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神からの挑戦編
あの人は、夢の中へと消えて
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大樹寺雫と六大路美千代の両者による日本共和国における支配者の地位をめぐる激闘は数時間にも及んでいた。
互いの力を込めた剣と刀とがぶつかり合い、その度に辺りには激しい振動や衝撃が生じていく。
もしこの場に二人の戦いを知らぬ者が通り掛かれば小規模な地震が発生したのかと思うほどの揺れであった。
それ程まで二人の戦いは凄まじいものであったのだ。戦いを続けていくうちに周りにあった床のほとんどがヒビ割れ、壁も原型を見ないほどに粉々となったところで六大路は戦いの過程で口の中へと入っていった埃を地面の上に捨てると、憎々しい表情を浮かべて言った。
「……この四百年間、私に成り代わりたいと思う者は日本には……いや、世界を見渡してもいなかった。誰もが私の支配の正当性を認めていた。けれどあなたは違った。私に蘇らせてもらった恩も忘れて、私から正當な権利を奪い取ろうとしている」
大樹寺は六大路の罵聲を聞いてしばらくの間はジッと六大字を睨んでいたが、すぐにテレビ番組に登場する昔ながらのヒーローのような高笑いを出した。
「アハハ、それはそうでしょう?今までの人たちはオーバーロードじゃなかったんだものッ!それに神から使命も與えられていなかったッ!けど、私は違うッ!私は神から使命を與えられた特別な存在ッ!神による侵略を止めるため神から和平を言い渡された平和の使者ッ!それが私ッ!」
大樹寺はひたすら高笑いをして、胸元に手を當てながら勝ち誇ったような笑みを浮かべて叫ぶ。
それから自身を悔しげな目で見つめる六大路を冷笑しながら言った。
「わかるかな?神が私を日本の支配者にするよう望んでいるんだよ」
両親や幼稚園の教諭が幼い子どもにでも言い聞かせるかのような口調は六大路の神経を逆撫でしたらしい。
今度は『魔道六銭』をしっかりと握り締め、その中に紅蓮の炎を包ませながら大樹寺に向かって切り掛かっていく。
ただの炎ではない。六大路が操る炎は不死の山すなわち富士山のマグマと同じものだ。
平安の頃、伝承によれば当時の帝によってかぐや姫と呼ばれていた得体の知れない姫から授かった不死の薬を投げ込み、死ななくなった山のマグマである。
不死の力を用いているだけのことはあり、他の火山には見られないような霊力を感じさせられた。
生きたいという息吹のような力は大樹寺に冷や汗を流させた。
だが、大樹寺とて似たような力が操れないわけがない。
追い込まれていくのと同時に自らの剣の中に神々が使う炎を纏わせていく。
霊力と神通力とではどちらが強いのかは明白である。
あっという間に形勢は逆転し、六大路は追い詰められていく。
六大路は慌てて今度は風の力を纏わせた。六大路の使う風の力は恐らく日本共和国の中に住まうどの魔法師たちが使う風魔法よりも強力な風であったに違いない。
脅威を感じて思わず後退りをしてしまうほどの強い風が大樹寺を吹き付けていく。
大樹寺は慌てて剣の上に纏わせていた炎の魔法を取り消し、今度は自らの剣の上に風魔法を纏わせていく。
先ほどの炎同士の対決から一転して今度は風同士の強力な魔法の吹かし合いともいえるような戦いが始まった。
二人の決闘の場に風魔法を扱う魔法師がいなかったのは不幸中の幸いであったというべきであろう。
というのも、もしこの場に風魔法を扱う魔法師がいて、二人の決闘を目撃していたのならば自信を完全に喪失して立ち上がれなくなってしまっていたからだ。
それ程まで凄まじい風が部屋の中に吹き荒れていた。それまでの勝負による余波を受けてあちらこちらに転がり傷が付いていた家具は風魔法の余波で転がっていくのが見えた。
