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第一部 四章 女王陛下の騎士たち

黒色のドラゴン

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マートニアは剣を掲げ、自らの体を黄金の色に包み込ませ、英雄ブリュンヒルデの力を借り、マクシミリアンと対峙していく。
マートニアの剣とマクシミリアンの大きな剣がぶつかり合う。互いの剣と剣が火花を散らしていき、第三者の介入する暇を与えようとはしない。熱い剣と剣の打ち合いがシルヴィアの目の前には自身を跳ね返しかねない厚い壁が立っている事を感じた。
シルヴィアはマクシミリアンがマートニアとの戦いに夢中になっている隙を狙って、剣を振り上げてザビーネの元へと向かっていく。
だが、ザビーネは幼い女騎士が斬りかかろうとしても唇を緩めたまま結ぼうとはしない。
シルヴィアが堪らずに首を傾げながら、剣を振り上げていると、ザビーネは自らが作り上げた斧でシルヴィアの剣を防ぐ。幼い女騎士はこのまま危ない王女を斬り殺そうと試みたが、彼女の持つ斧は一向に動こうとしない。
彼女がそれ程までにすごい筋肉を秘めているとは思えない。幼い女騎士は彼女の体を改めて観察し直していく。
彼女の華奢な体はどこを取ってみても、自分の剣を防ぐような怪力を有しているようには見えない。幼い女騎士は持てる力を振り絞りながら、剣の力で相手の王女を真っ二つにしようと考えたが、やはり、斧はピクリとも動かない。
ザビーネはシルヴィアの焦る様子を眺めながら、明らかに嘲笑した態度を浮かべてみせながら、丁寧に自分の今の状態を幼い女騎士に向かって喋っていく。
「実はね、今の怪力と斧を瞬時に出したのは私の魔法なのよ。分かるかしら?自分の強くイメージできる物体ならば、どんな物でも実体化する事ができる魔法の事は……ウフフフ、一ヶ月の間、ガラドリエルが他の街を攻めている間に、私は自分自身の従者にこの魔法を教えてもらったのよ。いいわよね、時間があるって言うのはッ!」
ザビーネはそう叫ぶなり、シルヴィアを廊下への向こうへと弾き飛ばす。
吹き飛ばされたシルヴィアの姿を見て、マートニアは我を忘れたのだろう。
右足を大きく踏み出そうとしたが、その隙を狙い背後の魔導師騎士が剣先から作り出した緑の弾がマートニアの脇腹をかすめる。
マートニアは倒れそうな所を地を蹴って踏みとどまり、マクシミリアンにもう一度剣先を向ける。
剣は妖しく光り、マクシミリアンの体を狙っていた。
だが、マクシミリアンは微動だに動かない。
マートニアは歯を噛み締めながら、少しの間だけ後ろで倒れているシルヴィアのの姿を見た。
シルヴィアは呻き声を上げながら、立ち上がろうとしていた。
そんなシルヴィアの元にザビーネは自分の側を悠々と通り抜け、倒れているシルヴィアの真上で斧を振り上げようとしていた。
「お嬢ちゃん、最後にいい事を教えてあげるわ、私の魔法の取得した魔法の名前を教えてあげるわ」
ザビーネは口元に妖艶な微笑を浮かべて言った。
「私の魔法はね、一時的に筋力を増強させ、力を振るう事ができる神の手助けゴッド・ヘルパーって言うのよ。ウフフ、あまり格好良くない魔法だけれど、昔からそう言われてきたんだもの、私の勝手で変えるわけにはいかないわ」
ザビーネは魔法の説明を言い終えると、一直線に斧を振り下ろす。
だが、斧はシルヴィアの頭を貫いてはいない。
ザビーネが両眉を上げて、目の前の男を見つめていた。
「驚いたわ、どうしてあなたがここに居るのかしら?」
「妹の……いや、恋人のピンチに駆け付けない男が何処にいるんだよッ!」
マクシミリアンと戦っている女騎士と瓜二つの顔を持つ少年は歯を噛み締めながら、目の前の相手を睨んでいた。
少年は手に持っていた剣を使って、ザビーネの斧を跳ね返す。
ザビーネは跳ね返された衝撃によって背後に飛ばされてしまう。
