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第一部 四章 女王陛下の騎士たち

ブレーメレの街のデス・ドーム パート6

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三つの剣と一つの大きな棍棒がぶつかり合う。大きな一つの武器と小さな三つの武器が火花を散らし合う。三人が足を踏ん張る中で、双子の勇敢なる騎士は大きく声を振り絞り、相手の攻撃を打ち返す。黄金色に全身を包み込まれた双子の騎士と女王の攻撃によって、サイクロプスは弾き飛ばされてしまう。サイクロプスは三人の剣によって弾き返されてしまったために、足を踏み外してしまう。
足を踏み外したサイクロプスの胸に向かって双子の騎士は同時に攻撃を浴びせ、サイクロプスを黄金の光によって包み込む。双子によって黄金の色に全身を覆われたサイクロプスは大きな爆発音を発して爆散してしまう。体が黄金色に包み込まれた際に、脱出を図ったエリザベートは唇を噛みながら、三人の敵を睨む。
エリザベートは今や窮地に陥ったと言っても良いだろう。鳥籠の中を囲む傭兵達の声の中に三人を応援する声が飛ぶ。いや、むしろ、エリザベートを応援している兵の数だけが少数と言うべきだろうか。
エリザベートは地上に降り立ち、自身の持つ杖剣に強い力を浴びせる。妖艶な紫色に包まれた杖剣を兄妹に向ける。
「これをやると、あたし自身の命をも蝕むから、使わなかったけれど……こうなれば、使うしかないわけねッ!」
エリザベートは歯を剥き出しにして叫ぶ。
「この魔法はあたしの命を僅かに削る代わりに、触れた物を全て溶かしていく最強の魔法よ……お前らぐらい簡単に片付けてやるッ!」
エリザベートは右足を踏み出し、剣を構えて三人に突っ込む。
ディリオニスとマートニアの二人がエリザベートに向かって鞘から剣を引き抜き、相手をしようとした時に、二人を差し置いて、主人であるガラドリエルがエリザベートの剣を受け止める。
だが、魔法を使っているエリザベートの剣は無敵とも言うべき強さを誇っており、容易くガラドリエルの剣を叩き割る。武器を奪われたガラドリエルはエリザベートに剣を突きつけられ、
「ようやく、やってきましたね。あなた様のご尊顔を恥辱で満たせる日が……」
「フン、そう思っているのは貴様だけだろ?貴様は今日、村を焼き人々を追い込んだ罪により、死刑を受ける事が決まっておるのだ」
ガラドリエルの得意そうな顔に、エリザベートは衝動的に剣を振り上げる。
が、勇敢なる女王はエリザベートが剣を振り上げたタイミングを逃さない。彼女は表情を変える事なく、剣を握るエリザベートの腕を掴む。
腕を掴まれ、たじろぐエリザベートに向かって、ガラドリエルは冷静に言い放つ。
「何を恐れておるのだ?偉大なる魔道士に名を連ねる貴様ならば、私の攻撃なんぞ弾き返せるのだろう?それとも、できぬのか?」
エリザベートは大きく口を開き、歯と歯茎を剥き出しにして叫ぶ。
「ガラドリエルゥゥゥゥ~!!」
だが、エリザベートの剣はガラドリエルの喉を貫かない。反対に両手を握っていたガラドリエルの両手によって剣の向きを強制的に変えられてしまい、気が付けば、自身の喉を貫く。
エリザベートは口から血を吹き出し、その場に倒れ込む。やがて、エリザベートの死と共に鳥籠が消え、同時に元の荒れた広場が戻っていく。
ガラドリエルはエリザベートの喉に突き刺さっていた杖剣を抜き取り、天に掲げて叫ぶ。
「この街の市長の地位を奪い取った人間は市長になれる約束だったな?ならば、約束は約束だッ!お前達は今から、私の兵となり、足となり領土奪還のために動け!良いな、これはこの街の市長にして女王であるガラドリエル・フォン・ヴァレンシュタイン直々の命令である!」
ガラドリエルの言葉に周りを囲っていた傭兵達が賛同の意味も込めた剣の突き上げを行う。彼らは新たな市長の誕生を祝う。そして、一番熱心に新市長誕生ならびに女王の宣言を祝ったのは、朝に彼らに食事を運んだ兵であった。
彼は剣を振り上げながら、女王の誕生を熱心に叫ぶ。





「どうやら、決着が付いたようだな」
「そのようですわね」
ガートールード・ムーンとユーノ・キルケは互いに顔を見合わせて言う。
二人は小さなドラゴンの世話をしながら、決闘の決着を待っていた所だったが、迎えに現れたのが、双子の兄妹の騎士であった事から、自分達の女王が勝利を収めた事を悟った。
二人は馬車をそのままに、市長の部屋から出て、自らの主人の元へと急ぐ。
二人も新たなる女王の誕生を祝いたかったのだった。
ガートールードとユーノの両名は新市長の誕生とガラドリエルが正式に土地と兵を得れた事を今夜は祝いたい気分であった。二人は荒い傭兵達に勧められた木のジョッキに満たされた酒を一気に飲み干す。この街の住人全員に配られた酒は新市長の誕生を祝うものであった。
夜になっても、街のあちこちで焚き火が焚かれ、全員が飲めや歌えの騒ぎを起こしていた。だが、女王と双子の騎士は酒を控えており、ガートールードとユーノも他の傭兵達に比べれば、酒は控え目であった。傭兵達は不審がっていたが、次第に酔いの方が勝り、全員で組んでダンスを踊っていく。中には歌を歌う人間もいたので、双子の兄妹は荒っぽい顔の男が上手に歌を弾いていた事に目を丸くしてしまう。
双子の兄妹はやがて、手を取り合ってキャンプファイヤーの前で踊りを始めた。
二人の踊りは素人丸出しであったが、その踊りは大いに宴を盛り上げた。
やがて、宴が終わり、全員が各々の家に帰っていき、ガラドリエルと四人の従者も街の中心にある市長の家へと戻っていく。
「あれが、仮の宮殿か……粗末な」
「でも、今までの暮らしよりはいいんじゃあないかな」
ディリオニスの苦言に、ユーノが小さい声で笑いながら、人差し指を掲げて、
「まだお分かりになっておられないようですが、女王陛下はこのくらいの宮殿では満足しないと仰っておるのですわ、それこそ、カール王子やザビーネ王女の住まわれるような、白くて輝く宮殿のような場所が最終目標にしたいと仰せられたいのでしょう?」
ガラドリエルは少しだけ引きつった顔を浮かべたが、直ぐにいつもの澄んだ瞳を見せて、
「そ、そうだ……その通りだ」
動揺した様子に四人の従者は互いに顔を見合わせた。
「陛下、本当に大丈夫ですか?確か、ユーノがザビーネ王女の名前を口にした瞬間にーー」
「もう良い、私は大丈夫だ。気にするでない」
ガラドリエルは一見するとやんわりと断っているに思われるが、彼女の響きには「それ以上聞くな」と言う彼女自身の無言の威圧のようなものが発せられたような気がした。
四人はザビーネ王女と彼女が何か関係している事を悟った。
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