57 / 109
神との接触編
天使たちの襲撃
しおりを挟む
マリヤと怪物はしばらく互いの武器の隙間から睨み合っていたが、やがて、怪物が力任せにマリヤを武器ごと押し上げると、形勢は逆転した。
怪物はマリヤへと飛び掛かり、真上から爪を振り上げていく。マリヤは体を転がせることで怪物の爪を交わしたものの、それは怪物に組み伏せられ、甚振られてしまうという隙を与えてしまった。
マリヤは凶悪な犯罪者が握る凶器のような鋭い爪を懸命に交わすものの、怪物は楽しんでいるかのような顔で爪を地面の下へと振り上げていく。
マリヤの惨状を見かねたのは孝太郎だった。孝太郎は武器保存から鋭利な日本刀を取り出し、怪物の背後から斬りかかっていく。
だが、怪物はその翼を使ってあっさりと真横から繰り出された斬撃を回避し、孝太郎の背後へと回り込む。
孝太郎は咄嗟に背後へと振り返ったのだが、怪物は容赦のない蹴りを喰らわせたのだった。
孝太郎は悲鳴を上げて地面の上を転がる。怪物はそれを見て、不気味な口元を吊り上げていく。
それを側から見て、恐怖に震えたのは聡子だった。聡子は怪物が勝利を確信したという事実に恐怖していた。
正直に言えば怖かった。聡子としてはここまで『蛇に睨まれた蛙』という諺を意識したことはない。このまま震えていたかった。初めてお化け屋敷に入った幼い恋人たちのように震えていれば全て済んだのかもしれなかった。
だが、聡子はトマホーク・コープと激しい決戦を繰り広げた日の夜のことを思い返し、孝太郎への恋心を思い返すことで自らを縛る恐怖という名の鎖を断ち切ったのだった。
聡子は武器保存から日本刀を取り出すと、唸り声を上げながら怪物に向かって斬りかかっていく。
そんな聡子を嘲笑うかのように怪物は見かけによらない機敏な動きを見せ、聡子の剣をあっさりと交わし、回し蹴りを喰らわせた。咄嗟の攻撃であったので、聡子は避けることができずに地面の上へと転倒してしまった。
孝太郎はその姿を見て、怒りに手を震わせ、そのまま握っていた刀に強い力を込め、握り直して両手で構えると、聡子に執拗なまでの攻撃を加えようとする怪物を視界に入れ、その背後から斬り伏せようと試みていた。
その時だ。孝太郎の中に潜む殺意を感じたのか、怪物がゆっくりと振り返り、爪を振り上げて孝太郎に向かっていく。
仲間たちの悲鳴が轟く。孝太郎は半ば無意識のうちに刀を構えて怪物の攻撃を防いだが、この世のものではない爪というものは予想よりも重いものであるらしい。刀を使って塞ぐ孝太郎の両足に負担がのしかかっていく。
孝太郎が冷や汗をかいていた時だ。脳裏に怪物と思われる真冬の洞窟の中に生えている氷柱よりも低い声が聞こえてきた。
(諦めろ、所詮お前はここで死ぬ運命にある。それは神の望むところでもあるのだ)
(死ぬ運命?それに神の望むところだと?)
孝太郎は心の中で叫んだ。口に出して人々に妙な混乱を巻き起こさなかっただけ、孝太郎は優秀な刑事として褒められるべきだろう。
孝太郎はあくまでも刀で鉛よりも重い物質を防いでいるという体で苦痛に溢れた表情を演出しながら目の前の怪物に向かって問い掛けた。
(それはどういうことだ?)
(そのままの意味だ。お前は本来ならば死んでいたのだ。三年前にな)
怪物の語る言葉は衝撃的なものだった。孝太郎は本来であったのならば三年前に死亡していたという運命であったらしく、それが植物状態という形で生きながらえていたのは神が見逃していたというだけに過ぎないのだという。
しかし、孝太郎は昏睡状態の中でとある世界へと旅立っていた。それが本来の彼の運命を捻じ曲げた。
昏睡状態の中、孝太郎は“地球の先住民”たちの支配する国『ドリームランド』へと連れて行かれ、そこで“地球の先住民”たちからとある力を授けられたのだ。
(力だと?オレがどんな力を身に付けたというんだ?)
孝太郎の問い掛けに怪物は淡々とした調子で答えた。
(簡単に言えば超越者としての力だ。お前は気が付いていないが、超越者としては相応し過ぎる力をお前は身に付けている)
(そ、そんなバカな!?)
孝太郎は動揺し、刀を滑らせてしまった。怪物はその隙を逃さなかった。凶器のような爪を真上から振り上げ、孝太郎の命を狙う。
(こ、ここまでかッ!)
