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第一部 五章 大陸初の統一国家

魔に魅入られし者と光に魅入られし者の舞踏 パート3

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カールはもう一度剣を構えてディリオニスの元に飛び掛かっていく。
ディリオニスはカールの剣を自分の剣を盾にして防ぐ。
横に構えたディリオニスの剣と上から圧力をかけて落ちていくカールの剣とが混じり合っていく。
ディリオニスは歯を食い縛りながら、カールの攻撃を防ぐ。
カールは続いて打っていく。右、左、正面と向きを変えての攻撃はディリオニスを大いに悩ませた。
彼はカールから突きや薙ぎ払う攻撃を繰り出される度に彼自身の刃を盾に防いだが、彼の剣には一定の磨きがあった。
ディリオニスはまるで自分が古代中国の祭りの舞台で剣舞を踊っているかのような錯覚に陥った。
カールの剣には滑らかさと芸術性の二面性が備わっており、それを受け流すだけでもディリオニスは大変だったと言えるだろう。
ディリオニスは自らの剣の腕だけでは防ぎ切れずに体の中のジークフリードと連帯しながら、目の前の王子の攻撃を塞いでいく。
同じ王子でもオットーとは器が違う。オットーは小物であったが、カールは動じる事なく攻撃を繰り返す。
そこに差があった。ディリオニスはいや、正確には彼と彼の体の中に潜む英雄ジークフリードはカールの剣を受け流しながら考えた。
この大陸は例え自分達の女王が居なかったとしてもこの王子によっていずれは統一されていたのでないかと。
と、考えに集中し過ぎたのだろう。そのカールの手によって剣を吹き飛ばされてしまう。ディリオニスの女王から与えられた剣は地面の中に突き刺さる。
カールはディリオニスの首元に剣を突き付けながら言った。
「もう限界だろう?大人しく剣を置いておけ、父を返せばお前の命までは取らぬぞ」
「冗談だろ?ぼくが女王陛下を裏切るように見えるか?」
ディリオニスは自分の首元に剣を突き付けられている状況だと言うのに真っ直ぐにカールを睨む。
カールは悟った。このディリオニスは放っておけば必ず自分達にとっての災いの種になるであろうと。
カールはここで少年を始末する事に決めた。黒十字シュヴァルツ・クロインツ家の今後のためにも。
カールが目の前に倒れるディリオニスを始末するために首元に剣を突き刺そうとした時だ。彼の大きな声を上げて片方の騎士が向かって来ていた。
彼女の手には剣が二本。片方の塚や持ち手に装飾の施された剣こそが彼女の本来の剣だろう。もう片方の地味な剣は守備隊兵の一人の物を借りたに違いない。
と、カールがもう片方の少女の騎士に注意を向けていた時だ。
ディリオニスはカールの注意が自身の妹に向いた隙を狙い体を捻らせ、脱出を図っていた。
彼は起き上がった当初は丸腰であったが、もう片方の騎士が放り投げた地味な剣を受け取りもう一度カールに向かって斬り掛かっていく。
カールはディリオニスの剣を自らの剣を横に構えて二つの剣をかち合わせる事によって受け止めたが、もう片方から飛び掛かる騎士の動きは察知できなかったらしい。
彼とよく似た顔立ちの可愛らしい顔の長い黒髪の騎士はカールの剛強な肩を斬り付け、彼の肩にかすり傷を負わせた。
それ以降も彼女は体全体を弧に描いてカールを斬ろうとしたが、カールはその場で慌ててディリオニスを力で弾いて、その場を脱した。
カールは片手から両手に力を込めて自分の剣を握り締める。
強敵を相手にしているためであろうか、自然と剣を持つ両手に力が入る。
カールは両手に握り締める剣を下に構えながら、双子の騎士に向かって斬り掛かっていく。
大きく振りかざった剣を双子の騎士は自らの剣を斜めに構えて自分達の身に起きようとした惨劇を回避した。
ディリオニスはカールの剣を弾くと、そのままカールに向かって真っ正面に斬り掛かっていく。
カールはディリオニスから放たれた剣を自らの剣を斜めに構えた事によって防ぐ事ができたようだ。
ディリオニスの剣とカールの剣がぶつかり合って珍妙な演舞を奏でながら、火花を散らす。
何度も何度も二人は剣を打ち合う。
縦に横に剣が流れ、その度に二人とも体を動かす。
剣と剣の勝負に決着が付かないと思われたのか、ディリオニスはここで攻勢を畳み掛けた。
ディリオニスの剣の突きがカールを襲っていく。カールは少年騎士の剣を自分の剣を縦に構えて防いだが、その剣劇は凄まじく彼の剣でのみ防ぎ切れるものではない。
力任せの攻撃にカールは敗北してしまう。とうとうカールはディリオニスの手によって剣を手から落とされてしまう。
剣を落とされたカールは剣を拾おうと体を屈めるが、彼にはその前にディリオニスによって剣を喉元に突き付けられ、その場から動けなくなってしまう。
「お前の負けだ。負けを認め、黒十字シュヴァルツ・クロインツ家がヴァレンシュタイン家に併合される事を認めるんだ」
だが、カールはディリオニスの問い掛けにも動じる事なく、むしろ彼は狂ったように大きな声で笑い出す。
「私が負けたとでも思ったのか?残念だったな、だが、黒十字シュヴァルツ・クロインツ家の人間を舐めるなよ!私は人間としては貴様に負けたが、人間を超える生物になれば、貴様には負けんと言う事だッ!」
カールは懐から一本の短剣を取り出す。ディリオニスはカールの手に持つ短剣を見るなり、堪らずに生唾を飲み込む。
何故ならば、彼がその手に持つ短剣は邪悪なる空気に満ち溢れていたから。
まるで、彼の持つ短剣そのものが一つの呪いであるかのように。
だが、カールはディリオニスの危惧など気にもする事なく、自らの体をその短剣によって貫く。
カールの体は彼自身が自らを貫いた際に異形の物へと変わっていく。
彼の体を覆っていた黒十字の紋章を象った鎧が弾き飛び、代わりに彼の体にギラギラとした物質によって作られた黒色の鎧が現れた。
よく見れば、彼の握っていた短剣は一本の消炭のような真っ黒な剣に代わり、塚もまるで悪魔が使うかもしれないような邪悪なる装飾が施されていた。
カールはそればかりではなく、自分自身の手で盾を作り出す。
こちらも邪悪なる装飾の施された丸い形の円盤型の盾であり、その中心には見た事もない紋章が描かれていた。
彼の盾の中心に描かれていたのは羊と彼と同じサイズの蠅が共に食い合っている姿だった。
ディリオニスとマートニアはその紋章を見た事が無いために、首を傾げていたが、周りの人々は恐怖の顔によって満ち溢れていた。守備隊の兵士ばかりではない、黒十字シュヴァルツ・クロインツ家の兵士ですら例外ではない。
彼は足元をブルブルと震わせながら口々に叫ぶ。
「ま、間違いない!あれは北の王にして邪悪なる魔王エルモアの象徴だッ!」
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