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第一部 五章 大陸初の統一国家
魔に魅入られし者と光に魅入られし者の舞踏 パート4
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「魔王エルモアの象徴を何故、あなたが使っているのです?カール王太子殿下!?」
黒の十字架の紋章を鎧に施した兵士がカールに向かって尋ねるが、カールは無言で兵士に向かって剣を振るう。
いや、正確に言えば彼は兵士を斬ってはいない。ただ、彼の前で新たにできた剣を素振りしただけだ。
だが、通常の素振りと異なるのは彼の剣から大きな突風が飛ばされた事だろうか。
刃のように鋭い風を纏った竜巻がドラゴンの業火もろともシュヴァルツ・クロインツの軍を襲う。
数々の兵士達はカールの繰り出した風に巻き込まれて死んでいく。ドラゴンも竜巻の恐ろしさを理解したのか、慌てて上空に向かって飛び交っていくも、彼の体に無数の切り傷を負わせたのは今回のシュヴァルツ・クロインツ陣営にとっては最高の選択肢であったに違いない。
カールは竜巻によって自軍の兵士達が全滅するのを見届けると満足気に首を縦に動かす。
それから、爽やかな声で、
「気に入ったぞ、私の体の中に宿った力はこれまでの私の力を変えるものなのだな、体中に力が漲ってくるような不思議な感覚に襲われるな」
「お前……正気なのか?お前が今殺したのは自分達の国の兵士だぞ?」
「上記ではないのは貴様らの方だ。ちゃんとした兵法を使用せずにあのような一方的な虐殺とも言える戦闘を繰り出さなければ、私はこんな魔法を使用せずに済んだんだぞ、全ては貴様のせいだ」
カールは暗黒の剣を突き付けながら口元の右端を吊り上げながら言い放つ。
ディリオニスは「違う!」と大きな声で否定の言葉を述べたかったのだが、彼の頭の中には明確に否定できない自分がいた。
ディリオニスは前の世界での虐めが自分のせいで妹に降り掛かった事とこの世界で英雄の力を盾に得意になっていた自分の事を思い返し、パニックに陥ってしまう。ディリオニスは戦闘中であるのにも関わらずに耳を防ぎ、地面にしゃがみ込む。
彼は涙目になりながら、アルト声で否定の言葉を叫び続けた。
そんな彼を追い詰めるように、カールは剣を突き付けながら、詩でも歌うかのような芝居がかった声で言った。
「貴様とドラゴンに殺された兵士の中にはどれだけの家族が居たんだろうな?貴様に殺された未亡人や孤児はお前を一生涯恨み続けるだろうな」
カールの言葉はディリオニスの瞳に現実となって体の中に入り込んでいく。
彼の目の前にはドラゴンの炎とカールの竜巻によってめちゃくちゃになり焼け跡と化した戦場の跡が広がっていた。
ディリオニスは暫く口を震わせてから、大きな声で叫ぼうとしたが、その前に彼の体の中に潜む英雄、ジークフリードが彼自身に心の中で話し掛けた。
(待て!キミはここで逃げ出すつもりなのか!?)
ディリオニスはやけになったかのような投げやりな態度で答えた。
(もうダメだよ。ぼくはこの世界でいっぱい殺しちゃったんだ。この世界のため、ヴァレンシュタイン家のためだと思ってやった事が色んな人を殺していたんだと思うと、もう耐えきれなくて……)
ディリオニスはその後の回答に答える代わりに、自らの剣で自らの喉元を貫こうとするが、心の中に住む英雄ジークフリードは一喝した。
(そうやってまた死んで終わらせる気なのか!?お前は何のために偉大なる神から、派遣された!?何のために私がお前の守護者として体の中に潜んでいると思う!)
ディリオニスはジークフリードのその言葉にハッと息を飲まされた。
説得に成功したと思われるジークフリードは説得を続けていく。
(これまでの戦闘で犠牲になった人は何のために犠牲になった!?邪悪なる魔王を打ち倒すためだろう!?違うか!?)
