破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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神からの挑戦編

宿敵との対話

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「……まさか、次の警視庁長官がになる人がバプテスト・アナベル教の息がかかっているなんてな。世も末だ」

孝太郎は警視庁の人間全員に宛てて送られた電子メールをスクロールしながら思わず溜息を吐いていた。
孝太郎の吐いた息は恐らく鉛よりも重かったに違いない。重い息が口から出ていくのと同時に不可能犯罪対策課の面々による視線が集まっていく。

孝太郎は全員の視線が集まるのと同時に気まずくなってしまい、顔を伏せた。
すると対策課の部下たちもそれ以上凝視するのは失礼だと感じたのか、各々が仕事へと戻っていく。
孝太郎はこれ幸いとばかりに電子メールの続きを読むため人差し指でメールをスクロールしていった時のことだ。

課と廊下とを繋ぐ自動扉をノックする音が聞こえた。孝太郎が入室を許可すると、そこには制服と制帽で身を固めた見慣れない中年の男性警官二名が立っていた。
二人は入ってくるのと同時に課長椅子の上にいた孝太郎の腕を乱暴に引っ張り、その場から強引に立たせたのである。

突然のことに言葉を詰まらせ、目を白黒とさせている孝太郎の代わりに抗議の言葉を飛ばしたのはマリヤであった。

「な、何をするんですか!?孝太郎さんは今朝飛ばされた電子メールを確認していただけですよ!?断じてサボりなどではありませんッ!」

「わかっておる。そんなことは問題にはしていない」

警察官の一人が明らかな圧を含んだ声で答えた。答える際に非難の目を向けるマリヤを睨みつけることも忘れなかった。
だが、そんなことで怯むようなマリヤではない。マリヤは毅然とした態度のまま男性警察官への抗議を続けていく。

「じゃあ、なんで孝太郎さんの腕を引っ張る必要があるんですか!?」

「上からの命令だ。上がこの男を連れてこいと言っておったのだ」

「上?一体誰です!?」

「貴様に話す必要はないッ!」

高圧的な態度を崩さぬまま警察官の男は叫んだ。それでもマリヤは態度を崩してはいない。
あくまでも鋭い目に憎悪の黒い炎を宿しながら二人の男性警察官を睨みつけていた。
一方で二人の男性警察官も頑なに自分たちへの反抗を止めようとしないマリヤの存在が気に食わなかったに違いない。

露骨な舌打ちを喰らわせ、両眉を寄せながら孝太郎が連れて行かれる理由を嫌味ったらしい口調で解説していく。
マリヤは拳を震わせながら向こう側の一方的な事情ばかりを話す二人の警察官の話を聞いていた。
全ての話を終えた頃マリヤは大きく息を吸い、大きく吐き終えると警察官に向かって告げた。

「……あなたたち前世では碌な死に方をしませんでしたね」

「前世だと?」

片方のうち一人が小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言った。

「馬鹿馬鹿しい。そんなものがあるわけがない」

もう一人も鼻から信じてはいなかったようだ。

だが、マリヤは構うことなく自身が見た前世に関する話を始めていく。

「えぇ、私にはあなたたちの前世が見えるんです。あなたたち二人の前世は江戸時代その悪名を高く轟かせた出須斗露藩に仕えた二人組の侍です」

「で、出須斗露藩だと!?」

二人の声が重なる。明らかな動揺が感じられた。しかしマリヤは二人の声を無視して解説を始めていく。
出須斗露藩は戦国時代に雷陀国によって滅ぼされた塩塚国の伝統を受け継ぐ藩であるとされている。
だが、出須斗露藩は享保年間に一揆の多発によって幕府から責任を問われ、そのまま改易に追い込まれてしまったという。

二人の前世はその出須斗露藩の中でもとりわけ悪名の高い家老蟹山鎧之進かにやまがいのしんとその忠実な家来である鎌崎亀之助かまさきかめのすけであるという。
蟹山と鎌崎の両名出須斗露藩の藩主や領民たちからの支持も厚い同じ家老である結城丈太郎ゆうきじょうたろうに濡れ衣を着せて処刑寸前へと追い込んだのだという。
今の二人と同様に上からの意向を使っての強引な処刑命令である。

