破壊と盾の勇士の英雄誌〜一族最弱と煽られた青年が、自らの身に与えられた力で無双するだけの話〜

アンジェロ岩井

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デストロイ・メトロポリス編

宇宙囚人号船の反乱

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「いいか!オレたちは本気だッ!いつまでもグズグズしてると、ここにいるこの偉そうな看守長様をぶち殺すぞ!」
大きな怒声で顔の右半分を火傷に覆われた男が銃を突き付けながら、巨大な宇宙囚人号船のロビーに集まった青い服の男たちに向かって叫ぶ。
火傷の男の名前はダズ・スペクター。日本に侵入し、殺人や放火といった凶悪事件を働いた凶悪な男だ。
男は要求が通らない苛立ちからか、手に持っていたレーザーガンを宇宙船の天井に向かって放つ。
すると、男の手元のレーザーガンからは熱線が放たれ、一気に宇宙囚人号船の天井に風穴を開ける。
それを見て、顔を見合わせる青い服の男たちに向かって、彼は引き続き自身の要求を述べていく。
「いいかッ!オレたちの要求は逃走用の車と資金!それから、オレ個人の要求として、オレを逮捕した男の命だ!白籠市の中村孝太郎なかむらこうたろうを呼んでこい!そうじゃないと、まず、こいつの頭をこのレーザーでぶっ壊してやるぞ!」
「わ、分かった!すぐさま、要求を取ろうじゃあないか」
そう言って手を挙げたのはこの宇宙囚人号船の主任を任せている脂の乗った中年の男。
彼は額に流れる汗に構う事なく、携帯端末を取り出し、白籠署の警察署長を呼び出す。
「もしもし、野々原さん。あんたか?すまんが、中村孝太郎刑事をこちらに遣してくれ」
『待ってくれ、中村刑事は今、お姉さんのお見舞いに行っていて、出れないんだ。直ぐに呼び出そう」
「頼む!早くしてくれ!事件が起きてからじゃあ遅いんだ!」
悲痛な叫び声を上げれば、向こうもただ事ではないと理解したのだろう。
電話が切られる音が聞こえ、彼は溜息を一つ吐く。
だが、安堵の表情はすぐさま恐怖へと変わっていく。
なぜならば、自分の真上には拳銃を突き付けている男の姿が見えたから。
「動くなよ。妙な真似をしたら、テメェの頭を撃ち抜くからな」
そう言ったのは薄いグレーのサングラスをかけたポニーテールをした金髪の男。
男の名前はレニー・トレスター。世界的に有名なサイバーテロリストであり、つい先日に警察に逮捕されたばかりである。
腕利きの彼がなぜ捕らえられたか。それは偶然によるものだった。
なぜ、そんな偶然の捕物が起きたのかは簡単明白。彼が侵入したのと同時期に日本列島を騒がせていた凶悪犯がばら撒いた危険なウィルスを探し、日本列島全体に巨大な捜査網を掛けた際に、たまたま彼の放つ怪電波が見つかり、そこを辿られて逮捕される事となったのだ。
彼が日本に居たのは日本の省庁の混乱が目的だったという。別件で大規模なサイバー捜査を行っていた事が功を奏したとも言えるだろう。
だが、レニーとしてはそれが面白くない。他の国の警察が容易に捕まえられなかったのに対し、こちらは別件のついででの逮捕なのだ。
だから、彼はこっそりと持ち込んだ小型の妨害電波を利用し、宇宙囚人号船並びにそれを操る人類初の本格AI『ポセイドン』のハッキングに成功し、この反乱を実行に移す事に成功したのだ。
レニーは少し前まで、自分に尊大な態度を取っていた青い服の男たちが命乞いをする様に愉悦を感じていた。
彼らの生殺与奪の権を握った事が嬉しくてたまらない。
彼が半ば込み上げてくる感慨に震えていると、背後から声を掛けられて、振り向く。