当然当事者である二人にも強力な風が襲い掛かっていく。二人の肌には刃物のような強力な魔法が襲い掛かり、肌を傷付けていたが、二人が痛さを訴えることはなかった。
ただ、六大路が顔を顰めているのに対して大樹寺は済ました顔をしていた。
やがて六大路は大樹寺の風に耐えきれなくなってしまい、後方へと吹き飛ばされてしまう。
刀を地面の上に落とした六大路は左膝の上から思いっきり地面の上を擦ってしまうことになり、思わず悲鳴を上げてしまった。これまでの人生で一度も上げなかったことである。
「きゃっ!い、痛ッ!」
「痛い?あなたは多くの人を痛め付けていたのに?」
大樹寺は六大路の短くとも自身の痛みを訴えていく悲鳴にも耳を貸すことなく、淡々と言い放った。
手元にはまたしても拳銃が握られている。剣は利き手ではない手に持たれていることから何かあればすぐに拳銃を捨てて、剣で対処するつもりなのだろう。
どこまでも抜け目のない人物である。
六大路は憎々しげに大樹寺を睨むが、大樹寺は容赦なくその頭の上に銃口を突き付けた。
「最期に何か言い残すことはないかな?」
「……ねぇ、詐欺師のお嬢ちゃん。私この戦いが始まる前に別の世界に逃げられるって話はしたわよね?」
「今から逃げようというの?」
「えぇ、その通りよ。私はこの世界から姿を消す。そしてもう二度と戻ってこない。約束するわ」
「信用できないなぁ。よくある昔のラノベでは追放されたヒロインが邪悪の王子やらドラゴンやらを引き連れて復讐に来るし」
「そんなことしないわ。第一私の魔力があればその世界を手に入れることができるもの。今更こんな世界に未練なんてないわ」
大樹寺はその言葉を聞いても疑わしげに六大路を見下ろしていたが、当の本人は媚びるような目で大樹寺に懇願していく。
「お願い!私の命を助けて!引き換えに私の地位と財産を全てあなたに譲歩するわッ!」
大樹寺はそれを聞くとしばらくは顎の下に人差し指をあてて考え込む様子を見せていたが、すぐに思い直したのか、黙って六大路の頭に銃口を突き付けた。
「でも、ダメ。あなたの財産も地位も貰うけど、命も貰うつもりでここに来たんだから。今更許すわけには行かないかな」
「だと思った」
六大路はここに来て初めて口角を上げた。ずっと泣き喚くのだとばかり思っていた大樹寺は訳がわからず首を傾げたが、その瞬間に六大路は大樹寺の足を自らの足で薙ぎ払ったのである。
その瞬間六大路の体が眩いばかりの光で包まれていく。大樹寺は慌てて六大路へと拳銃を構えたが、次の瞬間には六大路の姿が消えていた。
おそらくどこか別の世界へと旅立ったのだろう。自分には敵わないと確信して別の世界へと旅立ったのだろう。
こうして六大路の消えた今財産と地位をひいては日本という国そのものを手に入れたことになるのだが、かつての支配者であった六大路美千代の死体がなかったことを理由にかつての部下たちは六大路の生存を信じて疑わなかった。
大樹寺は新たに支配者として君臨するにあたり、こうしたかつての部下たちを説得するのに苦労することとなった。
そのため大樹寺はバプテスト・アナベル教に六大路の部下たちを勧誘することになったのだが、一般大衆とは異なり、高度な教育を受けてきた人種であり、説得するのには苦労していた。
その日も大樹寺は一日を使って説得にあたり、疲弊して自身の部屋に戻ってきたところであった。
「お帰りなさいませ、マイ・マスター。相当にお疲れなようですね」
「そりゃあ、疲れるよ。あいつらの説得があんなにも大変だなんて」
大樹寺は肩をほぐしながら新たに自身の側近へと選ばれた若い男に向かって愚痴を吐き捨てる。
それから男の用意したお茶を啜り、一日の中に設けられた僅かな休憩時間を楽しんでいく。
