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第一部 五章 大陸初の統一国家
ヴァイス・クロインツ家の終焉とシュヴァルツ・クロインツ家の台頭
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プロイセン大陸に名を連ねる名門白十字家の敗北は大陸全土に衝撃を巻き起こした。
白十字家の敗北後において、頭部並びに南部の半分を有するもう一つの名門黒十字家においては緊急の会合が行われ、王族と傘下の諸侯を集めての会合が行われた。
「このままでは戦闘がおぼつかんッ!我々は即座にヴァレンシュタイン家の領土に踏み込むべきであるッ!」
城の広間の中心に位置する大きな机を叩いたのは現在のシュヴァルツ・クロインツ家の領主、ヨーゼフ・フォン・シュヴァルツ・クロインツであった。
大きなカイゼル髭を生やした老人は集まった諸侯や臣下達をひとしきり罵倒した後に、最後には降伏したヴァイス・クロインツ家の領主、オットー・フォン・ヴァイス・クロインツへの罵声を浴びせていた。
ヨーゼフの長男、カールは父のこの人の気持ちを理解しない身勝手な発言に辟易したが、彼に言っても始まるものではないだろう。
ヨーゼフはその日は臣下達をなじるだけなじり、浴びせられるだけの罵声を浴びせてから、自室へと戻っていく。
自室の中に引きこもり、部屋の中で惰性を貪る父に対し、カールは侮蔑の視線を向けながら、人の居ない広間の中で自分達の腹心、アドルフ・フォン・アルフレードに対し相談を続けていく。
「このままでは収まりきらん。恐らく、父は南部の奪還のために戦を始めるつもりだろう。だが、敵には凄腕の双子の騎士とドラゴンを備えておると聞く。アドルフよ。お主に何か妙案は無いか?」
「質問を質問で返すようで申し訳ありませんが、閣下は同時に二つの敵を相手に戦う事は可能ですか?」
カールは少し考え素振りを見せてから、慇懃な様子で首を横に振り、
「無理だ。オレの頭には勝てる算段が思い付かぬ。例え、自分の手にどのような新兵器を有しておろうが、同時に二つの敵を相手にするのは難しい」
アドルフは聡明な王子が自分が何を語ろうとしているのかを悟る。
アドルフは唇の右端を吊り上げ、
「閣下に不可能な事がガラドリエルの小娘にも可能でしょうか?」
カールは片眉を微かに上げ、
「分かったぞ、お主の計略が……奴が防衛のために重点を置くのは恐らく、旧ヴァレンシュタイン家の城がある南部の半分……我々もそこに軍を進めるわけだから」
「左様、旧ヴァレンシュタイン家の民は小娘の父、フリードリヒを憎んでおります。彼らに協力を呼び掛ければ、彼らは簡単に我々の方になびくでしょうな」
「アドルフ……私も父にその事を進言しよう。我々はガラドリエルの小娘を挟み撃ちにするのだとな……」
王子と参謀の二人は人の居ない広間の中で今後の作戦を話し合っていく。
「大変だよッ!陛下!オットーが自殺したッ!」
息を荒げながら、ディリオニスはヴァレンシュタイン家に備え付けられた王の執務室の重厚な扉を開けたが、ガラドリエルは澄ました顔のままだ。
ディリオニスが眉一つ動かさないガラドリエルの姿に憤りを感じた時だ。彼女の持つ羽の付いたペンが微かに震えている事に気が付く。
ガラドリエルもこの件に責任を感じているのだろうか。そんな事を考えながら、ディリオニスは報告を続けた。
「オットーは城の一室の中に隠してあった白十字家の先祖代々から伝えられていた短剣で自殺したって聞いたよ」
「……。そうか、それは気の毒な事をしたな、葬儀は行ってやれ、ヴァイス・クロインツ家の最後の当主として葬ってやるのだ。皆にもそう伝えろ」
ガラドリエルは澄ました顔のままだが、相変わらずペンは震え続けていた。
ディリオニスはヴァレンシュタイン家が滅亡した理由は分からないが、少なくとも城下の人間や旧ヴァレンシュタイン家の人間からはそこまで敬われてはいない事を知っていた。
ディリオニスや透明の盾を持つ剣士達が城下や村々を警備する度に市民や農民が向けるのは嫌悪の目であった。