そこに立っていたのは一人の日本人の男。
憧顔の優しげな男。だが、甘く見てはいけない。彼は日本で二つの一家を自らの手を汚す事なく全滅させた知能犯なのである。
それは彼の魔法にある。彼の魔法『赤い目の絶対的な支配者レッド・ブリタニアン』の目を見れば、どんな生物でも彼の命令を聞かざるを得ないのだ。
その彼の魔法にはレニーも一目置いていた。
彼はニヤニヤと笑いながら、レニーから銃を奪い取ると、そのまま地面の上に座ってる男の頬に向かって銃尻で思いっきり殴り付けていく。
それも一発だけではない。二発、三発と何発も。
ダスが強い声で静止しなければ、彼は何発も殴り続けていただろう。
それでも、彼は反省する事なくヘラヘラと笑いながら、ダズに顔を向ける。
「いやぁ、こいつがボクに向かって失礼な言葉を口にするんで、ちょいと教育を施していただけですよ。別に失礼はないでしょう?こいつはそんな事をされて当然なんだから」
「このバカ野郎が!そんな事を聞いてるんじゃあねぇ!殺害の順序が違ったら、オレの面子が丸潰れじゃねぇか!」
「あぁ、そうか、これは失礼」
と、薄君の悪い男はヘラヘラと笑いながら、肩をすくませて頭を下げると、そのまま集めた青い制服の男たちの見張りに戻っていく。
男がその作業に戻ると同時に、ダズは署長の携帯端末を引っ張り出し、電話口の向こうの相手に自らの要求とコンピューターが導き出した適格な脅迫法を語っていく。
「いいか、要求が受け入れなければ、看守長の頭を吹っ飛ばすだけじゃあねぇ!この船に取り付けられている隕石破壊砲でビッグ・トーキョーを丸ごと吹き飛ばしてやるからな!」
ダズの発した言葉はレニーの使用により、そのまま船のAI『ゼウス』の言葉として発される。
これで、表向きには『ゼウス』が囚人を束ねて、反乱を起こしたという事になる。
『ゼウス』が全ての準備を終えると、彼は晴々とした顔付きを浮かべて、看守長を突き飛ばし、青い服の男たちの中に戻していく。
ダスは青い服の男たちに向かってレーザーガンを突き付けると、声を張り上げて叫ぶ。
「いいかッ!テメェら、奴らが要求を呑まなければ、或いは中村がこの船に来なけりゃあ、このまま人質にされたままだぞ!分かってんのか!そこのところ!」
「い、いやぁ、もう決まってる。あんたの言う通りだ。我々はキミらの要求ならばなんでも呑もうではないか」
「それでいいんだ。だが、いかにテメェらが順次な態度を取ろうとも、あいつが来なけりゃあ、一時間ごとにテメェらに死んでもらうからな!」
ダスがレーザーガンを突き付けながら叫んだ時、彼の頭の中にかつての苦い記憶が思い返されていく。
あれは二ヶ月前。当時、白籠市の巨大企業に強盗を謀り、そこに侵入した時、自分を待ち構えていたらしく、冷徹な顔で自分に拳銃を突き付けたあの赤銅色の肌をした男の事は忘れられまい。
赤銅色の肌に平均よりも上の顔をした青年は拳銃を突き付け、刀のように鋭く一睨みをして、自分を牽制させたのだ。
その時の自分の姿といえば情けないという言葉以外では表せまい。
あの男の目に射抜かれ、自分はまるで迷子の子犬のように体を震わせて、あっさりとお縄になってしまったのだ。
捕まる際にダスは名前を問うた。この恨みを忘れないために、鋭く睨んでいたのだが、向こうは意にも返していなかったのだろう。
彼は鼻を鳴らして、尊大な態度で答えた。
「オレか?中村孝太郎だ。覚えておきな」
この時以来、ダスにとって『中村孝太郎』の名は生涯に渡って付け狙う好敵手の名前となったのだ。
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