いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

王家の山 パート6

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エヴァ・フォン・ハーケン・クロインツは山頂に着くなり、上空を眺める。
上空には先祖伝来の神々が自身を見下ろしている。そして、本来ならば自身がいなければならない筈の祭壇には異界の女王が腕を組んで、険しい目付きで自分を舐め回すように眺めていた。
そのお供の騎士と思われる短い金髪の女も汚物でも見るかのような目で自身を見下していた。
エヴァにとってこの降伏の儀式は屈辱以外の何者でも無い。
エヴァは一時の汚辱を抑えるために、何万匹もの見えない苦虫を噛み殺さなければならなかった。
背後で自分を監視する忌々しい騎士の手によって女王の目の前にまで連れて行かれ、エヴァは怒る気持ちを押し殺して、女王に臣下のような謙った礼を見せた。
「私と言葉をお交わしになるのはこれで、二度目でございますね?異世界の女王陛下。まさか、私がこのような仕打ちを受けるとは思いもしませんでしたが……」
「そうだな、だが、天命は貴様ではなく、私を選んだようだ。事実、天井におわすあの神々がお主を選べば、今、こうやって頭を下げているのは、私だったかもしれないしな」
ガラドリエルが言い終わるなり、エヴァは口元を三日月の形に歪めて、両手を大きく振り上げて、天に存在する神々に向かって大きな声で主張を始めた。
「神様方、お聞きになりましたか?ガラドリエル女王陛下は自分が勝ったのは、あなた方がお味方したからとハッキリと薄い薔薇色の唇から、その華美なる言葉で仰いましたわッ!神々が私を選んだとッ!」
エヴァは兄譲りの弁舌でガラドリエルの僅かな隙を突き、自身の主張を貫き通すつもりらしい。
ガラドリエルの眉が僅かに上がる。それに応じて、ガラドリエルのお供たちも各自の武器を取り出して行く。
対抗するとしても、数は正面に位置するガラドリエルを除いても、5名。とてもでは無いが勝機は薄くなるだろう。
だが、エヴァは奥の手を控えていた。彼女は華奢な腕を挙げて、神々にある事を提案した。
「神様方、ここは昔ながらの方法で決着を付けましょう。……」
『決闘』の二文字によってガラドリエル一行に戦慄が走る。
あの偉大なる魔道士と言われるユーノ・キルケとメンバーの中でも腕の立つ方だと思われるディリオニスの二人でさえエヴァ・フォン・ハーケン・クロインツ目の前の毒使いとはギリギリの勝負だったのだ。一対一の決闘など誰にも勝機が見出せないに違いない。
全員の顔に諦めの顔が浮かんだ時に、勇者は現れた。自身の勇敢なる勇者ディリオニスが手を挙げて『決闘』に立候補したのだった。
「神様方、ぼくが陛下の代わりにエヴァとの『決闘』を受けます!それで、よろしいでしょうか?」
上空でこれまでの戦いを見守っていた神々は全員が微笑を浮かべてディリオニスの提案を首肯した。
ディリオニスは剣を鞘から取り出し、先端をエヴァに向かって叫ぶ。
「相手は陛下では無いッ!ぼくだッ!不満か!?」
エヴァは首を横に振る。どうやら、異論反論は彼女のよく回る真っ赤な舌でも出ないらしい。
だが、彼女は微笑を浮かべていた。そして、今度は彼女も毒の塗られた尖った剣を再び鞘から取り出し、剣先を少し離れた距離に立っていたディリオニスに突き付けた。
「いいえ、けれどあなたは決闘のルールをご存知かしら?決闘は正当なる決定よ。もし、あなたが負けたりしたのならば、あなたの上司は永久にこの王家の山で国王の守護を任じられる獣を得る資格を失うわ。その上、決闘は生きるか死ぬかの勝負。負ければあなたは死ぬの」
