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豊臣家士族会議編

風魔一族最後の日!

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だが、小太郎が絵里子の元へと飛び掛かろうとした瞬間に、自分の首元にハッキリとして、それでいて冷たい感触が襲った事に気が付く。
「な、ば、ばかな!?」
「この距離だと死ぬよ。命が惜しいのならば、ここで引く事ね」
小太郎はレーザーガンの銃口の前にすっかりと怖気付き、地面の上に落ちてしまう。
「あなたも随分とその魔法や力で楽しんだみたいだけれども、もうこれ以上はあたしや弟や……いいえ、警察が許さないよ!」
「警察?警察だとォォォ~!!」
小太郎はその一言に激昂して、自身の真上に鋼鉄の糸を作り出し、その糸を剣状にして束ねていく。
その剣となった糸は絵里子へと降り掛かっていく。
以前の絵里子であるのならば、ここで孝太郎に助けを求めただろう。
だが、あの明美の説得により、彼女はすっかりと自信を付けていた。
今更、そんな事には動じたりはしない。第一、この程度の敵くらい倒せなくてはこれから先に行われる天使の手からどうして、孝太郎を弟を守ろうというのだ。
絵里子は小太郎の懐へと飛び付くと、そのヒールの踵を小太郎の顔に激突させる。
額にヒールの踵が刺さった小太郎に取れば目の前からいきなりナイフを突き刺されたにも等しい感覚である。
小太郎は額を抑えて再び地面の上を転がっていく。
「このクソアマがァァァァァ~!!!犬のくせにッ!竹部の靴を舐める汚らしい飼い犬の分際でオレの顔に傷をォォォォォ~!!!」
「よく言うね、あなただって北条首相の犬じゃあないの?」
図星を突かれたのか、小太郎はその場で押し黙ってしまう。が、往生際悪く、忍刀を持って絵里子の元へとそれを築き上げていく。
絵里子は額に擦り傷くらいは負うだろうと思っていた。しかし、目の前の女性は飄々とした顔を浮かべて、自身の忍刀を避けて、それを交わしていく。
そればかりか、そのまま小太郎の背後へと回り込み、その腕を捻って、その腕を掴むと、手錠を掛けていく。
その鮮やかなやり口に孝太郎も目を見張るばかりである。
「すげぇな、姉貴、どこでそんなやり方を学んだんだ?」
「エヘヘ、警察の拘束訓練で学んだんだ。あなたが眠っている間に受けた講習でね」
絵里子は可愛らしくウィンクをすると、そのまま拘束した小太郎を弟の前に引き摺り出す。
「さて、こいつをどうする?」
「決まっているだろ?こいつの背後にいる北条首相の事を吐かせて、こいつらの身勝手な殺人を全て自白させるのさ」
小太郎は二人の会話を聞く間に鋭い目を向けていたが、やがて、舌を打つと、そのまま歯と歯を噛み合わせようとした。
だが、その前に孝太郎がその口の中に拳を突っ込む。
ホゴホゴと小太郎が蠢く声が聞こえた。悔しそうに口元を動かす小太郎に向かって、孝太郎は冷静な声で告げた。
「忍びは最後に全ての事情がバレる前に自らの命を絶つというからな、大方、昔のスパイ小説のように奥歯にでも毒を仕込んでいるじゃあないかと思って、オレの拳をあんたに食ってもらったよ」
小太郎はそのまま悔しそうに口を動かしていたが、こうなってしまっては元も子もあるまい。小太郎はそのまま孝太郎の拳を加えたまま、豊臣家士族会議に集まった護衛たちの手により、拿捕される事になった。
黒服の男によると、背後関係を吐かせた後に地元の警察の手に引き渡すらしい。
姉こそ途中で出て行ったものの、会議そのものは姉抜きで進んだらしく、本家のそれも、孝太郎の境遇に同情的な人間の一人が孝太郎に極秘裏に動いた会議の結論を教えてくれた。
「この会議の結論としては今後は徳川家に取り入りつつも、どこかの隙を利用して、徳川家の転覆を目論むという従来通りの結論を導き出したそうだが、いつもと違う点としてはある事実があってな……」
本家の人間は一人、彼の耳元で声を潜ませて結論を教える。
「なんですって!?現在の徳川家党首が今や余命幾許もない!?」
「その通り、しかも、高齢のために口元を動かす事もできんらしい。その状況にありながら、徳川家内で後継者と推す有能な人物は三人……なぁ、何処かで聞いた事がないか?」
「……清洲会議ですね?」
孝太郎の問い掛けに男は黙って頷く。
「つまり、徳川家の内紛に乗じて、徳川家内に大きな亀裂を入れるのが目的だと?」
「左様、我々、豊臣家は大坂の陣の折に家康の手で秀頼公を討たれて、早くも700年の年月が経とうとしておる。これは秀頼公の時代からの悲願ぞ」
「……確かに、本家の人間にとってはそれは悲願にも相応しい事なのでしょう。ですが、オレや姉貴には関係のない事だ。その裏側の争いに我々を巻き込まないでください」
孝太郎はそれだけを言うと、頭を下げてその場から背中を向けて去っていく。
振り返る事もしない孝太郎の態度に男は少しばかり怒りの感情を抱いたが、やがて、鼻を一度鳴らすと、そのまま本家の人間の集まる場所へと戻っていく。
入れ違う形で絵里子が孝太郎の元へと向かう。
それと同時に無事を祝い合ってお互いに抱き合っていく。
「姉貴!」
「孝ちゃん!!」
夢中になって抱き合う姿は姉弟や上司と部下の間柄というよりは近しい恋人のように見えた。
いや、あろう事か、絵里子が孝太郎の腕に自分の手を回し、キスの体勢にまで持っていったのだから、もはや、親愛のスキンシップを大きく逸脱していたと言えるだろう。
そのまま絵里子の唇が孝太郎の唇と重なり合わさろうとした時だ。
「待て、今何をしようとしていた」
「……叔父様」
絵里子と孝太郎の前に瓢箪の家紋の入った黒色の紋服を着た白い髭を生やしたハゲネズミのような風貌の男が姿を表す。
大叔父にして、現党首に一番近い男ともいわれる木下紋吉郎きのしたもんきちろうである。
彼は先祖譲りの六本の指が生えた右手の掌を利用して、孝太郎の頬を強く叩いていく。
孝太郎は頬を抑えながら、地面の下にうずくまる。だが、何も言わずに大叔父を睨んでいた。
「この無礼者がッ!たかだか護衛の分際で恐れ多くも士族会議に連ねる人物を抱くなど……恥を知れッ!」
続いて、杖で孝太郎を叩こうとする紋吉郎を絵里子は必死で懇願し、弟を最愛の人が痛ぶられる事を防いだ。
「すまんな、姉貴……」
そう、弱々しい声で懇願する孝太郎を絵里子は優しく抱き締めた。
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