孝太郎が死を覚悟して両目を閉じたものの、その直後に聞こえたのはヒュッと凶器が風を切る音ではなく、金属と金属とがぶつかり合う音であった。
孝太郎が恐る恐る両目を開くと、そこには仕込み剣を構えて怪物の攻撃を防ぐマリヤの姿が見えた。
「やめろ、マリヤッ!」
孝太郎は大きな声でマリヤを叱り付けたものの、マリヤは退こうとしない。
それどころか溺れた者が運良く流れてきた枯れ木にでもしがみつくかのように必死になって、怪物の爪を防いでいた。
しばらくの間、両者は互いに武器越しに睨み合っていたが、やがて怪物が意味深な笑みを浮かべると、事態は急転した。
怪物は一旦、マリヤから爪を離すと、今度は両手で何度も何度も爪を剣に向かって振り上げていく。まるで、そのままマリヤの剣そのものを破壊したいかのようだ。孝太郎はその考えに至った時に怪物の意図を知った。
怪物は武器を破壊することでマリヤを丸裸にする目論見なのだろう。
武器を奪われれば対処する術はない。それはかつて自分の祖先が徳川家康の策略によって城を守るための堀を埋められてしまったのと同じだった。
大阪城はその卑劣なる企みによって落城し、大阪に住む民衆たちは徳川家康の軍隊によって虐殺されてしまったのだ。
徳川軍は大阪の市民たちに銃口を向け、その背中から撃ったのだ。
それも逃げ惑う無抵抗の庶民を。
後年天草島原の乱においても徳川家光から派遣された松平信綱は内通していた絵師を残して女子供まで皆殺しにしたというのだから徳川軍の残虐性というのは生まれついてものだろう。
ここまできて孝太郎の考えの中には少しばかり偏った点があることに気が付いただろう。これまでお首にも出さなかった豊臣家の子孫故の誤った考えが……。
だが、これは彼の幼い頃からの価値観によって形成されたものであり、従来の歴史観に触れられなかった故の悲劇だというべきだろう。
孝太郎は少しばかり偏った考えを抱いたまま妙なことを考えていた。
後年、徳川家康は自分のことを神だと称していたが、仮にも司教としてこれまで神に対して長年仕えてきたマリヤを痛めつける神と同じようなものだ思えば納得がいく。
孝太郎は怒りに身と声の両方を震わせながら、
「やめろッ!」
と、叫んで怪物に向かってもう一度斬りかかっていく。
怪物はマリヤへと飛び掛かり、真上から爪を振り上げていく。マリヤは体を転がせることで怪物の爪を交わしたものの、それは怪物に組み伏せられ、甚振られてしまうという隙を与えてしまった。
マリヤは凶悪な犯罪者が握る凶器のような鋭い爪を懸命に交わすものの、怪物は楽しんでいるかのような顔で爪を地面の下へと振り上げていく。
マリヤの惨状を見かねたのは孝太郎だった。孝太郎は武器保存から鋭利な日本刀を取り出し、怪物の背後から斬りかかっていく。
だが、怪物はその翼を使ってあっさりと真横から繰り出された斬撃を回避し、孝太郎の背後へと回り込む。
孝太郎は咄嗟に背後へと振り返ったのだが、怪物は容赦のない蹴りを喰らわせたのだった。
孝太郎は悲鳴を上げて地面の上を転がる。怪物はそれを見て、不気味な口元を吊り上げていく。
それを側から見て、恐怖に震えたのは聡子だった。聡子は怪物が勝利を確信したという事実に恐怖していた。
正直に言えば怖かった。聡子としてはここまで『蛇に睨まれた蛙』という諺を意識したことはない。このまま震えていたかった。初めてお化け屋敷に入った幼い恋人たちのように震えていれば全て済んだのかもしれなかった。
だが、聡子はトマホーク・コープと激しい決戦を繰り広げた日の夜のことを思い返し、孝太郎への恋心を思い返すことで自らを縛る恐怖という名の鎖を断ち切ったのだった。
聡子は武器保存から日本刀を取り出すと、唸り声を上げながら怪物に向かって斬りかかっていく。
そんな聡子を嘲笑うかのように怪物は見かけによらない機敏な動きを見せ、聡子の剣をあっさりと交わし、回し蹴りを喰らわせた。咄嗟の攻撃であったので、聡子は避けることができずに地面の上へと転倒してしまった。
孝太郎はその姿を見て、怒りに手を震わせ、そのまま握っていた刀に強い力を込め、握り直して両手で構えると、聡子に執拗なまでの攻撃を加えようとする怪物を視界に入れ、その背後から斬り伏せようと試みていた。
その時だ。孝太郎の中に潜む殺意を感じたのか、怪物がゆっくりと振り返り、爪を振り上げて孝太郎に向かっていく。
仲間たちの悲鳴が轟く。孝太郎は半ば無意識のうちに刀を構えて怪物の攻撃を防いだが、この世のものではない爪というものは予想よりも重いものであるらしい。刀を使って塞ぐ孝太郎の両足に負担がのしかかっていく。
孝太郎が冷や汗をかいていた時だ。脳裏に怪物と思われる真冬の洞窟の中に生えている氷柱よりも低い声が聞こえてきた。
(諦めろ、所詮お前はここで死ぬ運命にある。それは神の望むところでもあるのだ)
(死ぬ運命?それに神の望むところだと?)
