破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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ニュー・メトロポリス編

パトリオットUFOーその①

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西暦2327年、ギリシアにて。
「な、なんだ!あの円盤は!?」
「わ、わからない!わからない……だが、あれは化け物だ!」
反王制を掲げてるテロリストに属する二人の男はそのまま逃亡を試みるが、それは肝心の円盤が許さない。
小さな円盤は二人の男を捕らえるのと同時にその小さな体から生じる小さなレーザー光線を男たち二人に一気に照射していく。
男たちは武器を取り出す暇も魔法を使う暇さえも与えられずに短い悲鳴を上げて地面の上に倒れ込む。
男はそれを見届けると、死体を見下ろしてその正体を確認する。
「こいつらだ。反王制テロリストの正体は……いや、そればかりではない、二年前の日本におけるテロもこいつらの仕業だったか」
この二人の男は日本とギリシアの関係を悪化させるべくギリシアの極右団体を名乗って爆破テロを起こした男たちであったのだ。
だが、警察の捜査により正体が分かるのと同時に島和夫准将率いる特殊部隊がギリシアに派遣され、ギリシャ王国の警察や軍隊と合同戦線を貼り、テロリストを倒す計画を練っていたのだ。
彼は島和夫の部隊に配属されていたので、テロリストの掃討に一役を買ったのだった。彼は島和夫の忠実な部下であった。彼はテロリストの処理を島に報告すると、島は礼を述べる。
「ありがとう、円谷中尉……キミのお陰でテロリストを一掃する事に成功した。これで、日本やギリシアの人々も安全に暮らせるだろう」
「礼など……私はあなたの部下として当然の事をしたまでです」
「いや、感謝する。キミたちは本当に命懸けで国や国民のために尽くしている。それなのに、国はどうだ?我々にはなんの保障もしていないではないか?」
島は鋭い目で空を眺めながら尋ねる。はたして、島の両目に映っている人物の名前は誰なのだろうか。大統領か。はたまた首相か。
それはこの時点では圓太郎には分からぬことであった。
彼はこのギリシアでの任務の後に別の部隊へと移動させられ、二度と島の下に就く事はなかった。
この二年後、2329年に彼は島が軍の待遇改善要求を動機に部下を引き連れ、軍基地に立て篭もり、クーデターを起こした事を知る。
やがて、その事件が中村孝太郎率いる白籠市のアンタッチャブルの面々により阻止された事を知るのだが、彼は島の死を酷く痛感すると共に島を殺すに至らしめた中村孝太郎へと激しい憎悪を募らせていく。
時は流れ、2331年。
今、現在は自らの意思で軍そのものから距離を置き、その軍の反乱分子である紅兵庫少将の指揮下にある。
その圓太郎にとって中村孝太郎とその一党は仇であると同時に今現在自分たちの夢を壊そうとするという二重の意味で忌まわしい敵であった。
圓太郎がわざわざホテルに入るなり、声を掛けたのもそこが直結していたに違いない。
孝太郎は焦る素振りも見せずにゆっくりと振り返ると、極めて冷静な口調で告げる。
「お前か?昨日、オレを襲ったのは?」
単純な事実確認である。圓太郎はそれに躊躇う事なく答える。
「その通りだ。オレの名前は円谷圓太郎!貴様に殺された島和夫准将の元部下よ!」
圓太郎は憎しみを含めた棘のある口調でそう叫ぶと、そのまま小さな円盤を周囲に漂わせて孝太郎の元へと向かっていく。
どうやら、突撃して一気に決めるらしい。孝太郎は自身に防御魔法を身に纏わせると、圓太郎を迎え撃つべく駆け出していく。
途中、頭上から円盤による壮絶な攻撃が発生したものの、彼は自らが身に纏ったバリアでそれを弾きながら真っ直ぐに圓太郎の元へと向かっていく。
孝太郎は圓太郎の前に辿り着くのと同時に彼の右頬に向かって強烈な一撃を喰らわせる。
軍人の彼でも耐えられなかったのだろうか。彼は悲鳴を上げる暇もなく地面の上にノックアウトされた。
そのまま孝太郎は馬乗りになり、彼の両手を掴む。
孝太郎は円谷圓太郎の身を確保せんと試みたのだ。
だが、圓太郎とて軍人。そう易々と負けるものではない。
圓太郎は腕を一本離すと、そのまま孝太郎を強く殴る。孝太郎は悲鳴を上げたものの、馬乗りの姿勢を崩そうとはしない。あくまでも彼を逮捕せんという執念の元で彼と戦っていた。
が、それでも先程受けた攻撃のダメージは相当のものだったのだろう。
とうとう両腕の拘束を外させる事になってしまう。彼は自由になった両腕でそのまま孝太郎の顔を強く掴んで、自身の元に引き寄せると、彼の顔に強烈な一撃を喰らわせる。
孝太郎の顔が強く痺れた。孝太郎は予想外の一撃に悲鳴を上げて顔をよろけさせる。
その彼の顎を圓太郎は強く叩き、彼の体を離させる事に成功する。
そして、逆に孝太郎を押し倒し、孝太郎の額に銃口を突き付ける。
「う、ぐっ……」
「中村孝太郎!島閣下の仇だッ!ここで死んでもらうぞ!」
冷えた銃口が孝太郎の額を通して全身へと伝わっていく。恐怖のために悪寒が全身から伝わってくる。
魔法を使う暇もない。武器を取り出事など論外だろう。
このまま死ぬ……。孝太郎が覚悟して両目を閉じると、その男の前に一本の短刀が飛ぶ。
圓太郎が音のした方向を振り向くと、そこには険しい表情を浮かべたマリヤ・カレニーナの姿があった。
「お待ちなさい!あなた!あなたが何者かは知りませんが、あなたからはよくない匂いを感じます!」
「奇遇だな、オレの方こそ貴様が何者かを知りたい。少なくとも、貴様は三年前……いや、つい最近まで中村孝太郎の側には居なかった。貴様は何者だ?」
「私の名はマリヤ・カレニーナと言います。ロシア正教会の司教であり、白籠署公安部の刑事です」
「あんた、尼さんなのか?オレは坊主を殺す気はない。悪い事は言わんから、ロシアにでもどこにでも帰るがよい」
「……私はあなたの名前を知りません。あなたと孝太郎さんとの間にどのような因縁があったのかもわかりません。ただ、あなたが今私に警告してくれたように私からも警告させていただきます。あなたはこのまま冥府魔道の道を行くのならば、前世と同じ道を辿る事になりましょう」
それを聞いた圓太郎は大きな声で笑う。一通り笑い終えた後に真剣な顔でマリヤへと向き直る。
「笑止ッ!我は軍に入りしその日よりただ民を国を守るためだけに生きてきた身!元より覚悟の上ぞ!」
マリヤは日本には侍がいるという話を聞いた事がある。彼は恐らく善人の類ではないのだろう。だが、その気概からは武士の魂というものをマジマジと感じさせられた。
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