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ニュー・メトロポリス編

残酷な天使から渡されて

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つまるところ、得体の知れない奴らが私の弟を狙っていたというわけ?」
「ええ、そうです。天使を名乗る人が現れて、孝太郎さんを消そうとしたんです。でも、超越者オーバーロードは二人も相手にできないって……」
二人は事件現場への移動最中に五人乗りの地上車と呼ばれる地上移動専用の車の中で昨晩起きた出来事を話し合っていたのだ。勿論、乗車メンバーは孝太郎を除く白籠市のアンタッチャブルの面々である。
「どういう事だよ?」
「つまるところ、厄介な条件が重なってその場を退く事しかできなかったって事だと思うよ」
首を傾げる聡子に明美は自身の推測をわかりやすく話していく。
聡子もその言葉に納得がいったらしい。小首を何度も何度も傾げる。
聡子は納得がいったらしく満足そうに首を縦に動かす。
「とはいえ、また来ないとも限らないわけね?」
絵里子は鋭い視線を宙へと向けて睨む。恐らく空へと逃げた天使を睨んでいるに違いない。
最愛の弟を襲った天使を激しく憎悪しているに違いない。
そのせいだろうか、車の運転がどこか荒っぽくなっていく。
「あ、あの折原さん、落ち着いた方が……」
「これが落ち着いていられる!?弟が狙われてるっていうのに!?」
蛇行運転になりつつあったので、助手席に居たマリヤは危機を感じて、車を一度停める事を提案する。
絵里子はしぶしぶ提案を受け入れ、白籠市の端の駐車場に車を停める事になった。
白籠市の端にある街中の小さな駐車場であるが、時間が平日の午前中である事から人々はまばらである。
興奮した絵里子を宥めて、このまま去ろうと考えていたのだが、生憎とそうはいかなかったらしい。
絵里子は近くで銃の安全装置が外される音を感じ取り、全員にその場に伏せるように大きな声で指示を出す。
彼女ら全員が車の中に伏せるのと車へと大量の銃弾が浴びせられるのは殆ど同じタイミングであった。
「よーし、撃ち方やめぇ~!まだ油断するなよ!車の扉を開けて奴らの生死を確認するんだ!」
桑山少佐は首から一般的な黒色の突撃銃を掲げながら、他二人の部下に指示を出す。
指示を受けた部下の一人が蜂の巣となった車の扉を開けると、自身の腹から大きな血が流れている事に気が付く。
彼は悲鳴を上げる事もなく冥府の門をくぐってしまったらしい。
地面の上を惨めったらしく這った後にそのまま地面の上に倒れ込む。
マリヤは血塗れになった剣を拭う間も無く、軍服を着た男の元へと近寄り、見事な一閃を描く。
その後に悲鳴を上げながら時代劇の悪役さながらの反りを見せた後に体から無数の赤い体液を吐き散らし、赤い色の虹を描きながら倒れ込む男。
マリヤが殺した男は一体、どんな名前だったのだろう。
今では知る由もない。マリヤは死体を振り返る間も無く、仕込み剣の先を指揮官である桑山少佐へと突き付ける。
「残るはあなただけです」
通常の犯罪者程度ならば、全身に血を浴び、更にその血の付いた剣を突き付けられれば縮み上がるほどに怯えるに違いない。
だが、桑山少佐は長年、多くの死線をくぐり抜けたきただけの事はあり、眉一つ動かなさい。
それどころか、両手を叩いてマリヤの手腕を褒めた。
「見事、見事だ。いやぁ、見事見事……ここまで鮮やかにやるとは部下が呻き声さえ上げずに死んでいったわ」
「次はあなたの番です」
「流石はロシアの司教にして、ロシア帝国内で悪人を狩り続けてきた女殺し屋だ。感服するな」
「……どこでそんな情報を?」
「私は諜報部の出身でね、国内外のタブー視される情報が入って来るのだよ。あぁ、そうだ。ここで、自己紹介をしておかんとな、私の名前は桑山、桑山光兼くわやまみつかねだ」
マリヤはその問いに答えることなく、その代わりに杖の先端に付いている水晶を通して彼の前世を除いていく。
マリヤは彼の前世を見届けると、彼に向かって大きな声でその前世の事を告げていく。
「桑山光兼!私にはお前の前世が見えます!あなたの前世は二.二六事件で決起した青年将校の鮎川明二あゆかわめいじという青年将校です!」
鮎川明二。二.二六事件においては目立たない存在であったが、彼は皇道派でありながらも統制派の人間とも交流を保つなどの調整派として見られた人物であり、当時の関東軍参謀長であり、統制派の東條英機を深く尊敬するなどあらゆる面で型破りの人物であった。
そんな、皇道派内の統制派ともいえる存在であった鮎川明二は二.二六事件の際には非常に遅く参戦したという。
それも周りに担ぎ上げられての嫌々ながらの参戦であったそうだ。
皇居に集まった時に当時の昭和天皇が鎮圧の勅命を下した際に彼の仲間の青年将校は深く泣いていたが、彼だけはどこか達観した目で、冷ややかな目で同僚仲間たちを見つめており、連れて行かれた際に泣きもしなかったという。
その後の処分は東條英機の取りなしにより、彼は死刑を免れ、彼の直下に置かれ、彼の東條英機への思いは尊敬を遥かに超え、崇敬へと変わっていったらしい。
以後は終戦まで東條英機の側近として活躍し、一部の人間からはその忠臣ぶりから『側用人』と揶揄されたという。
ここまではこの人物には特定のエピソードはないのだが、終戦の際に彼は自決を図った東條を守り、とうとう現場の判断により射殺されるまで動かなかったという。
そこまで聞くと、桑山少佐はマリヤの話を一笑に伏し、小さく鼻で笑うと銃口を突き付けながらマリヤに向かって問い掛ける。
「それで?そんな大昔の男の話がおれとなんの関係がある?大体、鮎川明二なんて人物はオレは聞いた事がないぞ」
「……そうでしょうね。彼は長い間、歴史の影に埋もれていた人物ですから……21世紀になり、大手動画サイトで彼の事をネタにした動画が普及されるまでは多くの人は存在さえ知らなかったでしょう」
桑山少佐はそれに対する返答の代わりに、マリヤに向かって問答無用で銃弾を撃ち込んでいく。
だが、マリヤは俊敏な動きでそれまで立っていた場所を離れると、そのまま下がる事なく、逆に桑山少佐へと剣を振り上げていく。
桑山少佐は慌てて新たに渡された拳銃を目の前から迫る茶色のコートを着た金髪の女刑事へと向けていく。
天使のエンブレムが施された銀色の自動拳銃。
桑山少佐の隠された武器であったともいえるだろう。
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