破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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神からの挑戦編

中村孝太郎目覚める!

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「……大樹寺、お前、オレが眠っている間におれに何をしたんだ?」

孝太郎は両目を尖らせながら問い掛けた。その目線は自身の横で自身を覗き込んでいた大樹寺をそのままの勢いで射殺さんばかりに鋭いものであった。
だが、大樹寺は表情一つ変えることなく淡々とした様子で答えた。

「別に何もしてないよ。それどころかあの怪物が襲撃を仕掛けてきた時に倒れた孝太郎さんをここまで運んで、面倒を見てあげたんだよ」

妙に恩着せがましい言い方であった。「むしろそのことに感謝してよ」などと言わなかっただけマシだと捉えるべきなのだろうが、大樹寺のそうした大樹寺の態度が孝太郎の中にあった反骨心を刺激したのだろう。
気が付けば孝太郎は両眉を寄せながらそんな大樹寺を無言で睨み付けていた。

だが、そうした失礼な態度を取られてもなお大樹寺は大袈裟に肩をすくめるばかりで、反論を行おうともしなかった。
孝太郎はそのまま大樹寺が今の状況を甘んじて受け入れているのをいいことに黙って睨み続けていたのだが、

「彼女の言っていることは本当さ」

と、いう言葉を携えて病室に入ってきたトニーによってその態度を和らげざるを得なかった。

トニーの説明によれば大樹寺は襲撃の直後から倒れた孝太郎を病院へと運ばせ、医師に熱心な治療を行うように指示を飛ばしていたのだという。
自身と時に死闘を繰り広げ、時に共闘を行なったトニーの言葉であるならば本物であると信用に値する。

孝太郎は小さく首を縦に動かした。その後は質問責めである。
孝太郎は自身が何日間眠っていたのかということやその間に何が起こったのかを必死に問いかけた。
もちろん、なんの返礼もなく聞けるとは思ってもいなかったので、孝太郎は大樹寺に対して先に自身の非礼を詫び、真摯な態度でもう一度同じ言葉を訴えたのである。

その様子を見たトニーには孝太郎の想いが伝わったらしい。雇い主である大樹寺に向かって何があったのか説明するように言った。
トニーの要望を聞いた大樹寺はしばらく考え込んでいた様子だったが、すぐに思い直したのかいつもと同じような淡々とした口調で答えていく。

大樹寺によれば孝太郎が昏睡していたのは三日という短い期間であったらしい。
だが、その間に孝太郎の姉である折原絵里子とかつての仲間たちが悪徳金融の摘発に際して孝太郎の後任として入ってきた天草英輔という男と揉め事を起こしたり、世界最強の殺し屋であるトニー・クレメンテを自身の専属用心棒として雇うと言った行動を起こしていたのだそうだ。

だが、引っ掛かるのはトニー・クレメンテである。彼は間違っても誰かの専属の用心棒になるなどというような流儀に外れることは絶対にしなかったはずだし、そもそも大樹寺に用心棒が必要だとは思えない。

大樹寺は人を超えた力を持っているし、今後の人類の脅威となるであろう神々からの寵愛も得ているはずだ。
そんな人間に用心棒が必要となるような事態が引き起こされるとはどうしても思えなかったのだ。
この孝太郎の疑念であったが、それに関しては当の二人が答えてくれたので問題はなかった。

「日本国の支配者に……いいや、人を超えた存在であるものに人が立ち向かえると思えるのかい?」

「ミスタークレメンテはそう仰っていられるけど、彼も私たちと同様のオーバーロード超越者だよ。雇った理由はただ一つ私自身が感じた不備を補うためなんだ」

大樹寺はトニーを雇った時に吐いたのと同じ言葉を孝太郎に向かって投げ掛けていく。
孝太郎はその言葉の節から大樹寺が己が無防備な時に備えるために雇ったのだということを察した。
大樹寺といえども眠っている時や入浴中などは気を抜く時もあるだろう。

生身は人間であるが故にその時を狙って拳銃などで狙われてはたまったものではない。
トニーが今この場所にいるのはそうした理由からくるものなのだろう。
抜け目のなさは変わらない。孝太郎は苦笑した。

「それよりも孝太郎さん、そろそろあなたには現場に戻ってもらわないと困るかな」

「天使どもが現れたのか?」

孝太郎の問い掛けを聞いて大樹寺は首を黙って縦に動かす。
大樹寺のいうことを聞くのは癪に障るが、天使たちによって苦しめられている人がいるのは事実なのだ。見て見ぬふりをするわけにはいかない。

