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ニュー・メトロポリス編

世界各地の天使たち

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天使がこの世に現れたのは日本の宇宙囚人号船の事件が解決した僅か一日後であったとされている。
世界各地で人々が天使を目撃し、同時に天使による殺戮が行われていく。
多くの人々が天使の被害によりその命を散らし、転がしていく。
ユニオン帝国軍務大臣は厳戒令を指導し、皇帝の名による国家封鎖を働きかけた。また、この国家封鎖と並行して各地の反社会勢力の摘発が行われた。
無論、これは反社会的勢力の人間のみならず一般人の人々からも非難の嵐であった。というのも、あまりにも関連性がなかったからだ。
だが、この対天使対策にかこつけての反社会的勢力の摘発は他の国々も見倣う事となった。
続々と各国の王家や一党独裁政党がそれに倣って強権を発動し、超越者オーバーロードと見做された人々の保護に始まり、国内の反社会的勢力の一掃に励む。
イタリア、ロンバルディア王国の現国王である女王カタリーナ女王はユニオン帝国と同様の処置の発令を急いだ。
なお、現王家はマフィアとの黒い噂が絶えなたかったために、ユニオン帝国や他の欧州の王家とは異なり、それらの処置は行われなかったという。
後年になり『やはり、ボルジアは』という言葉はボルジア家の闇を表す言葉として有名である。
日本においても警察組織が動き、超越者オーバーロードの保護のために動いていたという。
ただ、反社会的勢力の一掃は他の国とは異なり、あまり熱心に行われる事はなかった。
というのも、当時はこの超越者オーバーロードの保護と共に解決しなければならない重大事件があったからだと言われている。
一方でロシアは当時のベリヤ国防大臣が処置を急ぎ、凶悪なマフィアの一掃と共に超越者オーバーロードと思われる人々の保護に努めていく。
大樹寺雫は新聞から目を離すと、大きく溜息を吐いて肩の力を抜いて、椅子の上に深々と腰を下ろしていく。
「どこの国も大変らしいね。まぁ、当然といえば当然だけれど」
「でも、そのお陰であなたが助かるんですよ」
午後のお茶の時間、少女は窓の外でこの大聖堂の周りを固めている警察官たちを指差しながら告げる。
だが、大樹寺は残念そうに首を横に振って、
「無理だよ。奴らは尋常ならざる力を持っているからね。警察官がいくら集まったところで勝てるわけがないよ」
「そ、そんな……」
「昨日の戦いを見たよね?もし、あの場に大司教様がいらしゃられなかったら、私は死んでいたよ」
大樹寺が事実を淡々と告げると、少女を両目の瞳を潤ませながら、彼女へと抱き着いていく。
自分の胸のうちで泣きじゃくる幼い少女の頭を大樹寺は歳上らしく優しく撫でていた。
そして、額に優しい口付けを与える。
「大丈夫だよ。私は絶対に死なないからね」
そう言って安心させると、彼女は聖書を読み始めていく。茶の時間はとっくに過ぎたのだ。もうそろそろ修行を再開しなくてはなるまい。













「で、我が国は暴力団の掃討は行わないと?」
「やらないとは言ってないでしょ?小規模ながらも摘発が行われるってーー」
「他の国と比べたら、殆どやっていないのと同じだッ!第一、暴対課の奴らまでも転移装置の捜索に駆り出すなんて、はっきり言えば異常だぜ!」
柿谷淳一の非難は的を射ていたというべきだろう。助手席に座っていた絵里子も内心、納得の意志を示していた。
というのも、普段は暴力団とばかり対峙している課の人々まで捜索に狩り出す姿勢はあまりにも異常であったからだ。
それに、その肝心の紅兵庫はなぜか姿を現さない。いくら探しても見つかる気配が見えないといった方が正しいのだろうか。
どのようにすれば、そこまで周到に隠れられるのだろう。疑問に思った淳一が唸り声を上げていると、突然、車が大きなブレーキ音を立てて静止させられる。
「うわぁぁ!!い、一体なんだ?」
淳一の問い掛けに対して、絵里子は黙って車の正面の窓の外で自分たちの前に立ち塞がっている男を指差す。
それを見た一同が一斉に驚愕の表情を表していく。
というのも、目の前に立っていたのは今、この国の警察が血眼になって探している転移装置の持ち主であったからだ。
淳一は車から降りるのと同時に異空間の武器庫から刀を取り出すと、男に向かって勢いよく切り掛かっていく。
まさしく問答無用。猪突猛進の姿勢である。
だが、紅兵庫は彼と同じく異空間の武器庫から刀を取り出すと、それを強く握り締めて全く別の武器へと変えていく。
それを刀と呼称するのにはあまりにも形が違い過ぎていた。いや、その他にもこの世の武器であるのかどうかすら疑わしい。
そんな異形の武器を携えた兵庫は襲い掛かってくる淳一をその異形の武器を利用して弾き飛ばしていく。
「ば、バカな!?全く敵わないだと!?」
「全く敵わない?当たり前だろ?私は既に天使から力をいただいている。お前たち人間どもとは次元レベルが違う」
なんという強さなのだろう。自分がても足も出ずに倒されてしまうとは。
先程、あの男は赤子の手をひねるかのように自分を倒してしまったではないか。
「いやはや、少し虐めすぎてしまったかな?キミにはもっともっと苦しめてしまわないといけないからな。そんな初っ端からメンタルが壊れてしまっては元も子もないからな」
「テメェ、次元転移装置の設計図はどこにやった?」
男は淳一の質問に答える事なく、そのまま彼の顔を強く踏んでいく。
「言葉に気をつけたまえ、私はキミよりも有利な立場にいるのだぞ」
「……もう一度だけ聞くぞ、次元転移装置の設計図はどこだ?あれは確か、中原大佐が紙に書いたものをトランクに仕舞っていたものをあんたらが奪い取った筈だからな。データと違って持ち歩くのが大変だろう?」
「余計な気は使わんでいい」
男は淳一の顔を強く踏むと、そのまま彼の髪を掴んで彼の頭を引き上げていく。
「それとも、このまま殴られないとわからないか?」
「殴れよ」
淳一は兵庫に彼よりも強靭な訓練を受けており、数々の死線を掻い潜った男に向かって言い放つ。
その目に迷いや後悔は一切ない。いっそ気持ちのいいほどの見え切りであった。
兵庫は思わず口元の端を緩めながら彼を殴る事になった。
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