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第二部『救世主と悪魔達との玉座を巡る争い』

動乱の序章

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シルヴィアは双子の騎士を連れ、彼らがかつて戦ったと言う場所を案内し、駐屯する騎士達を紹介していく。
そして、自分の根城に彼らを案内し、彼らの部屋に彼らを案内していく。
二人の話に聞くような天蓋付きのベッドも綺麗な絨毯もない二人からすれば粗末とも言える部屋であるが、二人は部屋の惨状などお首にも出さずに部屋の防音の事のみを尋ねる。
シルヴィアは片眉を微かに動かしながら、
「夫婦だが、ここでは遠慮してもらおうか……ディリオニス騎士殿にマートニア騎士殿……お二人共私より遥かに年上なのだから、節操くらいあるだろう?」
年下の女の子からの言葉に二人はぐうの音も出なかったらしい。
二人の苦笑する声が聞こえてくる。シルヴィアは両肩を強く落としながら、踵を返していく。
その様子を見ながら、二人は白いシーツとマットレスと枕だけの寂しいベッドの上に転がり込む。
ベッドで足を伸ばす双子の兄にマートニアは優しい微笑を見せて、
「お兄ちゃん、あの時の結婚式の衣装、お父さんやお母さん……それににも見せたいね」
「どうしたの?藪から棒に」
「シルヴィアに結婚式の話をしていたら、思い出しちゃって……変かな?」
マートニアの問い掛けにディリオニスは首を横に振って否定する。
「ううん、そんな事はないよ。前の衣装は確かまだお城の衣装簞笥の中に仕舞ってあったから、元の世界に帰れる時にはあのドレスも持っていこうよ。そして、愛に……に君のドレス姿を見せたいなぁ」
ディリオニスは隣で眠るマートニアの髪を優しく撫でていく。彼女の真っ黒な髪は滑らかで触りやすい。
もう一度彼女に接吻をしようとした際に、扉が開く。
顔を真っ赤にしたシルヴィアが両足と両手をバタつかせて去っていく。
二人は顔を見合わせて気不味い思いをする事になった。




真夜中の荒れた森の中で一人の亜人が剣を掲げて背後の大勢の仲間達に向かって叫んでいた。彼の声は大きく夜の闇の中に響き渡っていく。
「やはり、今回の戦こそ人間どもの最後になるだろう!我々には偉大なる魔道士が付いておるのだッ!今宵、我々はこの見張り台を落とし、ブレーメレの街を落とし、それから北部を制圧するぞ!」
先頭に立った肩当てと脛当てを身に付けた豚のような顔をした二本足の醜悪な生物は手に持っていた包丁のような武器を宙に掲げて戦意を高揚していく。
このリーダー格と思われるオークに背後にピッタリとくっ付いていた大量のオークや醜い顔のゴブリン達は彼と同じような包丁のような武器や手に持っていた小さな槍を宙に掲げた。
醜悪な顔の怪物達は北の国と大陸の人間との間に位置する先行隊を引き連れて、見張り台に向かっていく。
見張り台と言ってもやはり、人間と怪物達との国境を隔てている訳だから、両脇に大きな岩に防がれている鉄製の門こそが彼らが突破すべき場所であった。
その門の側には見張り台が立っていた。
見張り台の兵士達は松明を照らし、夜の闇に紛れて攻撃を仕掛ける怪物達を目撃する。
剣やら槍やらを携えて向かって来る怪物達に対し、弓矢を放っていくが、怪物達もそれなりの装備をしてきているのか、反対に台の上の兵士達を射っていく。
矢を撃ち返された兵士の中である者は見張り台の上に倒れ、ある者は怪物の群れの中に落ちていく。
勿論、その時に死んでいれば良いが、生きていれば怪物達による凄惨な最期が待っていた。
怪物達はここぞとばかりに兵士を嬉々と表情で殺していく。
怪物達は城の門を破るのではなく、数に任せて自分達の手で門や岩を登っていく。
見張り台を預かる部隊の隊長は只事ではないと判断し、若い兵士にシルヴィアの騎士の存在するブレーメレの街へと馬を進めるように指示を出す。
躊躇する兵士に対し、老齢の隊長は大きな声で叱責し、彼を追い出すように伝言を頼む。
それから、彼は要塞の中に入り込むゴブリンやオークの大軍を相手にしていく。
老齢の隊長は数々の戦を潜り抜けてきた猛者であった。そのために、彼にとって彼らは恐れるものではなかった。
老齢の隊長は女王への忠誠を叫びながら、ゴブリンとオークで混合された軍団に立ち向かっていく。





「まさか、二人が来たと時点で奴らが攻めて来るとは……少し彼らが来るのが遅れれば、私だけで彼らを相手にしなければならなかっただろうな」
シルヴィアは見張り台の兵士から受け取った伝言を小さな照明器具に照らされた部屋の中で考えながら一人で呟く。
シルヴィアは双子の寝室へと急ぎ、二人を起こしに向かう。
シルヴィアの頭の中を悪い考えが覆ったが、幼年の騎士は必死に首を横に振って頭の中にある悪い考えを強い風で物を吹き飛ばすように悪い考えを頭の中から飛ばしていく。
シルヴィアは二人の寝室の前に辿り着くと、一応ノックをしてから、二人の部屋の中に入っていく。
ノックをすると入る許可が出たので、シルヴィアは躊躇う事なく二人の部屋の中に入っていく。
幼年の騎士は自分の年齢ならば、絶対に悪影響があるのかもしれない事を年上の双子がしているかもしれないと考え、彼女は目を瞑りながら恐る恐る双子の部屋に足を踏み入れると、そこには寝巻きに着替えてベッドに寝転がっている二人の姿が見えた。
幼年の騎士は刺激が無かった事に安堵し、小さな溜息を吐いてから、見張り台からの伝言を二人に伝えていく。
二人はその話を聞くと、今まで浮かべていた笑顔を引っ込め、頬の筋肉を強張らせていく。
二人は鎧を着替えるために、幼年の騎士に一度外に出るように指示を出す。
シルヴィアは頭の中でもう一度モヤモヤとした考えを取っ払っていく。
シルヴィアが扉の前で体育座りで考えていると、扉を開けて二人の騎士が鎧に身を包んで現れた。
いつも通りの騎士にとっての正装。二人は唇をギュッと締めながら、迷いの無い顔で見張り台へと向かう場所を問う。
シルヴィアは馬鹿げた考えを浮かべていた事を恥じ、兵舎で仲間を集めてから、二人を広場の近くの馬小屋に連れて行き、門を出て、森を抜けてブレーメレの街の背後に向かっていく。
シルヴィアは馬に乗りながら、見張り台はブレーメレの街よりも更に北にあると告げた。
夜の闇の中で、馬を駆ける音だけが森の中に響いていく。
この時に北の国の侵攻は始まっと言っても良いだろう。
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