上 下
9 / 109
デストロイ・メトロポリス編

風魔小太郎現る!

しおりを挟む
「変だな。携帯端末の反応が見られるぞ、それも電話した後がある」
「おい、レニー、そりゃあーー」
「あぁ、誰かが外に電話した」
それを聞いた服従の魔法の持ち主である富永賢一とみながけんいちは思わず両眉を顰める。
「そりゃあ、既にあの中村って刑事が潜入したという事だろ?ダズの要求にあった」
「あぁ、そうだな。ダズの手引きで入ってきた例の彼……いや、“彼ら”と言った方が正しいかな?」
「んな事ァ、どうでもいい!!問題はダズのバカは何処にいるのかって話だよッ!」
「分からないが、帰ってこないところを見ると……」
レニーの思わせぶりの口調に富永は苛立ちながら天井に向かってビームライフルを乱射していく。
それを見て慌てて止めに入るレニー。
「や、やめてくれ!『ゼウス』が壊れてしまう!!」
それを聞いた富永は慌ててビームライフルを引っ込めた。だが、その銃口は未だに地面を向いていない。
富永が新たに標的としたのは人質としている看守たち。
彼は適当な一人を引っ張り出し、彼の頭をビームライフルの銃尻で強く叩く。
悲鳴を上げて倒れようとする男に向かって富永は引き続き暴力を浴びせていく。
動けない看守を理不尽な暴力で襲い、幾度も振り上げた銃尻を看守の頭にぶつけようとした時だ。
それを背後から止められる。富永が激昂しながら振り返ると、そこには黒装束の衣装を身に纏った男が現れた。
「誰だテメェは!」
「風魔の小太郎と名乗っておくか、本来ならば貴様らを始末しに来たのだが、作戦は変更となった。お前たちよりも先に中村孝太郎とその仲間を始末する」
「中村孝太郎だと……?そうなると、ダズの奴……」
「お前の言う通りだ。中村孝太郎に殺された」
勿論、これはデマだ。小太郎が流した嘘にすぎない。だが、その言葉は現場には居合わせていない、そして、孝太郎本人の信条を知らない囚人たちの戦意を高めるのには十分すぎた。
富永はこの嘘を利用し、周りに集まった囚人たちを鼓舞していく。
囚人たちは富永の激励に答えるのと同時に、各々の武器を看守たちに向けていく。
「仲間を殺された報いだッ!テメェら全員死にやがれ!」
富永が先程まで痛ぶっていた看守相手にビームライフルの銃口を向けた時だ。
同時に、彼の首元に冷たいものを感じた。彼が恐る恐る首を引いて、それを見つめると、途端に彼の顔から血の気が引いていく。
それは怪しく光り輝く日本刀。よく手入れがされているか、少しでも立てて位置を変えれば、富永の首からはおびただしい量の血が噴き出し、彼の生命活動をたちまちのうちに停止させていただろう。
よろめく彼を誘いながら小太郎は言った。
「安心しろ、これでお前を殺したりはしない。もっとも、お前が感情に任せてここの人質を殺したりすればどうなるかはわからんがな」
「わ、わかった!おい、テメェら武器を下ろせ!」
富永の命令と共に全員が武器を下ろす。
富永は一息を吐くと、小太郎を暗がりの中でいもしないお化けを見つめる子供のような目で見つめながら問い掛ける。
「お前、いったい何者だよ?」
「おれか?おれは風魔小太郎」
「そ、そうじゃあなくてーー」
「そうじゃなくて、あんたの正体が知りたいのさ、ミスター・コタロウ。一体、あんたは何者なんだい?」
すっかりと怯え腰になった富永の代わりに答えたのはレニー。
彼は翻訳機ではなく、以前覚えた日本語を懸命に駆使して尋ねたのだった。
だが、懸命な努力にも関わらず、小太郎の態度は変わらない。
「影……とだけでは不足か?」
とだけ答えた。それを聞いた二人はそれ以上何も聞く事なくそれぞれの持ち場へと戻っていく。
小太郎の目には凄みがあった。恐らくそこらのヤクザなど比較にもならないガンだ。それで睨まれてはたまったものではない。
身の危機を感じた二人がそれ以上を尋ねなかったのは当然だろう。
二人はそのまま何も言わずに作業へと戻っていく。
小太郎は中村孝太郎が押し入ってくるその時まで、ここで体を休めようと思案したのだが、それは別のものが許さなかった。
そう、この宇宙囚人移送船の中に意付く人工アンドロイド『ゼウス』である。
ゼウスは壁を通して、その場で刀にもたれながら休息を取る男に尋ねる。
「人間はお前の威圧に怯えるだろうが、おれは違う。お前がどんな人間なのかを説明してもらおうか」
「……断る。忍びがそんなにペラペラと余計な事を話すとても思うのか?」
小太郎の言葉はもっともである。だが、残念な事に機械は融通が効かない。
『ゼウス』は執拗に内容を尋ねていく。
あまりにも煩わしかったのだろう。小太郎は何処からか星形の手裏剣を取り出し、壁に向かって投げる。
その間、僅か一秒。それも壁に組み込まれたコンピュータのメッセージを伝える音響線を確実に破壊していた。
あまりの手際の良さと素早さにその場に居た全員が小太郎を畏怖の目で見つめていた。
だが、肝心の小太郎は安堵した表情を浮かべてその場で体を休めていく。
来るべき決戦の時に備えて……。











