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豊臣家士族会議編
襲撃
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「そういえば、今日の週末だったな?我が家の会議の日は?」
孝太郎は両腕を組みながら、真剣な表情を浮かべて姉に尋ねる。
「ええ、そうよ。とはいっても、迎えは今日来る予定だけれども」
あの話がなされた金曜日の夜。二人は珍しく夜の白籠市を並んで歩いていた。
今日の白籠市は秋も終わりに近付いているためか、晩秋の風が体に染み渡る。
加えて、季節を感じるのは市内から街路樹の葉が落ちている事だろう。
日本ではまだ自分や姉のような赤い肌を持つ人物が並んで歩くのは珍しいから、よくある恋愛小説にあるような『恋人』だとかに間違われる事は少ない。
この場合、困るのは孝太郎一人である。なんとなく姉と二人で連れ添って歩いていると、どことなく心臓が痛むのだ。
まるで、針で刺されたような痛みが続き、姉の顔も直視できなくもなってしまう。
今、孝太郎は懸命に少なくとも、表面上は平静を装っているのは、なんとなく姉の顔を違和感を感じさせる事なく、直視を避けながら歩いているためだ。
姉はやはり万人が万人が美人と称する。そこまでは大袈裟であっても、間違いなく街中ですれ違えば、何人かが振り向くほどには美しい。
白籠署の刑事になる以前も連邦捜査官として長年鍛錬を務め上げていたためだろうか、スタイルもいい。弛んではいずに、出るところだけはきちりと出ている。
気が付かないうちに、孝太郎は自分が姉を少し性的な目で見ている事に気が付いて、自己嫌悪に落ちっていた。
だが、それの感情すらも冷静なポーカーフェイスの前で打ち消していく。
孝太郎は姉の賃貸マンションの前に辿り着くと、入り口の前で姉と別れ、自身のアパートへと戻っていく。
これはその道中の事である。孝太郎が姉の事を思い返していると、彼は背後に気配を感じた。彼は咄嗟に異空間の武器庫から拳銃を取り出して振り向く。
銃口が突き付けられると、銃が孝太郎の手から跳ね除けられてしまう。
「やはり、天使を抑えただけはある」
「お前たちは誰だ?」
孝太郎の問い掛けに声の主は答えようとしなかった。
代わりに、男は孝太郎に向かって刀を振るう。孝太郎の頬から強制的に引きちぎった真珠のように真っ赤な血が地面の上へと零れ落ちていく。
普通の人間ならばここで動揺して何もできなくなるだろう。
だが、孝太郎は違った。既に神や天使といったこの世ならざるものを相手にしてきているし、それ以前にも多くの刀剣を扱う犯罪者たちを相手に戦いを繰り広げてきている。
孝太郎は異空間の武器庫から刀を取り出して、暗闇の中に現れた正体不明の敵を待ち構えていく。
男たちは完全に気配を隠しているのか、孝太郎には気配を感じ取られなかった。
悪態を吐きたくなってくる。だが、ここで孝太郎は下唇を噛み締めると、今度は気配ではなく微かな足の音に耳を澄ませる。
孝太郎は左右の方向から枯れ葉を踏む音を聴き取った。彼は無意識のうちに地面を蹴る。
すると、彼の予想としていた通りに両者ともに刀を突き合って、結果的に互いの体の一部を傷付ける事になってしまう。
流石は忍びというべきか、両者は悲鳴さえ上げなかったものの、明らかな鈍い音が聞こえた。大方、地面の上に転がってしまったのだろう。
孝太郎は転がった二人に向かってその刃を脚に突き立てようとしたのだが、真上で暗闇の中で銀色の白閃が生じた事に気が付く。
避ける事は不可能であったので、孝太郎は刀を盾にして防ぐ。
刃物と刃物とがぶつかり合う音が夜の街の中に響いていく。
「やはり、油断するべきではなかったな……よもや、落ち葉の音でバレてしまうとは」
「忍者ならば気を付けるべきだったな?自分たちの手で倒れる忍者なんて聞いた事がないぜ」
孝太郎の皮肉に相手の男も苛立ったのか、大きく刀を振っていく。
刀を受け止めた孝太郎の両腕が痺れていく。緩みそうになる筋肉を必死に堪えて、男の刀を弾き飛ばす。
「……今回は様子見のつもりであったが、あのような事を言われればこちらとしても使わざるを得ない」
すると、男はどうした事か刀を異空間の武器庫中に戻し、代わりに自分の両手の掌を広げて、手から糸を作り出していく。
この糸を利用して攻撃を試みるのだろうか。孝太郎はそう推測したが、予想はものの見事に外れる事になった。
彼が両手の掌から捻り出した糸は一本の刀となり、男はその刀を持って孝太郎に襲い掛かっていく。
孝太郎はその刀を自身の刀でいつも通りに防ごうと思案したのだが、直後に嫌の予感が頭を掠め、彼はその刀を避ける事にした。
後で作られたとしても刀は刀であったらしい。空を切る音が孝太郎の耳に届く。
孝太郎が冷や汗をかいていると、ここで不幸中の幸いというべきか、孝太郎にとっての嬉しい誤算が起こった。そう、彼の目が暗闇に順応し始めたのである。
徐々に全体の景色が見渡せるようになっていく。
これで戦いがスムーズに進められる。
だが、神様はそれ以上の不幸を孝太郎に与えたらしい。
男の刀と孝太郎との間にそれまで倒れていた筈の男が立ち上がったかと思うと、孝太郎に向かって斬りかかっていく。
だが、孝太郎の前に割って入った途端に刀が振りかぶっていた事に気が付いたのか、男は唖然とした表情で刀を見つめていた。信じられないと言わんばかりに両目を大きく見開いていた。
同時に糸の刀が男の体に直撃し、男の顔の一部を斬り裂いていく。
顔の一部が崩れただけではあるが、奇怪なのはそこからである。
なんと、彼の口や鼻、耳といった呼吸器官を通じて糸が彼の口内へと侵入していったのだ。
グチュグチュと何かが潰れるような音が孝太郎の耳にも届く。きっと、良くない事が起こっているのだろう。恐らく、彼に悲鳴をあげる暇さえ与えない何かが。男は糸が入った当初こそ世界が滅亡したかのような大きな悲鳴を上げたが、次第に潰れる音が高くなっていくのと同時にそれも聞こえなくなっていた。
やがて、男の悲鳴を聞き付けた住民が通報したのだろう。
パトカーのサイレンを鳴らす音が響いていく。
闇の中に消えていた男いや、風魔小太郎はそれに気がつくと、孝太郎を放ってもう一人の仲間を助けると素早くその場から走り去っていく。
後に残されたのは刀を握る孝太郎とその傍らに倒れている忍び装束の男の死体だけである。
孝太郎は両腕を組みながら、真剣な表情を浮かべて姉に尋ねる。
「ええ、そうよ。とはいっても、迎えは今日来る予定だけれども」
あの話がなされた金曜日の夜。二人は珍しく夜の白籠市を並んで歩いていた。
今日の白籠市は秋も終わりに近付いているためか、晩秋の風が体に染み渡る。
加えて、季節を感じるのは市内から街路樹の葉が落ちている事だろう。
日本ではまだ自分や姉のような赤い肌を持つ人物が並んで歩くのは珍しいから、よくある恋愛小説にあるような『恋人』だとかに間違われる事は少ない。
この場合、困るのは孝太郎一人である。なんとなく姉と二人で連れ添って歩いていると、どことなく心臓が痛むのだ。
まるで、針で刺されたような痛みが続き、姉の顔も直視できなくもなってしまう。
今、孝太郎は懸命に少なくとも、表面上は平静を装っているのは、なんとなく姉の顔を違和感を感じさせる事なく、直視を避けながら歩いているためだ。
姉はやはり万人が万人が美人と称する。そこまでは大袈裟であっても、間違いなく街中ですれ違えば、何人かが振り向くほどには美しい。
白籠署の刑事になる以前も連邦捜査官として長年鍛錬を務め上げていたためだろうか、スタイルもいい。弛んではいずに、出るところだけはきちりと出ている。
気が付かないうちに、孝太郎は自分が姉を少し性的な目で見ている事に気が付いて、自己嫌悪に落ちっていた。
だが、それの感情すらも冷静なポーカーフェイスの前で打ち消していく。
孝太郎は姉の賃貸マンションの前に辿り着くと、入り口の前で姉と別れ、自身のアパートへと戻っていく。
これはその道中の事である。孝太郎が姉の事を思い返していると、彼は背後に気配を感じた。彼は咄嗟に異空間の武器庫から拳銃を取り出して振り向く。
銃口が突き付けられると、銃が孝太郎の手から跳ね除けられてしまう。
「やはり、天使を抑えただけはある」
「お前たちは誰だ?」
孝太郎の問い掛けに声の主は答えようとしなかった。
