上 下
43 / 112
豊臣家士族会議編

襲撃の道

しおりを挟む
「姉貴、待ったか?」
孝太郎は本家から借りた高級車をマンションのエントランスの前に停めると、旅行用の鞄を掲げて現れた姉に向かって言った。
絵里子が片手を使って引く鞄は小さなタイヤの付いたキャリーケースであった。
赤く輝くキャリーケースが姉らしく、それでいて姉が着ている白色の清楚なワンピースに白色のコートという服装を引き立てているようで、孝太郎にはその組み合わせがとても魅力的な選択に思えた。
「ううん、ありがとうね。孝ちゃんこそ、その車を取りにわざわざ大阪まで行ってくれて」
「気にするなって、姉貴を無事に運ぶためなら、どんな物でも取ってくるっての」
孝太郎は胸をポンと軽く叩くと、絵里子のキャリーケースを持って車のトランクの中へと詰め込む。
それから、絵里子に対し、令嬢をエスコートする執事のように丁寧に助手席へと導き、姉が助手席に深く腰を掛けるのと同時に扉を閉め、自身も運転席に乗り込む。
白籠市内では珍しい高級車であったので、最初は多くの人がその目を見張っていたが、市内を出てバイパスへと出るのと同時に車の往来が激しくなり、通行人が居なくなり、車も人の目をひかなくなっていく。
絵里子は落ち着いたのを見計らって、運転席の孝太郎に向かって声を掛けた。
「ねぇ、孝ちゃん。あたしたち、休んでもよかったのかな?ほら、例の天使の騒動もそうだけれど、二日前にも白籠市内で昔の忍者装束を着た男が死んだというニュースがあったでしょ?」
「あぁ、確かに、その事件についての捜査があるって聡子や明美が言ってたな」
「うん、二人に事件を任せっぱなしでよかったのかなって思って」
絵里子は気まずそうに視線を落とす。その目は何処となく悲しそうだ。姉の性格だから、他の仲間たちに任せっぱなしにする事に罪悪感を感じて、その針で心臓や頭をチクチクと刺されているのだろうか。
孝太郎はそれに対する言葉が思い付かない。上手い慰めの言葉をいくら頭の深層にある倉庫を探り出したとしても見当たらないのだ。
そんな事をしていると、サービスセンターが見えてきた。孝太郎はタイヤの付いた地上車と呼ばれる種類の車を寄せて、姉の手を取って姉を地面の上に下ろす。
その様は側から見れば、お嬢様と執事に見えたに違いない。
というのも、引率する孝太郎の服装が茶色のスーツにコートという執事じみたものであったからだ。
孝太郎は車の扉を閉めると、姉の手を取り、姉をサービスセンターのカフェスペースへと連れて行く。
孝太郎は姉に注文を聞くと、カフェスペースの券売機にそれを買いに向かう。
その時であった。不意に孝太郎の肩を叩いたのは。
「よぉ、久し振りだなぁ、孝太郎」
「松田か?何の用だ?」
孝太郎は3年前のある事件の捜査の時に共に行動していた松田慎二を見て、槍のように鋭いガンを飛ばす。
松田はそれを見て、揶揄うように両手の人差し指を孝太郎に突き付けて、
「なぁ、孝太郎~お前さぁ、結局、お前の大好きなお姉ちゃんとは付き合ったの?」
「……あまり笑えん冗談だが、お前はそれが楽しいのか?」
孝太郎は両眉を深く眉間に寄せながら、冷たい目を向けながら問い掛ける。
「惚けんなよ!お前はお姉ちゃんが大好きで、そのお姉ちゃんと結婚できるんだったら、なんでもするんだろ?なぁ?」
だが、松田はそんな孝太郎の冷めた態度などに構う事なく、馴れ馴れしく肩を叩きながら軽口でも告げるかのような口調で尋ねる。
孝太郎は舌を打ち、何も言わずに松田の手を乱暴に払い除ける。
「なんだよぉ~釣れないなぁ~こまけぇ事だろ~?」
孝太郎は答えない。それに答える代わりに、松田を無視して券売機へと進む。
券売機で孝太郎がボタンを押そうとした時だ。松田がその手を乱暴に掴む。
「おい、待てよ。竹部の犬。犬だから、キャンキャンとでも吠えるかと思ったが、予想外に大人しいんだな。まぁいいぜ、おれはこまけぇ事は気にしねぇからよぉ~」
「……手を離せ」
孝太郎は眉を顰めながら松田に向かって告げる。
松田はそれに対してニヤニヤとした気色の悪い笑みを浮かべて立っている。いや、離すどころか、より一層の力を込めて孝太郎の腕を掴んでいく。
万力機で腕を挟まれているかのような痛みが続き、孝太郎も限界が来たのか、両目を瞑り、その痛みに耐えていたものの、ついに口から微かな悲鳴が溢れ落ちていく。
「ヘッヘッ、このまま死にやがれ、お前のような犬は生きていても仕方がないからな。キャンキャン吠えて竹部の靴でも舐めるかい?なんなら、お前の大好きなお姉ちゃんと一緒に靴でも舐めてるかい?」
孝太郎はその言葉に堪忍袋の尾が切れた。ついに限界を迎えてしまったというところだろうか。
孝太郎は空いた方の手で松田の顔面を思いっきり殴り付けた。
松田はその拳を正確に避け、背後へとその足を踏んでいく。
それから、武器保存ウェポン・セーブの魔法を使って、異空間の武器庫から拳銃を取り出す。
松田は孝太郎に向かって引き金を引く。孝太郎は頭を瞬時に下げたために、弾丸は彼の頭ではなく真横の券売機の中にめり込む。
銃声と弾丸がめり込んだという事実のために、周りのいた人々が悲鳴を上げていく。
松田はそれに対し、眉を顰める。
「あー、うざってぇな、ちくしょう」
松田は地面に向かって引き金を引くと、弾丸が地面の下へとめり込む。
更なる悲鳴を上げようとする人々に対して、松田は銃口を向けながら言葉を発する。
「黙ってろよ。カスども。ったく、ゴミどもの悲鳴が聞こえて不愉快だぜぇ~」
「……貴様、どうも言っていい事と悪い事の区別が付かなくなったらしいな。人間は成長する生き物だが、お前は3年前と一つも変わっていないな」
孝太郎は松田が無意味な警告を行なっている間に異空間の武器庫から拳銃を取り出して、その銃口を松田に突き付けながら告げた。
「いいんだよ。こまけぇ事は、クヨクヨするんじゃねぇ」
「お前にとっては細かい事なんだろうな。このクズ野郎」
孝太郎が暴言を言い放つのと同時に松田は自身の拳銃を触り、それを針のような刃物へと変えていく。
どうやら、既存の物を別の物に置き換えるという彼の魔法は変わっていないらしい。
孝太郎は拳銃を仕舞うと、今度は刀を取り出して、松田と向き直る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...