いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
10 / 106
第一部 第二章 ヴァレンシュタイン旋風

魔道士ユーノ 前編

しおりを挟む
暗い木々に囲まれたログハウスを思わせるような家。
この一軒、別荘のように思える家に住んでいる人物こそが、この大陸の数少ない大魔導師のユーノ・キルケの住む魔法薬の生成場であり、魔法の研究のために使われる家であった。
ユーノ・キルケは大きな壺の中に入っている緑色の液体を舌で舐める。
中々いい味にできている。この薬は王族や貴族に高く売れるだろう。
彼女の仕事は魔法の研究以外にも、薬草を使った薬の生成。そして、生まれる妊婦の手助け。
ユーノは周りから、評判の良い魔道士であった。
彼女は他の魔道士とは違い、決して奢らず、あくまでも村民相手にあこぎな商売をしたりしない事から、周りの人物からは好感を持って、『おれ達の魔道士』と呼ばれていた。
そんな彼女がガラドリエルの首を狙うのも、今年の不作と戦争によって荒廃した森の近くの村を救うためであった。
ユーノはやがて訪れるであろう、ガラドリエルの事を同じ魔道士のフレーゲルの口から知った。
フレーゲルは卑劣、と言う言葉を顔に描いているかのような嫌らしさを感じる男だったが、高価な報酬のためには仕方がないだろう。
ユーノは壺の横に立てかけてあった魔道士の杖を拾う。
が、気分が変わり、ユーノは大きな杖を元に戻し、代わりに木製の傷の目立つ机の上に置かれていた小さな杖を懐に忍ばせる。
そして、彼女は不気味に微笑んだ。




「もう直ぐ、村に着くんだよね?」
ディリオニスはガタガタと揺れる馬車を動かしながら自身の主人に尋ねる。
だが、主人の代わりに答えたのは、護衛騎士のガートールード。
「間違いない、この近くに存在する筈だからな、森をくぐってから、その村で一晩の宿を願うのが、今日の我らの理想ルートだが……」
と、ここで馬車が止まる。思わぬ急停止にガラドリエルが馬車の幌の中から、馬車を操っていたディリオニスの元にまで身を乗り出す。
「何をやっているのだ?」
「い、いや見てよ……」
ガラドリエルはディリオニスの指差す方向を見つめた。
すると、そこには一人の若い女性が倒れていた。
倒れていた見事なまでの長い黒髪を持つ女性は、膝丈まで隠れる黒色のローブを身に付けていた。しかし、彼女はローブだけを身に付けているという訳ではないらしい。彼女の膝の下に見える青色のスカートの存在がその事を強く裏付けていた。
ガラドリエルが女性を観察していると、その間に、ディリオニスが女性を助け起こす。
「大丈夫ですか!?良かったら、ぼくらの馬車の上にまで来ませんか?良かったら、話を聞きますよ」
女性が何か呟くのが聞こえる。ディリオニスは耳を澄ます。
「だ、大丈夫です……それよりも、この近くに私の家がありますから、そこまで肩を貸していただけませんか?」
優しい声だ。このウィスパーボイスにはとろけてしまいそうだ。
ディリオニスは助けたい気持ち半分といい所を見せたいと言う下心半分で女性に肩を貸す。
そして、場所の方に向き直り、馬車の上で見つめているガラドリエルと姉とガートルードに向かって、女性を家に送り届けると言う旨を伝えた。
ガラドリエルはフゥと溜息を吐いてから、馬車の中に引っ込む。護衛騎士のガートールードは女性を懐疑的な目で見つめていたが、やがて主人に倣い、馬車の奥に引っ込む。
姉は唯一御者椅子の上で優しく微笑みながら、ディリオニスに向かって手を振る。
ディリオニスは姉に微笑み変えてしてから、前へと向かって歩き出す。
「ありがとう、あなたが居てくれて助かったわ」
「いえ、そんな、当然の事をしているだけですよ。それに、ぼくの仕えている女王陛下はとても優しい方なので……」
女性はディリオニスに向かって微笑む。
美人だ。ローブに顔を隠した女の姿を見た瞬間にずっと、口を開けたままボンヤリとしていたディリオニスはそう感じずにはいられない。
例えるのならば、かつて自分が生きていた世界のアニメの人気キャラクターのようなものかもしれない。
自分自身もあるアニメの女性吸血鬼が大好きだった。
大好きなキャラクターであったので、毎週彼女を観るのが楽しみであった。勿論、ディリオニスが生前にそのアニメを見ていたのは、そのためだけではないが……。それはともかくとして、目の前の女性は妖艶な顔の上に思わず蕩けてしまうくらいの笑顔を浮かべていた。その瞬間にディリオニスの体は完全に一つの感情に支配されてしまっていた。
この感情は『恋』とさえ言えるかもしれない。そんな、人を瞬時に恋に落とす魔力が今、自分が肩を貸している人物にはあるのだろう。黒のローブに身を包んだ女性は薄い薔薇のような色の良い口元を歪めて、
「見えたわ、ここで良くってよ」
と、呼び止めれば即座に振り返ってしまうような美声で呼び止めた。
その言葉にディリオニスは微笑みを浮かべて、貸していた肩を戻す。
美しい黒髪の女性は優しく微笑みながら、
「あなたにはお礼をしなくちゃね、とてもいいお礼がいいわ」
「お礼だなんて……そんな」
「遠慮なさらないで、私の懐にあなたの欲しいものがあるから……」
女性は優しく笑いながら、懐をいじる。
「い、いや、いいですよ、お礼な……」
ディリオニスの口が閉じる。何故ならば、彼女は自分に向かって小型の杖を向けていたからだ。
「改めてお礼を言うわ、お陰で女王陛下に配慮する事なく、あなたを片付けられる事ができるのだからッ!」
女性は杖を取り出し、魔法を詠唱し始める。
「〈大地と守護の精霊に願います。我に大いなる土の守護を与えたまえ!〉」
ディリオニスの足首を土の手が掴む。
「あ、あァァァァァ~!?」
「今から、この土の手は私の物ですよ。安心して、お姉さんがちゃんとあなたをあの世に送ってあげるから」
ディリオニスは絶体絶命の危機を味わった。剣を動かせないだろうし、何よりも、土に足を掴まれていては、身動きが取れない。
拘束されたディリオニスの体に女性は体を寄せる。女性の形の良いお椀型の両胸が当たるのをディリオニスは確認した。
もし、死ぬとしても、最後にこの快感を味わえたからいいかもしれない。
満足そうな顔を浮かべている、ディリオニスに向かって、女性は邪悪な微笑みを見せ、
「いいわ、あなたのその態度気に入ったわ、良かったら、死ぬ前に私の家で遊びましょうか?そうだ、遊ぶ前に名前を教えておくわ、私の名前はユーノ・キルケ。この大陸における有数の魔道士の一人よ」
ユーノはパチンと指を鳴らす、すると、ディリオニスを掴んでいた土が今度は土人形に変化して、ディリオニスを抱き上げる。
「さあ、行きましょうか」
ユーノが満足気な笑みを浮かべていると、背後から怒鳴る声が聞こえた。
ユーノが背後を振り向くと、そこには短い金髪の鎧を纏った女騎士が腕を組みながら立っていた。
「お前、やはり敵だったか……行き倒れの真似なんて、随分卑怯な真似をするじゃないか?」
「あら嫌だわ、脳筋の騎士様には私の美学が分からないのかしら?」
二人の間で見えない火花が鳴っている事をディリオニスは確信した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...