現在は元の北部の城で代わりに統治を行なっているユーノは一度城に戻るように促したが、彼女はあくまでもここに留まる事に拘った。
ガラドリエルは幼少期を過ごしたと言われるこの城に思い入れがあるのだろう。
そんな事をディリオニスが考えていると、ガラドリエルは髪を触りながら、他の用件を尋ねる。
ディリオニスは困惑した様子でもう無い事を伝えると買えるように指示を出された。
ディリオニスはしかめ面を浮かびそうになったが、慌ててその顔を引っ込め女王の命令を伝えに向かう。
葬儀屋の意向を受け、オットーの死体はヴァイス・クロインツ家の最後の当主として葬られる事になり、ヴァレンシュタイン家の城下では盛大な葬儀が執り行われた。
葬儀の代表は女王であるガラドリエルが自ら務め、葬儀は二日に執り行われた。
ディリオニスもこの地における透明の盾を持つ剣士達の代表として参列したが、旧領地の民衆達はガラドリエルに燃えるような憎悪を見せていた。
ディリオニスは彼らのそんな瞳を見る度に自分の仕える女王がそこまで悪い事をしたのかと彼らの中に問い掛ける。
彼女が何をしたのかと。
実際にガラドリエルの統治は最良と言っても良いだろう。各地の城には王の目付けとして役人を派遣する代わりに、その場所での統治は諸侯に任せ、自治権を与えていたし、彼女の臣下の殆どは家柄ではなく、実力で選んでいた。
また、平民には試験の実力で選んだ裁判官の手による公正な裁判の機会を与え、それまでの高過ぎた税率を下げ、収穫率に応じた税を貰うという姿勢に変更したお陰で、大陸の半分における餓死者は激減したのだ。そして、高所得者に対する直接税を施したために、低所得者にその分の恩恵を分け与えていた。
このフリードリヒ・フォン・ヴァレンシュタイン家の領土においても例外はない。
それなのに、民衆達がガラドリエルを嫌っているのはかつてこの地を戦に巻き込んだフリードリヒの娘と言う色眼鏡で見ているからだろうか。
ディリオニスがそんな事を考えていると、葬列隊は城下へと戻っていく。
ガラドリエルは澄ました顔で馬を操り、城の門をくぐっていくが、彼女にも辛いものがあるだろう。
ディリオニスは馬を操りながら、彼女を眺めていた。
白十字家の敗北後において、頭部並びに南部の半分を有するもう一つの名門黒十字家においては緊急の会合が行われ、王族と傘下の諸侯を集めての会合が行われた。
「このままでは戦闘がおぼつかんッ!我々は即座にヴァレンシュタイン家の領土に踏み込むべきであるッ!」
城の広間の中心に位置する大きな机を叩いたのは現在のシュヴァルツ・クロインツ家の領主、ヨーゼフ・フォン・シュヴァルツ・クロインツであった。
大きなカイゼル髭を生やした老人は集まった諸侯や臣下達をひとしきり罵倒した後に、最後には降伏したヴァイス・クロインツ家の領主、オットー・フォン・ヴァイス・クロインツへの罵声を浴びせていた。
ヨーゼフの長男、カールは父のこの人の気持ちを理解しない身勝手な発言に辟易したが、彼に言っても始まるものではないだろう。
ヨーゼフはその日は臣下達をなじるだけなじり、浴びせられるだけの罵声を浴びせてから、自室へと戻っていく。
自室の中に引きこもり、部屋の中で惰性を貪る父に対し、カールは侮蔑の視線を向けながら、人の居ない広間の中で自分達の腹心、アドルフ・フォン・アルフレードに対し相談を続けていく。
「このままでは収まりきらん。恐らく、父は南部の奪還のために戦を始めるつもりだろう。だが、敵には凄腕の双子の騎士とドラゴンを備えておると聞く。アドルフよ。お主に何か妙案は無いか?」
「質問を質問で返すようで申し訳ありませんが、閣下は同時に二つの敵を相手に戦う事は可能ですか?」
カールは少し考え素振りを見せてから、慇懃な様子で首を横に振り、
「無理だ。オレの頭には勝てる算段が思い付かぬ。例え、自分の手にどのような新兵器を有しておろうが、同時に二つの敵を相手にするのは難しい」
アドルフは聡明な王子が自分が何を語ろうとしているのかを悟る。
アドルフは唇の右端を吊り上げ、
「閣下に不可能な事がガラドリエルの小娘にも可能でしょうか?」