代わりに、男は孝太郎に向かって刀を振るう。孝太郎の頬から強制的に引きちぎった真珠のように真っ赤な血が地面の上へと零れ落ちていく。
普通の人間ならばここで動揺して何もできなくなるだろう。
だが、孝太郎は違った。既に神や天使といったこの世ならざるものを相手にしてきているし、それ以前にも多くの刀剣を扱う犯罪者たちを相手に戦いを繰り広げてきている。
孝太郎は異空間の武器庫から刀を取り出して、暗闇の中に現れた正体不明の敵を待ち構えていく。
男たちは完全に気配を隠しているのか、孝太郎には気配を感じ取られなかった。
悪態を吐きたくなってくる。だが、ここで孝太郎は下唇を噛み締めると、今度は気配ではなく微かな足の音に耳を澄ませる。
孝太郎は左右の方向から枯れ葉を踏む音を聴き取った。彼は無意識のうちに地面を蹴る。
すると、彼の予想としていた通りに両者ともに刀を突き合って、結果的に互いの体の一部を傷付ける事になってしまう。
流石は忍びというべきか、両者は悲鳴さえ上げなかったものの、明らかな鈍い音が聞こえた。大方、地面の上に転がってしまったのだろう。
孝太郎は転がった二人に向かってその刃を脚に突き立てようとしたのだが、真上で暗闇の中で銀色の白閃が生じた事に気が付く。
避ける事は不可能であったので、孝太郎は刀を盾にして防ぐ。
刃物と刃物とがぶつかり合う音が夜の街の中に響いていく。
「やはり、油断するべきではなかったな……よもや、落ち葉の音でバレてしまうとは」
「忍者ならば気を付けるべきだったな?自分たちの手で倒れる忍者なんて聞いた事がないぜ」
孝太郎の皮肉に相手の男も苛立ったのか、大きく刀を振っていく。
刀を受け止めた孝太郎の両腕が痺れていく。緩みそうになる筋肉を必死に堪えて、男の刀を弾き飛ばす。
「……今回は様子見のつもりであったが、あのような事を言われればこちらとしても使わざるを得ない」
すると、男はどうした事か刀を異空間の武器庫中に戻し、代わりに自分の両手の掌を広げて、手から糸を作り出していく。
この糸を利用して攻撃を試みるのだろうか。孝太郎はそう推測したが、予想はものの見事に外れる事になった。
彼が両手の掌から捻り出した糸は一本の刀となり、男はその刀を持って孝太郎に襲い掛かっていく。
孝太郎はその刀を自身の刀でいつも通りに防ごうと思案したのだが、直後に嫌の予感が頭を掠め、彼はその刀を避ける事にした。
後で作られたとしても刀は刀であったらしい。空を切る音が孝太郎の耳に届く。
孝太郎が冷や汗をかいていると、ここで不幸中の幸いというべきか、孝太郎にとっての嬉しい誤算が起こった。そう、彼の目が暗闇に順応し始めたのである。
徐々に全体の景色が見渡せるようになっていく。
これで戦いがスムーズに進められる。
だが、神様はそれ以上の不幸を孝太郎に与えたらしい。
男の刀と孝太郎との間にそれまで倒れていた筈の男が立ち上がったかと思うと、孝太郎に向かって斬りかかっていく。
だが、孝太郎の前に割って入った途端に刀が振りかぶっていた事に気が付いたのか、男は唖然とした表情で刀を見つめていた。信じられないと言わんばかりに両目を大きく見開いていた。
同時に糸の刀が男の体に直撃し、男の顔の一部を斬り裂いていく。
顔の一部が崩れただけではあるが、奇怪なのはそこからである。
なんと、彼の口や鼻、耳といった呼吸器官を通じて糸が彼の口内へと侵入していったのだ。
グチュグチュと何かが潰れるような音が孝太郎の耳にも届く。きっと、良くない事が起こっているのだろう。恐らく、彼に悲鳴をあげる暇さえ与えない何かが。男は糸が入った当初こそ世界が滅亡したかのような大きな悲鳴を上げたが、次第に潰れる音が高くなっていくのと同時にそれも聞こえなくなっていた。
やがて、男の悲鳴を聞き付けた住民が通報したのだろう。
パトカーのサイレンを鳴らす音が響いていく。
闇の中に消えていた男いや、風魔小太郎はそれに気がつくと、孝太郎を放ってもう一人の仲間を助けると素早くその場から走り去っていく。
後に残されたのは刀を握る孝太郎とその傍らに倒れている忍び装束の男の死体だけである。
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