ディリオニスの体の中を数々の戦闘と女王を守ると言う決意が駆け巡っていく。
(そうだった……ぼくは戦わなくちゃあいけないんだよね?妹のためにも……)
ディリオニスは涙を拭い、目の前にカールに向かって剣先を突き付ける。
立ち上がるディリオニスにジークフリードの最後の説得は彼の心の中に消えかけていた火を灯す事に成功したらしい。
彼の瞳には燃え上がるような闘志が宿っていた。
見る者全てを燃やしかねない程の怒りに満ちた瞳はカールをも焼き尽くしかねない程の憎悪に満ちた瞳だった。
ディリオニスは正面のカールを視界に捉えながら、心の中の英雄に約束をさせた。しかるべき戦いが終わった暁には自分と愛する恋人を両親と最愛の娘の元へと戻すようにと。
英雄は苦笑しながら、最高神に約束させた。
ディリオニスは剣を構えて、カールに立ち向かっていく。
いつもよりも眩く輝くディリオニスの剣はカールでさえも一瞬目を背ける程であった。
カールは歯を軋ませながら、ディリオニスの黄金によって満ち溢れた光を纏った剣と自分の邪悪なる色に溢れた剣を交差させた。
剣と剣は刃同士を弾き合わせながら、火花を散らしていく。
二人は決着が付かないと見ると、背後に下がるともう一度大きな声を上げてカールに向かっていく。
カールの真っ黒な色に包まれた暗黒色の剣とディリオニスの「希望」と言う言葉を体現したかのような眩い光を放つ剣がぶつかり合う。
ディリオニスは唇を噛み締めながら、カールに向かって何度も剣を放つ。
剣と剣が火花を散らし合って、ついには火花だけではなく二人の剣に纏わせていた色までもオーラとなって互いを飲み込まんとしていく。
ディリオニスは突き、横払い、弧を描いての剣劇を繰り返していく。
カールは動じる事なく暗黒の剣をディリオニスの剣と同じ方向に動かして事態の悪化を防いでいく。
彼の瞳は笑っていた。この事態が面白いとでも言うかのように。
と、ここでカールは一方的に攻撃を受けるのを辞めて、円盤状の盾をガラ空きであったディリオニスの腹にぶつける。
ディリオニスは腹に大きな打撃を受けて、グハッと唸り声を上げてから地面に倒れようとしたが、彼は倒れる前に精神を持ち直し、地面を蹴って倒れるのを押し留めてから、もう一度カールに向かって剣を振っていく。
大きく振りかぶったディリオニスの剣はカールの頭上を狙う。
カールはディリオニスの剣を円盤状の盾を頭上に構えて塞ぐ。
剣と暗黒の国の紋章が描かれた盾が重なり合う。
剣と盾の絡み合いは火花を散らし、接戦を見せたが、勝者を付ける事はなく、結局はディリオニスがもう一度地面に足を付けることによって最悪の事態を回避した。
ディリオニスはもう一度険しい目線でカールを睨む。
カールは必死な様子のディリオニスとは対照的に笑みを見せていた。
黒の十字架の紋章を鎧に施した兵士がカールに向かって尋ねるが、カールは無言で兵士に向かって剣を振るう。
いや、正確に言えば彼は兵士を斬ってはいない。ただ、彼の前で新たにできた剣を素振りしただけだ。
だが、通常の素振りと異なるのは彼の剣から大きな突風が飛ばされた事だろうか。
刃のように鋭い風を纏った竜巻がドラゴンの業火もろともシュヴァルツ・クロインツの軍を襲う。
数々の兵士達はカールの繰り出した風に巻き込まれて死んでいく。ドラゴンも竜巻の恐ろしさを理解したのか、慌てて上空に向かって飛び交っていくも、彼の体に無数の切り傷を負わせたのは今回のシュヴァルツ・クロインツ陣営にとっては最高の選択肢であったに違いない。
カールは竜巻によって自軍の兵士達が全滅するのを見届けると満足気に首を縦に動かす。
それから、爽やかな声で、
「気に入ったぞ、私の体の中に宿った力はこれまでの私の力を変えるものなのだな、体中に力が漲ってくるような不思議な感覚に襲われるな」
「お前……正気なのか?お前が今殺したのは自分達の国の兵士だぞ?」
「上記ではないのは貴様らの方だ。ちゃんとした兵法を使用せずにあのような一方的な虐殺とも言える戦闘を繰り出さなければ、私はこんな魔法を使用せずに済んだんだぞ、全ては貴様のせいだ」
カールは暗黒の剣を突き付けながら口元の右端を吊り上げながら言い放つ。
ディリオニスは「違う!」と大きな声で否定の言葉を述べたかったのだが、彼の頭の中には明確に否定できない自分がいた。
ディリオニスは前の世界での虐めが自分のせいで妹に降り掛かった事とこの世界で英雄の力を盾に得意になっていた自分の事を思い返し、パニックに陥ってしまう。ディリオニスは戦闘中であるのにも関わらずに耳を防ぎ、地面にしゃがみ込む。
彼は涙目になりながら、アルト声で否定の言葉を叫び続けた。
そんな彼を追い詰めるように、カールは剣を突き付けながら、詩でも歌うかのような芝居がかった声で言った。
「貴様とドラゴンに殺された兵士の中にはどれだけの家族が居たんだろうな?貴様に殺された未亡人や孤児はお前を一生涯恨み続けるだろうな」
カールの言葉はディリオニスの瞳に現実となって体の中に入り込んでいく。
彼の目の前にはドラゴンの炎とカールの竜巻によってめちゃくちゃになり焼け跡と化した戦場の跡が広がっていた。
ディリオニスは暫く口を震わせてから、大きな声で叫ぼうとしたが、その前に彼の体の中に潜む英雄、ジークフリードが彼自身に心の中で話し掛けた。
(待て!キミはここで逃げ出すつもりなのか!?)