カールは片眉を微かに上げ、
「分かったぞ、お主の計略が……奴が防衛のために重点を置くのは恐らく、旧ヴァレンシュタイン家の城がある南部の半分……我々もそこに軍を進めるわけだから」
「左様、旧ヴァレンシュタイン家の民は小娘の父、フリードリヒを憎んでおります。彼らに協力を呼び掛ければ、彼らは簡単に我々の方になびくでしょうな」
「アドルフ……私も父にその事を進言しよう。我々はガラドリエルの小娘を挟み撃ちにするのだとな……」
王子と参謀の二人は人の居ない広間の中で今後の作戦を話し合っていく。
「大変だよッ!陛下!オットーが自殺したッ!」
息を荒げながら、ディリオニスはヴァレンシュタイン家に備え付けられた王の執務室の重厚な扉を開けたが、ガラドリエルは澄ました顔のままだ。
ディリオニスが眉一つ動かさないガラドリエルの姿に憤りを感じた時だ。彼女の持つ羽の付いたペンが微かに震えている事に気が付く。
ガラドリエルもこの件に責任を感じているのだろうか。そんな事を考えながら、ディリオニスは報告を続けた。
「オットーは城の一室の中に隠してあった白十字家の先祖代々から伝えられていた短剣で自殺したって聞いたよ」
「……。そうか、それは気の毒な事をしたな、葬儀は行ってやれ、ヴァイス・クロインツ家の最後の当主として葬ってやるのだ。皆にもそう伝えろ」
ガラドリエルは澄ました顔のままだが、相変わらずペンは震え続けていた。
ディリオニスはヴァレンシュタイン家が滅亡した理由は分からないが、少なくとも城下の人間や旧ヴァレンシュタイン家の人間からはそこまで敬われてはいない事を知っていた。
ディリオニスや透明の盾を持つ剣士達が城下や村々を警備する度に市民や農民が向けるのは嫌悪の目であった。
現在は元の北部の城で代わりに統治を行なっているユーノは一度城に戻るように促したが、彼女はあくまでもここに留まる事に拘った。
ガラドリエルは幼少期を過ごしたと言われるこの城に思い入れがあるのだろう。
そんな事をディリオニスが考えていると、ガラドリエルは髪を触りながら、他の用件を尋ねる。
ディリオニスは困惑した様子でもう無い事を伝えると買えるように指示を出された。
ディリオニスはしかめ面を浮かびそうになったが、慌ててその顔を引っ込め女王の命令を伝えに向かう。
葬儀屋の意向を受け、オットーの死体はヴァイス・クロインツ家の最後の当主として葬られる事になり、ヴァレンシュタイン家の城下では盛大な葬儀が執り行われた。
葬儀の代表は女王であるガラドリエルが自ら務め、葬儀は二日に執り行われた。
ディリオニスもこの地における透明の盾を持つ剣士達の代表として参列したが、旧領地の民衆達はガラドリエルに燃えるような憎悪を見せていた。
ディリオニスは彼らのそんな瞳を見る度に自分の仕える女王がそこまで悪い事をしたのかと彼らの中に問い掛ける。
彼女が何をしたのかと。
実際にガラドリエルの統治は最良と言っても良いだろう。各地の城には王の目付けとして役人を派遣する代わりに、その場所での統治は諸侯に任せ、自治権を与えていたし、彼女の臣下の殆どは家柄ではなく、実力で選んでいた。
また、平民には試験の実力で選んだ裁判官の手による公正な裁判の機会を与え、それまでの高過ぎた税率を下げ、収穫率に応じた税を貰うという姿勢に変更したお陰で、大陸の半分における餓死者は激減したのだ。そして、高所得者に対する直接税を施したために、低所得者にその分の恩恵を分け与えていた。
このフリードリヒ・フォン・ヴァレンシュタイン家の領土においても例外はない。
それなのに、民衆達がガラドリエルを嫌っているのはかつてこの地を戦に巻き込んだフリードリヒの娘と言う色眼鏡で見ているからだろうか。
ディリオニスがそんな事を考えていると、葬列隊は城下へと戻っていく。
ガラドリエルは澄ました顔で馬を操り、城の門をくぐっていくが、彼女にも辛いものがあるだろう。
ディリオニスは馬を操りながら、彼女を眺めていた。
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