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第二部『救世主と悪魔達との玉座を巡る争い』

飛行船とドラゴンと

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北の国の王、エルモアはフレーゲルに設計させた空中を移動する船の看板の中央に設置された簡易的な玉座の上に腰掛けながら、地面を見下ろす。
地面には自らの支配する北の国の領土一面が広がっていた。森や草原の数は少なく、荒れ地が殆どであったが、彼にとっては大事な領土であった。彼は飛行船に揺られながら、飛行船を動かすフレーゲルに向かって問い掛ける。
「お前の発明は素晴らしいな、だが、良くない知らせももらったぞ、我の送り込んだ先遣隊が全滅したらしい。すると次は余自らが軍を率いて向かって行かなければならぬと言う事だな?」
フレーゲルはエルミアの言葉を首肯する。
それから、彼はいつものように芝居がかった仕草で大きく両手を広げながら、エルミアにとっての心地の良い言葉を口にしていく。
「勿論でございます!北の国の王はエルミア陛下ただ一人!あなた様を置いて他に王はあり得ません!私はここの魔道士に習い、魔物を生成する魔法を学びました!ゴブリンやオークだけではなく、リザードマンのような彼らよりも強くて頭脳の高い魔物も!」
フレーゲルの言葉をエルミアは腕を組んで満足そうに首を縦に動かす。
彼の動作を見ていると、エルミアは自分にとっての心地の良い言葉のみを取り上げて組織を編成している事を彼はつくづく思い知らされた。
彼は北の国の侵攻が何度も失敗した理由が分かったような気がした。
だからこそ、自分が参謀役を買って出たのだ。エルミアは臣下の言う事を鵜呑みにするばかりで、まともに反論意見をぶつけようともしない。
だが、力だけは恐ろしい程ある事に気付かされた。他のエルミアの臣下達の話を聞くたびに、彼は魔王としてのパワーを誇っていて、彼の領地の中には誰も勝てる人間がいない事を耳にしていく。
要するに力が強いだけのお飾りに過ぎない存在なのだろう。
フレーゲルは前の世界で自分が仕えた独裁者と少しだけ似ている事に気付かされた。だが、彼との相違点を挙げるのならば、頭脳の差だろうか。前に仕えた男は徹底した暴君であったが、彼のように理解のしようがない程の悪い頭脳を持ってはいなかった。
彼は前の世界の独裁者以下の知能だったのだ。恐らく、腕っ節だけでここまでのし上がったに違いない。
フレーゲルは玉座の上で満足そうに座る鎧の魔王を見ながら、本も読めない癖にと言わんばかりの侮蔑の視線を送ったが、彼が自分の方を振り向くなり、満面の笑顔を見せて耳辺りの良い言葉を吐いていく。
こんな二枚舌ならぬ二枚顔に疲れながら、フレーゲルは侵攻の日の事を考えていた。



「成る程、今回森の戦いで撃破したのは単なる偵察か斥候か、或いは先遣部隊に過ぎないと言うのだな?」
ガラドリエルは玉座の上から、彼女の目の前で跪く一人の騎士に向かって問う。
報告に訪れたのは見張り台に立っていた若い兵士で、彼は自分の上司が殺された後に、シルヴィアと共に北の国の軍勢と対峙した勇者であった。
彼は女王に戦果の報告と見張り台に透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードの騎士を送るように嘆願しに向かったのだった。
ガラドリエルは玉座の上で一度目蓋を閉し、考えに集中してから、彼に向かって透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードの騎士を派遣する許可を与えた。
何度も何度も礼を述べる若い兵に対し、女王は寛大な笑顔を見せ、礼は要らぬと告げた。
その後に彼女はブレーメレの街から今度は前線の見張り台に自分の最も信頼する双子の騎士を派遣するように告げた。
双子の騎士の活躍は彼自身があの森を舞台にした戦場で彼の凄さを目撃しているから、この女王の申し立ては破格の処遇と言っても良かったに違いない。
若い兵士はもう一度深く頭を下げ、玉座の間から退出しようとするが、去ろうとする兵士に向かってガラドリエルは玉座の上から冷たい声で「待て!」と叫ぶ。
若者は何かしたのかと不安そうに体を震わせながら、彼女の方向を振り向くと、彼女は満面の笑みで、
「お主はドラゴンを見た事があるか?」
「いいえ、陛下私は見た事がありません」
若者は正直な感想を述べた。
「そうか、ならば仮にお前がそこに乗るとするのなら、どんな反応をする?」
「……検討が付きませんね」
「フフ、当然の反応だろう。だが、乗ってもらわなければ困る。お前にはこれから、ドラゴンに乗って向かってもらわなければならぬからな」
若い兵士はガラドリエルの言葉に首を傾げていると、彼の目の前に玉座の側で女王の側に立っていた一人の黒いローブを身に纏った容姿端麗な女性が現れた。
王の頭脳キングズ・ヘッド!?」
「ええ、あなたと共に私が見張り台へと向うと言う事ですわ。陛下、私もあそこで北の国と対峙しろと言う事ですわよね?」
背後を振り向いて、ユーノの言葉にガラドリエルは躊躇いなく首を縦に動かす。
ユーノは小さく溜息を吐いてから、彼と共に地下へと向かい、ドラゴンの繋がれている場所に向かう。
ユーノは一頭のドラゴンの頭を撫でてから、そのドラゴンと共に彼女は城の中庭に上がり、彼をドラゴンの背中に乗せて空を飛んでいく。
「さぁ、行きますわよ!まずはブレーメレの街に報告に向かいましょう!」
ユーノの指示に従い、二人の乗るドラゴンは真っ直ぐに上空に飛んでいく。
ぐんぐんと雲を切って突き進んでいき、高所を飛ぶドラゴンは若い兵士には最初は恐ろしかっだが、慣れてくると彼は周りの雲を眺める余裕が出来てきた。
「素晴らしい光景ですね!王の頭脳キングズ・ヘッド!」
「ええ、空を飛ぶのは気持ち良くってよ!それよりもあの双子は元気かしら?結婚したばかりだから、ラブラブしてばかりしていなくて?」
「ええ、ディリオニス騎士殿もマートニア騎士殿も存分に戦ってくださっていますよ!彼ら二人とシルヴィア騎士殿の活躍で奴らを撃退できたようなものですから!」
若い騎士の言葉にユーノは優しく微笑む。
それから、彼女は思い出したようにあっと叫んでから、
「そう言えば、あなたのお名前を聞いておりませんでしたわね。お名前は何というのかしら?」
「ゲオルグです。ゲオルグ・シュミットと申します」
ゲオルグは改めて頭を下げた。実直な若者が頭を下げる様子を見て、彼女も微笑みながら頭を下げ返す。
「こちらこそ、よろしくね。ゲオルグ」
ユーノはその笑顔だけで食べていけそうな程の優しい笑顔で彼に答えた。
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