破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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デストロイ・メトロポリス編

反撃の第一歩!

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『おい、どうした?何があった?』
男の持つ無線から聞こえるのはダズ・スペクターの声。
決められた時間になっても戻ってこなかったので不審に感じたに違いない。
だが、返ってくるのは見張りに遣わせた男の声そのもの。
機械や何やらで加工したものではない。正真正銘の生の声。人工知能『ゼウス』の分析により、安堵したダズは無線機の向こうの彼と連絡を取り合い続けていく。
『いいか、中村孝太郎が来たのなら、即座にオレの元に連れて来い。それから、差し入れの女どもはさっさと始末しろ』
『し、失礼を承知で申し上げますが、差し入れの女を始末すれば、警察の奴らが不審がるのでは?」
男は日本人である。恐らく三百年前ならばユニオン帝国人。即ち旧アメリカ合衆国の人間であるダズの言葉を理解する事など不可能であっただろう。
だが、24世紀の現在ならば携帯翻訳機ポーターブル・トランスレーダーの力で異なる国の人間同士が会話を交わす事は可能である。
この装置は空気に乗った音声を機械が即座に翻訳しお互いの言語で伝え合うように作動しているのだ。
これにより、国々同士の諍いは殆どなくなったといってもいいだろう。
だが、機械は機械。万が一という事もあり、言語学は未だに学問の地位の上に存在している。
勿論、そんな事は見張りの男やダズの知った事ではない。
ダズは見張りの男に中村孝太郎の二人の仲間を始末する内容をくどくどと説明していく。
全ての説明が終わると、満足したのか一旦、通信が途絶えた。
男は通信機の装置を切ると、今現在、自分の頭に向けてレーザーガン光線銃を突き付けている男に向かって愛想笑いを浮かべる。
「へっへっ、これでいいんでしたよね?」
「あぁ、お役目ご苦労だったな。お前の役目はこれで終了だ」
孝太郎はそういうと右手に持っていた光線銃を異空間の武器庫中に仕舞い、拳を強く握り締めると、そのまま真っ直ぐに彼の頬に向かって強烈な一撃を喰らわせる。
丸太が落ちるような衝撃を受けた男はそのまま地面の上に倒れ込む。
孝太郎はそれを見届けると、男の服を剥ぎ取り、それを破くと即席の縄に仕立て、男の両腕を拘束する。
それから男が持っていたビームライフルを手に取り、仲間たちを引き連れ、ダズたちが籠る宇宙囚人号船の内部へと進む。
広い建物であったが、元が移送船であるためか、あまり身を隠せる場所はない。
ただ、見通しはよいために隠れ進む人間にとってはこれ以上に不利な場所はないだろう。
見張りが来ない事を祈りながら三人は進むが、現実というものは非情であるらしい。
先を進む三人の前に現れたのは先程の男と同様にビームライフルを持った二人の男性。
二人は三人の姿を見るのと同時に咄嗟に「あっ」と叫んで、ビームライフルを構えたが、その前に杖と袋を持ったマリヤ・カレニーナが二人の元に素早く駆け寄り、紙袋を捨てると、両手で手に持っていた杖の先端で二人の腹に当てて二人を意識外へと叩き落とす。
マリヤ・カレニーナは現在の日本の首都、ビッグ・トーキョーに存在する白籠市に存在する白籠署の刑事であるのと同時にロシア正教会の司教である。
彼女は日本語で表すのなら『剣客』と表すのが一番当てはまるだろうか。
彼女の得物は前世を覗くという水晶玉が付いた大きくて立派な杖の中に隠されている。
彼女は悪人を切り裂く前に、その水晶玉からその人の前世を推し量り、相手を一刀両断に斬り倒すのである。
もっとも、今回の場合は相手を殺してはいない。
同僚であり、自分が今現在所属するチームの参謀閣である中村孝太郎が犯人死亡という展開を忌み嫌っているためだ。
だから、初任務の今回では白刃を囚人号船の中で輝かせるなく、相手を倒したのだ。
マリヤは倒した敵を一瞥すると、孝太郎の方を向いて、
「急ぎましょうか。こうしている間にも、ダズの奴らは囚人号船の看守たちに何をしでかすのか分かりませんよ」
「そうだな。ありがとう。マリヤ……オレの意見を尊重してくれて」
「……私は聖職者。神に仕える身です。だから、悪党とはいえ命を助ける事を尊重しただけの事です」
彼女は素っ気なく言った。だが、その内心では孝太郎が礼を言ってくれた事を嬉しく思っていた。
マリヤは恋愛小説に登場するヒロインのように孝太郎に恋をしたわけではない。
孝太郎と信頼関係を築き上げられた事が嬉しかったのだ。
自分がこのチームの仲間に入ってから、日本どころか世界をも騒がせたカルト教団との戦いで彼と出会ってからまだ数日しか経っていない。
彼の姉とその姉を除けば一番信頼していると思われる青髪の刑事はまだ入院してるし、今自分と共に走っている丸渕眼鏡の女性刑事とは赴任の際に事務的な会話を交わしたばかり。
こんな調子だから、少しでも信頼関係を築いておきたいというのは彼女としては当たり前の事ではないだろうか。
そんな事を考えていると、またしても巡回の姿が見えた。数は四人。その内の半数がビームライフルを下げて歩いている。
マリヤがまたしても杖を構えて四人の元に向かおうとしたが、孝太郎はそれを手で静止させて、
「心配するな。今度はオレが止める」
そう言って、彼は異空間の武器庫から小さな自動拳銃を取り出す。
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