今は別の世界へと旅立った六大路の影響力はあまりにも大きい。日本そのものを支配するにはまだ時間が掛かりそうだ。
大樹寺は苦笑しながらお茶を味わう。それは北海道に居た頃同じように飲んでいたお茶よりも苦く感じられた。
互いの力を込めた剣と刀とがぶつかり合い、その度に辺りには激しい振動や衝撃が生じていく。
もしこの場に二人の戦いを知らぬ者が通り掛かれば小規模な地震が発生したのかと思うほどの揺れであった。
それ程まで二人の戦いは凄まじいものであったのだ。戦いを続けていくうちに周りにあった床のほとんどがヒビ割れ、壁も原型を見ないほどに粉々となったところで六大路は戦いの過程で口の中へと入っていった埃を地面の上に捨てると、憎々しい表情を浮かべて言った。
「……この四百年間、私に成り代わりたいと思う者は日本には……いや、世界を見渡してもいなかった。誰もが私の支配の正当性を認めていた。けれどあなたは違った。私に蘇らせてもらった恩も忘れて、私から正當な権利を奪い取ろうとしている」
大樹寺は六大路の罵聲を聞いてしばらくの間はジッと六大字を睨んでいたが、すぐにテレビ番組に登場する昔ながらのヒーローのような高笑いを出した。
「アハハ、それはそうでしょう?今までの人たちはオーバーロードじゃなかったんだものッ!それに神から使命も與えられていなかったッ!けど、私は違うッ!私は神から使命を與えられた特別な存在ッ!神による侵略を止めるため神から和平を言い渡された平和の使者ッ!それが私ッ!」
大樹寺はひたすら高笑いをして、胸元に手を當てながら勝ち誇ったような笑みを浮かべて叫ぶ。
それから自身を悔しげな目で見つめる六大路を冷笑しながら言った。
「わかるかな?神が私を日本の支配者にするよう望んでいるんだよ」
両親や幼稚園の教諭が幼い子どもにでも言い聞かせるかのような口調は六大路の神経を逆撫でしたらしい。
今度は『魔道六銭』をしっかりと握り締め、その中に紅蓮の炎を包ませながら大樹寺に向かって切り掛かっていく。
ただの炎ではない。六大路が操る炎は不死の山すなわち富士山のマグマと同じものだ。
平安の頃、伝承によれば当時の帝によってかぐや姫と呼ばれていた得体の知れない姫から授かった不死の薬を投げ込み、死ななくなった山のマグマである。
不死の力を用いているだけのことはあり、他の火山には見られないような霊力を感じさせられた。
生きたいという息吹のような力は大樹寺に冷や汗を流させた。
だが、大樹寺とて似たような力が操れないわけがない。
追い込まれていくのと同時に自らの剣の中に神々が使う炎を纏わせていく。
霊力と神通力とではどちらが強いのかは明白である。
あっという間に形勢は逆転し、六大路は追い詰められていく。
六大路は慌てて今度は風の力を纏わせた。六大路の使う風の力は恐らく日本共和国の中に住まうどの魔法師たちが使う風魔法よりも強力な風であったに違いない。
脅威を感じて思わず後退りをしてしまうほどの強い風が大樹寺を吹き付けていく。
大樹寺は慌てて剣の上に纏わせていた炎の魔法を取り消し、今度は自らの剣の上に風魔法を纏わせていく。
先ほどの炎同士の対決から一転して今度は風同士の強力な魔法の吹かし合いともいえるような戦いが始まった。
二人の決闘の場に風魔法を扱う魔法師がいなかったのは不幸中の幸いであったというべきであろう。
というのも、もしこの場に風魔法を扱う魔法師がいて、二人の決闘を目撃していたのならば自信を完全に喪失して立ち上がれなくなってしまっていたからだ。
それ程まで凄まじい風が部屋の中に吹き荒れていた。それまでの勝負による余波を受けてあちらこちらに転がり傷が付いていた家具は風魔法の余波で転がっていくのが見えた。
当然当事者である二人にも強力な風が襲い掛かっていく。二人の肌には刃物のような強力な魔法が襲い掛かり、肌を傷付けていたが、二人が痛さを訴えることはなかった。
