破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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デストロイ・メトロポリス編

囚人号船の戦闘ーその⑤

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「今、日本は危機にあります。そんな時に何を馬鹿げた事を仰っておられるのです!」
「大丈夫よ。天上のゼウス神はこの戦い日本が勝つと仰られているわ。それよりも私が回避したいのはよ」
「この先ですと?」
狭い部屋の中、煌びやかで派手な将校服を着た中年の男は日本を裏で動かしているという白色のドレス姿の若い顔の女の言葉に思わず首を傾ける。
だが、中年の男の困惑など知った事ではないと言わんばかりに女は鼻で笑う。
女は臀部にまで届きそうな長い黒髪をたなびかせた後に中年の男に向かって告げる。
「あなたには関係がない話だわ。それが起きる前にあなたは夭折する事になろうでしょうからね。けどね、あなたの後を生きる世代にこれは必要なのよ。完璧な体を媒介として、この世に現れる神々がね」
若い女は勝ち誇った様な顔を浮かべて笑う。
「十二のオリュンポスの神々を地上に招き、その力と威光を持って各国を跪かせる。ロシアの皇帝もイギリスの国王もドイツの皇帝もフランスの皇帝さえも跪く絶対的な権威……それが『神』なのよ。見ていなさない。今は無理だけれども、いずれ、この地上に現せてやるわ」
若い女の顔は恍惚としており、そのまま興奮を抑え切れなかったのか、その両手を頬に当て、体をくねらせていく。
そして、その態勢のまま大きな笑い声を上げていく。その狂気じみた笑顔は途切れる事なく続いたという。











「貴様、約束を破るのか!?」
「貴様に教える情報などない。神を自称し、人の命を弄ぶ貴様に与える情報などない」
同じ事を繰り返し二度も告げたのが功を奏したらしい。ゼウスの表情はたちまちのうちに見た事もない怒りへと変わっていく。
ゼウスは孝太郎の胸ぐらを掴むと、そのまま壁へと勢いよく彼を押し付ける。
「舐めるなよ。小僧……オレを誰だと思っている?貴様、先程は供物を捧げる代わりに願いを叶えろと言ったな。ワシは先に願いを叶えた。だが、貴様はそれを破った。約束を破るのはどうなんだ?」
「……人間っていうのは気紛れな生き物でね。意見をコロコロ変えるんだ。例えそれが神相手でもな」
孝太郎のその言葉はますますゼウスの怒りを買ったらしい。眉間に大きく皺を寄せ、今度は無言で手に持っていた武器を突きつけていく。
孝太郎は唇の舌を噛み締めながら、この場の打開策を頭の中で思案していく。
こういう時こそ、冷静クールになるのが自分だろう。孝太郎は焦る気持ちを抑え、そう自分に言い聞かせていく。
そんな時にふとゼウスの体を観察すると、体の中央部に僅かに隙間が生じている事に気が付く。
どうやら、先程の小太郎との戦闘の際に付いたらしい。あの僅かな隙間に攻撃を仕掛ければ、ゼウスは地面に落とした煎餅の様に粉々になって砕けてしまうのではないだろうか。
いずれにせよ、試してみる価値はあるだろう。孝太郎は体をバタつかせてゼウスの前からほうほうの体で逃げ回ると、そのままレーザーガンを体の僅かな隙間へと突き付ける。
だが、ゼウスはあの攻撃で生じた弱点をハッキリと理解していた。また、あらゆる魔法を破壊する孝太郎の魔法の特性も“何故か”知っていたらしい。
ゼウスは脇腹にてレーザーガンを突き付ける孝太郎に向かって三叉の槍を孝太郎に突き刺そうと目論む。
孝太郎はそれを転がる事で避ける。が、ここで流石に体力も大幅に消耗されたのか、口から荒い息が溢れていく。
いや、そればかりではない。体にガタが付いて、体が動かない。いや、言う事を聞かないというべきだろうか。
その場で膝をついてしまう。
「あぁ、孝太郎さん!」
倉本明美の悲鳴が囚人号船の中に轟く。
「なんという事なの……やはり、あれは神よ。人間が太刀打ちできる存在じゃあないのよ」
マリヤは司教らしく十字を切り、ゼウスに対して祈りを捧げていく。
小太郎との戦いで体力を消費している上に、ゼウスの動きを見極める事もできない自分は今、ろくに戦う事もできない。
だから、祈りを送る事しかできないのだ。
それは他の囚人や看守たちも同様である。もはや絶対的な神の前に敵味方は関係ない。
孝太郎が負ければ、この場にいる全員がゼウスの雷を甘んじて受けなければならないのだ。
全員の顔に暗雲が停滞のするのと同時に、孝太郎は全員の闇を打ち払うかの様に宙に向かってレーザーを発射する。
全員の視線がレーザーのした方向、即ち孝太郎へと向けられていく。
そこには歯を食い縛りながらも、ゼウスの繰り出す雷や雪豹、氷柱を魔法で破壊しながら、彼の懐へと潜り込もうとする孝太郎の姿があった。
どうやら、最後の力を振り絞ってゼウスを倒さんと試みたのだろう。
彼は体の限界など知る事なく、ゼウスへと特攻していく。
孝太郎は最後に三叉の槍を掻い潜ると、そのままゼウスの少し体の剥がれた体の前へと現れる。
驚いたのはゼウス。彼は大きめを見開き、唸り声を上げる。
孝太郎としてはゼウスが驚こうが泣き喚こうが、容赦なくレーザーガンを発射する予定であった。
孝太郎は大きな声を上げて引き金を引く。
ゼウスは何かを言う間も無く、体に電流を走らせて、体のあちこちで小規模な爆発を発生させていく。
そして、そのまま地面の上に倒れ込む。
ゼウスの機能が停止されるのと同時に、孝太郎も地面の上に倒れ込む。
そんな孝太郎の元にマリヤや明美は慌てて駆け寄っていく。
が、せっかく二人がそばに寄って行っても孝太郎は起きる気配を見せない。
余程、大きく体力を消耗したのだろうか。
マリヤは優しく孝太郎を抱き起こすと、彼の髪をかき分け、優しく彼の頭を撫でていく。
「お疲れ様です。孝太郎さん。今はゆっくりと休んでください」
マリヤの声は意識を深い闇の底へと落とした孝太郎の耳には届いていない筈である。
けれども、マリヤの目には孝太郎が口元に微かな微笑を浮かべた気がした。
安心しろ、と言わんばかりの優しい笑顔を。
マリヤはそんな孝太郎に優しさに感謝して反応がないはずの孝太郎に微笑み返す。
それから、マリヤは携帯端末を利用して表の警察官たちに連絡を取る。
数分後にマリヤの連絡を受けた警察官たちが慌てて武装して駆け付けた。
ここにようやく宇宙囚人号船が占領されるという事件は終わりを迎えたのだ。
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