破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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デストロイ・メトロポリス編

人を拐かすピュートンはジュピーターの怒りを持って打ち砕かれるべきであるーその②

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「お前の雷の蛇とやらも大した事がない模様だな」
孝太郎は銃口を突き付けながら言った。
「ま、まだだ!ここで負けたわけじゃあないぞ!」
ダズはそういうと、武器保存ウェポン・セーブと呼ばれる魔法を使用し、そこからビームライフルを取り出す。
余談ではあるが、この人類総魔法師時代において、見えない異空間の武器庫というのは殆どの人間が使えるお手軽な魔法なのである。
ダズは勿論、孝太郎さえこの魔法に頼る事は多い。
もっとも、今回の場合はその魔法により、脅威に晒されつつあるが……。
ダズは危機感を感じたのか多くの機械が並んでいるのにも関わらず、手に持ったビームライフルを乱射し、孝太郎たちの追跡を交わす。
だが、マリヤがそれを許さない。マリヤは逃げようとするダズの目の前に自身の仕込み剣を放り投げて彼を強制的に静止させる。
そして、振り返り、自身の逃亡を防いだ忌々しい相手を睨むダズに向かってマリヤは言い放つ。
「お待ちなさい!私はロシア正教の司教マリヤ・カレニーナ!私にはお前の前世が見えます!」
「お、おれの前世だと!?ふざけた事を抜かすとぶっ殺すぞ!」
「いいえ、ふざけてなどいません!神との結びつきが深い私には本当にあなたの前世が見えるのです!」
マリヤはダズに人差し指を突き付けながら言った。
「お前の前世は二十世紀初頭のロシアで最強のボクサーと謳われたウォルム・シンポリニョムです!」
「ま、う、ウォルム?シンポリニョムだぁ~?」
胡散臭いと言わんばかりの表情で男はマリヤに尋ねる。
だが、マリヤは男に構う事なくウォルム・シンポリニョムの話を続けていく。
ウォルム・シンポリニョムはロシアの森に住む偉大な二人の賢者の孫として育てられたという。
そのままその力の偉大さを知らずに成長したウォルムは祖父母に見送られた後に街に出て、そこで自身の力を誇示していたという。
だが、そこで時の皇帝、ニコライ二世に目を掛けられ、帝室お抱えのボクサーとなってからが彼のケチのつき始めだという。
皇帝の威光を傘に来て、威張り、街にゆけば女を手にかけ、掠奪を楽しんだのだという。
だが、そんな彼に終わりが来たのはロシア革命の時。
彼はセンクト・ペテルブルク陥落の際にスターリンに捕らえられ、シベリア送りにされそうになるものの、途中で汽車を強奪し、当時の赤軍政府に宣戦布告したという。
そこまで聞くと、ダズは笑って、
「ハン、なんだよ。それだけ聞くと、今のおれじゃあねぇか、やっぱり、おれは前世でも英雄なんだな」
「話はそこからです。黙ってお聞きなさい。ミスター」
マリヤによれば、汽車で反乱を起こしたはいいものの、その反乱は鎮圧され、最後にはスターリンの部下であるのと同時に、当時の鎮圧部隊の隊長であったピョートル・サバノビッチの前に引き出され、赤軍の兵士たちにより散々の暴行を受けた後、ピョートルが所蔵していたサーベルコレクションの試し切りのためにその命を落としたのだという。
そこまで聞くと、ダズは冷や汗を垂らして、
「お、おい待てよ、まさか、その前世と同じ事をおれにしようってんじゃあねぇーだろうな?」
「そのまさかです」
マリヤの目は真剣であった。ダズは慌てて悲鳴を上げて逃げ出す。
だが、マリヤはそれを許さない。異空間の武器庫から拳銃を取り出し、それを構えると、躊躇う事なく彼の足元目掛けて撃ち抜く。
彼は慌てて飛ぶと、すっかりと戦意を喪失し、泣き喚く。
マリヤはそんな彼の泣き言になど耳を貸す事なく、地面に突き刺さった自身の剣を抜き、ダズにその剣先を突き付ける。
「人工知能を悪用し、大勢の人を恐怖に陥れるあなたに明日を生きる資格などありません」
マリヤが両手で握ったその剣をダズに向かって振り下ろす。
そのままダズは細切れになる筈であった。だが、現実は違う。
というのも、マリヤの剣は別の誰かの手によってダズに振り下ろされるのを止められてしまっているからだ。
マリヤは自身の剣を防いだ男に向かって問いかける。
「……あなたは何者です?」
「風魔の小太郎……とでも名乗っておくか」
マリヤはその声を聞くのと同時に全身を恐怖で震わせていく。
この世に触れてはいけないタブーに触れた少年や少女のような気分を彼女は感じた。
日本の古来の忍者の名前を名乗る男はマリヤの剣を自身の黒く塗られた刀で弾くと、そのまま彼女を地面の上に押し倒し、彼女に向かって刀の剣先を突き刺そうと試みる。
だが、小太郎の刀が振り下ろされるよりも前に、孝太郎が小太郎に向かって突進を行う事により、その刃は間一髪のところで防がれる。
もっとも小太郎は突進を喰らったわけではない。
真横から孝太郎の気配を感じるのと同時に、その場から飛び上がり、狭い天井があるのにも関わらず、体操選手のようにその場で体を一回転させ、その場を逃れる。
小太郎は何故か唇の周りを舐め回すと、ダズの手を取り、その場から逃れようと試む。
ダズを連れて行かれたのならば看守たちの身の安全にも支障が出るだろう。
孝太郎はそう判断し、即座に拳銃で小太郎なる男を狙う。
だが、弾は小太郎が放った黒塗りの星形の手裏剣により相殺されてしまう。
苦渋の決断として、孝太郎は代わりにダズの足を狙う。
足に強烈な一撃を受けたダズは悲鳴を上げて片手で自身の足を摩っていく。
小太郎はそれを見て舌を打つと、そのまま何処かへと走り去っていく。
「くそッ!逃したか!くそッ!ちくしょう!!」
孝太郎は忌々しげに吐き捨てて、周りの壁を勢いよく蹴り付ける。
同時に二人は顔を見合わせる。倉本明美はこれまでに幾度も孝太郎と凶悪事件解決に奔走してきて、隅から隅まで知っているとはいわずとも他の警察官よりは知っているつもりでいたが、彼がここまで取り乱すのは始めて見たのだ。
それはマリヤも同じだ。以前の事件で、司祭の身で同行していた時、彼は常に冷静沈着に行動していたはずであった。
だからこそ、ここまで彼が取り乱すのは異常な光景に見えた。
放ってはおけない。マリヤは唇をギュッと結んで、暴れる孝太郎の元へと向かう。
そして、神に仕える司祭らしく懺悔を促すような優しい声で告げた。
「中村孝太郎さん、あなたは取り乱してはいけません。あなたにはやるべき事が残っているはずですよ。今は現状を嘆くよりも、この場でやるべき事をなす方が先なのではありませんか?」
孝太郎はマリヤのその言葉を聞いて、黙って首を縦に動かす。
それから、携帯端末を操作する。その予想外の行動に二人は思わず目を見張ったが、次に彼の口から出た言葉で二人はその意味をようやく理解した。
「もしもし、本部ですか?突入の際にはーーの地点に救急班を連れて来てください。ここに怪我人が居ますので」
孝太郎はそれだけを告げると端末の電源を切る。そして、そのまま自身の服の裾を破き、それを止血に充てる。
その処置はテキパキとしていて早かった。
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