いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第三部『未来への扉』

世界を駆ける鏡の伝説

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「そうか、船からモルドールの彫像は見つからなかったか……残念だ」
ガラドリエルはあの戦いから二ヶ月の時間が経過した後に、ドラゴンに焼かれたエルミアの飛行船の調査報告に訪れたゲオルグの言葉に対し、残念そうに首を横に振る。
彼女の顔に無念と言う文字が浮かび上がっているかのようだ。
ゲオルグが何と言って慰めようかと思っていると、彼女は直ぐに残念そうな表情を引っ込め、彼に向かって微笑んでみせ、
「良い、それよりもお主は今回の北の国との戦いでよく尽くしてくれた。その見返りにお主を騎士に任じ、我が近衛兵団にして王国騎士団である透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードに任じよう。今後も私のために尽くすが良い」
ガラドリエルの言葉にゲオルグは大きく平伏し、騎士に任じられた喜びを胸の内に隠しながら、玉座の間を後にしていく。
ガラドリエルは玉座の上から彼が去っていくのを見届けると、側に佇んでいた王の頭脳キングズ・ヘッドのユーノ・キルケに次の相手は誰かを問う。
「次は商人のアイゼル・ヒューゲルラントですわ、陛下。何でも戦勝祝いに訪れたと言う事で……」
「分かった。戦勝祝いを受け取れば良いのだな」
ガラドリエルが玉座にもたれかかりながら、側に佇む彼女に向かって言ったが、彼女は何故かニヤニヤと微笑んでいた。
「それだけではありせんわ、実はですね。陛下が見張り台に向かわれた折に彼の奥様が第三子をご懐妊されたようでして、陛下にもしかしたら名付け親になって欲しいのではと勘繰っておりますが……」
「私が?」
ガラドリエルは自らの顔を人差し指で指差し、照れ隠しのためか、両頬をピンク色に染めさせながら笑う。
「私が名付け親とは光栄な事だな、彼のお嬢さんに相応しいような名前が私の稚拙な頭で思い浮かぶと良いが……」
「思い浮かべてもらわなければ困りますわ、王国の商業組合を現在牛耳っているのはヒューゲルラント商店ですから……敵に回すと怖いですわよ」
噂をすれば何とやらだろうか、アイゼルが衛兵に案内され、彼女の玉座の前に大きな宝箱を抱えて現れる。
彼は恭しく玉座の前で頭を下げてから、彼女の前で立ち上がり、戦勝祝いを心底嬉しそうな顔で述べていく。
よくこれだけの美麗荘厳が思い付くものかとガラドリエルが感心する程、彼はよく喋っていた。
彼は戦勝祝いを述べ終え、衛兵に彼が抱えていた宝箱を渡す。
衛兵が女王の元に宝箱を渡すと、彼女の目の前に宝箱を置き、その中身を彼女に渡す。
衛兵が宝箱を開けると、女王の目の前にあった赤い色の長方形の箱は見事な宝石と黄金の装飾品に溢れた世にも稀な箱へと変わっていく。
ガラドリエルは片眉を動かしつつも、アイゼルに向かって礼を述べる。
ガラドリエルは微笑を浮かべながら、彼に向かってもう一度用を問う。
彼の主張は酒税が高過ぎると言う事だった。ガラドリエルは贈り物の効果もあるのか、酒税を下げるように検討しておくと述べた後に、彼にもう一度用事を問い掛ける。
ガラドリエルは玉座の肘掛けで頬杖を突きながら、ニヤニヤとした笑いを向けて、
「用事はそれだけでは無いだろう?聞けば、お主に第三子が登場したらしいな、めでたい事だ」
「ありがとうございます!陛下!」
アイゼルは泣きそうになる程の大きな声で彼女の元で平伏する。
「付いては今日の贈り物の返礼として私が名付け親になってやろう。お前の新たな子が男ならば、ディック。女の子ならば、ソフィーはどうだ?ディックは力強い統治者と言う意味であり、ソフィーは賢明と意味が含まれておる。ヒューゲルラント商店を率いていくのに相応しい名前だとは思わぬか?」
ガラドリエルの言葉にアイゼルは大きく頭を下げて彼女に向かって何度も何度も感謝の言葉を叫んでいく。
それから、彼は退室したが、後に彼は自宅の屋敷に戻ると、女王から貰った名前を酷く気に入り、ディックと言う名前とソフィーと言う名前を何度も家の中で連呼していたと言う。
ガラドリエルは満足そうに去っていくアイゼルの姿を優しい笑顔を浮かべながら、見送っていると、彼と入れ違う形で透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードの団長、ガートールード・ムーンが息を切らしながら、彼女の元に向かって来た。
ガラドリエルは大慌てで入ってきたガートールードを一喝してから、用件を問う。
「落ち着け!何が起こったと言うのだ!?」
「陛下、よくお聞きください。旧北の国へと派遣した調査団が魔王、エルミアの屋敷の中で一枚の鏡を見つけたと言う事ですッ!」
「鏡?そのような物にどうして私が関係しなければならぬ?」
「恐れながら、陛下……エルミアの城から見つかった鏡は恐らく、別の世界に行く事が出来ると言う鏡ですわ。魔道士の間では有名な伝説の鏡です」
「興味深い。伝説の鏡があるとはな……面白い、それを持ってくるが良い」
「陛下、その鏡は現在、北のエルミアの城にあり、この場に運ぶのは不可能だと思われます」
「……。そうか、なら仕方がない。運ぶまでは待とうではないか」
ガラドリエルはガートールードに下がるように指示を出す。
それから、彼女は玉座の近くで佇むユーノに向かって伝説の鏡の事を問う。
「伝説の鏡とはこことは異なる別の世界に行く事ができる魔法ですわ、かつて陛下はドラゴンはこの世界とは異なる世界で手に入れましたわよね?」
ガラドリエルは首肯する。
「私達、魔道士は異なる世界に行く事できる魔法を使用する事ができますが、それは私達の世界に似た世界が限界なのです。ですから、私達の世界と大きく異なる世界に向かう事は偉大なる魔道士でも不可能なのですわ」
「成る程、つまりお前の話から推測するに、偉大なる魔道士に名を連ねる魔道士でさえ不可能な場所に行く事ができると言う魔法か……」
「ええ、ですが、その世界がどんな世界なのかは私達にも見当が尽きません。最初に偉大なる魔道士に名を連ねた老いた魔道士がその鏡を作り上げ、別の世界に行ったそうですわ」
ガラドリエルは夜の寝床で母親に物語の続きを尋ねる子供のように好奇心の光に溢れた瞳で詳細を問う。
「それで、どうなったのだ?その魔道士は?」
「……言い伝えによれば、その世界にも王がいて、民がいて、我々と同じような生活を営んでいたそうですが、唯一我々と違うのは十字架を拝める奇妙な宗教が広まっていたそうですわ」
「……。十字架を?あの磔にするための?」
ユーノは首肯する。
ガラドリエルは唸り声を上げて、見聞でしか伝わらない謎の世界に想いを膨らませていく。
「どのような世界なのだろうな?我々と同じだが、少しだけ異なる世界。興味深いとは思わぬか?」
「さぁ、私には検討が尽きませんが……それよりも、陛下、次の謁見相手が待っておりますわよ」
笑顔で王に向かって彼女は仕事に向かわせていく。
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