破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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ニュー・メトロポリス編

パトリオットUFOーその③

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「さん!孝太郎さんしっかりしてください!」
孝太郎はその言葉で慌てて体を起こす。
「ハッ!?ここは!?」
孝太郎のその問い掛けに真上で見守っていたマリヤが答えた。
「病院です。円谷に殴られた時にあなたは気絶して、ここに運ばれたんですよ」
「……そうか、すまなかったな」
孝太郎は自身の不甲斐なさを謝罪する。
「いいえ、仕方ありませんよ。それよりも、孝太郎さん……今後はどうなさるおつもりですか?」
マリヤの問い掛けに孝太郎は答えられなかった。当然だろう。適切な答えが思い付かないのだから。
孝太郎は返答の代わりに慌てて病床の上から起き上がり、ロッカーにしまってあった茶色のスーツとコートとを手に取る。
「孝太郎さん!傷に響きますよ!無茶はやめてください!」
マリヤは慌てて静止したのだが、間に合わなかったらしい。
顔と腹との両方を抑えて孝太郎はその場に蹲っていく。
マリヤはそんな孝太郎の背中を優しく摩っていく。
「無茶はいけません……今は休んでください」
マリヤは聖母を思わせるような優しい声で孝太郎に向かって告げる。
孝太郎は手を使って彼女を静止させようとしたが、そのまま倒れてしまいそれどころではない。
マリヤは絶叫して医師と看護師を呼ぶ。
結果として、孝太郎は三日の安静が義務付けられた。
病床の上で孝太郎はようやく口にしたかった質問を口にする。
「姉貴は?他のみんなは?」
「折原さんや他のみなさんは逃亡した円谷圓太郎を追ってます。代表して、私があなたを病院に連れて来たんです」
「……そうか、ありがとう」
孝太郎はぶっきらぼうな口調で告げるとベッドの中に潜り込む。
そして、夢で見た光景の事を思い返していく。
あれは確かに日露戦争の天王山、旅順攻略戦の最中であり、そこに居たのはかつての自身の主人である鬼麿とロシアの魔女なる集団である。
あの魔女は妖艶でそれでいて、美しい香りが漂よわせる絶世の美女であった。
思わず生唾を飲み込むほどに綺麗であった。
孝太郎がその事を思い返していると、その魔女が誰かに似ている事を思い返していく。
だが、思い出せない。一体誰なのだろうか。
孝太郎のその思案は他ならぬロシアの司教の言葉によって遮られてしまう。
「孝太郎さん……やはり、私はあなたの前世を教えておきたいです。宇宙囚人号船の戦いにしろ、今回の戦いにしろ、あなたは無茶をし過ぎです。少しでもそれを抑えるために前世の事を教えておくのは悪い事ではない気がするのです」
マリヤ曰く孝太郎の前世は暗黒の中世ヨーロッパにおける小国に四騎士の一人、盾の騎士であったという。
盾の騎士は白雪姫スノー・プリンセスに嵌められ、強姦の冤罪を掛けられ、追放されたものの、追放された先で一人の少女を奴隷商の男の元から購入し、自らの忠実な剣にしたという。
なんでも、盾の騎士は剣術に優れておらず、また、どれだけ鍛錬を続けても剣の腕が上がらなかった事から、自分の代わりに敵を攻撃する相手が必要だった事から彼女の事をそう呼んでいたらしい。
他の三騎士たちからは少女を奴隷として扱っているという事にただならぬ非難を受けたらしい。
当時としては奴隷は正しい考え事であり、また、盾の騎士自体は彼女を奴隷ではなく、殆ど恋人のように扱っていたという事であるから、彼らの「少女を蹂躙している」という非難は言い掛かりに等しい。
盾の騎士と少女は『波』と呼ばれる異国の軍隊の襲来や内部における陰謀との戦いやスノープリンセスとの戦いで活躍し、最後にはクーデターを起こしたスノープリンセスと槍の騎士とを打倒し、最後には国王とその妃として平穏に過ごしたという。
「知ってるぞ『盾の騎士の英雄譚』だろ?世界的に有名な騎士道物語で、欧州じゃあアーサー王物語に並んで読まれてる話だろ?」
「子供はまず、性悪王女が登場する白雪姫スノープリンセスの方を読んでいるらしいですが」
「じゃあ、オレは平穏無事に生涯を終えるはずだろ?いや、待てよー」
孝太郎は『盾の騎士の英雄譚』のその後の物語を思い返していく。『盾の騎士の英雄譚』にはつい最近になって発掘された続きがあり、盾の騎士が治める小国は結局、最後にはフランスとイギリスとの間に戦争に巻き込まれて滅亡するという物語が発見されたのだ。
その上、戦争で王となった盾の騎士はフランスに殺される。
最後は民を守るために弓矢で射殺されたという。その傍にいたのは奴隷であり彼の愛する妃である少女であったという。
「もう分かりましたよね?私はあなたには前世と同じ道を歩んで欲しくないんです。お願いです!誰かを守るというのは素晴らしい事ですが、そのためにあなたが命を散らしてどうするんですか!?」
マリヤは拳を強く握り締めながら孝太郎に向かってそう投げ掛ける。
だが、孝太郎は何処か遠い目でベッドの端を眺めている。
暫くの沈黙の後に孝太郎はマリヤに向かって問い掛ける。
「なぁ、マリヤ……確か、少し前のテレビのワイドショーで大樹寺の前世は盾の騎士を嵌めた白雪姫スノープリンセスだと言ったよな?」
「ええ、それがどうかしましたか?」
「いや、オレと大樹寺との因縁は前世からなんだと思ってな」
「孝太郎さん、先程の話はそんな事のーー」
「分かってる。マリヤがオレを止めたいのも、オレに無茶をして欲しくないんだろ?」
マリヤは真剣な顔を浮かべて首を縦に動かす。その顔には一点の曇りもない。
彼女の決意を感じ取った孝太郎は彼女に合わせて微笑を浮かべて首を縦に動かす。
「分かったよ。なるべく無茶はしないようにする。これ以上、姉貴やあんたに迷惑をかけたくはないからな」
「ありがとうございます。孝太郎さん」
マリヤは丁寧に頭を下げるとそのまま病室を後にする。
三日の間は孝太郎不在で捜査が進むだろう。マリヤがそのまま病室を後にすると、彼女の前に古代の絵画から出てきたような弓と矢を持った天使が姿を表す。
ニコリと微笑む天使の姿にマリヤもつられて笑顔になってしまう。
両者は暫くの間、睨み合うどころか第三者が蕩けるような笑みを浮かべて微笑み合う。
やがて、マリヤの口の筋肉が辛くなり始めた頃だ。
不意に目の前の天使が口を開く。
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