「ここだな?宇宙囚人号船の中央部は?」
孝太郎の問い掛けに対し、二人は神妙な顔を浮かべて首を縦に動かす。
「ここには奴らに囚われた宇宙囚人号船の乗組員たちが集まっている。何がなんでもその人たちを助け出すんだ」
二人は何も言わない。その代わりに、全て分かっていると言わんばかりの顔を浮かべて首肯する。
孝太郎は二人の覚悟を見届けると、そのまま扉を蹴破り、囚人号船の中へと押し入る。
「動くな!お前たちを逮捕する!」
孝太郎は拳銃を構えてそう叫んだのだが、囚人たちはニヤニヤとした笑顔を浮かべるばかりで手を挙げる様子もその場に伏せようとする動きも見せようとしない。
反対に彼らはビームライフルや長銃の銃口を向けて孝太郎たちを牽制していく。
中でも富永は既に戦勝気分であったらしく、勝ち誇った様子を浮かべて言った。
「逮捕だと?ちゃんちゃらおかしいぜ、おれからすればな、逮捕されるのはお前たちだ」
「何を寝ぼけた事を抜かしてやがる。おれがこれを外すとでも」
孝太郎は拳銃の銃口を光らせながら告げる。孝太郎はこれまでに幾度も拳銃を利用しての勝負を行ってきたが、その中には今のように大量に銃を突き付けられていた状況もあった。
だからこそ、今回も絶対とまではいかずとも、打破できる自信は心の内にあったのだ。
だが、作戦はものの見事に瓦解した。というのも、孝太郎が持っていた拳銃の銃口がものの見事に真っ二つにされてしまったからだ。
慌てた孝太郎が身を逸らすと、そこには忍刀を持った風魔小太郎の姿。
小太郎はそのまま刀を孝太郎の首元に突き付けると言った。
「死にたくなければ直ちにここから立ち去れ、もし、立ち去らなければ、即座にお前の首を胴から別れさせる」
「断られせてもらおう」
孝太郎はなんの躊躇いもなく言った。このまま刀が孝太郎の首を跳ね飛ばす。
……筈だった。だが、小太郎の刀はマリヤの剣の前に止められてしまい、それ以上は前に動く事はなさそうだ。
孝太郎はそのまま小太郎に蹴りを喰らわせようとしたものの、小太郎は即座に身をこなしてそれを交わし、空中を一回転して背後へ戻っていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

処理中です...