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第二部『救世主と悪魔達との玉座を巡る争い』

ヴァレンシュタイン王朝の設立

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あの戦いから三日ほどの時間が経過した日の朝にその儀式は行われた。
眩いばかりの太陽の光が降り注ぐヴァレンシュタイン家の城の広場で儀式は進んでいく。広場の中央にはヴァレンシュタイン家の女王とかつての黒十字シュヴァルツ・クロインツ家の当主、ヨーゼフと王の頭脳キングズ・ヘッドを務める偉大なる魔道士ユーノ・キルケの姿。
二人の周りを取り囲むのは護衛として配属された透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードに所属する騎士達の姿。
ヨーゼフ・フォン・シュヴァルツ・クロインツは名門の家に相応しい煌びやかに飾られた服を着ながら黒十字シュヴァルツ・クロインツ家の領地を全てヴァレンシュタイン王朝に引き渡す事を書かれた誓約書を大衆達の前で読まされていた。大声で屈辱的な内容を読み終えると、彼自身は田舎の一領主として天寿を全うする事をここに宣言した。
田舎の一領主として生かす手法はガラドリエル自身が思い付いていた。
一領主としてそれ相応の儀は尽くすが、彼の派遣される臣下の殆どはガラドリエルの息のかかった部下であり、事実上の監視役であった。その上、領主として定期的に都に報告に訪れなければならないのために、もし出頭しなければ、彼が不穏な動きを企てているのかは分かるために、下手に奴隷やら平民やらに落とすよりも余程、都合が良かったのだ。
双子の騎士はガラドリエルの処分にやり過ぎのような気もしていたが、一方で彼女の取った処遇は正しいとも思っていた。
何故なら、ヨーゼフは野心家であり、彼がいつ背後から撃ってくるか分からないためである。
これからの事を考えながら、表情を沈めるヨーゼフとは対照的に、女王は多くの大衆に見守られ、金色に彩られた王冠を頭の上に被せられていく。
大衆の歓声に覆われて、改めて王としての儀式を終えた自分達の女王に王の護衛として儀式に出席していた透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードに所属する双子の騎士はパチパチと手を叩く。双子の騎士に倣い他の騎士達も女王の即位を祝った。
女王は観衆の拍手に応え、自らの腰に備えていたサーベルを鞘から抜き出し、空中に掲げて就任演説を始めていく。
彼女は大きく息を吸ってから、眠っていた人間も思わず意識を取り戻すくらいの大きな声で、
「諸君!私はこのプロイセン大陸初の王となったッ!これで終わりなのか!?否ッ!私は約束しよう!私は女王としてこの大陸の民達に善政を敷く事を約束しようとッ!またもう一つ約束しよう!私は今後攻めて来るであろう北の国との戦争を私達の代で終わらせる事をッ!これ以上、憎き怪物どもとの戦争を長引かせてはならぬ!私はこの大陸で戦争を終わらせたように、北の国との戦争も終わらせようと約束しよう!私は女王として懸命に努力し、この世界を諸君らに取って住み良い世の中にしていく事をッ!」
ガラドリエルが演説を終えると、集まっていた聴衆達も拳を突き上げて女王の即位と対北の国の最高司令官を務める少女に向かって歓声を飛ばす。
女王は大衆の歓声を聞いても、澄ました顔のまま宮殿に戻っていく。
宮殿に入り、自室に入り、王の頭脳キングズ・ヘッドのユーノ・キルケに北の国の事について相談していく。
ユーノは人差し指を掲げて、
「ならば、国境に兵を進めるべきですわ、ブレーメレの方に陛下直々の兵士が駐屯しているのは私も知っておりますが、あの街の市長を務めるのには腕っ節が強い人間でなければなりません」
「分かっておる。そのためにシルヴィアを派遣したではないか」
ガラドリエルの言葉にユーノは口元の右端を吊り上げながら、
「ええ、ですから、市長の地位の方は安心ですわね。ですが、ブレーメレが北の国と対決するのには重要な場所ですので、あそこにもう少し防衛線を貼るべきですわ」
「これ以上防衛線を貼っていくのか?」
「ええ、職に溢れた人を雇うために砦を建設したり、防衛線の兵士として雇うのは良い対策となりますわ」
ユーノの進言にガラドリエルは唸った後に、自分自身の意見を口に出す。
「お前の意見は最もだ。だが、もう一つ問題があるぞ、指導兵として透明の盾を持つガラス・オブ・ソードの騎士達を何人か派遣したとすれば、こちらに残る数が少なくなると言うのが困ったものだな、私としては御前試合を開き、そこで腕利きの兵士達を透明の盾を持つ剣士達ガラス・オブ・ソードに加えるべきだと考えておるが……」
「良いですね!では、早速各地の剣術道場に陛下からの通達を送っておきましょう」
ユーノはそう言って体を弾ませながら部屋を後にする。
ガラドリエルは北部の城を有力な諸侯に任せ、自分と昔からの臣下とドラゴンがこの城に居る事を嬉しく感じていた。
そんな折だ。彼女は頭の中にカールとの戦いの際に双子の騎士とある約束をした事を思い出す。
女王は自らの居室の扉を開けて、廊下を歩くユーノ・キルケを呼び止めた。
ガラドリエルは満面の笑みで、
「そう言えば、ディリオニスとマートニアの結婚式の進行はどうなっておる?」
「ああ、そうですね。この一週間以内で済ませようと考えておりまけれども……しかし、陛下唐突にどうなさったのです?」
ユーノは首を傾げて女王に結婚式の進行を問いた理由を逆に問う。
女王は質問を質問で返した臣下に対し、寛大な微笑を見せながら、
「なぁに、唐突に思い出しただけよ」
「成る程、ああそうだ。今ならば言えますかね」
「何をだ?」
ガラドリエルは澄ました顔で微笑を浮かべて問い掛けたが、ユーノ本人は極めて深刻な顔で言った。
「行方不明になっているフレーゲル・フォン・リッテンハイムの事ですわ、彼は謎の多い人物でしたが、一度も我々の前に姿を表す事はありませんでしたね。これは私の推測なのですが、オットー王子の死亡後は各地を回っていたのでは?そして、陛下を倒せる勢力がもうプロイセン大陸に存在しない事が分かると、北の国に向ったのでは?」
ユーノの推測は否定できない。ガラドリエルは細い目でユーノを睨む。
ユーノは視線を逸らし、話を続けていく。
「彼奴が北の国に力を貸し、我々に向って来ると?」
「十分過ぎる程にあり得る話ですわ、どうかご用心なさるように」
ユーノは踵を返し、先程の女王の指示を伝えるために兵舎へと向っていく。
ガラドリエルはその様子を腕を組みながらジッと眺めていた。
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