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豊臣家士族会議編

方広寺への道

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あの後は女将の進言により、警察が呼ばれる事になった。お昼に夜の通報者と同じ姉弟により、松田なる男を挙げたばかりの警察署であったので、少し辟易としていたらしい。
だが、不満そうな顔を浮かべながらも、警察署は双子の忍者を検挙し、それぞれに話を聞いていく。
話を全て終える頃にはすっかりと、鶏が鳴く時刻となっていた。
その証拠に警察署を出るのと同時に、朝日が二人の姉弟を照らしていく。
長い夜の戦いを終えた二人にとっては自分達を照らす太陽の光はさながら祝福のスポットライトであった。
だが、それに納得できぬ人物がいる。執事の雲山である。彼は見えないところで煙草を吸いながら、二人の近い距離を警戒していたのだ。
(やはり、この二人……)
後々の事は知らぬ。だが、この時点では雲山が二人に抱いた感情は単なる勘違いでしかない。雲山は自身の煙草の先がチリチリと落ちている事に気がつく。
どうやら、相当の時間が経過していたらしい。
雲山は残った煙草を吸い終えると、それを足で潰して拾い、警察署の外のゴミ箱へと捨てに向かう。
こんな物はゴミ回収ロボにでも回収させればいいのだが、自ら入れにいくという選択肢が存在するのは300年間もの間、変わっていないらしい。
つまり、幾ら機械が人間の生活の中に浸透したとしても、人力という手は常に残されているのだ。
そういう事に愛着がある人がいるのが、人間の世なのだろうか。
雲山には理解できない世界である。機械ロボットが駐車場の上を掃除し終わるのと同時に、いちゃいちゃとしていた二人に声を掛けにいく。
いきなり声をかけられた二人は驚いたらしいが、すぐに平然とした顔を浮かべて雲山と向き合う。
雲山がビッグ・オオサカ行きへと行くことを告げると、二人は乗ってきた高級車へと乗り込む。
ビッグ・オオサカに向かう間に雲山は背後でひっつき虫のように付きながら、刺客を警戒していたのだが、爆撃も爆煙も起こる事がなかった。勿論、忍びの類が襲撃する事も。
ビッグ・オオサカには夕方の時刻に到着し、二人はビジネスホテルに泊まる事になった。無論、3人が同じ部屋、或いは姉弟が同じ部屋だというわけではない。
それぞれが別の部屋である。雲山はホテルの部屋に用意された大きな寝台の上に大の字になって寝転ぶと、そのまま欠伸を出しながら両目を閉じていく。
翌朝、起き上がると、彼の目の前には黒色の忍びの装束を着た男が立っていた。
そればかりではない。彼は背中に大きな忍刀を背負っている。
雲山は異空間の武器庫から慌てて散弾銃を取ろうとしたが、それよりも前に男は忍刀を背中から取り出し、有無を言わす事なく雲山の喉を貫く。
途端に血飛沫が大きく噴射され、彼の黒の装束を紅色へと染め上げていく。
男はそれを見届けると、一瞥する事なく天井へと這い上がっていく。
その後、雲山の死体はチェックアウトの時間になっても降りてこない彼の事を心配したスタッフの手により発覚した。
直ちにビッグ・オオサカの警察が呼ばれて、雲山の死体が検分された。
雲山の死因は喉元を鋭利な刃物で貫かれた事であると断定された際には普段から刀を使用する孝太郎が疑われたが、孝太郎の刀には雲山の血痕が出なかった事から彼は白となった。
絵里子も疑われたものの、凶器が発見されなかった事から白となった。
無論、大阪の警察とて一番の容疑者をそのまま釈放するわけにはいかない。
自白を促そうと躍起になり、尾行をつけたりもしていたのだが、それもホテルの近くの喫茶店の店員の証言により無に返してしまう。
というのも、死亡推定時刻には二人はこっそりと抜け出して、喫茶店でお茶をしていたのだという。
大阪の刑事たちは地団駄を踏んだという。とりわけ、悔しがったのはシリウスの事件の際に仲間を亡くした刑事たちだ。
時を巡る聖杯の欠片を取り合う戦いの中で、自分の仲間は死んだというのに、あの男だけが生き残り、そのシリウスを知らない場所で倒したというのが悔しかったのだ。
それ以来、彼は仲間の手柄を横取りした狡い奴だと断定していたのだ。
その日の夜、彼が居酒屋で一人寂しく酒をあおっていると、彼の隣に黒のスーツに白のワイシャツを着た、それでいて、ネクタイを巻いていない男と出会う。
男は酒をあおっていた刑事に酒を奢ると、彼の愚痴聞きに付き合う。
彼も調子が良くなり、溜め込んでいた愚痴を吐き出すのと同時に、奢ってくれた男へと向き直る。
奢った男は口元の端を綻ばせると、待っていましたと言わんばかりに自身の考えを述べていく。
「よかったら、お前の嫌う中村孝太郎を始末する方法を教えてやろうか?」
「な、なんだと!?それは本当か!?」
「あぁ、おれと手を組んで、あの男を地獄に叩き落としてやろうではないか」
男の話す計画とは方広寺にて護衛の任を預かる中村孝太郎を待ち伏せして、殺すというものである。
実に単純明快な作戦ではあるが、安酒に酔い、気分の高揚した男にとってはこれ以上ないほどの繊細でいて尚且つ知的な計画に思えたのだ。
「よし!乗った!あの男を地獄に落とせるのなら、タダでも喜んでやってやるぜ!」
すっかりと気を良くした男はスーツの男が奢った酒の入ったジョッキを浮かべて乾杯の音頭をとる。
それに男も自身の盃を重ね合わせて、心地の良い音を取らせる。
一方で、孝太郎と絵里子はそんな陰謀が張り巡らされているとも知らずに、方広寺前に集まり、その会議に参加していた。
姉弟といえども、そこは身分が違うので、参加者と護衛との間に分かれていた。
孝太郎は姉を、そして豊臣の一族を守るため、方広寺の庭にて刺客がいないのかを探索していた。
もっとも、単なる見張りではない。孝太郎も刀を腰に下げて周りを警戒していた。
無論、見張りは一人ではない。大物が集まるこの会議においては多くの参加者が護衛を引き連れて来ているので、多くのとりわけ、黒服を着た男が銃を下げて周りを歩いている。
このまま安泰かと思ったのだが、そうではなかったらしい。孝太郎は突然、背後から声が聞こえたので振り向く。
すると、そこには拳銃を構えた緑色のコートを着た男。
「よぅ、中村刑事……おれの事は覚えているか?」
「覚えていないと言ったらどうする?」
孝太郎は刀を抜きながら尋ね返す。
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