破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
24 / 112
ニュー・メトロポリス編

パトリオットUFOーその③

しおりを挟む
「さん!孝太郎さんしっかりしてください!」
孝太郎はその言葉で慌てて体を起こす。
「ハッ!?ここは!?」
孝太郎のその問い掛けに真上で見守っていたマリヤが答えた。
「病院です。円谷に殴られた時にあなたは気絶して、ここに運ばれたんですよ」
「……そうか、すまなかったな」
孝太郎は自身の不甲斐なさを謝罪する。
「いいえ、仕方ありませんよ。それよりも、孝太郎さん……今後はどうなさるおつもりですか?」
マリヤの問い掛けに孝太郎は答えられなかった。当然だろう。適切な答えが思い付かないのだから。
孝太郎は返答の代わりに慌てて病床の上から起き上がり、ロッカーにしまってあった茶色のスーツとコートとを手に取る。
「孝太郎さん!傷に響きますよ!無茶はやめてください!」
マリヤは慌てて静止したのだが、間に合わなかったらしい。
顔と腹との両方を抑えて孝太郎はその場に蹲っていく。
マリヤはそんな孝太郎の背中を優しく摩っていく。
「無茶はいけません……今は休んでください」
マリヤは聖母を思わせるような優しい声で孝太郎に向かって告げる。
孝太郎は手を使って彼女を静止させようとしたが、そのまま倒れてしまいそれどころではない。
マリヤは絶叫して医師と看護師を呼ぶ。
結果として、孝太郎は三日の安静が義務付けられた。
病床の上で孝太郎はようやく口にしたかった質問を口にする。
「姉貴は?他のみんなは?」
「折原さんや他のみなさんは逃亡した円谷圓太郎を追ってます。代表して、私があなたを病院に連れて来たんです」
「……そうか、ありがとう」
孝太郎はぶっきらぼうな口調で告げるとベッドの中に潜り込む。
そして、夢で見た光景の事を思い返していく。
あれは確かに日露戦争の天王山、旅順攻略戦の最中であり、そこに居たのはかつての自身の主人である鬼麿とロシアの魔女なる集団である。
あの魔女は妖艶でそれでいて、美しい香りが漂よわせる絶世の美女であった。
思わず生唾を飲み込むほどに綺麗であった。
孝太郎がその事を思い返していると、その魔女が誰かに似ている事を思い返していく。
だが、思い出せない。一体誰なのだろうか。
孝太郎のその思案は他ならぬロシアの司教の言葉によって遮られてしまう。
「孝太郎さん……やはり、私はあなたの前世を教えておきたいです。宇宙囚人号船の戦いにしろ、今回の戦いにしろ、あなたは無茶をし過ぎです。少しでもそれを抑えるために前世の事を教えておくのは悪い事ではない気がするのです」
マリヤ曰く孝太郎の前世は暗黒の中世ヨーロッパにおける小国に四騎士の一人、盾の騎士であったという。
盾の騎士は白雪姫スノー・プリンセスに嵌められ、強姦の冤罪を掛けられ、追放されたものの、追放された先で一人の少女を奴隷商の男の元から購入し、自らの忠実な剣にしたという。
なんでも、盾の騎士は剣術に優れておらず、また、どれだけ鍛錬を続けても剣の腕が上がらなかった事から、自分の代わりに敵を攻撃する相手が必要だった事から彼女の事をそう呼んでいたらしい。
他の三騎士たちからは少女を奴隷として扱っているという事にただならぬ非難を受けたらしい。
当時としては奴隷は正しい考え事であり、また、盾の騎士自体は彼女を奴隷ではなく、殆ど恋人のように扱っていたという事であるから、彼らの「少女を蹂躙している」という非難は言い掛かりに等しい。
盾の騎士と少女は『波』と呼ばれる異国の軍隊の襲来や内部における陰謀との戦いやスノープリンセスとの戦いで活躍し、最後にはクーデターを起こしたスノープリンセスと槍の騎士とを打倒し、最後には国王とその妃として平穏に過ごしたという。
「知ってるぞ『盾の騎士の英雄譚』だろ?世界的に有名な騎士道物語で、欧州じゃあアーサー王物語に並んで読まれてる話だろ?」
「子供はまず、性悪王女が登場する白雪姫スノープリンセスの方を読んでいるらしいですが」
「じゃあ、オレは平穏無事に生涯を終えるはずだろ?いや、待てよー」
孝太郎は『盾の騎士の英雄譚』のその後の物語を思い返していく。『盾の騎士の英雄譚』にはつい最近になって発掘された続きがあり、盾の騎士が治める小国は結局、最後にはフランスとイギリスとの間に戦争に巻き込まれて滅亡するという物語が発見されたのだ。
その上、戦争で王となった盾の騎士はフランスに殺される。
最後は民を守るために弓矢で射殺されたという。その傍にいたのは奴隷であり彼の愛する妃である少女であったという。
「もう分かりましたよね?私はあなたには前世と同じ道を歩んで欲しくないんです。お願いです!誰かを守るというのは素晴らしい事ですが、そのためにあなたが命を散らしてどうするんですか!?」
マリヤは拳を強く握り締めながら孝太郎に向かってそう投げ掛ける。
だが、孝太郎は何処か遠い目でベッドの端を眺めている。
暫くの沈黙の後に孝太郎はマリヤに向かって問い掛ける。
「なぁ、マリヤ……確か、少し前のテレビのワイドショーで大樹寺の前世は盾の騎士を嵌めた白雪姫スノープリンセスだと言ったよな?」
「ええ、それがどうかしましたか?」
「いや、オレと大樹寺との因縁は前世からなんだと思ってな」
「孝太郎さん、先程の話はそんな事のーー」
「分かってる。マリヤがオレを止めたいのも、オレに無茶をして欲しくないんだろ?」
マリヤは真剣な顔を浮かべて首を縦に動かす。その顔には一点の曇りもない。
彼女の決意を感じ取った孝太郎は彼女に合わせて微笑を浮かべて首を縦に動かす。
「分かったよ。なるべく無茶はしないようにする。これ以上、姉貴やあんたに迷惑をかけたくはないからな」
「ありがとうございます。孝太郎さん」
マリヤは丁寧に頭を下げるとそのまま病室を後にする。
三日の間は孝太郎不在で捜査が進むだろう。マリヤがそのまま病室を後にすると、彼女の前に古代の絵画から出てきたような弓と矢を持った天使が姿を表す。
ニコリと微笑む天使の姿にマリヤもつられて笑顔になってしまう。
両者は暫くの間、睨み合うどころか第三者が蕩けるような笑みを浮かべて微笑み合う。
やがて、マリヤの口の筋肉が辛くなり始めた頃だ。
不意に目の前の天使が口を開く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

アビリティーズ — 異能力者の世界 

才波津奈
ファンタジー
ある日、いつものバイトの帰り道で自分の前を歩く、自分そっくりの男に気づいた俺。それをきっかけに不思議な現象に見舞われ、やがてそれは現象ではなく能力へと昇華していく。 能力の価値に気づいた俺は、その力を駆使して、己の代わり映えのしない人生を変え始める。オンラインのゲームやポーカーで面白いように結果を出し、俺の人生は一変したかのように思われた。 そんなある日、俺は自分の後をつける一台の車に気がついた… 2023年2月 "小説家になろう"掲載作を一部修正

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...