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神との接触編

魔女は再び現れる

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孝太郎はもう迷わなかった。躊躇うことなく、勢いよく椅子の上から立ち上がり、自分の頭の中に語りかける声に向かって答えた。

「オレは契約しよう。そして、オーバーロード超越者というだけで襲われる人たちを助けたい。警察官としてな」

孝太郎の決意の言葉が発せられるのと同時に孝太郎の体の中へと見知らぬ光が差し込んできたことに気がつく。
違和感があったのは一瞬のこと。すぐに光と体は一体となり、孝太郎に妙な統一感を与えた。

試しに拳を握り、開いていく。違和感はない。今度は武器保存ウェポンセーブから光線銃を用意し、試しに握ってみる。いくら動かしたとしても安全装置を掛けているから誤射の危険性はない。
孝太郎はいつもより銃が自然のうちに自分の手のうちに馴染んでいることに気が付いた。

孝太郎はすぐに光線銃を武器保存ウェポンセーブの中へと戻し、自分が普通の人間とは異なるということを改めて実感させられた。
孝太郎は大きく溜息を吐いてから無性に煙草が吸いたくなり、煙草が入った箱へと手を伸ばす。

いつもならば震えていないはずの手がひどく震えていた。やはり、人とは異なる存在になってしまったという恐ろしさが孝太郎の不安を煽っていたのだろうか。
孝太郎はいつもよりも多く震えている手で煙草を人差し指と中指の間に挟み、ライターに火をつけ、一服を行う。

大きく息を吸って、煙草を吸い込むのと同時に気管支の中に煙草の味が染み込む。絶妙なうまさだ。
ある程度味わってから、孝太郎は煙草を離し、白い煙を部屋の中に吐き出す。
白い煙が一時だけ、部屋いっぱいに吐き出されていくが、24世紀の技術により白い煙は一瞬のうちに下宿の外へと吐き出されてしまった。

孝太郎はその何気ない仕草を取る間にも様々なことを考えていた。

オーバーロード超越者を狙って、今後も天使たちは襲撃を繰り返してくるだろう。その理由がいまだにわからない。
どんなことがあってオーバーロード超越者を襲うのだろうか。
人間を超えた存在を襲うというのならば、一昔前人類が全員魔法師になった時代を狙うのではないだろうか。
それとも、魔法はまだ人類の扱う範疇の間であるが、オーバーロード超越者は許容範囲外だというのだろうか。

孝太郎はこのとき三本目の煙草を口に咥えていたが、結論は浮かび上がらなかった。
孝太郎が塾の講師に問題をいくら解説されても理解できない生徒のように頭を抱えていた時だ。部屋の扉の向こうから怪しげな気配がし、孝太郎は護身のために武器保存ウェポンセーブから回転式拳銃を取り出す。

この時、緊張のためか、孝太郎の感覚はいつも以上に鋭くなっていた。今ならば扉の向こうにいる相手の大まかな人物像すら頭の中である程度は推測できるかもしれない。そんな状況にありながら孝太郎は扉の向こうの相手に問い掛けた。

「誰だ?」

「私の名前ですか?そうですね。石川葵いしかわあおいとでも言っておこうかしら?」

孝太郎はその名前を聞いた途端に胸が高鳴った。咄嗟に叫び声さえ上げたくなった。自分が警察官でなければ、いや、現場の警察官として、多くの戦闘経験を積んでいなければとっくの昔に叫び声を上げて、恐怖で我を忘れていたに違いない。

石川葵。その名前を忘れるはずがない。三年前に日本全国を賑わせた宇宙救命学会の幹部にして、教祖昌原道明まさはらどうめいの懐刀として、多くの作戦に従事し、自分や警察を翻弄し続けてきた女だ。そればかりではない。かつては自身の命さえ奪っていた。
運良く植物状態から帰還しなければどうなっていただろうか。

頭の中に過るのは恐怖に彩られた記憶ばかりである。だが、あくまでも孝太郎は負の感情を押し殺し、冷静な声で扉の向こうに拳銃を突き付けながら要件を問い掛けた。

「……それで、三年前に死んだはずの女がオレに何の用だ?」

「何の用だとは心外ね。せっかく、あの世から蘇生したから会い来てあげたっていうのにサ」

1980年代のギャルを思わせるかのような口調で扉の向こうの石川葵と思われる女は答えた。

「会いにいくのならば、オレよりも昌原の方だろ?」

孝太郎は皮肉たっぷりに言い返したが、その返答はとっくの昔に昌原に愛想を尽かしてしまっていた石川の神経を逆撫でしてしまうことになったらしい。向こう側から執拗に扉を蹴り続ける音が聞こえてきた。
そればかりではない。刃物を持っているのか、刃物で執拗に扉を傷付ける音さえも聞こえてきたのだ。
只事ではない。身の危険を感じた孝太郎は手元の携帯端末を操作し、即座に夜勤の警察官に連絡を入れた。

24世紀の警察は21世紀までの警察とは比較にならないらしい。即座にとは言わなくても、孝太郎が予想していたよりも早い時間にサイレンの音が孝太郎の下宿先にまで届いた。
サイレンの音が鳴り響くのと同時に、扉の向こうの人物は舌を打ち、部屋の前から去っていく音が聞こえた。

警察官としてはこのまま追いかけるというのが正しいのだろうが、ここは身の安全を確保するのが優先だ。加えて、扉を開いて、鼠が鼠取りにかかったと言わんばかりに罠に嵌ってしまうのも癪だった。

孝太郎は取り出した回転式の拳銃に安全装置をかけ、机の上に置いて、応援の警察官たちが現れるのを待った。
応援に現れたのは今年になって警察学校を卒業したばかりだという若い二人組の警察官であった。

二人は目を輝かせながら孝太郎を見つめて、

「あなたが中村孝太郎さんですよね!多くの難事件を解決に導き、活躍を残したという」

「オレたち警察学校に在学していた頃からずっと孝太郎さんに憧れていたんです!」

と、自分たちの思いをストレートにぶつけたのであった。

孝太郎は後輩二人が自分に憧れてくることを純粋に嬉しく感じるのと同時に役得だと考えた。
この二人ならば面倒臭いことを言わなくてもいいだろう。
案の定そうだった。孝太郎は警察署に連れて行かれることもなく、自身の部屋の一室で丁寧な取り調べを受けることになった。
二人には天使のことなど信じないであろうから、ある程度のことはぼかした内容を語っていく。

孝太郎は家の中で考えことをしていると、かつて死亡した石川葵の名前を名乗る不審者に襲撃を受け、その名前に恐怖を覚え、咄嗟に通報したのだ、と語っていく。
孝太郎の説明を聞いた二人はそのことをディスプレイの調書スペースに人差し指を使って書き記し、満足気な笑顔を浮かべてその場を去った。

後輩二人には悪いが、面倒を避けるにはこれが一番なのだ。
孝太郎は二人を見送ってから、新しい煙草に火を付けた。何も考えずに思いっきり吸い込んだためか、先程よりも美味しく感じられた。
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