ザビーネは地面から起き上がり、黒色のドレスに付着した埃を払いながら、鋭い視線を向けて言った。
「ガラドリエルの騎士って言えば、あなただったわね、忘れていたわ、とんでもない家来を引き入れたものだわ、あの子も」
ザビーネは斧を掲げて言った。双子の騎士の片割れーーディリオニスは剣を振り上げてザビーネの元に斬りかかっていく。
ザビーネの斧とディリオニスの剣がかち合って、火花を散らしていく。
膠着状態になる事を危惧したのだろうか、ザビーネは一度斧を手元に引き戻し、斧を今度は下段に構えて、ディリオニスの脇腹を狙う。
ディリオニスは下段から腹を狙う斧を下段に構えた剣によって防ぐ。
二つの刃物は下段とかち合うと、そのまま滑り込むかのように中段、上段と場所を変えて打ち合っていく。
あまりにも激しい斬り合いにシルヴィアが我を忘れて眺めていると、少年騎士はシルヴィアに向かって唾が飛びかねないほど大きく口を開けて叫ぶ。
「早くッ!味方を呼んで、陛下にこの事を伝えるんだッ!早くしてよッ!お願いッ!」
相変わらずの女のように可愛らしい声であるが、それでも十分に言葉の端には焦る様子とシルヴィアを驚かせる旨が含まれていた。
シルヴィアは棒立ちになっていた足を懸命に動かし、鉛のようにその場に沈もうとする体を踏み留まらせ、廊下を走って騎士の兵舎へと走っていく。
ザビーネやマクシミリアンはシルヴィアが味方を呼ぼうと試みるのを懸命に防ごうとしたが、双子の騎士の活躍のために阻まれてしまい、機会を逃してしまう。
ディリオニスは大きく声を振り上げ、ザビーネの体に剣を振るっていく。
ザビーネはディリオニスの剣を防いではいたが、その顔にもう余裕はない。
あまりの気迫に笑顔と言う存在が彼女の体の内から忘れていたのだろうか。
そして、彼女にも終焉のチャンスは訪れた。ザビーネ王女の手に持っていた斧がディリオニスの剣によって弾き飛ばされてしまったのだ。
ザビーネは斧を落とされた上に、武器を落としてたとあっては勝ち目が無いと判断したのだろう。
両手を挙げて降伏を宣言した。
「参ったわ、まさか、ここまで強いなんてね……」
「お前の負けだ。大人しくしてもらおうか」
ディリオニスは剣を突きつけながら言った。
「分かったわ、私はここで降伏するわ……」
ザビーネの異変にマクシミリアンも気付いたのであろうが、マートニアと剣を打ち合っている状態にあっては気付けなかったのだろう。
魔道士兼騎士の男は背後を振り向き、ザビーネの無事を尋ねたが、その前にマートニアの剣によって防がれてしまう。
マクシミリアンはやむを得ずに、マートニアと戦い続ける事にした。
ディリオニスの勢いのままにザビーネは微笑を浮かべるばかり。
「さてと、あなたの目的は何なのか教えてもらおうか?その上で、どうして未だに陛下を狙っているのかを教えてもらおう」
ザビーネは勇敢なる騎士の言葉に鼻を鳴らして答えた。
「決まっているでしょ、あの子を愛しているから……それ以外に理由があるかしら?あの子を手元に置いて永遠の愛を誓い合う……それの何がいけないのかしら?」
ザビーネの顔は明らかに歪んでいたと言っても良いだろう。
恍惚の肌と嗜虐に満ちた瞳がディリオニスの目に映った。
ディリオニスが怯んだ隙を垣間見て、彼女はけたたましい笑い声を上げ、もう一度武器を作り上げ、今度は一本の真っ白なサーベルを作り上げ、ディリオニスを襲う。
喉元から突き上げられた剣をディリオニスの体の中に潜む英雄、ジークフリードは彼の体を借り、下段から喉元に向かっていく剣に向かって逆に突き上げることにやって彼女の剣を弾く。
ザビーネは一度剣を離すと、長い髪をかき上げて、
「さてと、第二ラウンドの開始よ」
彼女は妖艶に笑った。美しく笑う姿に「魔女」と言う言葉をディリオニスに連想させながら。
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