孝太郎は心の中で叫んだ。口に出して人々に妙な混乱を巻き起こさなかっただけ、孝太郎は優秀な刑事として褒められるべきだろう。
孝太郎はあくまでも刀で鉛よりも重い物質を防いでいるという体で苦痛に溢れた表情を演出しながら目の前の怪物に向かって問い掛けた。
(それはどういうことだ?)
(そのままの意味だ。お前は本来ならば死んでいたのだ。三年前にな)
怪物の語る言葉は衝撃的なものだった。孝太郎は本来であったのならば三年前に死亡していたという運命であったらしく、それが植物状態という形で生きながらえていたのは神が見逃していたというだけに過ぎないのだという。
しかし、孝太郎は昏睡状態の中でとある世界へと旅立っていた。それが本来の彼の運命を捻じ曲げた。
昏睡状態の中、孝太郎は“地球の先住民”たちの支配する国『ドリームランド』へと連れて行かれ、そこで“地球の先住民”たちからとある力を授けられたのだ。
(力だと?オレがどんな力を身に付けたというんだ?)
孝太郎の問い掛けに怪物は淡々とした調子で答えた。
(簡単に言えば超越者としての力だ。お前は気が付いていないが、超越者としては相応し過ぎる力をお前は身に付けている)
(そ、そんなバカな!?)
孝太郎は動揺し、刀を滑らせてしまった。怪物はその隙を逃さなかった。凶器のような爪を真上から振り上げ、孝太郎の命を狙う。
(こ、ここまでかッ!)
孝太郎が死を覚悟して両目を閉じたものの、その直後に聞こえたのはヒュッと凶器が風を切る音ではなく、金属と金属とがぶつかり合う音であった。
孝太郎が恐る恐る両目を開くと、そこには仕込み剣を構えて怪物の攻撃を防ぐマリヤの姿が見えた。
「やめろ、マリヤッ!」
孝太郎は大きな声でマリヤを叱り付けたものの、マリヤは退こうとしない。
それどころか溺れた者が運良く流れてきた枯れ木にでもしがみつくかのように必死になって、怪物の爪を防いでいた。
しばらくの間、両者は互いに武器越しに睨み合っていたが、やがて怪物が意味深な笑みを浮かべると、事態は急転した。
怪物は一旦、マリヤから爪を離すと、今度は両手で何度も何度も爪を剣に向かって振り上げていく。まるで、そのままマリヤの剣そのものを破壊したいかのようだ。孝太郎はその考えに至った時に怪物の意図を知った。
怪物は武器を破壊することでマリヤを丸裸にする目論見なのだろう。
武器を奪われれば対処する術はない。それはかつて自分の祖先が徳川家康の策略によって城を守るための堀を埋められてしまったのと同じだった。
大阪城はその卑劣なる企みによって落城し、大阪に住む民衆たちは徳川家康の軍隊によって虐殺されてしまったのだ。
徳川軍は大阪の市民たちに銃口を向け、その背中から撃ったのだ。
それも逃げ惑う無抵抗の庶民を。
後年天草島原の乱においても徳川家光から派遣された松平信綱は内通していた絵師を残して女子供まで皆殺しにしたというのだから徳川軍の残虐性というのは生まれついてものだろう。
ここまできて孝太郎の考えの中には少しばかり偏った点があることに気が付いただろう。これまでお首にも出さなかった豊臣家の子孫故の誤った考えが……。
だが、これは彼の幼い頃からの価値観によって形成されたものであり、従来の歴史観に触れられなかった故の悲劇だというべきだろう。
孝太郎は少しばかり偏った考えを抱いたまま妙なことを考えていた。
後年、徳川家康は自分のことを神だと称していたが、仮にも司教としてこれまで神に対して長年仕えてきたマリヤを痛めつける神と同じようなものだ思えば納得がいく。
孝太郎は怒りに身と声の両方を震わせながら、
「やめろッ!」
と、叫んで怪物に向かってもう一度斬りかかっていく。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる