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豊臣家士族会議編

会議の始まり方

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「そうか、次元転移装置は焼却されたのか」
「はい、中原大佐は保存に至っては前時代的な手法に頼っていましたからね、今ならば使う人がいないという我々の節穴を突いたという事でしょう」
風魔小太郎は自身の上司である北条重信ほうじょうしげのぶ首相である。
北条重信は極端なまでの平和論者であり、同時に妄想狂である。
彼の合言葉は『風魔の剣を突き立てろ』である。この言葉により、自身や自身の理想に対して何人もの邪魔な政治家を自身の腹心の部下である風魔小太郎を使って始末してきたのである。
勿論、これには国内の政治家ばかりではなく、海外の政治家も含まれる。
幸いな事に未だに風魔小太郎の仕業だとバレてはいないが、もし、バレたらどんな対応がなされるのだろうか。
普通に考えれば、そんな考えが頭をよぎるのだろうが、彼の頭の中に存在するのは地平線のように広大な妄想ばかりである。挙げ句の果てには自分と考えが異なる人間にレッテルを貼り、殺害リストに含ませているのだから救いようもあるまい。
では、なぜこれまでに竹部大統領や二階堂前幹事長、現在の若槻葉子幹事長は殺されなかったのかと首を傾げる人も多いだろう。
それは、単に竹部大統領が現職の大統領であり影響力が強く、始末できなかったからだ。両名の幹事長は単に小太郎と戦わせれば、小太郎が手こずるから後回しにしていただけである。
もっとも、二階堂は小太郎が手を下すよりも前に自身の手で死亡し、彼には手間が省けて良かったのだが。
とにかく、彼の忠実なる駒である風魔小太郎はいつどんな時でも、邪魔な人間を殺してきたのだった。
だが、先の宇宙囚人号船の反乱では手痛い敗北を負い、あまつさえ中村孝太郎の抹殺さえ失敗してしまった。
北条重信は激怒しようとしたのだが、彼の焼け焦げた姿を見て、彼はそんな気も失ってしまう。
だからこそ、しばらくの間、彼を見舞い、再び任務に就けるように激励し続けていたのだ。
「申し訳ありません……我が主人よ。まさか、あのようなアンドロイドが待ち構えているとは……」
「いい。気にするな」
北条重信はずれかけた眼鏡を片手で戻すと、そのまま病床にいる青年に向かって微笑む。
「それより例の件だが、お前いけそうか?」
「ええ、怪我が治り次第、中村と折原の両名を殺してみせます。今度は私一人のみならず、風磨一族の腕利きを引き連れて……」
弱い声だが、彼ならばやり遂げてくれるだろう。彼の主人である北条重信は安堵の表情を作って彼に向かって笑い掛けた。
弱々しい笑みであったが、キチリと返ってきた事に重信は心が温まり、今度は優しい笑顔を向けて微笑むと、面会用に用意された円形の椅子の上から立ち上がると、そのまま外へと向かって出ていく。
これで、あの二人の姉弟も終わりだろう。ようやく、この国に平和が訪れるのだ。
ここで、北条重信が二人を狙う理由を教えておこう。
それは、二人のせいで日本が外国。とりわけ、ロシアに狙われているという妄想からきている。
実際、三年前にはあの二人がロシアの過激派から時を駆ける聖杯を守ったせいで、日本が危機に晒されてしまったではないか。
そればかりではない。あの二人は海外のマフィアを潰し、海外のアンダーグラウンドの層からも憎まれているではないか。
あの二人のために一般人が報復テロに巻き込まれてしまってはどうしようもあるまい。
日本が海外からよく思われるためにも、また、海外のマフィアを守るためにもあの二人は死んでもらわなくてはなるまい。
重信はそう考えると指を鳴らし、二人の黒装束の人物を呼び寄せる。
二人の男は重信の前に現れると、膝を突きながら重信に用を乞う。
「お呼びでしょうか!首相!」
「ふむ、命令だ。『風魔の刀を突き立てろ』」
首相の命令を聞いて両者は互いに目を見合わせたが、そのまま恭しく首を下げていく。













「というわけなんだぜ、孝太郎さん!次元転移装置の設計図はオリュンポスの神々の手に渡っちまったんだ」
聡子は悔しそうに地団駄を踏みながら怒気にまみれた声で叫ぶ。
「……問題は次元転移装置だ。まだ実装化されてはいなかったとはいえ、一瞬で何処にでも行ける装置が神の手に渡ったのなら、軍勢が攻めてくるのは時間の問題だろうな」
孝太郎は顎の下に拳を当ててそう結論付けた。全員が孝太郎同様に深刻な顔を浮かべており、これ以上何も言おうとはしなかったが、唯一マリヤだけが手を挙げて意義を唱える。
「あの、神々ならばもう今すぐにでもその装置を再現して、攻めてくるのでは?」
マリヤの最もな指摘に全員が凍り付いた表情を見せている。
孝太郎も予想外であったらしい。あっと大きく口を開けていた。
が、暫く経ってからマリヤへと向き直ってから言った。
「確かに、そうだとは思う。だがな、これはあくまでもオレの予想だが、聞いてくれないか?」
孝太郎の話が正しければ、今頃はオリュンポスの神々に『次元転移装置』の設計図が渡っている頃だろう。
今頃はオリュンポスの神々がそれを制作していても難しくはない。
だが、どうしても人間にしか作れない箇所があったのなら?もし、人間界にある特定の部品だけが作れなかったり、上手く再現できていなかったりしたら?
そういった理由でオリュンポスの神々は悩んでいるのかもしれない。
「結論から言えばだな。当分は天使はともかく、オリュンポスの神々は相手にしなくても大丈夫だろうという事だ」
「……そんな楽観的な!?今すぐにでも、オリュンポスの神々が攻めてきたらどうするんですか!?」
マリヤの声が些かヒステリックになっている事に気が付く。
孝太郎はそうして騒ぐマリヤをなんとか落ち着かせる。
それから、姉たちに向かって言った。
「明日はいよいよ退院だからな。復職したのならば、また姉貴たちと事件を追えるぞ」
「ええ、お願いね、孝ちゃん」
絵里子はそう発するのと同時に両目の瞳から透明の液体が溢れた事に気が付く。
それを人差し指で拭おうとした孝太郎を止め、絵里子はみずからの指で涙を拭い取っていく。
「大丈夫、これからはあなたに頼りっぱなしにしないようにするから。あたしだって戦うから、安心して孝ちゃん!」
「ありがとうな、姉貴」
孝太郎は成長を見せた姉に向かって優しく微笑む。
すると、絵里子は耐え切れなくなったのか、大きく孝太郎へと抱き着いた。
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