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第一部 五章 大陸初の統一国家
魔に魅入られし者と光に魅入られし者の舞踏 パート6
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爆弾が爆発したかのような大きな光がマートニア達の周りを覆っていく。
同時に四千人余りの守備兵士達は咄嗟に両眼を腕で覆い隠す。
マートニアも堪らずに彼らと同じ行動を取ってしまう。彼女とってこのような事態に巻き込まれるのは二つの人生の中でも初めての体験と言えただろう。
眩いばかりの光がようやく小さくなった際に彼女は恐る恐る目を開く。
彼女の目の前に広がっていたのは二人の人ではない存在が剣を構えて互いを睨み合っている姿だ。
マートニアは双子の兄が自分よりも先に体の中に眠る英雄と同化して、女王の敵と戦っている事を悟った。
マートニアはカールと双子の兄との戦いを見届ける事にした。
カールとディリオニスは互いに剣を重ね合わせて斬り合いを続けていく。
その姿はまさに舞踏。剣を使っての華麗なる舞踏であった。彼ら二人の演舞は三国志演義の舞台を思わせるかのような壮観さであった。
マートニアが二人の演舞をかつて家族と共に見た演劇と重ね合わせていると、自らの双子の兄がピンチに陥っている事に気が付く。
マートニアは兄の劣勢を察し、彼の元へと駆け付けようとするが、その前に彼女はディリオニスがあの光に包まれる前に話していた事を思い出す。
マートニアは二人にとって舞踏を邪魔するよりも前に、兵士達と彼とシュヴァルツ・クロインツ家の王子との舞踏を見届ける事にした。
マートニアが見た限りではどちらも同じように優勢に見えた。互いに戦いを楽しんでいるかのようにも見える。
だが、その実彼らは非常に絶妙なタイミングで剣を弾き合っていたと言えるだろう。
ディリオニスが上段からカールの頭を突こうとすると、カールはディリオニスの剣を北の国の紋章の描かれた盾で防ぎ、今度は彼に向かって彼を右水平の太刀筋で狙う。
カールの攻撃をディリオニスは剣を盾にして防ぐ。
右水平の場所で二人の剣が絡み合い、そのまま斬り合っていく。
左から水平に斬り合っていったかと思えば、次は右水平に斬り合っていく。
両手の剣と片手の剣がぶつかり合う音は二人の背後で身構えていた兵士達の耳にも届いた程だ。
二人の剣劇はそれ程凄まじい音を奏でていたのだろう。
聞く人間全てに感銘を与えかねない程の素晴らしい音だった。
二人はそんな大衆の心の内の感想など分からないかのように一心不乱に剣を振っていく。
カールが上から下に剣を振ったかと思えば、ディリオニスはその剣を突き上げて自分の身に当てられるのを防ぎ、そのまま下から剣を突き上げていく。
カールはディリオニスのその様子を察したかのように、自らの盾で防ぐ。
暗黒の盾だ。ディリオニスはカールがその盾を使う度に自らの両眉を眉間に寄せるのを忘れなかった。
この立てこそがカールが北の国の王に自らの身と国土を売り渡し、民達を危険な目に遭わせようという証拠なのだ。
ディリオニスは自分を奮い立たせて、剣を盾に向かって集中的に打っていく。
上から下へ、右水平から左水平に向けて剣を払っていく。
だが、剣はカールの剣と盾の二つによって阻まれていく。
ディリオニスは自らの体を奮い立たせ、カールの体を襲っていく。
だが、焦り過ぎたのが不味かったのだろう。ディリオニスの脇腹に円盤状の盾が当たる。
脇腹に攻撃を当てられたディリオニスは唸り声を上げて地面に転がり込む。
彼の双子の妹や守備兵士達は悲鳴を上げたが、彼はそれでも剣を杖に立ち上がろうと試みたが、その前に彼の首元に剣を突き立てられ、彼は思わず生唾を飲み込む。
「無駄だ。貴様には勝てん。剣の腕も魔力も余の方が上だ。兵士は全て失ったが、余はいくぞ、ガラドリエルの小娘さえ拐えば、大陸は余の物である」
カールは透き通るような綺麗な声で言ったが、ディリオニスの目や耳には彼の一流の舞台の主人公を演じても違和感の無い程の美しい顔も彼の声も入らない。
あるのは女王の守護とこの大陸の守護の任務だ。
ディリオニスは自分を涙目で見つめる双子の妹の姿を見遣る。
ディリオニスはこの場で自分は死ぬ事になるかもしれないが、彼女ならば上手くやれるだろうと考えて、目を瞑って死を覚悟した。
