破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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デストロイ・メトロポリス編

人々を拐かすピュートンはジュピターの報いを受けて死ぬべきであるーその①

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「あそこだな?看守たちが捕らえられているエリアというのは?」
孝太郎の呼び掛けに二人の仲間が同時に首肯する。
二人の反応を見た孝太郎は安心した表情を浮かべて二人に微かな笑みを口元の端に浮かべた後に中央の部屋へと向かおうとした。まさにその時だ。
孝太郎の目の前に電流が走り、孝太郎は立ち止まざるを得なくなってしまう。
電気が走った場所から慌てて後ろに下がると、孝太郎は異空間の武器庫から拳銃を取り出して、電流のした方向へとその銃口を向ける。
しばしの沈黙。ただ無音の世界が広い宇宙囚人号船の中で広がっていく。
そう思ったら、孝太郎は思わず狭い洞窟に囚われたような感覚に陥ってしまう。
孝太郎が緊張のために思わず生唾を飲み込むのと第二の攻撃が訪れるのは同時であった。
だが、孝太郎は無事である。というのも、先程まで居た場所から突き飛ばされ、その場所で蹲っていたからである。
孝太郎は慌てて背後を振り向くと、そこには脇腹に軽い火傷を負ったマリヤの姿。
どうやら、先程自分を庇ってくれたのはマリヤであったらしい。
当初は妙な浮遊感を感じたかと思うと、次に体中が地面に衝突した衝撃により、その時は何も考えられずに、他の人の事を考える余裕が頭の中から失われていたのだが、どうやら、彼女自身は大した怪我は負っていなかったらしい。
不幸中の幸いというところだろうか。
孝太郎が慌てて彼女の名前を叫ぶと、弱々しい声であったものの、彼女の言葉は返ってきたので一安心といったところだろうか。
孝太郎が一息を入れると、彼はもう一度背後を振り向いて雷を確認する。
今度は例の雷は襲ってこない。だが、あの雷は人為的なものに相違あるまい。
孝太郎が拳銃を構えながら身構えていると、突然目の前から、落胆した声が聞こえた。
「あー、ちくしょー。ようやくあの中村孝太郎を始末できると思ったんだがな……」
彼はそう言って頭をかく。まるで、その姿はつまらない事に行き詰まった暇な学生のようである。
彼の何処からも緊張感や必死さというのが伝わってこない。
そんな男とは対照的に孝太郎は微かに声を震わせながら雷を操る謎の男に向かって問い掛けた。
「貴様は何者だ?」
「ったくうまくいかねーな。せっかく、おれの魔法で忌々しいテメェを始末できると思ったんだがな」
「質問に答えろ!貴様は何者だッ!」
孝太郎は声ばかりではなく男に向かって突き付けている銃までも震わせて尋ねたのだが、男から返ってくるのは気の抜けた返事ばかり。
業を煮やした孝太郎は強く拳銃を握り、男の足に目掛けて引き金を引く。
孝太郎の弾丸は男の足に命中し、男は悲鳴を上げて絶命する筈だった。
だが、男の目の前に蛇のような形をした雷が出現したかと思うと、男に向かって放たれた弾丸へと飛び掛かり、弾丸そのものを焦がし尽くしていく。
男はそれを見ると鼻を鳴らして、
「これがおれの魔法『雷神の寵愛を受けた蛇ピュートン』の威力よ。あの時はお前に散々にやられたが、ここでは貴様にお返しをさせてもらうぜ」
「……そうか、『雷神の寵愛を受けた蛇ピュートン』……思い出したぞ!お前、ダズ・スペクターだな!?」
ダズは口元に薄ら笑いを浮かべて答えた。
「その通り、おれ様こそがダズ・スペクターよ。あの時、おれが受けた屈辱は倍にして返してやるぜ」
「ぬかすな。お前はここでおれに倒されて、しかるべき罰を受けてもらうぞ」
孝太郎は右手に拳銃を構え、左手の掌を開きながら言った。
この時代、魔法師と呼ばれるようになった人類は両手で魔法を繰り出す事が可能となっているのである。
孝太郎は通常、右利きである。故に武器を持つ手は右手ではなくてはならぬ。
孝太郎が片手で銃を使うという暴挙に至ったのは片方の手で魔法を使うという事が由来となる。
だが、孝太郎の魔法はその魔法だけで世界を滅ぼすと裏の世界では噂される強力な魔法であるため、不利になるという事はない。
孝太郎の魔法は破壊。それこそ何もかも壊してしまう魔法なのだ。左手もしくは右手から発せられる破壊の魔法を喰らえば、誰も無事では済まないだろう。
物質は全て破壊し尽くされる魔法なのだ。
ダズはその魔法の事を思い返し、自身が捕まえられた時の事を回顧していく。
あの時は孝太郎が放つ魔法に歯が立たなかったが、今回は違う。
あの時とは違い、今自分はレーザーガン光線銃も手元にある。
古典的な武器である拳銃とは異なり、自分が持つ武器は比較的に軽い。
目の前の刑事が片手で前時代的な拳銃を扱うよりも、こちらの方が早く撃てるはずだ。
ダズにはその確信があった。だが、孝太郎を確実に殺すためには素早く引き金を引くだけではダメだろう。
奴の油断も誘わなくてはなるまい。そのために、ダズは左手の掌を向け、雷の蛇を送り出すように見せかけた。
孝太郎もそれに釣られて、左手の掌を構えた。
その瞬間を狙ってダズは光線銃の引き金を引く。
予定ならば小さな発射口から放たれる熱線が孝太郎の体を粉々に溶かし、ダズの復讐が満たされる筈だ。
だが、孝太郎はバラバラになってはいない。どういう事だろう。
ダスが注意して、孝太郎を凝視すると、孝太郎は未だに左手を下ろしていない。
「ば、バカな!熱線をあの左手でぶっ壊したっていうのか!?そ、そんなのある筈がない!?」
「ところがあるんだ。おれの魔法の特徴はなんでも破壊する事だけにあるからな。レーザーガン光線銃の熱線さえ例外じゃあない」
「バカな、熱線さえ例外じゃあないって事か……」
「ダズ・スペクター。脱獄並びに暴動教唆の容疑でお前を逮捕する」
「ざけるな!捕まってたまるかよッ!」
孝太郎が彼の容疑を改めて口にすると、ダズは逆上し、孝太郎に向かって雷の蛇を放っていく。
それも一匹だけでなく天井を埋め尽くさんばかりの数の蛇を。
「ヒャッハッハッ!!文字通りの全面蛇地獄だ!いかにお前でも仲間を守りながら、この危機を抜けるのは不可能だろう!?」
「いいや、ところが不可能じゃあない。おれならやれるさ」
孝太郎は微笑を浮かべていった。その微笑の裏には確かな確証があった。
孝太郎は二人の仲間を自分の元に集めると、天井から一塊となって自分に向かって降り注ぐ雷の蛇に向かって左手の掌を向ける。
「お前はおれを殺す事に全シフトしていたからな。どこかのタイミングで雷の蛇を集結させておれを叩くと踏んでいた。そして、おれを動揺させるためにわざと分散させた。そうだろ?」
ダズは返す言葉もなかった。
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