだ。あと少しだけ近寄っていけばモグラの怪物の心臓を貫ける。
孝太郎がそのように考えた時のことだ。

それまではマリヤの方だけを見ていた怪物が不意に孝太郎の方を振り向いたかと思うと、孝太郎の腹部にもう一度強烈な蹴りを喰らわせたのである。
鈍い音が響いた後に孝太郎は足をふらつかせながら弱音を吐いた。

「ば、バカな」

「フッ、お前のことに気が付かないとでも思っていたのか?気が付いていてわざと泳がせていたのさ」

モグラの姿をした怪物は流暢な日本語で答えた。空いた方の手で腹部をさする孝太郎を見下ろしながらモグラの姿をした怪物は説明を続けていく。
怪物によれば孝太郎の存在には気が付いていたが、マリヤのお祈りを成功させるため無視していたのだという。
孝太郎が真後ろまで迫った時にようやく行動に出たのは自身の身の危険を感じたこととマリヤが祈りを唱え終えたという二つの理由からだった。

その証拠に遠目から両目を大きく見開いて目の前の孝太郎の惨状が信じられないでいるマリヤの顔が見えた。
マリヤは孝太郎が惨めな姿になっているのが耐えきれなかったのか、修道女ならば絶対に流すはずがない涙を二人しかいないとはいえ公共の面前で流していたのだ。
マリヤはそんな恥を知りつつも涙を流して神に助けを求めた。当然助けを求めたところで何も起こるはずがない。
そう信じ込んでいた時のことだ。孝太郎の身に奇跡が起きたのだ。

突然孝太郎の体が眩いばかりの光へと包み込まれていったのである。
何が起こったのかマリヤにはいいや、神から使いであり、人間を遥かに超えた知能を持つモグラの姿をした怪物であったとしてもこの光のことは理解できなかったのだ。
そのため二人は光が孝太郎の前から消えていくのを待つしかできなかった。

光のカーテンとも呼べる場所から現れた孝太郎は先ほどの孝太郎が身に付けていなかったものを纏っていたのだ。
それは神話の世界にでも出てきそうな黄金で輝く古代ローマ風の鎧であった。
ユリウス・シーザー・カエサルやアウグストゥスといった英雄が身に纏っていそうな華美且つ防御性に優れていそうな鎧だ。
それに合わせて孝太郎が握っていたはずの刀はロングソードになっている。

ただしその剣身は光に包まれていた。
例えるのなりビームサーベルといっていいかもしれない。
ただし持ち手は通常のロングソードに使われるグリップ握りボンメル柄頭、そしてガードである。
光の鎧を纏い、剣を握り締めた孝太郎はゆっくりとモグラの姿をした怪物へと近付いていく。

モグラの姿をした怪物はその姿を見て不利だと感じたのか、後退りをして逃げる姿勢を見せたが、孝太郎はそれを許さなかった。
地面の上を勢いよく飛び上がると、モグラの姿をした怪物の前へと立ち塞がり、その胸部を正面から貫いたのである。
モグラの姿をした怪物は言葉にならないような悲鳴を上げて地面の上へと倒れ込む。

その瞬間に怪物の体は微粒子状の粒子へと変換して消え去っていく。
孝太郎は怪物の姿が消え去っていくのを見届けると、剣を宙の上へと放り投げていく。
すると剣は宙の上へと飛んでいき、やがて宙の上のどこかへと消え去っていく。
孝太郎は満足気な顔を浮かべながらマリヤを見つめていた。

そのマリヤはといえばその姿を見て唖然としていた。これまで手が出せなかったような怪物を相手に孝太郎はほとんど眉一つ動かすことなく、葬り去っていたこともそうだが、何よりも孝太郎の唐突な変化についていけなかったのだ。
それでも必死になって掠れた声を振り絞りながら孝太郎へと問い掛けた。

「孝太郎さん、その力はなんなの?」

マリヤの目の中には不安の色が浮かんでいた。無理もない。突然の変化に怯えるなという方が無理だ。そして孝太郎としてもマリヤに自分の身に起きた変化を答える義務があった。
しかし自分でもどう答えていいのかがわからなかったのだ。今の自分の体に纏わりついている古代ローマ風の鎧に関しては突然不思議な力が降って湧いてきたとしか言いようがない。

怪物を葬るためにビームサーベルのような武器へと変わった自身の刀もなぜ天空に向かって放り投げたのかも覚えてはいなかった。無意識のうちにやっていたのであの時の自分は何者かに操られていたかのようだった。

こんな子ども向けの空想特撮番組でしか見たことがないような或いは子どもが見るような夕方の時間帯に放送されている勧善懲悪モノのアニメ番組に出てくるヒーローが身に付けていそうなものなど孝太郎は無縁の世界だとずっと考えていた。
おまけにあんなにも苦戦していたモグラの姿をした怪物を一瞬で葬り去ってしまったのである。

唐突な出来事ばかりで頭の処理が追いつくはずがなかった。
孝太郎が疲れを感じたのか、肩の力を抜いて地面の上に手を置くと自然と溜息が出てきた。同時に孝太郎が身に纏っていた黄金の鎧が消失していく。

どうやらこの鎧は戦闘が終わるのと同時に消え去ってしまうらしい。
孝太郎は戦闘が終わったことに対する喜びか、はたまたこれからもっと敵を葬り去れるという思いからか、顔に得意気な笑みを浮かべていた。












あとがき
本日は更新がずれ込んでしまい申し訳ありませんでした。
執筆に思ったよりも時間がかかってしまったのと諸要連絡に費やす時間が思ったよりも多く、こちらに取り組めなかったことが執筆を遅らせてしまったのだと思われます。
本当に申し訳ありませんでした。
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