いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

王土の守護者

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エヴァとの決闘に勝利を収めた、ディリオニスならびにジークフリードはガラドリエルと神々の祭られる祭壇の前に跪き、
「恐れながらも、異界の神々に申し上げます!今回の決闘を制し、王たる資格を得たのは我らがガラドリエル女王陛下であります!このお方こそが守護獣ガーディアン・ビーストを得て、広大なるプロイセン大陸を統治するのに相応しいお方にございましょう!」
ディリオニスはジークフリードに喋る様を任せていたが、その雄弁さには堪らずに舌を巻いていた。
と、ここでディリオニスに続いてガラドリエルの護衛を務める騎士、ガートールードも祭壇と神々の前に跪く。その上で彼女は先程のジークフリードの弁に足らなかった言葉を付け足す。
「他にもガラドリエル女王陛下はガルマン民族の統治者に相応しいお方でございます!謹んで申し上げます。神々に対する女王陛下の対応が正当性のあるものであると願っております」
ガーオールードに従って黒のローブを帯びた麗しき魔道士も祭壇の元に跪き、
「神々に申し上げます。現在こそ、我らが居住するプロイセン大陸は統一戦争に明け暮れておりますが、争いはそろそろ決着を付けなければならない所まできておりますの。魔王エルミアの治める北の国と呼ばれる未開の国の侵攻を控えております。その乱を打ち返す事ができるのは、偉大なるジークフリードとブリュンヒルデを宿す人間を従える器を持つガラドリエル女王陛下に他なりませんわ。どうか、賢明なご判断を」
ユーノ言葉に釘を刺されたのか、神々がこの期に及んで、ガラドリエルに守護獣ガーディアン・ビーストを渡さないという反応はないだろう。現に神々は顔をしかめて話し合いをしていたものの、代表である小型の老人の神がガラドリエルの前に現れて、杖を掲げた。
ガラドリエルと跪き損ねたマートニアは慌てて祭壇と神々の前に跪く。
長神は寛大な笑顔を向けてから、両手を大きく広げて儀式の言葉を呟く。
「よかろうッ!お主、ガラドリエルをプロイセン大陸の支配者にしてガルマン民族の統治者として認めよう!」
ガラドリエルは神の言葉に従い、頭を下げる。
「したがってお主には我らの誇る最も偉大なる怪物をお主の護衛として従わせよう!」
リーダーと思われる神は天空に向かって杖を振るうと、たちまちのうちに暗雲が割れて、赤と青と白の鱗を持つドラゴンが現れた。
ドラゴンは降下すると、高層ビル程もあった身長を小柄の鳥程の慎重に縮めて、ガラドリエルに頭を下げた。
ガラドリエルは僅かに眉をしかめだが、直ぐにいつもの冷静な顔に戻して、
「これは?」
「うむ、こやつらがお主を守護し、玉座へと導く怪物じゃ。三匹の色の異なるドラゴンはお主の言う事ならば何でも聞く。縮まらせて共に移動するのも、空を飛ばせるのもお主の裁量次第じゃ」
そう言って神々のリーダーを務める神は他の神々を先導して、天界へと戻って行く。
だが、帰り際にディリオニスとマートニアの方向に向き直り、
「そうじゃ、お主ら二人に言っておくぞ!何があってもガラドリエルを裏切ってはならん!偉大なる神オーディンは魔王の侵攻に耐え切られるのはお主だけだと考えておるからのぉ。特にあの女……ザビーネの甘言にだけは耳を貸すなッ!以前、独断であやつの甘言に乗せられて、怪物を与えた愚かな神がいるでな。十分に気をつけなされ!」
神は二人への短い接見を終えると、再び神々の世界へと戻って行く。
ガラドリエルは神々が去り行くのを眺めて、地面を立つ。
ガラドリエルは起き上がってから、同じように地面から立ち上がったディリオニスとマートニアに向かって微笑みかけ、
「成る程、私はお前達二人が、私の元にやってきた理由を分かった気がしたぞ」
ガラドリエルはそう言って口元を歪めた。
「お前達二人の活躍には女王として感謝しておる。これからも活躍を期待しておるぞ」
相変わらずの澄ました笑顔。傲慢とも言える態度。そして、たまにだけ見せる優しさに慈悲深さ。こんなガラドリエルだからこそ、二人は従っているのだと、顔を見合わせて笑う。
ユーノは会話が終わったのだろうと推測して、ドラゴンに乗ってみないかとガラドリエルに提案した。
ガラドリエルは満面の笑みで答えた。ガラドリエルは三匹のドラゴンに指示を出し、元の姿に戻させる。それから、聡明な女王は乗る順番を定めて、臣下たちを乗せていく。
赤色の鱗を持つドラゴンに自分とガートールードが。青色の鱗を持つドラゴンにディリオニスとマートニアが。そして、白色の鱗を持つドラゴンにユーノが乗る事になった。ユーノは自分が一人だけ乗る事に頬を膨らませていたが、ガラドリエルは先導役を務めてほしいと言うと、渋々と了承した。
ユーノは三匹のドラゴンの先頭に立って、異界へと繋がる霧を精製した。
途端に山の周りは霧に包まれる。
ユーノは山頂近くで待機するドラゴンに乗る主人と仲間達に指示を出し、霧の向こうへと向かって行く。三匹のドラゴンは蝙蝠のような立派な翼をはためかせて行く。




「よしよし、お前はいい子ね」
ザビーネは森近くの村で食事を終えたばかりの自身の守護獣ガーディアン・ビーストの頭を撫でる。
怪物は竜の頭を持ち、蛇のような体に邪気のような黒い霧を纏っていた。
よく抵抗がないものだと、マクシミリアンは内心感心していた。
この怪物は食べ始めたら止まらずに、村全てを全滅させる程の旺盛な食欲を見せ付けていた。悪魔のような怪物にマクシミリアンは嫌悪感を感じられないが、ザビーネが命じた若い娘だけは殺していない点からも主人の命令だけは忠実に守るらしい。
マクシミリアンが震える手を掲げたザビーネに質問を浴びせた。何故に若い娘だけを生かしておいたのかと。
ザビーネはその質問を聞くなり、髪を撫で上げて真っ白な犬歯を見せて笑う。
それから、人差し指を舐めて答えた。
「決まっているでしょ?遊ぶのよ。私ねペットが好きなの。ペットはどんな言う事でも聞くわ。恐怖と悲観にくれた目で私を見つめるの。ゾクゾクするわ」
ザビーネは言葉通りに体を震わせながら答えた。
「では、転送魔法で?」
ザビーネは満面の笑みでマクシミリアンの言葉を肯定した。
マクシミリアンの魔法によって哀れなる乙女たちは彼女の城へと送られて行く。
ザビーネが帰城した時の事を考えると、いさかか彼女達が哀れに思われたが、彼女は恩人の主人なのだ。
目の前の『サディスト』という言葉を全体で体現した女はその様子を眺めると、地図を開く。
そして、北の国に近いブレーメレという街を真っ白な手で指差し、
「ここよ。ここにガラドリエルはやって来るわ。間違いないわ」
ザビーネは口元を三日月の形に歪めて笑う。マクシミリアンはその様子を無言で眺めていた。
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