破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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ニュー・メトロポリス編

天使より授かりし宝剣ーその①

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兵庫がその言葉通りに柿谷淳一を酷い目に遭わせようとした時だ。
その前にロシアの女司教が止めに入る。
「お待ちなさい!紅兵庫!あなたは前世通りの悲惨な死に方をしてもいいのですか!?」
『前世』という言葉が引っ掛かったのか、兵庫はそのまま振り向いて、水晶の付いた杖を持った彼女を睨む。
「前世だとバカな事を言いやがって……第一、そんな過去の事が今のおれになんの関係があるというのだ」
「いいえ、前世からの業は今を生きる我々にも降り掛かってきます。それが人間に課せられた使命なのですから」
マリヤは杖の上に飾ってある水晶玉を凝視して彼の前世を辿っていく。
「紅兵庫さん、あなたの前世は戦国時代の塩塚国の納谷領賀守首乃助という大名に家老として仕えた兜崙具かぶとろんぐと呼ばれる人物です」
兜崙具は塩塚国しおづかこくに仕える家老として、力を入れたのは若い武士の育成である。
兜崙具は私学校を作り、塩塚国への忠誠と塩塚国による天下統一とを教育していたという。
その学校は後世の学者により塩塚スクールと呼称されていたという。
そんな兜崙具であったが、塩塚国と敵対する雷大国らいだこくの家老、立花庄兵衛と雷大国の忠臣、滝和之介の両名により、塩塚スクールは大きな打撃を受けたという。
最後にはこの両名を追いかけたところに雷大国を治める大名、本郷広乃助ほんごうひらのすけ率いる軍勢にあえない最後を遂げたという。
「フン、バカバカしい。大体、塩塚国に雷大国?そんな国聞いた事がないぞ」
「当然でしょう。両国とも歴史の闇の中に埋もれてしまったのですから、加えて、戦国時代の前期のお話ですから、まだ織田信長さえ産まれていないほどの昔の話です」
「フン、どうだか?大方、貴様の作り話だから、そんな確信のない話ができるんだろう?」
「……そうそう、言い忘れていましたね。兜崙具がどのような死に方をしたのかを……」
マリヤは杖から剣を抜き、その剣先を突き付けながら言った。
「兜崙具は本郷の手によりその頭をかち割られました……それも日本刀によって無残にね」
「ほぅ、やるつもりか?言っておくが、オレの天使から付与された武器を攻略できるとでも?」
「私とて超越者オーバーロード……可能性がないわけではありません」
マリヤはそのまま剣を握り締めながら、紅兵庫の元へと向かっていく。
兵庫はマリヤが振り上げた剣を自らの刀で防ぐのと同時に、そのまま刀を滑らせて刃物越しにマリヤを狙えないのかと模索し始めていく。
マリヤは滑ってきた刃物を剣を縦の形に変えて防ぎ、そのまま刀ごと兵庫を弾き飛ばす。
兵庫はそれでも、怯む事なく次なる攻撃を仕掛けていく。
「私とて天使からの力を与えられた身である!それに、貴様はオレの部下三人の仇でもあるッ!ここで引くわけにはいかんのだッ!」
兵庫はそう叫ぶのと共に大きく刀を、いや形を変えた天使の剣を振りかぶっていく。
マリヤは剣を慌てて剣を盾にする事で危機を脱し、今度は彼女自身が体ごと体を滑らせて、真下へと兵庫の体を捉える。
兵庫自身も剣の技術は身に付けている。マリヤの狙いを理解すると、慌てて体を背後へと逸らし、そのまま前へと滑り込むマリヤを狙う。
一転してピンチとなったマリヤであったが、彼女は機転を効かしてその場を脱していく。
彼女は自身を狙う事により、ガラ空きとなっていた靴を狙ったのだ。
人間というのは指の先にしろ、足の先にしろ、先端を狙われれば辛いものだ。
兵庫は微かな悲鳴を口から漏らし、そのまま後ろへと下がっていく。
マリヤはそのまま彼の腕を剣で刺してその場から慌てて離れていく。
「なんとか、窮地を脱する事には成功したらしいが、ここまでくると不利だぞ、一旦は逃げた方がいい」
淳一は這いつくばいながらも、戦いを続けようとするマリヤに警告の言葉を投げ掛けたが、彼女は意に返していなかったらしい。
淳一に向かって安心させるように微笑むと、もう一度剣を構えて前へと進む。
淳一は思った。彼女こそが真の英雄であると。
同時に理解した。苦しむのは自分一人だけで良いという覚悟を。
もはや、この戦いはこの世界を壊す者と守る者との戦いである、と。
自分たちはそれに置いていかれた単なる人間に過ぎないという事を。
彼女と天使の代理人紅兵庫とが激しい戦いを繰り広げている間に淳一が思っていたのはそんな思いであった。
そんな淳一の元に絵里子が駆け寄り、優しく彼を抱き起こしていく。
「見守りましょう。戦いを……この小さな地球ほしの上で戦われる神々との戦いを」
マリヤと紅兵庫とは互角以上の戦いを続けていた。
剣と剣による斬り合いは無限に続くものかと思われたが、ここで兵庫が魔法を使う事により、全ての状況が一変してしまう。
紅兵庫は自らの手の中で金の輪っかを作り出し、その眩い輝きを放つ輪っかを放り投げるのと同時に、その輪っかから炎やら風やらを放出していく。
悲鳴を上げるマリヤ。当然だろう。マリヤにあるのは前世を見るという魔法のみ。
通常の魔法と戦う要素は殆どないといってもいいだろう。
「っちくしょう!こうなりゃあ、オレもやってやる!」
淳一は絵里子の静止の声さえも無視し、刀を振り上げて、斬撃を飛ばしていく。
この高周波ブレードこそが柿谷淳一の持つ魔法であった。
このブレードが紅兵庫を狙っていたのならば話は別だろう。
だが、淳一の斬撃が直撃したのは兵庫の放った金色の輪っかである。
高周波のブレードが直撃するのと同時に輪っかにはヒビが入り、そのまま崩れ落ちていく。
「おのれ!小癪な真似を!」
兵庫は淳一にその視線を向けるが、マリヤはその隙を狙って兵庫を狙って剣を持って駆け出していく。
兵庫の中にある勘がマリヤの襲撃に気が付かなかければ、彼はあっという間に殺されていたに違いない。
彼がその勘を培えたのは軍人としての経験とそれが天使から与えられた力により通常よりも増幅していたからだろう。
兵庫は慌てて体を捻り、剣を握ってマリヤの襲撃を受け流していく。
お互いに剣越しに睨み合う。お互いに歯を軋ませてギリギリという音を鳴らす姿が目に飛び込む。
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