ディリオニスはエヴァの言葉に思わず生唾を飲み込んでしまう。ディリオニスは前世でよく読んでいた漫画の話に描かれていた、王族同士の拗らせた裁判を『決闘』で解決する話があり、『決闘』の重要性はある程度は理解していたつもりであったが、ここまでするものとは……。
ディリオニスは祭壇に陣取る主人の顔を見遣る。不安げな視線を向ける下僕に主人は慈愛の目を向けてやり、
「心配は要らぬ。私はお前や他の者どもにも全幅の信頼を置いてあるのだ。お前はお前を信じて、戦えば良いのだ。心配するな、お前が逃げたり、決闘を放棄したりしても、私とヴァレンシュタイン家は永遠にお前が帰れる場所だと約束してやろう。だから、お前は存分に戦え!主人として命令するのはそれだけだッ!」
ディリオニスはその言葉を聞いて、全身の震えを抑えてエヴァに向き直る。
エヴァは人差し指を舐めて、ディリオニスを見つめた。
「まさか、勝てると思っていないでしょう?」
「いいや、必ず勝ってみせる」
「生意気よ」
その言葉が地面に落とされる純白のハンカチの代わりに決闘の合図となった。
ディリオニスはエヴァの元へと近付き、白刃を打ち付けようとする。
エヴァは剣が振り下ろされた瞬間を見計らって、ディリオニスの首元に毒入りの剣を向ける。
ディリオニスはいや、英雄ジークフリードはエヴァの剣劇を見破り、首を左に傾げて、剣が首に刺さる事を回避した。
攻撃をしくじったエヴァの先に待っていてのはジークフリードの剣だった。
剣の先端がエヴァの顔に直撃するよりも前に、エヴァは地面を蹴って、体を下げる事によって最悪の結果を回避した。
それどころか、そのままディリオニスの足を蹴ろうとしている。
だが、英雄ジークフリードはディリオニスに危機を教えて、エヴァの意図を見抜かせた。ディリオニスはエヴァのスライディング攻撃を空中へと飛び上がる事によって無効化した。
今度はディリオニスが反撃に転じる番であった。ディリオニスは剣を地面に横たわったままのエヴァに向ける。
エヴァは即座に右手の剣を空中に振り上げて、ディリオニスの剣を防ぐ。
だが、地面に着地したディリオニスはエヴァに地面を立たせる事なく、何度も何度も剣を振り下ろす。
剣を防ぐ度に大きな白閃を描き、火花を散らしていく。そんな華麗なる打合いが三十回ばかり続いた後に、決着は付いた。エヴァの持っていた毒を塗られた剣が地面に突き刺さる。
ディリオニスは剣をエヴァの首元に突きつけながら言う。
「決闘はボクの勝ちだ」
「わ、分かったわ……だから、命だけは助けてくれないかしら?レディの首を跳ねるのは騎士道に反する筈だわ。男なら、騎士なら……出来ない筈よ。それに、助けてくれるのならば、私の家が大金を払う筈よ!それはもう金銀財宝珊瑚に絹に無数の宝石、あなたがお望みならば、あたしや宮廷の女官を貰ってもいいわ。あなたをお兄様の跡取りにしてもいい。だから……」
エヴァの懇願する目が影響したのだろうか。ディリオニスは意味深な目をユーノ・キルケに向けてから、エヴァに向かって背を向ける。
どうやら、見逃してくれたらしい。
だが、それはエヴァの罠であった。彼女は懐から一本の短剣を取り出し、ディリオニスに向かって放り投げようとした時だ、不意に彼女の額を緑色の弾が貫く。
額から何匹もの赤色の蛇を生み出して、彼女は地面に仰向けに、そして、永遠に倒れてしまう。
ユーノはその様子を見て、口元を手で覆いながら微笑を見せて、
……と言うのでは芸がなかったかしら?まあ、良しとしておきましょうか。あいつは命乞いをしておきながら、命を狙ったのですから、あのような死に方も因果応報と言えますわ」
それから、ユーノは決闘に勝った勇者に向かってウィンクをしてみせた。
ユーノの目配せに照れ臭くなってしまったらしい。ヴァレンシュタイン家の勇士は酷く赤面した顔をしていた。
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