ただ、六大路が顔を顰めているのに対して大樹寺は済ました顔をしていた。
やがて六大路は大樹寺の風に耐えきれなくなってしまい、後方へと吹き飛ばされてしまう。
刀を地面の上に落とした六大路は左膝の上から思いっきり地面の上を擦ってしまうことになり、思わず悲鳴を上げてしまった。これまでの人生で一度も上げなかったことである。
「きゃっ!い、痛ッ!」
「痛い?あなたは多くの人を痛め付けていたのに?」
大樹寺は六大路の短くとも自身の痛みを訴えていく悲鳴にも耳を貸すことなく、淡々と言い放った。
手元にはまたしても拳銃が握られている。剣は利き手ではない手に持たれていることから何かあればすぐに拳銃を捨てて、剣で対処するつもりなのだろう。
どこまでも抜け目のない人物である。
六大路は憎々しげに大樹寺を睨むが、大樹寺は容赦なくその頭の上に銃口を突き付けた。
「最期に何か言い残すことはないかな?」
「……ねぇ、詐欺師のお嬢ちゃん。私この戦いが始まる前に別の世界に逃げられるって話はしたわよね?」
「今から逃げようというの?」
「えぇ、その通りよ。私はこの世界から姿を消す。そしてもう二度と戻ってこない。約束するわ」
「信用できないなぁ。よくある昔のラノベでは追放されたヒロインが邪悪の王子やらドラゴンやらを引き連れて復讐に来るし」
「そんなことしないわ。第一私の魔力があればその世界を手に入れることができるもの。今更こんな世界に未練なんてないわ」
大樹寺はその言葉を聞いても疑わしげに六大路を見下ろしていたが、当の本人は媚びるような目で大樹寺に懇願していく。
「お願い!私の命を助けて!引き換えに私の地位と財産を全てあなたに譲歩するわッ!」
大樹寺はそれを聞くとしばらくは顎の下に人差し指をあてて考え込む様子を見せていたが、すぐに思い直したのか、黙って六大路の頭に銃口を突き付けた。
「でも、ダメ。あなたの財産も地位も貰うけど、命も貰うつもりでここに来たんだから。今更許すわけには行かないかな」
「だと思った」
六大路はここに来て初めて口角を上げた。ずっと泣き喚くのだとばかり思っていた大樹寺は訳がわからず首を傾げたが、その瞬間に六大路は大樹寺の足を自らの足で薙ぎ払ったのである。
その瞬間六大路の体が眩いばかりの光で包まれていく。大樹寺は慌てて六大路へと拳銃を構えたが、次の瞬間には六大路の姿が消えていた。
おそらくどこか別の世界へと旅立ったのだろう。自分には敵わないと確信して別の世界へと旅立ったのだろう。
こうして六大路の消えた今財産と地位をひいては日本という国そのものを手に入れたことになるのだが、かつての支配者であった六大路美千代の死体がなかったことを理由にかつての部下たちは六大路の生存を信じて疑わなかった。
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そのため大樹寺はバプテスト・アナベル教に六大路の部下たちを勧誘することになったのだが、一般大衆とは異なり、高度な教育を受けてきた人種であり、説得するのには苦労していた。
その日も大樹寺は一日を使って説得にあたり、疲弊して自身の部屋に戻ってきたところであった。
「お帰りなさいませ、マイ・マスター。相当にお疲れなようですね」
「そりゃあ、疲れるよ。あいつらの説得があんなにも大変だなんて」
大樹寺は肩をほぐしながら新たに自身の側近へと選ばれた若い男に向かって愚痴を吐き捨てる。
それから男の用意したお茶を啜り、一日の中に設けられた僅かな休憩時間を楽しんでいく。
今は別の世界へと旅立った六大路の影響力はあまりにも大きい。日本そのものを支配するにはまだ時間が掛かりそうだ。
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