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第二部『救世主と悪魔達との玉座を巡る争い』

大陸間戦争 パート7

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「事情は分かった。ならば、私自らが乗り込み、兵を鼓舞しようでは無いか」
ガラドリエルは玉座の上から立ち上がり、玉座の前で跪くユーノの元に近寄る。
それから、しゃがんで彼女の目線に合わせてから、彼女の顎を優しく持ち上げて、
「支度をせぇ、私自らが乗り込むのだ。その上、他の兵士達も間に合うかは知らぬが、ここから増援に向かわせよう」
「分りましたわ、陛下……ですが、陛下が直々に出向かれるにあたって一つ私の方からお願いしたい事がございます」
「何だ?申してみよ」
ユーノはもう一度深く頭を下げて女王に自らの考えを提言する。
「はい、実はですね。陛下の護衛としてガートールードがお付きになってくださる事を願います。そうすれば、私もディリオニスとマートニアも安心して戦いに励む事が出来ますわ」
「……。そうか、分かった。ガートールードッ!」
女王の命令に従い、玉座の前に佇んでいた大きな鎧を着込んだ短い金髪の女性が女王の元に駆け寄っていく。
「はい、陛下!」
「任務だ。私の護衛としてドラゴンに乗れ、文句は言わせぬぞ」
女王は腕を組みながら、人差し指を掲げながら言った。
「分りました。女王陛下の仰せとあれば……」
ガートールードは深く頭を下げる。
ガラドリエルは周りの臣下に北面の諸侯と連帯し、王都からも大軍を送るように集まっていた臣下達に指示を飛ばす。
女王と共にドラゴンの閉じ込められている地下へと向かう。
女王はドラゴンの頭を優しく撫でてから、ドラゴンを連れて二人の中庭に向かって行く。
ユーノが一頭のドラゴンに、ガラドリエルとガートールードがもう一頭のドラゴンに乗り込む事になった。
二頭のドラゴンは翼をはためかせて空へと旅立って行く。
二頭のドラゴンが空中を飛んでいく中で、ガラドリエルは退屈になったのだろう。隣に乗っていたガートールードに話しかける。
「時にガートールード。今からでも構わぬ。お前の過去に何があったのかを話してくれぬか?お前の言葉にはあの二人のようにたまに私の知っている世界には無い事を話しているような気がする」
「……。陛下、話せば長くなりますが、よろしいでしょうか?」
ガラドリエルは澄ました顔で、
「構わぬ、道中は長くなるであろうからな、私を退屈させぬための処置だと思って話すが良い」
ガートールードは重い口を開いて、前の世界の事を告白していく。
自分は記憶を持ってこの世界で生まれた事、かつての世界でも彼女は軍人であった事。世界を巻き込む大きな戦いで仲間に裏切られ、包囲された末に撃ち殺された事。
全てを話し終えた時に彼女はかつての記憶を思い出していたのか、彼女の瞳から透明の液体が何粒か零れ落ちていた。
「私は守られなかった……あの野蛮なる軍団から守るべきだった人達を……」
涙ぐむ騎士団長を慈悲深き女王は彼女の大きな手を握る。
「ありがとう、よく話してくれた。お前のその忠義に私は感謝するぞ」
ガラドリエルの言葉にガートールードは表情を大きく和らげていた。
と、ここで偉大なる魔導士が杖を前方に掲げて距離を短縮するための異空間へと繋がる道を作っていく。
女王はこの異空間をドラゴンに乗りながら、通り抜けていき、抜け終わった瞬間にはブレーメレの街をドラゴンの上から眺めていた。
女王を乗せた二頭のドラゴンはブレーメレの街に降り立つ。
と、息を荒げながら騎士、シルヴィアが向かって来た。
「申し訳ありません!陛下!私も見張り台への対処で忙しくて、まさかこのように唐突に訪問されるとは思っておりませんでしたので……」
「構わぬ、連絡無しにこちらを訪れたのはこちらの落ち度とも言えるだろうしな、それよりもだ……見張り台の戦況はどうなっておる?」
シルヴィアは視線を逸らしたが、女王が大きな声で問うと、彼女は肩を強張らせながら叫ぶ。
「戦況は芳しく無い状況です。陛下」
シルヴィアは女王を見つめたが、女王は澄ました顔のまま続けるように指示を出す。
「依然として北の国の軍団は見張り台の守備隊を攻撃しており、ディリオニス騎士殿とマートニア騎士殿の活躍、それに一人の兵士の鼓舞とドラゴンの活躍が無ければ、直ぐにでも全滅していたでしょう……」
「成る程な、予想以上に悪い状況が続いておるらしいな、だが、今後はブレーメレからも援軍が出る上に私自らがドラゴンを率いて向かう。それで戦局は大きく変わっていくと思うが、その点についてはどう考える?」
シルヴィアは返答に窮していたらしく、中々女王の質問に答えようとはしない。代わりに答えたのは王の頭脳キングズ・ヘッドのユーノ・キルケ。
彼女は例の聞く人を全て癒すような優しい声を出し、人差し指を掲げながら、
「陛下、僭越ながら申し上げますわ、ここでそのような問答をしているよりも前に前線のディリオニスとマートニアや守備隊やドラゴンと共に戦うのが先だと申し上げておきます」
ガラドリエルは耳を赤くしてから、謝罪の言葉を述べてもう一度ドラゴンに乗り込む。
シルヴィア騎士に彼女は見張り台に向かうように指示を出し、彼女は見張り台へと向かっていく。強力なドラゴンと心の底から信頼する臣下仲間を連れて……。





見張り台に付けられていたドラゴンは目の前の一つ目の巨人達を殲滅したが、それでも北の国の王の乗る飛行船を破壊するのは難しかったらしい。
ドラゴンは悲鳴を上げて撃退されていく。
ゲオルグは剣で目の前に迫るオーク達を斬りつけながら、上空を眺める。
そこにはドラゴンが飛行船に備えられていたと思われる筒に撃たれている姿を見つけたからだ。
(あ、あれは何なんだ?いや、もしかしてあれには大砲が備え付けられているのか?それにしても……あれは試作段階で王国内でも王都に一つだけあるとしか聞いていないが……もしかして、北の国の王は船にそれを備え付けさせたと言うのか?)
ゲオルグの読みは当たっていたと言うべきだろう。飛行船の船首から出ている大きくて黒く光る巨大な筒は正面から火を吹こうとするドラゴンを狙い撃ちにしようとしていたのだから。
(幸いにも、ドラゴンはあの筒が自分の正面に当たるよりも前に逃げたらしいが……)
ゲオルグが上空のドラゴンの姿を眺めていると、目の前のオークが彼の気が逸れたと感じたのだろう。
ゲオルグに向かって上から下へと剣を振っていく。
ゲオルグは剣を盾にしてオークの剣を防いだばかりではなく、強い力を込めてオークの剣を自らの剣から弾き飛ばし、反対に彼の空いた体を真っ二つに斬り裂く。
ゲオルグは目の前に溢れた亜人の群れと対峙していく。
どうやら、この戦いを制するのに余計な考えは邪魔になるならしい。
彼は剣を振り上げてオーク達と斬り合っていく。
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