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第一部 五章 大陸初の統一国家

魔に魅入られし者と光に魅入られし者の舞踏 パート7

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カールが剣を振り上げながら、ガラドリエルに近付いていく。
ガラドリエルはその剣を黙ったまま見つめていた。事情を知らない双子の騎士は悲鳴を上げたが、ガラドリエルは腕を組んだまま“それ”が来るのを待っていた。
カールが上から下へと女王を斬り捨てようとした時に、ドラゴンの背中から一本の剣が彼女の手の中に投げ落とされ、ガラドリエルは即座に受け取った剣を鞘から引き抜き、カールの剣を防いでいく。
ガラドリエルは澄ました顔のままカールと斬り合っていく。
カールは右手の剣を左水平に向けて攻撃を繰り出す。
ガラドリエルは眉一つ動かす事なく、カールの剣を受け止めた。
ガラドリエルはそのまま剣を上段へと突き上げ、カールの頭上を狙う。
カールは女王の剣を自らの円盤状の盾によって防ぐ。
女王の剣と王子の盾の間に火花が走っていく。
やがて、女王の剣は王子の盾に弾かれたが、女王は怯む事なく裏切り者の王子に剣を振っていく。
カールは女王の剣を今度は盾ではなく剣で防ぐ。
カールは防いだ剣で女王の剣を弾き返そうとしたが、女王の剣は意外としぶとく華奢な体からは想像もできない程の粘り強さだった。
カールはガラドリエルの攻撃を弾き返す事ができずにいた。
それどころか少しでも気を抜けば、自分が彼女の剣の餌食にでもなりかねない危険な状況に遭ったとも言えよう。
カールは自分の体の中に潜む闇の力を活用し、ガラドリエルの攻撃を弾く事にした。
カールは唸り声を上げて女王の剣を押し除けていく。彼は成功したのに味をしめたのか、ガラドリエルの剣を押していく。
ガラドリエルはカールの猛攻の前にバランスを崩して倒れてしまう。
だが、倒れても尚、彼女は顔から笑みを失おうとはしない。
その場に居合わせた臣下達は全員が息を殺しながらカールとガラドリエルの斬り合いを眺めていた。
ガラドリエルが降伏するかもしれないと、臣下達が危惧した矢先の事だ、彼女は大声で双子の騎士の名前を呼ぶ。
双子の騎士は自らの女王の指示に従い、女王の戦場へと駆け付けた。
カールは二人が駆け付けるよりも前に、倒れているディリオニスを刺そうとしたが、彼女はカールの剣を地面を転がる事によって防ぐ。
二人がガラドリエルの元に駆け付けるなり、二人は女王とカールの間に割って入ったが、女王は直ぐに双子の騎士の真ん中に割り込む。
「へ、陛下!ダメだよ!キミはぼくらの背後でドラゴンと一緒にいなきゃ!」
「そうですよ!ここは私達に任せてーー」
マートニアの言葉をガラドリエルは右手を出して遮り、
「いいや、私はお前達三人とこの場に存在する逆賊を討伐する。私は邪魔になるかもしれぬが、それでも女王としての誇りをかけ、この者と戦おう!」
ガラドリエルは双子と共に剣をカールに向かって構えた。
その時だ。三人の体を黄金の輝きが包み込む。
黄金の光によって包まれた彼らは気が付けば、意識の中にいたと言っても良いだろう。
意識の中に二人の辛い記憶と女王の幼き日の思い出が互いの頭の中を駆け巡っていく。
女王は黄金の空間の中で、二人の両手を強く握り締める。
「二人とも、私はもう何も言わぬ。お前達二人は私と同じだったのだな、過去に怯えていた。ずっとな……」
その言葉に双子の兄妹は黙って首を横に振る。
「ううん、陛下だって、いいや、ガラドリエルさんだって、あんなにオットーやらザビーネやらに辛い思いをさせられたのに、今もちゃんとこの世界で戦えるのは凄いよ。ぼくと妹はあの辛い世界を放棄して、この世界に逃げたようなものだから、死なずにこの世界で戦っている陛下はすごいよ」
ディリオニスの言葉にガラドリエルは初めて澄ました笑顔ではなく、心からの笑顔で答えた。
「感謝するぞ、我が騎士よ」
ガラドリエルの笑顔にマートニアも彼女の体に飛び付く。
「は、離れよ!マートニア!」
「だって、陛下は弟と私が憧れた作品のヒロインにそっくりですもの!この映像を眺めていたら、思い出してしまって……」
ガラドリエルはマートニアの顎を撫でて、微笑を浮かべてみせた。
「そうか、ならば、いつかお前達の元いた世界に行った暁には私にもその作品を見せてくれるだろうな?そして、お前達の言う“娘”とやらにも会わせてもらいたい」
二人は満面の笑みで首肯した。
それから、二人は黄金の光を女王に与える。
ガラドリエルの体の中に眠っていた使命と力が目覚めていく。
ガラドリエルは心の底から満ち溢れた気持ちを味わっていた。





「どうやら、あやつらは貴様らを見捨てて何処かに逃げたらしいな、お前達も哀れな奴よのぉ、あんな女を信じたばかりにここで死ぬ事になるとは」
「貴様、その言葉を直ぐに取り消せねば、我が剣で貴様を取り立ての魚を下ろす時のようにズタズタに切り落としてやるぞ!」
ガートールードは目の前に迫るカールに向かって剣先を突き付けて叫ぶ。
だが、暗黒の力に満たされたカールはそんな女騎士の脅しにも怯む事なく、真っ直ぐに向かっていく。
カールがガートールードの頭上に剣を振り上げようとした時だ。
「待て、貴様はどうやら、最後の瞬間までそのベラベラも喋る舌に頼らずにはいられない性質らしいな」
カールは咄嗟に背後を振り向く。そこには黄金の輝きに満ち溢れた一人の女王と二人の騎士が立っていた。
三つの刃がカールに向けられた。カールは剣と盾を構えたが、その二人で何処までこの女王に勝てるかを思案していた。
彼女の黄金に輝く剣に逆らうなと彼の心が語りかけていたような気がした。
カールは必死に首を横に振って、心の声を迷い事だと割り切って、ガラドリエルに立ち向かっていく。
ガラドリエルは真っ直ぐに向かうカールに向かって剣を振るう。
ガラドリエルの剣先が右から切り上げていく。
カールは女王の剣を自らの剣を盾に防ぐ。
今度は危険性を覚悟し、自らの円盤状の盾を女王に向けていく。
ガラドリエルは咄嗟に背後に飛び、カールの盾による攻撃を回避する。
ガラドリエルは盾を振り上げたために、空いたカールの左の脇腹を斬り上げていく。
ガラドリエルの剣は盾を攻撃に使用した代償としてカールの体を襲う。
カールはガラドリエルの剣を受けて悲鳴を上げて地面に倒れ込む。
ガラドリエルは血反吐を吐きながら、呪詛の言葉を叫ぶカールに向かって冷たい視線で見下ろしながら言った。
「お前の敗因は我々の敵である北の国と組んだ事だ。仮にも王を目指す人間ならば、邪悪なる者の力などを借りずとも、自らの手で王座を掴み取るのだ。貴様はそれが出来なかった」
カールは踵を返すガラドリエルを険しい視線で睨む。
彼は最後の悪あがきとばかりに側に落ちていた邪悪なる剣で自らの体を貫く。
刺した瞬間に彼の体は怪しげに震えていく。
カールの心と体をカールとは無関係の力が飲み込んでいく。
カールはこの時に自我を失い、暴走を始めていく。
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