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デストロイ・メトロポリス編

風魔小太郎現る!

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「変だな。携帯端末の反応が見られるぞ、それも電話した後がある」
「おい、レニー、そりゃあーー」
「あぁ、誰かが外に電話した」
それを聞いた服従の魔法の持ち主である富永賢一とみながけんいちは思わず両眉を顰める。
「そりゃあ、既にあの中村って刑事が潜入したという事だろ?ダズの要求にあった」
「あぁ、そうだな。ダズの手引きで入ってきた例の彼……いや、“彼ら”と言った方が正しいかな?」
「んな事ァ、どうでもいい!!問題はダズのバカは何処にいるのかって話だよッ!」
「分からないが、帰ってこないところを見ると……」
レニーの思わせぶりの口調に富永は苛立ちながら天井に向かってビームライフルを乱射していく。
それを見て慌てて止めに入るレニー。
「や、やめてくれ!『ゼウス』が壊れてしまう!!」
それを聞いた富永は慌ててビームライフルを引っ込めた。だが、その銃口は未だに地面を向いていない。
富永が新たに標的としたのは人質としている看守たち。
彼は適当な一人を引っ張り出し、彼の頭をビームライフルの銃尻で強く叩く。
悲鳴を上げて倒れようとする男に向かって富永は引き続き暴力を浴びせていく。
動けない看守を理不尽な暴力で襲い、幾度も振り上げた銃尻を看守の頭にぶつけようとした時だ。
それを背後から止められる。富永が激昂しながら振り返ると、そこには黒装束の衣装を身に纏った男が現れた。
「誰だテメェは!」
「風魔の小太郎と名乗っておくか、本来ならば貴様らを始末しに来たのだが、作戦は変更となった。お前たちよりも先に中村孝太郎とその仲間を始末する」
「中村孝太郎だと……?そうなると、ダズの奴……」
「お前の言う通りだ。中村孝太郎に殺された」
勿論、これはデマだ。小太郎が流した嘘にすぎない。だが、その言葉は現場には居合わせていない、そして、孝太郎本人の信条を知らない囚人たちの戦意を高めるのには十分すぎた。
富永はこの嘘を利用し、周りに集まった囚人たちを鼓舞していく。
囚人たちは富永の激励に答えるのと同時に、各々の武器を看守たちに向けていく。
「仲間を殺された報いだッ!テメェら全員死にやがれ!」
富永が先程まで痛ぶっていた看守相手にビームライフルの銃口を向けた時だ。
同時に、彼の首元に冷たいものを感じた。彼が恐る恐る首を引いて、それを見つめると、途端に彼の顔から血の気が引いていく。
それは怪しく光り輝く日本刀。よく手入れがされているか、少しでも立てて位置を変えれば、富永の首からはおびただしい量の血が噴き出し、彼の生命活動をたちまちのうちに停止させていただろう。
よろめく彼を誘いながら小太郎は言った。
「安心しろ、これでお前を殺したりはしない。もっとも、お前が感情に任せてここの人質を殺したりすればどうなるかはわからんがな」
「わ、わかった!おい、テメェら武器を下ろせ!」
富永の命令と共に全員が武器を下ろす。
富永は一息を吐くと、小太郎を暗がりの中でいもしないお化けを見つめる子供のような目で見つめながら問い掛ける。
「お前、いったい何者だよ?」
「おれか?おれは風魔小太郎」
「そ、そうじゃあなくてーー」
「そうじゃなくて、あんたの正体が知りたいのさ、ミスター・コタロウ。一体、あんたは何者なんだい?」
すっかりと怯え腰になった富永の代わりに答えたのはレニー。
彼は翻訳機ではなく、以前覚えた日本語を懸命に駆使して尋ねたのだった。
だが、懸命な努力にも関わらず、小太郎の態度は変わらない。
「影……とだけでは不足か?」
とだけ答えた。それを聞いた二人はそれ以上何も聞く事なくそれぞれの持ち場へと戻っていく。
小太郎の目には凄みがあった。恐らくそこらのヤクザなど比較にもならないガンだ。それで睨まれてはたまったものではない。
身の危機を感じた二人がそれ以上を尋ねなかったのは当然だろう。
二人はそのまま何も言わずに作業へと戻っていく。
小太郎は中村孝太郎が押し入ってくるその時まで、ここで体を休めようと思案したのだが、それは別のものが許さなかった。
そう、この宇宙囚人移送船の中に意付く人工アンドロイド『ゼウス』である。
ゼウスは壁を通して、その場で刀にもたれながら休息を取る男に尋ねる。
「人間はお前の威圧に怯えるだろうが、おれは違う。お前がどんな人間なのかを説明してもらおうか」
「……断る。忍びがそんなにペラペラと余計な事を話すとても思うのか?」
小太郎の言葉はもっともである。だが、残念な事に機械は融通が効かない。
『ゼウス』は執拗に内容を尋ねていく。
あまりにも煩わしかったのだろう。小太郎は何処からか星形の手裏剣を取り出し、壁に向かって投げる。
その間、僅か一秒。それも壁に組み込まれたコンピュータのメッセージを伝える音響線を確実に破壊していた。
あまりの手際の良さと素早さにその場に居た全員が小太郎を畏怖の目で見つめていた。
だが、肝心の小太郎は安堵した表情を浮かべてその場で体を休めていく。
来るべき決戦の時に備えて……。











