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第一部 第一章 異世界転生
トラウマ・ブレイク パート3
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「時に、マートニアよ。お主の兄はまだ戻らぬのか?」
自分自身の主人にして、兄であるディリオニスの主人でもある麗しき少女の指摘に、マートニアはようやく弟の不在に気付かされた。
「そうでした、ディリオニス、大物を釣るんだっ!て意気込んで、向かってましたけれど……」
「大方、寄り道でもしているのだろう。それから釣れずに困っているのかのどちらかだな」
ガラドリエルはそう言いながら、岩の上で読書に励んでいる。
何を読んでいるのかマートニアは気になったが、生憎自分や兄はこの世界の文字を読めるのかどうかは分からない。
この世界の文字は全て日本語に変換されるのだろうか。
そんな不安を抱いていると、周りの木々が揺れる。
その現象を察したのだろう。ガラドリエルの一番の護衛であるガートルードはテントを張る作業を中止して、川原の石の上で本を熱心に読む主人の元へと駆け寄っていく。
「女王陛下!!ご無事ですか!?」
「私は大丈夫だ。それよりも前に、この周りの連中だな、一体何を仕掛けてくるのやら……」
ガラドリエルが本を閉じた直後だった。
ガラドリエルが読んでいた本に矢が当たった。
「私の本に……」
ガラドリエルは自分の所有物である本を傷付けられて、激昂したようだ。
彼女は頬をまだら色に染め、更には両耳を赤く染めていく。
ガラドリエルは拳を握り締め、
「何者だ!?仮にもヴァレンシュタイン家の跡取りであり、女王と呼ばれた私に向かってのこの狼藉……ただでは済まぬとは思え!」
と、ここでガラドリエルの向こう側の木々をかき分けて、一人の男が現れた。
男は栗色の髪を髪を大きく伸ばした筋肉の付いた男だった。男は立派な青い色の鎧を身に付け、その両腰には長くて形の良い立派な剣とこれまた、刃渡りのある短剣が下がっていた。
男はふんと鼻を鳴らしてから、頭を恭しく下げて、
「私の名前はヘルマン・バールと申します。以後、お見知り置きを」
「ヘルマン・バールとやら、答えよ!お主は何処の所属だ!?」
「嫌だなぁ~陛下ァ~オレは誰の配下でもありませんよ。雇われたんですよ。オットー王子の使者にね。あんたを殺せば、森を買えるほどの金額を貰える予定でね。今から、笑いが止まりませんよ」
「成る程、ガートルード!私の剣を!」
ガートルードは直ぐ様、ガラドリエルに向かって細くてバランスの良いレイピアを渡す。
ガラドリエルはレイピアを受け取り、鋭く光る剣先を木々の間から登場したヘルマンに向ける。
「おやおや陛下ァ~失礼ですがね、あんたのような貧弱なお姫様にそんな物が扱えるものですかねぇ~さあ、怪我をしないうちにお渡しなさいッ!」
それが合図となり、ヘルマンは腰に下げた一本の剣を抜き取り、ガラドリエルの元へと向かって行く。
ヘルマンは剣をガラドリエルに向かって振り下ろす。
ガラドリエルは自身のレイピアでヘルマンの剣が防ぐのを直撃するのを防いだが、ヘルマンの力の方が強いのだろう。
ガラドリエルは慌てて弾き飛ばされてしまう。
「ふん、やっぱりあなたはひ弱なお姫様だ。あんたにいい言葉を教えてやりましょう。『弱い者には誰も守れない』……」
その言葉を聞いて、マートニアはかつての記憶を思い起こす。
かつてのいじめっ子の一人、斎藤剛の言っていた言葉だった。
気が付けば、マートニアはヘルマンに向かって剣を振り上げて向かっていた。
だが、ヘルマンはそんなマートニアの努力を嘲笑い、彼女の足を蹴り上げて、その腹を思いっきり蹴り付ける。
「おやおや、姫様ァ~この女はどなたですかな?あなたの護衛の筈なのに、あなたよりも弱いとは……」
「やめろ、マートニアにだけは手を出すな、こやつは戦いには向かぬ……お前の相手はガートルードが務めよう。だから、その者を離してやれ」
「お言葉ですがね、陛下。この者を見ていると、私は無性に腹が立って仕方がないのです。何故なんでしょうッ!」
そう言って、ヘルマンは再びマートニアの腹を蹴り付ける。
ガートルードの手が剣の鯉口に当たっている。いつでも抜ける準備はあると言う事だろうか。
それを見越して、ヘルマンは再び口を開き、
