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デストロイ・メトロポリス編

異変に気づいたのはレニー

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マリヤはレーザーガンではない通常の銃を取り出した孝太郎を見て静止の言葉を叫ぼうとしたが、どうやらそれはマリヤのはやちとりであったらしい。
というのも、孝太郎が握る黒塗りの自動拳銃の先端には前時代からの隠密任務には欠かせないサプレッサー消音器が付いていたからだ。
絞り切った歯磨き粉から歯磨き粉が出るよりも小さな音が聞こえたかと思うと、四人の男たち全員が悲鳴を上げていた。
同時に、男たちの両手からビームライフルが離れて重力に引かれて落ちていく。
どうやら、孝太郎はその拳銃で男たちのビームライフルを全て弾いたらしい。
なんという集中力と精神力、それに射撃の技術だろう。
マリヤは思わずに目を見張った。
だが、この場において感心したのはマリヤだけであったらしい。
他の四人は激昂して孝太郎へと殴り掛かっていく。
四人は仮にも宇宙の辺境の星へと送られるほどの重い刑罰を犯した囚人たち。
腕っ節にも自信があるのだろう。孝太郎たちに向かって拳を振り上げて向かっていく。
だが、孝太郎は動じる様子すら見せない。自分に向かって向かってくる男のうち一人をそのまま殴り倒し、次にみぞおちを喰らわせてこれも黙らせる。
三人目の男は激昂して飛び掛かっていくが、孝太郎は男の体の前に回り込むと、そのまま男の右腕を掴み、そのまま男を持ち上げて地面へと放り投げる。
三人の男をあっさりと倒した孝太郎の姿を見て、四人目の男は怒りよりも恐怖心の方が勝ったのだろう。
慌ててその場から逃走を図る。だが、孝太郎はそれを許さない。獲物を狙う鷹のように鋭い目で四人目の男を睨むと、そのまま男の足元に向かって引き金を引く。
轟音は響いていないものの、プシュという小さな音は男の耳には届いたらしく、慌ててその場から飛び上がる。
そして飛び上がった勢いのままその場で転がり込んだ四人目の男の頭に孝太郎は銃口を突き付けて、
「オレは今、サプレッサー消音器を付けている。轟音は聞こえない。だから、お前が背中から逃げている時も撃たれたかはどうかは分からない。だが、今度は外さないぞ」
「わ、分かったよ!もうあんた達の邪魔はしない……だから、その銃口を下げてくれよ……」
「……分かった」
孝太郎が銃口を下げたその瞬間、男は孝太郎に自身の頭を大きく衝突させた。
突然の出来事によろめく孝太郎の首元を掴み、今度は四人目の男が孝太郎を組み伏せる。
「ハッハッ、立場逆転だな。刑事さんよ。元々オレはオレを殺そうとしたクソみてーな奴を一人殺してるんだ。なんで、オレを殺そうとしたやつを殺してオレが捕まるんだよ!オレが!クソふざけるな!」
男は苛立ち紛れか孝太郎の顔を強く殴りつけていく。
「孝太郎さん!」
「やめなさい!」
あまりにも酷い光景に二人の仲間、特にマリヤは慌てて孝太郎の元へと駆け寄ろうとしたが、その肝心の孝太郎によってマリヤは側へと向かうのをやめてしまう。
「……そんな暴力的だから捕まったんじゃあないのか?大方、やり過ぎて捕まったってところだろうよ」
孝太郎は男の拳を自らの拳で防ぎながら言った。そして、攻撃を防がれて目を丸くする男に向かってそのままお返しとばかりに孝太郎は頭突きを喰らわせた。
孝太郎の頭突きを喰らった男は思わず両手で顔を覆う。
孝太郎はそこから派生した隙を逃さない。そのまま空いた手で男の頬を殴り付ける。
男は到底孝太郎の上に居座れる状態ではいられなくなったらしい。
顔を殴られた衝撃で男は地面の上を転がっていく。
「よし、このまましばらくは奴も目を覚まさないだろう。オレ達は先に進むぞ」
「ええ、一刻も早く囚人たちに囚われている人たちを助けなくてはいけませんもんね!」
明美の朗らかな声を聞いて孝太郎は優しく微笑み返す。











「おい、どうした?おいッ!」
「レニー、どうした?」
「っくしょう!見張りに使わせた奴らと全然連絡が繋がらねぇ!」
「って事は奴らに殴り倒されでもしたか?」
ダズの疑問にレニーは忌々しげな表情を浮かべて首を縦に動かす。
「その通りだ。大方奴らがオレたちが見張りに向かわせた奴らを気絶させたとかそんなところだろうな……」
「つまるところ、奴らはオレたちとの約束も守らせずにこっちに向かってるって寸法か?」
ダズの疑問をレニーは迷う事なく首肯した。
それを見たダズは歯をギリギリと鳴らして憤り、手に持っていたビームライフルを地面に叩き落とす。
「クソッタレ!忌々しい刑事どもめ!今に見ていろ、おいッ!誰でもいいから、この場にいる奴を誰か一人ぶっ殺せ!」
ダズの提案に従い、ビームライフルを構えた囚人の一人が怯える看守を無理矢理立たせ、その銃口を向けた時だ。
「待ちな」と他ならぬレスターが静止させる。
「おい、待てよ!待ちなとはどういう事だ?」
「『ゼウス』はこう言っているぞ、ここで下手に死刑執行を行うよりも先に、この場にやがて来るであろう中村孝太郎の前で死刑を執行した方がいいと……」
それを聞いたダズは口元を「へ」の形に歪めて笑う。
「そうか、そりゃあ面白い。あの忌々しい男にゃあ、そっちの方が効きそうだ」
「あぁ、そうさ『ゼウス』のいう事は絶対だからな」
レニーはそう言って満足気な表情を浮かべてダズに向かって笑い掛ける。
「それに、万が一奴が現れたとしても、オレのこの魔法があれば奴などイチコロよ」
ダズはそう言って左手の掌を宙に向けると、そこから黒くそして鞭のように畝る蛇を召喚する。
それは蛇が発する独特の不気味な鳴き声を発しながら、身体中から電気を放電していく。
「こいつがオレの魔法雷の寵愛を受けた蛇ピュートンよ。由来はギリシャ神話からなんだが、『ゼウス』がここにあるこの船にやぁおあつらえ向きの魔法だろう?」
「確かに、素晴らしい魔法だ」
レニーのそれはおべっかからくるものではない。純粋にその魔法の威力を認めたものであった。
それに気を良くしたのか、ダズは雷を放出しようとするが、それは他ならぬレニーによって止められてしまう。
「ま、待ってくれ!ここは不味い。ここでは使うな。ちと電磁波が多い。ここで雷を飛ばしたら……その少々厄介な事になってしまう……オレの言っている事がわかるだろ?」
レニーの言葉を聞いてダズはしぶしぶ自身の操る蛇を自身の中に戻す。
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