カールはそんな彼の首を容赦なく跳ねようとしたが、その前に空中で大きな羽音が聞こえた。
カールが上空を見上げると、そこには肝心の女王と女王の頭脳にして偉大なる魔道士に名前を連ねるユーノ・キルケ。そして、王の近衛兵団透明の盾を持つ剣士達のリーダー、ガートールード・ムーン。
王国を代表する三人がドラゴンの背中に乗っていた。
彼女達三人を乗せたドラゴンは二人と守備兵士達とマートニアの目の前に現れた。
彼ら三人はドラゴンの上から降りて、真っ直ぐにカールを見つめた。
それから、三人のうちの黒いローブを着た王の頭脳は何かに気付いたように、ロープの両裾を持ち、丁寧に頭を下げてから名前を名乗る。
「初めまして……と仰るべきでしょうか?カール王子。私の名前はユーノ・キルケと申します。最もあなた様ならば、私の名前と地位や他の方々の地位と名前くらい存じておるとは思いますが……」
微笑を浮かべるユーノの姿を眺めながら、カールは慇懃な視線を向けて、
「何用だ。もう直ぐで決戦も終わり掛けていると言う所なのに」
「来るのが遅れたのはお詫び致しますわ、ですが言い訳をさせてもらいますと、我らが女王陛下は早馬を受け取ると直ぐに城を代行に任せ、もう一度砦から早馬が来るまで援軍が来るのを待てと指示を出され、ドラゴンに乗って私達の元にいらっしゃられたのです。城に着いてからは私の魔法で共にこの上空にまで参りました」
ユーノの説明がディリオニスにはまるで天使の掲示のように聞こえた。
彼女の言葉と何よりも女王自らが援軍に来たと言う事実が嬉しかった。
背後でも女王自らの援軍に士気を巻き起こし、兵士達が剣を空中に掲げて女王への忠誠を叫ぶ。
カールは舌打ちをしてから、三人に剣を向ける。
「だが、どうやって余を攻撃するつもりだ?オレはお前達の攻撃なんぞ怖くも何ともないぞ、何人がかかって来ようとも……」
「バカめ、お前の弟の末路を忘れたのか?お前の弟とその協力者の偉大なる魔道士はそう言って驕りを高めた末に自ら滅びを選んだのだ」
ガラドリエルの言葉にカールは両手を震わせた。
「黙れッ!余をあのような者と一緒にするな!余の剣と盾で貴様ら二人をあの世とやらに送ってくれようぞ!」
カールの激昂した言葉をガラドリエルは澄ました笑顔で聞いていた。
同時に四千人余りの守備兵士達は咄嗟に両眼を腕で覆い隠す。
マートニアも堪らずに彼らと同じ行動を取ってしまう。彼女とってこのような事態に巻き込まれるのは二つの人生の中でも初めての体験と言えただろう。
眩いばかりの光がようやく小さくなった際に彼女は恐る恐る目を開く。
彼女の目の前に広がっていたのは二人の人ではない存在が剣を構えて互いを睨み合っている姿だ。
マートニアは双子の兄が自分よりも先に体の中に眠る英雄と同化して、女王の敵と戦っている事を悟った。
マートニアはカールと双子の兄との戦いを見届ける事にした。
カールとディリオニスは互いに剣を重ね合わせて斬り合いを続けていく。
その姿はまさに舞踏。剣を使っての華麗なる舞踏であった。彼ら二人の演舞は三国志演義の舞台を思わせるかのような壮観さであった。
マートニアが二人の演舞をかつて家族と共に見た演劇と重ね合わせていると、自らの双子の兄がピンチに陥っている事に気が付く。
マートニアは兄の劣勢を察し、彼の元へと駆け付けようとするが、その前に彼女はディリオニスがあの光に包まれる前に話していた事を思い出す。
マートニアは二人にとって舞踏を邪魔するよりも前に、兵士達と彼とシュヴァルツ・クロインツ家の王子との舞踏を見届ける事にした。
マートニアが見た限りではどちらも同じように優勢に見えた。互いに戦いを楽しんでいるかのようにも見える。
だが、その実彼らは非常に絶妙なタイミングで剣を弾き合っていたと言えるだろう。
ディリオニスが上段からカールの頭を突こうとすると、カールはディリオニスの剣を北の国の紋章の描かれた盾で防ぎ、今度は彼に向かって彼を右水平の太刀筋で狙う。
カールの攻撃をディリオニスは剣を盾にして防ぐ。
右水平の場所で二人の剣が絡み合い、そのまま斬り合っていく。
左から水平に斬り合っていったかと思えば、次は右水平に斬り合っていく。
両手の剣と片手の剣がぶつかり合う音は二人の背後で身構えていた兵士達の耳にも届いた程だ。