「ここだな?宇宙囚人号船の中央部は?」
孝太郎の問い掛けに対し、二人は神妙な顔を浮かべて首を縦に動かす。
「ここには奴らに囚われた宇宙囚人号船の乗組員たちが集まっている。何がなんでもその人たちを助け出すんだ」
二人は何も言わない。その代わりに、全て分かっていると言わんばかりの顔を浮かべて首肯する。
孝太郎は二人の覚悟を見届けると、そのまま扉を蹴破り、囚人号船の中へと押し入る。
「動くな!お前たちを逮捕する!」
孝太郎は拳銃を構えてそう叫んだのだが、囚人たちはニヤニヤとした笑顔を浮かべるばかりで手を挙げる様子もその場に伏せようとする動きも見せようとしない。
反対に彼らはビームライフルや長銃の銃口を向けて孝太郎たちを牽制していく。
中でも富永は既に戦勝気分であったらしく、勝ち誇った様子を浮かべて言った。
「逮捕だと?ちゃんちゃらおかしいぜ、おれからすればな、逮捕されるのはお前たちだ」
「何を寝ぼけた事を抜かしてやがる。おれがこれを外すとでも」
孝太郎は拳銃の銃口を光らせながら告げる。孝太郎はこれまでに幾度も拳銃を利用しての勝負を行ってきたが、その中には今のように大量に銃を突き付けられていた状況もあった。
だからこそ、今回も絶対とまではいかずとも、打破できる自信は心の内にあったのだ。
だが、作戦はものの見事に瓦解した。というのも、孝太郎が持っていた拳銃の銃口がものの見事に真っ二つにされてしまったからだ。
慌てた孝太郎が身を逸らすと、そこには忍刀を持った風魔小太郎の姿。
小太郎はそのまま刀を孝太郎の首元に突き付けると言った。
「死にたくなければ直ちにここから立ち去れ、もし、立ち去らなければ、即座にお前の首を胴から別れさせる」
「断られせてもらおう」
孝太郎はなんの躊躇いもなく言った。このまま刀が孝太郎の首を跳ね飛ばす。
……筈だった。だが、小太郎の刀はマリヤの剣の前に止められてしまい、それ以上は前に動く事はなさそうだ。
孝太郎はそのまま小太郎に蹴りを喰らわせようとしたものの、小太郎は即座に身をこなしてそれを交わし、空中を一回転して背後へ戻っていく。
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