ディリオニスはやけになったかのような投げやりな態度で答えた。
(もうダメだよ。ぼくはこの世界でいっぱい殺しちゃったんだ。この世界のため、ヴァレンシュタイン家のためだと思ってやった事が色んな人を殺していたんだと思うと、もう耐えきれなくて……)
ディリオニスはその後の回答に答える代わりに、自らの剣で自らの喉元を貫こうとするが、心の中に住む英雄ジークフリードは一喝した。
(そうやってまた死んで終わらせる気なのか!?お前は何のために偉大なる神から、派遣された!?何のために私がお前の守護者として体の中に潜んでいると思う!)
ディリオニスはジークフリードのその言葉にハッと息を飲まされた。
説得に成功したと思われるジークフリードは説得を続けていく。
(これまでの戦闘で犠牲になった人は何のために犠牲になった!?邪悪なる魔王を打ち倒すためだろう!?違うか!?)
ディリオニスの体の中を数々の戦闘と女王を守ると言う決意が駆け巡っていく。
(そうだった……ぼくは戦わなくちゃあいけないんだよね?妹のためにも……)
ディリオニスは涙を拭い、目の前にカールに向かって剣先を突き付ける。
立ち上がるディリオニスにジークフリードの最後の説得は彼の心の中に消えかけていた火を灯す事に成功したらしい。
彼の瞳には燃え上がるような闘志が宿っていた。
見る者全てを燃やしかねない程の怒りに満ちた瞳はカールをも焼き尽くしかねない程の憎悪に満ちた瞳だった。
ディリオニスは正面のカールを視界に捉えながら、心の中の英雄に約束をさせた。しかるべき戦いが終わった暁には自分と愛する恋人を両親と最愛の娘の元へと戻すようにと。
英雄は苦笑しながら、最高神に約束させた。
ディリオニスは剣を構えて、カールに立ち向かっていく。
いつもよりも眩く輝くディリオニスの剣はカールでさえも一瞬目を背ける程であった。
カールは歯を軋ませながら、ディリオニスの黄金によって満ち溢れた光を纏った剣と自分の邪悪なる色に溢れた剣を交差させた。
剣と剣は刃同士を弾き合わせながら、火花を散らしていく。
二人は決着が付かないと見ると、背後に下がるともう一度大きな声を上げてカールに向かっていく。
カールの真っ黒な色に包まれた暗黒色の剣とディリオニスの「希望」と言う言葉を体現したかのような眩い光を放つ剣がぶつかり合う。
ディリオニスは唇を噛み締めながら、カールに向かって何度も剣を放つ。
剣と剣が火花を散らし合って、ついには火花だけではなく二人の剣に纏わせていた色までもオーラとなって互いを飲み込まんとしていく。
ディリオニスは突き、横払い、弧を描いての剣劇を繰り返していく。
カールは動じる事なく暗黒の剣をディリオニスの剣と同じ方向に動かして事態の悪化を防いでいく。
彼の瞳は笑っていた。この事態が面白いとでも言うかのように。
と、ここでカールは一方的に攻撃を受けるのを辞めて、円盤状の盾をガラ空きであったディリオニスの腹にぶつける。
ディリオニスは腹に大きな打撃を受けて、グハッと唸り声を上げてから地面に倒れようとしたが、彼は倒れる前に精神を持ち直し、地面を蹴って倒れるのを押し留めてから、もう一度カールに向かって剣を振っていく。
大きく振りかぶったディリオニスの剣はカールの頭上を狙う。
カールはディリオニスの剣を円盤状の盾を頭上に構えて塞ぐ。
剣と暗黒の国の紋章が描かれた盾が重なり合う。
剣と盾の絡み合いは火花を散らし、接戦を見せたが、勝者を付ける事はなく、結局はディリオニスがもう一度地面に足を付けることによって最悪の事態を回避した。
ディリオニスはもう一度険しい目線でカールを睨む。
カールは必死な様子のディリオニスとは対照的に笑みを見せていた。
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