孝太郎はそのままベッドから起き上がろうとしたが、その瞬間に自身の体がビリビリと痛み始めていったことに気が付いた。大樹寺が雇った医師の見通しが甘かったのか、まだ体が痛むらしい。
孝太郎が思わず下唇を噛み締めていると、その大樹寺本人が手で起き上がろうとする孝太郎を静止させた。

「無茶はやめなよ、体が痛むんだったら養生に専念した方がいいよ」

大樹寺の言葉を聞くと反骨心のためか余計にその場から起き上がりたくなったが、今度は体の方が脳に対して反感を抱いたらしく、起き上がろうとする孝太郎を痛覚によってその場に留めさせた。
それを見たトニーは溜息を吐いて、

「きみの反骨心は並大抵のものではないらしいな。それはいいことだが、体がいう事を聞かないのならば話は別だ。そこで眠っていたまえ」

と、孝太郎を諌めたのである。宿敵であるトニーにまでそう言われたのでは孝太郎としても聞かないわけにはいくまい。

大人しくその進言に従うことにした。そのため任務の復帰は療養を済ませてからということになった。そして再検査の結果として孝太郎は一週間の療養が必要だという結論を医師から出され、その間はベッドの上からは動けなくなってしまった。

そして無事に療養期間を終え、孝太郎は見事に復帰を果たすことができたのだが、ベッドの上で眠っていたこともあり、初日は上手く動くことができなかった。
この件に関してはマリヤも心配したのか、初手をしくじった孝太郎の元へと駆け寄り、それまでふらついていた彼を介抱していた。

「大丈夫ですか?孝太郎さん?」

「大丈夫だ。すまない。どうも寝ている期間が多いと、こんなに弱ってくるもんなんだな」

「無理をしないでください!今日はこのまま家に帰って休んでください」

マリヤの言葉に嘘偽りはなかった。本心から孝太郎を心配して出た一言であった。
だが、孝太郎は何も言わずに首を横に振って警視庁の剣道場へと向かう。
それから慌てて道着と防具を身に付けたかと思うと、一心不乱に素振りを振り始めていったのである。

だが、病み上がりだということもあり、剣を振るう仕草がなんとも心ない。
フラフラと竹刀を振るっていく姿はマリヤが日本に来る前に研究として見た時代劇に労働を強制されて力のない鍬や鎌を振るう農民たちのようだ。

そんな孝太郎を止めようとしたのだが、孝太郎の鋭い目によって近付くのさえ憚られてしまう。
マリヤは自身の無力さを痛感しながらその姿を心配そうに見つめていた。
心の内ではやりきれない思いを抱えながら、

(今この場にいるのが私ではなく、孝太郎さんの姉である絵里子さんだったら孝太郎さんを止められたのかしら?)

と、この場にいない絵里子の心境を思っていたのである。

だが、絵里子ならば「それは自意識過剰よ、弟は一度言い出した聞かないもの。それは例え私だって同じなのよ」とマリヤに向かって返したに違いない。
いずれにせよ孝太郎が二人の女性から思われているのは違いない。
マリヤが一心不乱に竹刀を振るう姿を心配そうに覗かせていた時のことだ。
突然地面が割れ、もぐらを思わせるような顔をした悍ましい化け物がその姿を現したのである。

モグラの姿をした怪物は地面の下から現れるなり、西洋のサーベルを思わせるような鋭い爪がついた両手を振り上げて孝太郎へと襲い掛かっていく。
先ほどの竹刀を持つ時でさえ両手を震わせていたような今の孝太郎では得物である日本刀を持つことすら難しいだろう。

マリヤは武器保存ウェポンセーブから自身の剣を取り出し、モグラの姿をした怪物に向かって切り掛かっていく。
モグラの姿をした怪物は背後から迫ってきたマリヤの気配に気が付いたのか、両手を使ってマリヤの剣を受け止めた。
五本の指それぞれにサーベルのような細く鋭い爪が付いていることもあり、それらの全てを組み合わせて攻撃を防ぐという荒行を見せ付けたのである。

マリヤの剣と十本の剣にも相当するモグラの爪とが重なり合い、擦りあっていった結果、火花が生じるほどの事態へと発展したが、この場において勝利を収めたのはモグラの姿をした怪物の方であった。
モグラの姿をした怪物は十本以上もある爪を用いてマリヤをその場から跳ね飛ばしたのである。

その場が剣道場で下に訓練用の畳マットを敷いていたのは不幸中の幸いというべきだろう。それでもマリヤは痛みに叫んでしまったし、モグラの姿をした怪物は両手を震わせ、地底に住む穏やかな哺乳類であるはずなのに、その目は獲物を狙う肉食獣のように鋭いものとなっていた。

孝太郎はそんな悍ましい怪物に追い詰められるマリヤの姿を見つつも、自分の体が思ったように動けていないという現状に無性に腹が立って仕方がない。
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