「陛下、この者を助けたければ、私について来て、私に大金をもたらしなさい、そうすれば、命だけは助けてやりましょう。どうです?」
ヘルマンは口元を曲げて笑う。嫌らしい笑顔だ。
ガラドリエルは思わずそう叫んでしまいたくなってしまう。
だが、そう言えばマートニアの命は無いだろう。ガラドリエルは唇を噛みしめながら、ヘルマンの元へと向かって行く。
「アハハ、正直でよろしいですよ。陛下……あなたをオットー王子に引き渡し後には、必ずこの女を解放しますから」
その言葉を聞きながら、マートニアはかつての記憶を再び開いてしまう。
自分が虐められるきっかけは他のクラスで虐められている弟を助けるためだった。
当時の自分は強いと思っていた。当時は男勝りが強かったし、何よりも幼少期に空手を習っていた体験が後押ししていた。
だが、結果は無残なものだった。丁度、ヘルマンそっくりな斎藤剛にタコ殴りにされてしまい、屋上に見るも無残な姿で放置され、翌日から兄と一緒に虐められるようになってしまったのだ。
それ以来、地獄が続き、そして死を選んだ。
解放された筈だったのに、斎藤剛は世界を超えてまでも自分を苦しめているのだ。
しかも、また自分には何も守れない、と嘲笑って。
マートニアはそう思うと体を再び起こす。
前とは違う。前は負けを認めたからこそ、大切な人を守れなかった。
だが、今回は違う。負けを認めずに、何度も立ち向かってやる。
マートニアは自身を奮い立たせ、落ちていた剣を拾い、その剣先をヘルマンへと向ける。
「ほう、大人しく倒れておけばいいものを……わざわざ、もう一度痛い目に遭いたいとはね。物好きな婦人もいたものだッ!」
ヘルマンはそう言って倒れたマートニアの元へと駆け寄っていく。
ヘルマンが強い力で剣を吹き飛ばそうと、自身の剣とマートニアの持つ剣を重ね合わせた時だ。彼女の体が黄金に包まれた。
間違いない。彼女こそ世界の英雄ブリュンヒルデだ。
ヘルマンは確信を持って言えた。
だが、少し前までは気弱そうな少女だったのだ。
それは、自分の直ぐ後ろでこの光景を口元を大きく空けて眺めているガラドリエルの顔が一番物語っているだろう。
だが、ヘルマンは自身の力に自信を持っていた。
例え、ブリュンヒルデと言えども、自分を殺す事はできない。
そう、自負していた。
自分自身の主人にして、兄であるディリオニスの主人でもある麗しき少女の指摘に、マートニアはようやく弟の不在に気付かされた。
「そうでした、ディリオニス、大物を釣るんだっ!て意気込んで、向かってましたけれど……」
「大方、寄り道でもしているのだろう。それから釣れずに困っているのかのどちらかだな」
ガラドリエルはそう言いながら、岩の上で読書に励んでいる。
何を読んでいるのかマートニアは気になったが、生憎自分や兄はこの世界の文字を読めるのかどうかは分からない。
この世界の文字は全て日本語に変換されるのだろうか。
そんな不安を抱いていると、周りの木々が揺れる。
その現象を察したのだろう。ガラドリエルの一番の護衛であるガートルードはテントを張る作業を中止して、川原の石の上で本を熱心に読む主人の元へと駆け寄っていく。
「女王陛下!!ご無事ですか!?」
「私は大丈夫だ。それよりも前に、この周りの連中だな、一体何を仕掛けてくるのやら……」
ガラドリエルが本を閉じた直後だった。
ガラドリエルが読んでいた本に矢が当たった。
「私の本に……」
ガラドリエルは自分の所有物である本を傷付けられて、激昂したようだ。
彼女は頬をまだら色に染め、更には両耳を赤く染めていく。
ガラドリエルは拳を握り締め、
「何者だ!?仮にもヴァレンシュタイン家の跡取りであり、女王と呼ばれた私に向かってのこの狼藉……ただでは済まぬとは思え!」
と、ここでガラドリエルの向こう側の木々をかき分けて、一人の男が現れた。
男は栗色の髪を髪を大きく伸ばした筋肉の付いた男だった。男は立派な青い色の鎧を身に付け、その両腰には長くて形の良い立派な剣とこれまた、刃渡りのある短剣が下がっていた。
男はふんと鼻を鳴らしてから、頭を恭しく下げて、
「私の名前はヘルマン・バールと申します。以後、お見知り置きを」
「ヘルマン・バールとやら、答えよ!お主は何処の所属だ!?」
「嫌だなぁ~陛下ァ~オレは誰の配下でもありませんよ。雇われたんですよ。オットー王子の使者にね。あんたを殺せば、森を買えるほどの金額を貰える予定でね。今から、笑いが止まりませんよ」
