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ニュー・メトロポリス編

パトリオットUFOーその④

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「マリヤ・カレニーナさんだね?残念ながら、あなたは神々の処刑リストに名前が載ってしまっている。残念だけれども、仕方がないよ。なにせ、あなたは超越者オーバーロードになってのしまったのだから」
目の前に現れた天使は心底残念そうに両眉を下げる。だが、すぐに両眉を上げて明るい表情を見せて告げる。
「でもね、安心して、あなたはロシア正教会の司教として活躍したその実績に免じて、ぼくが天国に連れて行ってあげるから」
この天使を告げる少年は何を言っているのだろう。マリヤが恐怖のために体が膠着させていると、天使は躊躇う事なく弓を引く。
マリヤの頬を一本の矢が掠め、やがてその矢が壁へと突き刺さる。
だが、マリヤが恐る恐る振り返ると、壁に刺さった矢は影も形もなくなっていく。
驚愕の表情を浮かべるマリヤとは対照的に天使はニッコリとした笑顔を浮かべて、
「残念だったなぁ、外しちゃうなんて……本来だったらあの矢ですぐにでも天国に行けたのに」
マリヤは言葉も上げられなかった。恐怖のためばかりではない。実は彼女の中で歓喜の表情もあったのだ。
他ならぬ彼女はロシア正教会の司祭である。今は刑事としての二足の草鞋を履いているが、本業とも言えるべき職業は神に仕える事なのだ。その神の使者からそんな啓示を受ければ自然と喜んでしまうに違いない。
だが、それ以上に今は死にたくないという思いが彼女の心の内を秘めていた。
孝太郎と一緒に追っている事件を解決するまでは死ねないのだ。
マリヤは丁寧に頭を下げ、天使の申し出を拒否すると、彼は残念そうに眉を顰めた後に無言で腰に下げていた短剣を抜いて、マリヤへと襲い掛かっていく。
マリヤはその剣を慌てて仕込み剣を抜いて防ぐ。
剣と短刀とが重なり合い、少しずつ刃物同士がずれていく事により火花が生じていく。
最初こそマリヤは短刀を受け止められていたのだが、徐々に目の前の華奢な少年の力の前に押されていく。
ようやく短刀を押し出したないいものの、尋常ではない疲れがマリヤを襲っていく。
「可哀想に、疲れたろう?すぐに楽にしてあげるよ」
少年は短刀を振りながらマリヤへと迫っていく。
マリヤが死を覚悟した時だ。少年とマリヤとの間に銃弾が撃ち込まれたらしい。
マリヤが目の前を見下ろすと、そこには銃弾がめり込まれていた。
マリヤと天使の両方が銃声のした方向を振り向くと、そこには拳銃を構えた円谷圓太郎の姿。
大方、孝太郎か自分の命でも狙いに来たというところだろう。
だが、孝太郎の病室に辿り着くよりも前にこの天使を名乗る異形と遭遇してしまったらしい。彼は驚愕の表情を浮かべている。軍人であるというのに唖然とした表情を浮かべているのがその証拠であろう。
「どういう事だよ。これは……一体、何が起きてやがる」
「キミは見たところ、超越者オーバーロードじゃあないようだね。キミは執行対象外だ。さっさと何処にでも生きたまえ」
「そういうわけにもいかねぇんだよ。その女とはまだ決着を付けてないんでね。悪いけど、退いてもらうぜ!」
圓太郎は拳銃を異空間の中にしまうと、代わりに刀を取り出し、それを両手で握りしめると天使へと斬りかかっていく。
天使はそれを見ると、クスッと口元に微かな笑みを浮かべて言った。
「無駄な事だとわかっているのに、キミも分からない人だなぁ」
天使は圓太郎と共に現れた小さな円盤に向かって人差し指を振るだけでその円盤を消していく。
マリヤも圓太郎もその手腕に目を見張ってしまう。
天使はそのまま短刀を持って圓太郎の元へと飛び込む。
圓太郎の腹に向かってその短刀が突き立てられようとした時だ。
マリヤが大きな声でそれを静止させる。
天使はそれを聞くなり、ゆっくりと短刀を引っ込めて背後を振り向く。
「いやぁ、なにかな?」
「ま、待ってください……あなたは本当に何者なのですか?全能の存在の使徒とは思えません。あなたはもしや、あーー」
「悪魔と言いたいのかな?そりゃあ、一神教の人たちから見たら悪魔に相当するんだろうから、間違っちゃあいないけどね」
マリヤはそれを聞いて衝撃を受けてしまう。軽いショックによりまたもや彼女の体が固まってしまう。自分の知る悪魔の存在とあまりにもかけ離れてしまっているからであろう。
目の前の少年は天使そのものではないか。
マリヤの口から言葉が出ないでいると、天使はまさしくその単語に似つかわしいこの世のものとは思えないほどの美しい笑顔を浮かべてマリヤへと迫っていく。
「キミをあの世へと導く前に一つだけ教えておこう。ぼくが天使だという事だけは間違っていないよ。なにせ、ぼくはいいや、ぼくはオリュンポスの神々の忠実なる信徒であり、人類に幸福をもたらすためにこの地上に遣わされた天使なんだから」
マリヤも圓太郎もなにも言えずにただただ天使を凝視していた。武器を握る気力すら起きない。魔法を使って対処する事など不可能だろう。
なにせ、先程から力が入らないのだ。恐ろしい事であるが、この天使には何もできずにいるのだ。
二人はさながら『蛇に睨まれた蛙』の状態にあった。このままでは目の前の天使に成す術もなく殺されてしまうだろう。
マリヤは既に死を受け入れたのか、両手を組んで天使の前に跪いて祈りを捧げていく。
対して、圓太郎はマリヤのその姿を見つめるのと同時に自分のうちに激しい怒りが湧いてくる事に気が付く。
どうして、自分たちはみすみすと殺されなくてはならないのか。
どうして、自分たちは『人』というだけで『天使』に理不尽にも殺されなくてはならないのか。
圓太郎は近くに落ちていた自身の刀を拾い上げると、そのまま両手で構えて天使へと斬りかかっていく。
天使は振り返る事なく、短刀を握った手だけで防ぐと、そのまま振り返る事もなく、彼の腹に向かって大きな一撃を喰らわせていく。
圓太郎は悶絶した後に大きく吹き飛ばされて、地面の上を転がっていく。
「あぁ、可哀想に、でも、もうそこでじっとしていたら、襲わないから、安心してね」
笑顔で安全を保証する天使。その笑顔が彼は妙に憎らしかった。
だからこそ、彼はそれに反発するかのように自身の分身である小さな円盤を向かわせていくのだ。
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