二人の判断に領民たちは反発。大規模な一揆を引き起こし、出須斗露藩の没落を招いてしまうことになった。
結果として二人は改易寸前になって藩主より最後の命令として切腹を言い渡されたが、切腹の間際になって二人は泣いて嫌がったのだという。
そこまでのことを語り終えたマリヤに向かって二人は恐れの視線を向けていた。

マリヤは二人への前世を利用しての脅しが十分に効いたものだと判断し、先ほどとは一転して優しい表情を浮かべて孝太郎の引き渡しを要請した。
二人が恐る恐る顔を見合わせていた時のことだ。

「その必要はありませんよ」

と、背後から声が聞こえてきた。その声を聞いた全員の視線が背後へと向いていく。
その場に居合わせた全員の視線を一斉に浴びることになったのは一寸法師をそのまま老けさせたかのような小柄な老人であった。
老人は周りにいた人々に対して一礼を執り行ったかと思うと、腰を大きく曲げて孝太郎の元へと近付いていく。

「さぁ、孝太郎さん参りましょうか」

「ま、参るってどこにですか?」

「私の部屋です。警視庁官室ですよ」

どうやら新しく警視庁官に就任したバプテスト・アナベル教の信徒というのは彼のことであるらしい。
孝太郎は身構えたものの、相手が警視庁の長官であっては逆らうこともできまい。組織というのはそういうものなのだ。
マリヤの抗議も他所に孝太郎は長官の後をついていく。

警視庁の長官というだけのことはあり、どこでも顔と指紋だけで判別されて通れた。そのため孝太郎は警視庁長官の部屋に最短の距離で着けることになった。
広々とした豪華な部屋である。
豪華なデスクに応接セットなど端から見ればどこかの羽振の良い社長の部屋のように見えた。

孝太郎は長官の案内で部屋の中に通されると、長椅子の上に座るように勧められた。
断ろうにも相手は警視庁長官である。断るわけにはいかない。
孝太郎は長椅子の上に腰を掛けていると、警視庁長官が直々にお茶を淹れて現れた。

長官は孝太郎の前にお茶を置くと、向かい側の長椅子に向かってゆっくりと腰を下ろした。
それから改めてまた一礼を行って自己紹介を始めていく。

「初めまして、私は古半田友信こはんだとものぶと申します。先ほどは私の部下が失礼しました。まさかあんなに乱暴な態度を取るとは思いもしませんでしたよ」

古半田によれば孝太郎を迎えにやった部下が戻ってこなかったことに業を煮やして、自らが迎えに行ったのだが、その際にマリヤと迎えにやった男たちの口論が聞こえてきたので、これはいけないと慌てて部屋の中へと侵入したのだという。

「あの場では私が現れる以外に対処する術はなかったでしょう。不快だったかもしれませんが、お許しください」

「そんな、長官のせいではありませんよ。それよりもどうして自分はその場に連れてこられたのでしょうか?」

「実はですね、マイ・マスターがあなた様とお話をしたいと仰られておりまして」

古半田はそういうと懐から小さな黒色の携帯端末を取り出し、人差し指で慌ただしく操作を行うと、呼び出しボタンで相手のホログラフを映し出していく。
この時孝太郎の前に映し出されたホログラフの中に映っていたのは確かに自身の宿命の敵大樹寺雫の姿そのものであった。

「なっ、だ、大樹寺!?」

「久し振りだね、孝太郎さん」

ホログラフの電子によって多少は加工があったものの、確かにそれは大樹寺雫の声そのものであった。
孝太郎は堪らず長椅子の上から立ち上がり、ホログラフを睨み付けた。

「何の用だ?」

「そう釣れないことを言わないでよ。今日は対怪物、対神々のことであなたと話をしたくて呼んだんだから」

「貴様と話すことなどない。それよりも貴様はどこにいる?すぐに追い掛けて、手錠をーー」

「手錠?無理だよ、今の私はこの日本の支配者なんだから」

孝太郎の片眉が動く。動揺する孝太郎を揶揄うようにホログラフの中に現れた大樹寺はクスクスと笑っていた。
大樹寺の言葉が本当ならば警視庁長官にバプテスト・アナベル教の信徒が就任したことも理解できた。
だが、どうして今の状況になってしまったのからわからなかったので、今後のことについて詳しく聞いておく必要があるだろう。
孝太郎は険しい目を向けながらも黙って長椅子の上に戻ることにしたのであった。
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