破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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神との接触編

オーバーロードは今覚醒する

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「このクソッタレがァァァァァ~!!!」

小田切刑事は絶叫しながら日本刀を片手にカラスの姿をした怪物に向かって襲い掛かっていく。
下手をすれば周囲の家の住人を起こしかねないような大きな声であったが、それでも怪物の注目を集めるのにはこうして絶叫するより他になかったのだ。
例え周囲の安眠を妨害することになろうとも今の自分は刑事として正しいことをしたはずだ。

小田切はそう自分に言い聞かせながら乱暴にカラスの姿をした怪物に刀を振っていく。
怪物は刀を寸前のところで交わし、上空へと上がると、今度は小田切に狙いを定めたらしい。
鎌の先端が月光の光に照らされ、怪しい光を帯びていた。白閃が迸り、小田切の体は細切れにされるはずであった。

孝太郎が命をかけて防いだのだ。孝太郎は仲が悪いはずの小田切を命懸けで庇い、カラスの怪物に向かって刀を振り下ろしていくのである。
カラスの怪物は気色の笑い声を上げながら再び上空へと戻っていく。

小田切刑事は自身を庇った孝太郎を不思議そうな目で見つめていた。

「おい、お前は何でオレを助けた?オレに散々あんなことを言われたっていうのに」

「決まっているでしょう。オレが警察官だからです。警察官として守るべき人がいれば命懸けでその人を守る。それが警察官としての責務です。相手が誰であろうと自分はそれを実行するだけ……小田切刑事、それはあなたも同じでしょう?」

小田切は先ほど自分が無意識のうちに孝太郎を助けるために動いた理由が分かった気がした。小田切が動いたのは警察官としての責務からである。
護衛の刑事として孝太郎を守るために刀を振ったのだ。この理由ならば先に動いた理由も納得がいった。
小田切は口元に笑みを浮かべながら、孝太郎に背中を預け、自身の目の前に剣を構えた。小田切の持つ日本刀の切っ先は目の前から迫ってくるであろうカラスの怪物を真っ直ぐに捉えている。

それは孝太郎も同じだ。背中を預け、カラスの怪物が迫ってくれば愛刀で真っ直ぐに叩き斬る準備ができていた。
昭和時代に放映されていた有名な時代劇があるが、孝太郎はその主人公の台詞を叫びたい気持ちであった。
その元になった作品というのは表向きは医者でありながらも悪党を見つければ傘に仕込んだ刀でバッサバッサと叩き斬っていくという人気の作品だ。

24世紀においてもその時代劇はフィルム状態が良かったことから何度も繰り返し再放送がされている。
映っている役者はすでに全員この世にいないが、それでもラストのシーンを観ているだけで胸が空くような思いがするのだ。

今の孝太郎はすっかりとその主人公の気持ちであった。更に孝太郎の思いをその気にさせたのはカラスの怪物が目の前から迫り、孝太郎を食べようとした時だろう。
その際に孝太郎の日本刀の穂先がカラスの羽根を掠めたのだ。黒い翼がボサボサと落ちていき、黒い大きな羽飾りが落ちているかのようであった。

カラスの怪物は自身の一部が刀の刃先で削ぎ落とされたことがよほど不快だったのだろう。
気色の悪い声をあげて、二本の足で地面の上に降り立ち、メチャクチャに鎌を振るっていく。
孝太郎と小田切はめちゃくちゃに振るわれていく鎌を刀で防ぎ、その勢いのままカラスの怪物を突こうと試みた。

カラスの怪物も頭は回るのか、体を逸らすことで切っ先が自身の体に直撃することを防ぎ、地面の上を転がっていく。
それから距離をとったところでもう一度起き上がり、鎌を構えた後で大きなくちばしを広げて、口から火炎弾を吐き出す。

孝太郎は刀を左手に持ち替え、右手に宿る自身の魔法を用いて火炎弾を封殺していく。
自身のものばかりではない。小田切の元へと飛んでいく火炎弾をも追加で防いだ。
小田切は鼻を鳴らしながら、

「ふん、借りておくぜ」

と、告げたのである。

もっともきついのは言葉だけである。その顔にはまんざらでもないような表情が浮かんでいた。
自身の攻撃が思っていたよりも通じないことからカラスの怪物は怒ってしまったらしい。気色の悪い声をあげながら孝太郎の元へと降下していく。
しかも今度はくちばしを開いて火炎弾を吐き出す準備をしながら鎌を構えている。二段重ねの攻撃を仕掛けるつもりでいるのだ。

孝太郎はカラスの怪物の次の行動を察すると、小田切の手を握ると黙ってその場を飛び上がり、自分たちへの攻撃のために降下しているカラスの怪物に対して逆に切り掛かっていくのである。

カラスの怪物は慌てて体を捻り、刀の穂先が自身の体を突き刺すという最悪の事態だけは回避することができたようである。

だが、体を掠められ、小では済まないようなダメージを与えられたのは確かである。
カラスの怪物は奇声を上げて、空中の上へと戻っていく。
どの作戦も失敗したということで、カラスの怪物は敵わないと悟ったのだろう。

空中の上で固まったまま降りてこようとしない。孝太郎はこの時カラスの怪物が苦虫を噛み潰しているかのような表情をしていることを悟った。
無論真夜中であるため姿は見えない。夜は漆黒の闇が支配するというルールは原始時代から24世紀まで変わらない原則なのだ。

だが、それでも大体の表情を読み取ることはできる。孝太郎は顔に勝ち誇ったような表情を浮かべていた。
しかし、そんな余裕もここまでであった。カラスの怪物は奥の手を使ったのだろう。

自身の羽根を硬化し、地上に向かって発射したのである。ナイフのような刃物が雨の代わりに降り注いでくるのだからたまったものではないだろう。
孝太郎は小田切を庇い、体の上に倒れると、そのまま右手を上空に向けて降り注ぐ刃物のような羽根が少しでも少なくなるように仕向けたのである。

だが、刃物のような羽根は無常にも孝太郎の右手をすり抜け、孝太郎の体を突き刺していくのであった。
耐えきれなくなったものの、孝太郎はそれでも警察官としての意地で小田切を庇っていた。

攻撃が止んだ時、小田切は慌てて孝太郎を抱き起こしたが、孝太郎の息はもはや虫の息であった。
三年前石川葵にそのナイフを突き立てられた時など比較にはならないようなダメージを体に負っていたのである。
あまりにも無情だ。あまりにも酷すぎる。ここで、この青年の人生は終わってしまうのだろうか。

小田切の顔が絶望の色に染まった時だ。孝太郎の体が白く輝いていく。
それは見たこともないような眩い光であった。小田切は堪らなくなって両目を閉じた。

やがて光が止み、小田切が恐る恐る目を開くと、そこには古代ローマの指揮官が身に付けるような模様付きの鎧を身に付け、この世のものとは思えない純白の翼を体に生やした中村孝太郎の姿が見えた。

小田切は知らなかったが、これこそがオーバーロード超越者としての覚醒した姿であったのだ。
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