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神からの挑戦編

日本国の支配者は再び世に現れた

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「じゃあ、大樹寺も私たちと同様にオーバーロード超越者だというんですか!?」

夕方の警視庁。休憩用のベンチに腰を掛けていたマリヤは堪らなくなってベンチから腰を上げ、両目を大きく見開きながら先ほど買った紙コップ入りのコーヒーを握り締めたまま孝太郎に向かって確認の言葉を問い掛けたのであった。

「間違いない。大樹寺の魔法は人形を扱う魔法だ。瞬間移動魔法など扱ったことはない」

孝太郎は断言する。警察官として市民の安全を守るためこれまで大樹寺や大樹寺が率いる教団と数多くの戦いを繰り広げてきたが、大樹寺が瞬間移動魔法などを用いたことはなかった。
つまり、彼女はロシアに逃げている時にその魔法を用いたことになるが、瞬間移動魔法は武器保存ウェポンセーブのように簡単に扱える魔法ではない。

簡単な魔法以外人間が取得できるのは一種類だけのはずなのだ。
それが魔法師として目覚めた人類に課せられた枷のようなものでもあった。
それを超えたのならばオーバーロード超越者でなければ説明が付かないのだ。

孝太郎の推論を聞いたマリヤはしばらくの間、自動販売機で購入した白い紙コップの中に入ったコーヒーに力を込めていた。
ふと、孝太郎が目をやると、紙コップの中にマリヤの赤いマニキュアのついた爪が食い込んでいるのが見えた。
マリヤにとっても大樹寺は因縁のある相手。何か思い詰めることがあるのだろう。
だが、すぐに顔を上げて孝太郎へと向き直る。

「……大樹寺は今どこにいるんです?」

低い。だが、それでいてはっきりとした声であった。
孝太郎は声からマリヤからの確固たる意思のようなものを感じられた。
マリヤの意思というものは同じオーバーロード超越者として大樹寺を必ず止めなくてはならないというものだ。
孝太郎は首を縦に動かし、なんとしてでも自分たちが大樹寺を止めなくてはなるまいと決意したのであった。

孝太郎はその日のうちに警視庁の警視総監室に直訴を行い、『ゴリアテ』を纏った警官たちを率いて大樹寺雫の拿捕を進言した。
通常であるのならば面会などすることができない相手とも面会を行えたことから多くの不可能犯罪を突き止め、その犯人たる神の使いを倒している孝太郎の言葉は大きなものとなっていた。

ましてや少し前には神を名乗る恐ろしい集団による侵攻を塞いだ功績もあるのだ。無視などできるはずがない。それに中村孝太郎警視とバプテストアナベル教の因縁は何度も報告書などを読んで理解指定。

しかし、孝太郎の進言に対しての警視総監からの言葉はハッキリとノーを突き付けたのである。
曖昧な態度で濁してもよかったのだが、警視総監は敢えてそうした態度を取ることはなかった。

というのも、敢えてそうしたどっちつかずの態度を取れば孝太郎は期待を寄せるに違いないからだ。
下手に期待を与えればその分失望させることになるからだ。

いくら多くの功績を立てた名刑事だとしても、また人類を救った救世主だとしても警察組織の中においてそんな勝手なことが罷り通るはずがない。
そうした説得を聞いた孝太郎は警視総監に頭を下げて、

「申し訳ありません。少し冷静さを欠いておりました」

と、自身の非礼を詫びて警視総監の部屋を後にしたのであった。

そうした事情もあって、どこか沈痛な顔を浮かべながら警視総監の部屋を後にした孝太郎に対してマリヤは結果を尋ねたが、孝太郎は残念そうに首を横に振るより他になかった。























大樹寺雫は帰還演説を終えた後、日本政府に対する確固たる反逆の意思を示し、ロシアの手を借りてバプテスト・アナベル教による宗教国家の建設をここに宣言したのである。
支配者であるのならば当然このまま強い酒に酔いたいところだ。ロシアと繋がりがあるのならば当然ウオッカに手を出すべきだろう。

しかし、大樹寺はあくまでも未成年。飲酒を行ってはならないのだ。
大樹寺は自分の中で自分をそう律していた。それにいくら革命家の要素を持ち合わせているといっても宗教指導者が酒を煽るのはよくない。タバコや葉巻も同じだ。

大樹寺は一人でそんな己の抱える矛盾にクスクスと笑いながら自身の部屋に備え付けられた湯沸器とティーパックを用いてお茶を淹れていく。
24世紀になってもなおこの21世紀における不便な慣習は廃れることはないらしい。

大樹寺は紅茶を啜り、目の前にディスプレイを表示させて読書に励んでいく。
いわゆる電子書籍である。電子書籍もまた21世紀の人が発明した偉大な発明品であったといってもいい。
これがあることで場所も気にせず本も読めるのだから。

スクロールバーをめくりながら西洋宗教がいかにして世界の人々に影響を与えたのかという箇所を読んでいた時だ。
ふと、背後に気配を感じて慌てて振り返っていく。すると、そこには自身を転生させたあの白いワンピースを纏った女性が立っていた。

相変わらずの美しさだ。大樹寺が思わずその絵画の中に出てくるような美女の美しさに見惚れていると、大樹寺はまたクスクスと笑いながら言った。

「あら、ダメよ。おさわりは厳禁なの」

大樹寺は不満げに両頬を膨らませていた。
だが、あくまでも彼女は自分のペースを崩そうとしない。余裕を含ませた笑みを浮かべながら大樹寺よりも有利な立場に立ちながら会話を続けていくのであった。

「ねぇ、雫ちゃん。あなたロシアと手を結んで何をするつもりなのかしら?」

「何って、その……」

思わず口をどもらせる大樹寺に対して彼女はクスクスと笑いながら先手を打ったのであった。

「わかってるわよ。国取りでしょ?この国日本を私の手から奪い取りたい。それがあなたの本音ね」

大樹寺は自身の胸が激しく慟哭していくのを実感した。
バクバクと激しい音が耳のうちに聞こえる。本来であるのならばこの後は自分だけにしか聞こえないはずなのだが、動揺のせいか、目の前にいる女性にも聞こえているような気がしてきた。

目の前の女性はそんな大樹寺の思惑を悟ったかのように両頬を優しく摩っていく。
それから耳元で恋人に囁くように優しい声で言った。

「まぁ、子供だしね。そうした身の程知らずな野望を持つのもわかるわ。でも、ダメよ。それは日本の支配者である六大路美千代が許さない」

六大路は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。ここまで彼女が声を低くしたことなどはなかった。
だが、言葉を言い終わる頃には大樹寺の頭は恐怖の感情でいっぱいになっていた。
足も震えていたし、両肩はまるで接着剤で固まったかのようにガチガチとして動かない。

しばらくの間は彫刻のように硬直していると、いつの間にか六大路美千代の姿が自分の前から消えていることがわかった。
恐らく彼女も自分や孝太郎と同じオーバーロード超越者であったのだろう。

大樹寺は彼女が今回警告のために訪れたことを悟った。
だが、ロシアの手前もある。今更計画を中止できるわけもない。
大樹寺は落ち着かない様子で紅茶を啜るしかできなかった。
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