破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
37 / 112
ニュー・メトロポリス編

天使より授かりし宝剣ーその③

しおりを挟む
中村孝太郎は病床の上で自分の携帯端末が鳴り響いている事に気が付く。
彼が慌てて端末を手に取ると、端末に自分の父からのメールが入っている事に気が付く。
だが、不仲であるてまえ、こちらから掛け直すのも嫌なので、向こうからの電話を待つ事にした。
清潔なベッドの上でゴロゴロと動いていると、ようやく端末の上から電話が鳴り響く。
孝太郎がそれを手にすると、不仲であるはずの父からの電話が届く。
孝太郎がそれを手に取ると、電話口の向こうからはあまり聞きたくのない声が聞こえてきた。
『久し振りだな、孝太郎……お前の姉は元気か?』
「相変わらず、オレより姉貴の心配か?」
『当然だろう。お前とは縁を切っているが、絵里子とはまだ親子だからな」
わざわざ入院中の本人の前で言う事もあるまい。そういうところが父が長年の間、大物政治家に秘書として仕えているのにも関わらず、未だに秘書以上の役割を与えられない要因だろう。
いくら取り繕ってもこの嫌味な本性は隠せまい。
孝太郎は少しだけへそを曲げたので、無性に煙草を吸いたい衝動に駆られたが、一応は今は会話中であるという事を考慮し、その心を上手いこと自分の心の内へと封じ込めていく。
その後も平静を装いながら会話を続けていく。
「で、その勘当した息子になんの用だ?姉貴なら今捜査中だと言ったろ?」
『近々、豊臣家の有力子孫たちを招いての会議が行われる。当然、我々も行くし、そこに絵里子も付いてくる。お前にその護衛を頼みたいんだ』
「断ると言ったら?」
『フッ、お前にその選択肢は最初からないだろう?なにせ、徳川の家から我々は常にマークされている身なんだからな』
その会話を聞いて孝太郎が思い出すのは長年に渡って開かれてきた豊臣家士族会議である。
これは公には豊臣家が滅亡されてきたとされた1615年の頃から始まったとされている。
会合場所は常に『国家安康君臣豊楽』の文字が刻まれた方広寺である。
当時の方広寺は修理の費用を出してもらったという恩恵により、豊臣家に好意を抱いており、豊臣秀頼の遺児が大坂城から落ち延びた際にはその遺児を徳川より庇い、その家を守ったとされる。
これは余談であるが、幕末になり、徳川幕府の権勢に陰りが生じてきた際にはこの方広寺に尊王攘夷を掲げ武士がかつて、徳川家に滅ぼされたとされる豊臣家を再興し、徳川幕府に代わる新たなる幕府を作り上げると約束したという。
だが、当時の君主である豊臣秀持はそれを断り、代わりに彼らの掲げる尊皇を中心とした国家を作り上げるように助言を出したという。
それに目を付けたのが、当時、京都の有力公卿の娘であった六大路美千代である。
後に伯爵夫人の称号を継ぐ事になる彼女は方広寺に現れて、豊臣秀持以降の豊臣家の当主や他の一族を全て徳川にくっ付く様に指示を出したのだという。
表向きは過去の遺恨を洗い流すためと称し、その実は間者の役割を担わせていたのだ。
六大路美千代の悪魔のような頭脳はかつての徳川の仇敵を利用する事で、自分たちにとっての不穏分子を一掃させる事に成功させたのだった。
それ以降は豊臣家は実質、徳川家に取り入りながらも、その実は新政府もとより、六大路美千代に連絡を取っているという二重生活を取り続けてきたのだ。
無論、徳川家もそれを知っていて泳がせている。敢えて泳がせてその尻尾を掴もうと、彼らはその会議を狙っているのだ。
気が遠くなるほどの長い年月をその無意味な表面下の抗争に費やしているのだから、全くもって無意味というしかあるまい。
実際、徳川家の中にはこの政策をやめ、堂々と豊臣家を理由を付けて放逐するべきだと主張する人間も少なくない。
だからだろう。今年開かれる会議には例年よりも多くの刺客が導入されるのだという。
恐らく今の徳川当主も限界が来ていると感じているのだろう。
だから、孝太郎に護衛の依頼を頼んだのだ。これまでよりも激しく行われであろう大規模な刺客と対抗するために。
孝太郎は暫く窓の外を眺めながら、物思いにふけていく。
暫く父を待たせた後で孝太郎は結論を告げた。











マリヤと紅兵庫との戦いは何十分続いているのだろうか。絵里子には検討も付かない。
だが、果てしなく長い間、両者が斬り結んでいる事は確かである。
淳一も聡子も共に刀を持ってはいるものの、レベルが違う事から手が出ずにはいる。
天使のような真っ白な翼が生えた鍔から翼が取れてその羽根がまるで刃物のようにマリヤを襲っていく。
マリヤは剣でそれを弾き飛ばすと、そのまま真っ直ぐに兵庫へと迫っていく。
が、天使の力を受け継いだ兵庫も負けてはいない。兵庫は両手に持っている剣を輝かせると、そのままマリヤへと突っ込んでいく。
両者の激しい斬り合いが、刃物と刃物とをぶつけ合う金属同士が重なり合う激しい音が鳴り響いていく。
打ち合うたびに火花まで生じている。
「相変わらずだが、凄まじい戦いだよな?」
「あぁ、あたしらは見ているだけしかできないなんて、本当に口惜しいよ」
聡子が悔しそうに言葉をにじり出す。淳一はそう発した聡子の刀を持つ両手が怒りか、はたまた悔しさのためか、或いはの両方のためから分からない。
淳一はそれ以上は何も言わずに聡子を見守っていた。
絵里子は激しく戦うマリヤの姿を見ながら、側に居た明美に向かって密かに愚痴をこぼす。
「ダメね、あたしったら」
「どうしてですか?」
明美が唐突に吐いた愚痴に疑問を感じて首を傾げる。
「だって、あたしったら昔からの誰かに守られてばかりだったんですもの。孝ちゃんに守ってもらい、おじいちゃんに守ってもらい、今でもこの職に就いていながら、どこかで両親がサポートしてくれているらしいわ。ダメじゃない。あたしったら、ただの粋がっているだけのお嬢ちゃんよ。こんなのじゃ」
明美はその言葉を聞いて暫く考え込むそぶりを見せていた。
だが、やがて絵里子の方へと振り向くと絵里子と視線を合わせて真剣な表情を浮かべながら言った。
「なら、変わりましょうよ。絵里子さん。確かに、孝太郎さんやマリヤさんみたいな超越者オーバーロードになるのは不可能でしょうけど、それでも自分を変える事くらいならきっと、今からでもできますよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...