二人の剣劇はそれ程凄まじい音を奏でていたのだろう。
聞く人間全てに感銘を与えかねない程の素晴らしい音だった。
二人はそんな大衆の心の内の感想など分からないかのように一心不乱に剣を振っていく。
カールが上から下に剣を振ったかと思えば、ディリオニスはその剣を突き上げて自分の身に当てられるのを防ぎ、そのまま下から剣を突き上げていく。
カールはディリオニスのその様子を察したかのように、自らの盾で防ぐ。
暗黒の盾だ。ディリオニスはカールがその盾を使う度に自らの両眉を眉間に寄せるのを忘れなかった。
この立てこそがカールが北の国の王に自らの身と国土を売り渡し、民達を危険な目に遭わせようという証拠なのだ。
ディリオニスは自分を奮い立たせて、剣を盾に向かって集中的に打っていく。
上から下へ、右水平から左水平に向けて剣を払っていく。
だが、剣はカールの剣と盾の二つによって阻まれていく。
ディリオニスは自らの体を奮い立たせ、カールの体を襲っていく。
だが、焦り過ぎたのが不味かったのだろう。ディリオニスの脇腹に円盤状の盾が当たる。
脇腹に攻撃を当てられたディリオニスは唸り声を上げて地面に転がり込む。
彼の双子の妹や守備兵士達は悲鳴を上げたが、彼はそれでも剣を杖に立ち上がろうと試みたが、その前に彼の首元に剣を突き立てられ、彼は思わず生唾を飲み込む。
「無駄だ。貴様には勝てん。剣の腕も魔力も余の方が上だ。兵士は全て失ったが、余はいくぞ、ガラドリエルの小娘さえ拐えば、大陸は余の物である」
カールは透き通るような綺麗な声で言ったが、ディリオニスの目や耳には彼の一流の舞台の主人公を演じても違和感の無い程の美しい顔も彼の声も入らない。
あるのは女王の守護とこの大陸の守護の任務だ。
ディリオニスは自分を涙目で見つめる双子の妹の姿を見遣る。
ディリオニスはこの場で自分は死ぬ事になるかもしれないが、彼女ならば上手くやれるだろうと考えて、目を瞑って死を覚悟した。
カールはそんな彼の首を容赦なく跳ねようとしたが、その前に空中で大きな羽音が聞こえた。
カールが上空を見上げると、そこには肝心の女王と女王の頭脳にして偉大なる魔道士に名前を連ねるユーノ・キルケ。そして、王の近衛兵団透明の盾を持つ剣士達のリーダー、ガートールード・ムーン。
王国を代表する三人がドラゴンの背中に乗っていた。
彼女達三人を乗せたドラゴンは二人と守備兵士達とマートニアの目の前に現れた。
彼ら三人はドラゴンの上から降りて、真っ直ぐにカールを見つめた。
それから、三人のうちの黒いローブを着た王の頭脳は何かに気付いたように、ロープの両裾を持ち、丁寧に頭を下げてから名前を名乗る。
「初めまして……と仰るべきでしょうか?カール王子。私の名前はユーノ・キルケと申します。最もあなた様ならば、私の名前と地位や他の方々の地位と名前くらい存じておるとは思いますが……」
微笑を浮かべるユーノの姿を眺めながら、カールは慇懃な視線を向けて、
「何用だ。もう直ぐで決戦も終わり掛けていると言う所なのに」
「来るのが遅れたのはお詫び致しますわ、ですが言い訳をさせてもらいますと、我らが女王陛下は早馬を受け取ると直ぐに城を代行に任せ、もう一度砦から早馬が来るまで援軍が来るのを待てと指示を出され、ドラゴンに乗って私達の元にいらっしゃられたのです。城に着いてからは私の魔法で共にこの上空にまで参りました」
ユーノの説明がディリオニスにはまるで天使の掲示のように聞こえた。
彼女の言葉と何よりも女王自らが援軍に来たと言う事実が嬉しかった。
背後でも女王自らの援軍に士気を巻き起こし、兵士達が剣を空中に掲げて女王への忠誠を叫ぶ。
カールは舌打ちをしてから、三人に剣を向ける。
「だが、どうやって余を攻撃するつもりだ?オレはお前達の攻撃なんぞ怖くも何ともないぞ、何人がかかって来ようとも……」
「バカめ、お前の弟の末路を忘れたのか?お前の弟とその協力者の偉大なる魔道士はそう言って驕りを高めた末に自ら滅びを選んだのだ」
ガラドリエルの言葉にカールは両手を震わせた。
「黙れッ!余をあのような者と一緒にするな!余の剣と盾で貴様ら二人をあの世とやらに送ってくれようぞ!」
カールの激昂した言葉をガラドリエルは澄ました笑顔で聞いていた。
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