上 下
12 / 109
デストロイ・メトロポリス編

囚人号船の戦闘ーその②

しおりを挟む
孝太郎は確実に小太郎を撃ち抜くために構えた筈である。
が、どうした事だろう。彼が射抜いたのは地面のみである。肝心の風魔小太郎はピンピンとしているではないか。
だが、幸いにもマリヤはその場から離れている。小太郎もそれを追う気配はない。それどころか、壁にもたれかかり休息のような動作を始めていた。
当分、マリヤの事は心配はいらないだろう。
孝太郎が安堵して胸を撫で下ろしていると、周りにゾンビのように自我を奪われた看守たちが集まってきていた。
「……クソ、しまったッ!」
「誤算だったなぁ。孝太郎さんよぉ~」
そう笑い掛けるのは富永の姿。富永は手に持っていたビームライフルを構えながら言った。
「あんたはあの金髪女の方に意識を向けている場合じゃあなかったわな。これであんたはこのままあんたはお陀仏って寸法さ」
(レーザーでは相手の銃を弾き飛ばすのは難しい。奴め……考えたな)
孝太郎の心を読んだのか、富永はニンマリとした笑顔を浮かべて指を鳴らす。
すると、多くの看守たちが素手のまま孝太郎に向かっていく。
「行け!看守ども!その男を絞め殺せ!」
自分の手は汚さずに洗脳した人が手を汚すところを眺め楽しむ富永の姿は孝太郎には醜悪そのものに映った。
剣闘士の殺し合いや罪人の公開処刑を昼食を片手に楽しむローマ市民もこのような気分だったのだろうか。
富永はさしずめその市民たちの中心で踏ん反り返るローマ皇帝のような気分だったに違いない。
いや、さながらよくあるSF作品など見かけるロボットとロボットとをボタン一つで戦わせて楽しむ、そんな安っぽい悪党かもしれない。
どちらにせよ、富永という男は救いようのない男であるに違いない。
孝太郎は三年前、自身の地元白籠市で、彼と同じ苗字を持つ男を逮捕した記憶がある。あれはイタリアのボルジア家に依頼されて、イタリアから亡命してきた女性を助ける際の戦いだっただろうか。
あの男も中々に救い難い人物であった事は記憶している。
あの時はレーザーガンは用いなかったが、今回は状況も場所も違う。
同じ富永とは開放的な場所で戦っていたが、今戦っているのは閉鎖されている空間。
加えて、今対峙している富永は洗脳系の魔法を使用している。
相手も魔法も違う状況であの時の富永との戦いは良いデータにはならないだろう。
孝太郎は『ブラックホール』の魔法を使う富永との戦いを脳内のコンピューターの中から一時的にデータを外すと、右手を構えて目の前から迫り来る看守たちを睨む。
そして、そのまま無言で右手を大きく振り下ろす。すると、どうだろう。看守たちの魔法は煙が分散したかのように立ち消え、彼らの瞳に光が宿っていく。
「ば、バカな!?オレの魔法が破られただと!?」
「オレの魔法は現象、物質関係なしになんでも破壊する魔法だからな……貴様の洗脳を破壊してなかった事にするなど造作もないさ」
孝太郎はそう言うと同時に、富永の足下に目掛けてレーザーを放つ。
富永はそれを見てすっかりと両肩を竦めてしまう。
小さな悲鳴を上げた彼は尻餅を突き、顔を青く染め上げていく。
だが、次第にその顔は赤のペンキで塗りたかったかのように赤く染め上げられていく。
見る人が見れば、彼の顔からは大きな湯気が立っているのが見えたかもしれない。
富永はそれ程までに激昂していたのだ。サバンナに住む肉食獣のような雄叫びを上げて彼は孝太郎には対して拳を振り上げていく。
「テメェのせいだッ!テメェさえ現れなけりゃあ、オレは上手くいってたんだ!全部テメェのせいだ!ざけんな!オレの人生を返しやがれ!」
だが、孝太郎は動じない。眉一つ動かそうとしない。その様子に更に苛立った富永は狂人を思わせる動作を見せながら、孝太郎の顔目掛けて拳を振るっていく。
この拳は多くの人を黙らせてきた。老若男女関係なく黙らせ、自分の言う事を聞かせる最強の武器であった。
孝太郎はそんな最強の武器をもいとも簡単に打ち破ってしまう。孝太郎は富永の発した拳をすり抜けるように交わすと、続け様に彼の繰り出した腕を掴みそのまま一本背負いにして投げ飛ばす。
そして、倒れた富永の顔に自身の拳をめり込ませる。
孝太郎の拳を喰らった富永は悲鳴を上げる間もなく気を失ってしまう。
孝太郎はその場で横になっている富永に向かって言い放つ。
「どうだ?これがお前が人に与えてきた痛みだ。せいぜい、この痛みを忘れずに辺境の惑星で過ごすんだな。そして、一生謝り続けろ」
孝太郎はそれだけ告げると洗脳状態になっていた若い看守の一人に近付き、彼の耳元で囁く。
「あんたは何をしているんだ?あんたは看守の筈だろ?それなのに、今更ビームライフルなんぞを恐れてるのか?しっかりしろよ。あんたは市民の安全を保証する宇宙囚人号船の看守なんだぞ」
その若い看守は孝太郎の言葉を聞くと、それまでの怯え切った表情を引っ込め、武器を持った囚人の一人に飛び掛かり、彼の手からビームライフルを奪う。
そして、そのまま銃尻で囚人の頭を殴り、囚人の意識を奪うと仲間たちに向かって先程、孝太郎が囁いた言葉と殆ど同じ言葉を叫んでいく。
武器を手にした囚人たちは勇気ある若い看守に続いて囚人たちへの反撃を試みていく。それに孝太郎の仲間の一人である倉本明美が加わったのも大きかったに違いない。
小柄な彼女が勇気を出して挑む様を見て鼓舞された看守たちは少なくなかったに違いない。
この場合、慌てたのは囚人たちの方だ。
咄嗟の出来事であったので判断ができずにオタオタとしている隙を突かれ、武器を奪われて再び立場を逆転されてしまう。
残るのは未だにパソコン室の方で操作を続けているレニーのみだ。
レニーは予想外の事態に頭が付いてこなかったのか、口をパクパクと動かしながら言った。
「ば、バカな……計算ではこのクーデターは絶対に成功する筈だったんだ!!そ、それがまさかこんな結果になるなんて……」
レニーは迫る孝太郎を前に慌ててパソコンを操作して自身の切り札を動かす。
「こ、こうなれば『ゼウス』の出番だ……全人工アンドロイド魔法師の前には流石のあいつだって敵わないだろうさ」
レニーが最後の入力を終えたところで背後に冷たいものが突き付けられた事に気が付く。
「レニーだな?お前の仲間は全て全滅だ。大人しく投降してもらおうか?」
「……分かった。投降しよう。オレはな」
孝太郎が眉を上げる暇もなく、扉を壊す音が聞こえた。
そこには古代の神話の壁画から出てきたような逞しい半裸の老人が三叉になった槍を持って立っていた。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

この広大な世界の中で私とあなたが出会った意味

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

CE 臨床工学技士 医用安全管理学

経済・企業 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

怪談実話 その2

ホラー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:2

ホームステイ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...