「成る程、ガートルード!私の剣を!」
ガートルードは直ぐ様、ガラドリエルに向かって細くてバランスの良いレイピアを渡す。
ガラドリエルはレイピアを受け取り、鋭く光る剣先を木々の間から登場したヘルマンに向ける。
「おやおや陛下ァ~失礼ですがね、あんたのような貧弱なお姫様にそんな物が扱えるものですかねぇ~さあ、怪我をしないうちにお渡しなさいッ!」
それが合図となり、ヘルマンは腰に下げた一本の剣を抜き取り、ガラドリエルの元へと向かって行く。
ヘルマンは剣をガラドリエルに向かって振り下ろす。
ガラドリエルは自身のレイピアでヘルマンの剣が防ぐのを直撃するのを防いだが、ヘルマンの力の方が強いのだろう。
ガラドリエルは慌てて弾き飛ばされてしまう。
「ふん、やっぱりあなたはひ弱なお姫様だ。あんたにいい言葉を教えてやりましょう。『弱い者には誰も守れない』……」
その言葉を聞いて、マートニアはかつての記憶を思い起こす。
かつてのいじめっ子の一人、斎藤剛の言っていた言葉だった。
気が付けば、マートニアはヘルマンに向かって剣を振り上げて向かっていた。
だが、ヘルマンはそんなマートニアの努力を嘲笑い、彼女の足を蹴り上げて、その腹を思いっきり蹴り付ける。
「おやおや、姫様ァ~この女はどなたですかな?あなたの護衛の筈なのに、あなたよりも弱いとは……」
「やめろ、マートニアにだけは手を出すな、こやつは戦いには向かぬ……お前の相手はガートルードが務めよう。だから、その者を離してやれ」
「お言葉ですがね、陛下。この者を見ていると、私は無性に腹が立って仕方がないのです。何故なんでしょうッ!」
そう言って、ヘルマンは再びマートニアの腹を蹴り付ける。
ガートルードの手が剣の鯉口に当たっている。いつでも抜ける準備はあると言う事だろうか。
それを見越して、ヘルマンは再び口を開き、
「陛下、この者を助けたければ、私について来て、私に大金をもたらしなさい、そうすれば、命だけは助けてやりましょう。どうです?」
ヘルマンは口元を曲げて笑う。嫌らしい笑顔だ。
ガラドリエルは思わずそう叫んでしまいたくなってしまう。
だが、そう言えばマートニアの命は無いだろう。ガラドリエルは唇を噛みしめながら、ヘルマンの元へと向かって行く。
「アハハ、正直でよろしいですよ。陛下……あなたをオットー王子に引き渡し後には、必ずこの女を解放しますから」
その言葉を聞きながら、マートニアはかつての記憶を再び開いてしまう。
自分が虐められるきっかけは他のクラスで虐められている弟を助けるためだった。
当時の自分は強いと思っていた。当時は男勝りが強かったし、何よりも幼少期に空手を習っていた体験が後押ししていた。
だが、結果は無残なものだった。丁度、ヘルマンそっくりな斎藤剛にタコ殴りにされてしまい、屋上に見るも無残な姿で放置され、翌日から兄と一緒に虐められるようになってしまったのだ。
それ以来、地獄が続き、そして死を選んだ。
解放された筈だったのに、斎藤剛は世界を超えてまでも自分を苦しめているのだ。
しかも、また自分には何も守れない、と嘲笑って。
マートニアはそう思うと体を再び起こす。
前とは違う。前は負けを認めたからこそ、大切な人を守れなかった。
だが、今回は違う。負けを認めずに、何度も立ち向かってやる。
マートニアは自身を奮い立たせ、落ちていた剣を拾い、その剣先をヘルマンへと向ける。
「ほう、大人しく倒れておけばいいものを……わざわざ、もう一度痛い目に遭いたいとはね。物好きな婦人もいたものだッ!」
ヘルマンはそう言って倒れたマートニアの元へと駆け寄っていく。
ヘルマンが強い力で剣を吹き飛ばそうと、自身の剣とマートニアの持つ剣を重ね合わせた時だ。彼女の体が黄金に包まれた。
間違いない。彼女こそ世界の英雄ブリュンヒルデだ。
ヘルマンは確信を持って言えた。
だが、少し前までは気弱そうな少女だったのだ。
それは、自分の直ぐ後ろでこの光景を口元を大きく空けて眺めているガラドリエルの顔が一番物語っているだろう。
だが、ヘルマンは自身の力に自信を持っていた。
例え、ブリュンヒルデと言えども、自分を殺す事はできない。
そう、自負していた。
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